小学生の頃、地図帳で「五島列島」の文字と九州本島西の海上に浮かぶその絵面を見たときから、五島列島には興味がありました。仕事にある程度余裕ができてからGWにも長期ツーリングに行くようになり、四国、紀伊半島と興味の対象に脚を進めるうち、いつかは五島列島に行くかもしれない、いや行かねば。と、そのイメージは次第にはっきりしてきました。しかしそれは、50台半ばの2019年にやっと実現したのでした。
実際に行ってみて、やはり海の色の美しさは格別でした。特に入江の明るい水色。小学生時代に、自分の24色水彩絵の具ではなく友人の48色(60台?)セットでしか見たことが無かった、明るく鮮やかなセルリアンブルーそのものでした。湾内の内海は静かで夢見るようだし、青く苔生した見事な干潟にも、これが干潟なのだと思わされました。でも泊り合わせた方によると、それぐらいの海は佐賀辺りでも眺められるとのこと。
海から眺めた中通島や野崎島のあまりに切り立つ姿には、陸地が転覆して海に沈んでしまいそうな気がしました。HTML作成時に3D地図を描いてみたら、そんなことはあり得ないことが納得できましたが。また、海に浮かぶように見えて仕方ない島々とその彼方の水平線を眺めつつ船から見下ろす海の怖さを、こんなに意識したのは初めてだったと思います。深い色の海面のすぐ下がもう得体が知れないというか、これは海に落ちたらひとたまりもないというか。
海の彼方、何も見えない唐を、木の小舟で目指した人々は、どんな覚悟で旅に臨んだのでしょうか。地図帳で五島列島の文字を眺めていた小学生の自分に見せたい風景でした。
島から島への船の乗り継ぎ自体はとても楽しかったです。計画を比較的緊密にしたことで、港に到着→フェリー乗船→次の島に上陸、すぐ行程開始という感覚はこれまで味わったことが無く、大小さまざまな船、そしてそれぞれ個性的で一つとして似ていない各島巡りも心に残る旅ばかりでした。
食べ物でいうとまずやはり魚。各宿の鯵、鯖、鯛をはじめ、初日にいただいたハコフグやトコブシが印象的でした。また、福江港の揚げ物もおいしかったです。浜口水産は世田谷の豪徳寺に支店があるとのこと。お店に行ったらあの美味しい海ぼうずが食べられるかもしれません。長谷川自転車商会に行くときに行ってみようと思います。
また、五島牛の美味しさには驚かされました。海岸の牧草がブランド牛を育てることは事前予習していても、実際の肉のまろやかな霜降り度はこれまであまり旅先で牛肉を食べることが無かった私でも、夢中にさせられました。
美しいだけに厳しい自然と向き合う暮らしのために、橋や港だけではなく防波堤や道路など、大規模石油備蓄場や風力発電、送電線の鉄塔や野崎島・小値賀島の海中水路等々、土木構造物やある主のインフラ(?)が発達していたのは意外なほどでした。
またどうしても忘れられないのは、海岸で見かけた海洋ゴミの量。そして最近、玉之浦でガンガゼ(ウニ)の増えすぎで海藻が壊滅していることを知りました。五島列島で見たものは、美しい自然とそういう人工物や自然の変貌が隣り合っているという、美しいだけじゃない生活の場所としてのリアリティだったと思います。
ある意味で栄えていたり裁けた場所でもある五島列島が、これだけ訪れにくい秘境中の秘境でもあるということも、自分の中では帰ってからどんどん印象深くなっています。
さて、2019年の3月、GRシリーズ4年振りの新型
GRV
が発売されました。そして五島列島Tour19では、当然のごとくGRVがメインカメラとなりました(もちろん予備でGRUとGRも持っていった)。
最初は
PENTAX K-1 MarkU
も持っていくつもりでしたが、K-1が悪いということではなく、サイクリング中のK-1はどうしても取り出して使うカメラなので、どこで使うというイメージが無いと使わない傾向があることから、今回は思い切ってGRVとワイコン(と
THETA V
)だけにしてみました。
これが結果的には正解でした。特に後半には1日500〜700枚、かなり多くの写真を撮ることができました。毎日見た物をすぐGRVで撮っていた結果、フルモデルチェンジで多少操作系が変わったGRVが、ツーリング期間中にすっかり手に馴染んだこともうれしいことでした。
行程的には3日目、4日目の雨のために中通島が、そしてその影響で宇久島がやや消化不良になった気もします。しかしそんなことも良い思い出となった、10日間の旅でした。
記 2019/7/15