紀伊半島Tour24#2
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5時過ぎ。外で見かけた自販機に缶コーヒーを買いに行く時に、防波堤に登って海を眺めてみた。
入り江の外海の空が光るように明るくなっている。その空に雲が全く無い。海面は鏡のように静かで、岸辺の山々は赤い光が作る青い影の中だ。空気はきりっと涼しい、というより肌寒く、雨具を防寒着にしても耐えられるかどうかという感じだ。宿の部屋に炬燵が置いてあるのがよく理解できる。
6時前、自転車に荷物を積むときに、もう一度防波堤に登ってみた。湾の外側から朝日が射し込み始めていた。空気はひんやりしているものの、さっきよりは大分上がっている。何とか走れそうな感じだ。
味しい鯵の干物の朝食を頂いて、6:50、二木島旅館民宿川口家発。
港から40m登って国道311に取り付き、岬を越えてゆく。
濃厚に道を覆い尽くす新緑の広葉樹林、その隙間から路上に斑を作る木漏れ日。紀伊半島まっただ中にいきなり放り込まれた気がした。
昨日丸々運休して出発が二木島になった、そのことならではの現象だと思う。昨日全く走っていなくても、旅は始まっていたのであった。
トンネルを抜けると遊木町の漁村を見下ろしつつあっけなく道が下り始め、向こうの岬に挟まれ静かに波打つ凄い青濃度の海が現れた。
道は湾の内側に向かって下り始めると共に、4mぐらいの細さになった。
7:15、新鹿手前の私的自転車撮影ポイントに狙い定めて脚を停める。日本一の砂浜といううたい文句の白い砂浜が大きな弧を描く新鹿の海岸が、静かな内海の正面に見える。そして切り立つ山々、その山をもりもり覆い尽くす常緑樹と新緑の濃淡緑が、海岸と湾を取り囲む。朝の光、景色の彩度と濃度が凄い。遂に、また新鹿海岸に来れたという気持ちで一杯になる。
まずは自転車写真を撮らねば。2021年にK-1のDFA21mmLimitedを買ったとき、撮りたいと思っていた具体的な何カ所かのうちのひとつがこの場所だ。今日、最高の天気と時刻とともに、念願の風景が目の前にある。人生こういう日が来るのだ、と思わせられるような状況なのだ。
しかし目の前の風景に、PCデスクトップ写真よりかなり樹木が育っているのはちょっと意外ではある。また、そういう過去の写真だと海は明るいエメラルドグリーンだが、目の前の海は濃紺というか深緑というか、空を映しているのとも違う濃い色だ。或いは海底の白い砂が、何かの理由で流れていったのかもしれないなどと妄想する。思えば前回ここに来たのは2015年。前回9年経ったのだと自分で思っていないことが、一番の原因かもしれない。これこそじじいのツーリングだ。それによく見ると、色が濃いのは海岸近くの海底まで海が透けて見えているせいだということがわかった。そう考えると、ものすごい透明度に改めて驚かされる。こんな風景が幅員4mの国道で楽しめるのが凄い。
入り江の中央に降りた国道311は、海辺の町中へ脚を進めてゆく。
町中では、過去の訪問で見かけた宿が、今回はことごとく閉まっている。計画時に宿を調べた段階で気付いてはいても、少し悲しいことである。町中に営業中の商店を見つけ、町の元気な表情に少し触れた気がしてほっとする。
たまたま目に入った砂浜への小さい橋を渡って砂浜を少し眺めてみる。日本一美しい砂浜だ、と思うと意外に木辺やら何やらが目に入る。リゾート地の砂浜とは違う、この海岸の素朴さなのかもしれない。自転車道っぽい細道が海岸をぐるっと廻ってゆくのを見つけ、行けるとこまでと思って進んでゆく。
砂浜で自転車の写真を撮ってしまった。「塩が痛い痛い」と自転車が悲鳴を上げている。「ごめんごめん、」とちょっと申し訳なく焦りつつ、この際もう少し海岸の近くを。す、すまん2号車。
結局最後に少しだけ階段を担いだものの、無事湾の反対側、海水浴場の駐車場広場に到着できた。
さっきの自転車撮影ポイントから、30分以上かけて湾の反対に回ってきたことになる。こちらからも少し眩しい朝日で逆光の湾を眺め、駆け足ではあっても過去の訪問で一番時間を取って、朝の新鹿で立ち止まれたことに満足し、先へ進むことにした。
それにしても今日の新鹿海岸は凄い天気だった。2006年の初訪問から18年、過去何度かの訪問中で一番晴れたと思う。この後これほどの晴れにはもう出会えないとしても、またいつか。
記 2024/6/1