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長年五島列島には興味があり、年々思いが募っていた。場所的にかなりまとまった期間が確保できないとやはりなかなか行きにくい場所ではあり、2018年のGW前の段階で、2019年の10連休というチャンスは逃せない気はしていた。
でも最初は、五島列島自体だけなら延べ5日間もあれば充分回れるんじゃないかとも思っていた。そこで、往復にそれぞれ丸々1日ずつかけ、帰ってから1日丸々休むぐらいのつもりで、まずは島単位でルートラボを描き始めた。
この時点ではまだ五島列島の前に島原半島にも行く計画としていた。そして長崎にも行こうと考えていた。ちゃんぽんを食べたいし、長年今井謙次の名作26聖人記念聖堂を見たかったからだ。
ただ、九州を走ったことが無い私には、九州の行程感覚というものが全く無いのだった。そこで1/5万地形図を五島から長崎、佐賀辺りまで仕入れ、折り始めてみた。地図を折り始めて眺め、ルートラボを試しに描いたりして、私だと島原半島だけで2日は掛かることがやっとわかった。そして基本的に五島だけに絞った旅程を検討する気になり、各島間の船の時刻表をまとめたりし始めた。
計画は紆余曲折を辿った。
そもそもどこから五島に入るかが大きな問題だった。最初はしばらく鉄道+船でのアクセスに拘っていた。一時期大阪出張が多かったせいで新幹線EXPRESS予約のグリーン車特典が貯まっているし、久々にJR九州に乗りたい。特に大村線ではあのキハ66にも乗れるかもしれない。長崎へ行くなら振子特急のかもめにも乗れる。新幹線の博多駅で博多ラーメンも食べられる(中州ラーメンとやっぱり違うのはある程度知ってます)。
とりあえず、博多から夜行フェリー
「太古」
で、五島の北側から入るつもりだった。フェリーの寝台室、なんだかうきうきするではないか。早朝到着なので、上陸初日の行程を一杯確保できるのもいい。
その後次第に計画は拡大傾向を辿った。というより、五島列島だけで10日全部使わねばならない、ということを私は理解していった。
まず島が複雑な形(特に中通島)で、各島内のコース取りが意外に難しいこと。五島列島に土地勘が無ければ尚更だった。
そして各島間の船便が複数の運行事業者により運行されていて、全体的な航路が一見ではわかりにくいことが、計画上大きな障壁となった。おまけに主要航路は長崎・佐世保アクセス便であり、純粋な五島内系統がむしろローカル線的なポジションとなっているのだ。何回も島巡りの順番と各島内の経路を組み替えて、各島の位置関係のためか比較的(あくまで比較的)連絡がいいのは
・福江島と奈留島・久賀島
・中通島と小値賀島・宇久島
であり、この2グループ間をどうつなぐかがポイントだということがやっとわかってきた。
中通島と小値賀島・宇久島への航路は、
佐世保発着の高速船
が特に便利である。検討を進めるうち小値賀島から佐世保へ出て帰京する方針が次第に有力となり、一回コース全体が纏まりかけた。しかしその場合、佐世保から博多へ行くのに接続が悪く、10連休最終日の東京着がやや遅いのであった。まあそれでも東京着17時台だからいいんだが、もうほんの少し余裕が欲しかったし、その段階の旅程全体にはまだ何となく他人事のような違和感が感じられた。
つくづく、寝台特急みずほ(佐世保行)とさくら(長崎行)があったらいいのに、と思った。新幹線のぞみが無かった昔、九州・東京(又は大阪間)の距離感覚は寝台列車にとって都合が良かったのだということを、改めて理解できたような気がした。
東京〜佐世保・長崎への往復手段を飛行機にチェンジしてみても、長崎空港から佐世保・長崎への接続がイマイチすっきりしない。また、1月下旬にして長崎空港便は既に株優分が売り切れであり、目を疑った。10連休需要なのか、そもそも株優の相場が例年比で約2倍に跳ね上がっていることも驚異的だった。
などとANA国内線サイトをいじっているうち、羽田からの直行便ではなく乗り継ぎ便で
五島福江空港
に向かえることを発見した。発見なんかじゃなくて、私が乗り継ぎ便というものを使ったことが無く、最初から五島福江空港が念頭に無かっただけの話である。調べてみると往路4月27日は何と早割系を含めて残り1席、帰路も残り数席。まだ1月下旬だというのに。株優は当然の如く全滅だったが、早割が残っているのは幸運としか言いようが無い。どうせ株優にお得感は無くなっている。迷わず速攻で確保した。飛行機に目先を変え始めて、この間5分以内。今年の10連休観光需要というものを、思い知らされる出来事だった。
この時点で、五島列島に入るのも出るのも福江空港に決まり、自動的に島巡りも福江島グループ→中通島グループ→福江島グループということに決まった。
ここで中通島と小値賀島・宇久島の順路が大きな問題となった。比較的自由度が高いと思っていた中通島と小値賀島・宇久島の航路選択肢中、中通島・小値賀島・宇久島間の九州商船運航の高速船に自転車を載せられないことが判明したのだった。軽車両としてはもちろん、輪行状態でも荷物の大きさが規定上全然無理なのだ。ただ、調べてゆく内に
佐世保市営(元宇久町営)の渡し船
なんていうのも見つけた。宇久島の小さな港にも立ち寄るようであり、これはこれで大変楽しそうではある。
結局、宇久島から中通島へは
海上タクシー
というものを使うことにした。かなりお値段は張るが、その代わり全8回の船行程中、輪行が不要となった。そして、魅力たっぷりだった博多便の「太古」も、昼間の乗船、しかも1時間未満ではあるものの、中通島→小値賀島で行程に復活させることができた。
これが2月下旬。各島の順番と時刻が確定したので、再びルートラボ作業により島内の自転車行程を私的に常識的な経路、距離、標高差に再調整し、やっと実施行程の全体像がはっきりした。
既に1月末から、宿も押さえ始めていた。何しろ10連休で航空機はあれだけ混雑していたのだ。宿の確保で出遅れるようなことがあってはいけない。各宿では、一人旅であっても紀伊半島のように断られることは無く、至ってのんびりと優しい応対だった。1月末にはもう大半の宿を押さえることができ、最後は「3月から受付を始めますので」という民宿たまのうらだった。
またこの間、2018年2月に録画してあったBS JAPAN
「空から日本を見てみよう+」
五島列島2回分で、各島を予習できていた。空撮による映像は地形図によるイメージより圧倒的にわかりやすく説得力があり、
くもじい=伊武雅人
「一体なんじゃ〜こりわ!行くぞくもみ」
くもみ=柳原佳奈子
「ラジャ〜!!」
伊武「くもじいじゃ!」
柳原「じゅるる〜!」(よだれの音)
等の楽しいナレーションで現地への興味も印象づけられる。昨年この素晴らしい番組は終了してしまったので、再開を強く希望している。
3月から4月に入り、NHKでは次第に10連休初日の混雑が報じられるようになってきた。最初は私も自宅を始発かなんかで出発すれば、手荷物預かりには余裕で十分間に合うと思っていた。しかしよく考えると、夏の北海道での7:50発釧路便と今回の長崎便は25分しか時間は違わない。そして、私が知っている例年夏の混雑は、有休取得によるお盆休み2日前の状態であり、今回10連休初日、羽田空港は過去最大級の混雑だという。
これなら、むしろ例年夏より空港は混雑しているに違いない。
そこで週初めには、夏同様に実家から出発することを決めた。母にお願いして、タクシーもマンション管理室の予約サービスで予約して貰った。万全を期したつもりだったものの、予約電話の時、予約の人がかなり苦労して、やっと空きが見つかったらしいとのこと。そんなに混むのか、10連休初日とは言え朝4時半だぞ。
現地の天気予報は、4/29雨時々曇、降水確率70%と5/1曇り一時雨60%、5/5が晴れ後雨、降水確率雨80%、以外はほぼ晴れ。気温は何と最高でも22℃で、最低は14〜16℃。大変快適である。ここ数年、GW中時に夏日になることが普通だった事を考えると、これが海流の力なのかもしれないと思わされた。
4月27日、東京は早朝から雨だ。4:25、実家発。タクシーの運転手さんによると、
・今朝早朝の予約は1ヶ月前から一杯である
・3時までずっと羽田空港で国際線・国内線ターミナル間の乗客ピストン輸送をしていた
・無線で「空港へ向かうお客さんが多いので待機すること」の旨、異例の業務連絡があった
とのことだった。高速も4時台にしちゃ混んでいる。
4:45、羽田空港第2ターミナル着。出発ロビーではお店はおろか窓口もまだ開いてない。しかし入口から人々が断続的にぞろっ、ぞろっと入ってきていた。この段階で手荷物待ちは既に先客が一人。一人でよかった、さすがは4:45。その後5:05に手荷物受付が開くまで、列は20人ぐらいに増えた。
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手荷物を「福江まで」と確認して預けて検査場へ。長崎空港での乗り換えは僅か20分である。人は何とか20分で乗り換えても、荷物が20分で積み替え可能なのか、という一抹の心配は消えない。
検査場では工具の長さがチェックされ、六角レンチ2本とヘッドスパナ(13mm側がカンティブレーキのテンション微調整に重宝するので外せない)が引っかかった。これは今までにない厳しさである。2020年に向け今年から厳しくしているらしい。引っかかった工具は手荷物預かりに預ける必要があったが、先ほどのカウンターの列に戻ることなく、検査場で手荷物を預けられるのは有り難いことだった。
出発ロビーを振り返ると、5時台前半だというのにもう普通に客がいる。店が全部閉まっているのに人が普通に歩いている光景は、何だか見慣れないというか、それだけでただならぬ雰囲気を醸し出している。
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という出発準備が5:40には全部終了、60番搭乗口で8時過ぎの搭乗開始までしばし安らぎの待機となった。
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離陸して雲の上に出て一寝入り。起きてみると眼下の雲は消えていて、伊那谷南部・天竜川〜佐久間ダム辺りから眼下の光景が把握できるようになった。浜名湖、名古屋、琵琶湖の次が神戸。淡路島、しまなみ海道、広島から北九州に上陸。次第に降下して大きな水面が現れた。今再放送中のおしんの夫が干拓事業に尽力した有明海である。準備段階で買ったこの辺の地形図を思い出しながら、もう一度新緑鮮やかな陸地を渡って、鮮やかな海に浮かぶ長崎空港に到着。
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長崎空港ではいよいよ20分乗り換えである。着陸前にCAの方に
「20分乗り換え、大丈夫でしょうか」
と質問したら
「大丈夫です」
と即答された。それなら当たり前のように大丈夫なことなのだろう。しかし、未だに本当にそうなのか信じられない。
結論から言えば、乗り換えは大変素速くスムーズに進んだ。まず到着通路で乗り継ぎの乗客が集められて名簿でチェック、五島福江空港行きの搭乗口は1番と案内された。一番向こうだ、いや、その先の階段を降りてゆくぞ、と思っている内に通路は建物の外へ。滑走路上のオレンジ線内通路を案内され、飛行機まで歩くことになった。
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飛行機はプロペラ機。
39人乗り
のサイズ感はもちろん初めてである。まあ、予想通りの展開ではある。運航はANAとのコードシェアで、機体には
「ORC オリエンタルエアブリッジ」
。初めて聞く名前と初めて見る白・緑・青のカラーリングが、私的には大変目新しい。
機内では五島福江空港まで30分の間に、CA手描きのカラフルな観光案内が渡された。文字まで全部手描きで、何とも楽しいORCだ。
果たして五島福江空港では、荷物はちゃんと出てきた。20分乗り継ぎで乗り換えの間には荷物を積んでいる様子は無かったので、飛行機に乗ってから荷物が積まれたのかもしれない。これは素直に凄い。
荷物受取所はコンベアだったものの、すぐにサドルバッグが出てきて、自転車は係員さんからの手渡しだった。こういう点は、空港が小さければ小さいほどいい。
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気が付くと、到着客は早々に散り散りに消えてしまっていた。「ロング・グッドバイ」でテリー・レノックスの足取りが消えた山間の空港はどういう風景だったのだろう等と思いながら、ひっそり静かな山間の空港アプローチで自転車を組み立て始める。その間、軽ワゴン車でやってきたお弁当屋さんが一人、ハンバーグ弁当の配達先を探して駆けずり回ったり電話したりしていた。お姉さん、おれでいいなら喰うよ。腹ちょっと減ってるし。とは思ったものの、とりあえず現実的には缶コーヒーでお茶を濁すことにしておく。これではフィリップ・マーロウというより寅さんだな。でもいいのだ、寅さんは日本のハードボイルドなのだから。
記 2019/5/9