八千代町→
(以上#13-1)
(以下#13-2)
上美生→
(以上#13-2)
(以下#13-3)
南→清水
(以上#13-3)
(以下#13-4)
→熊牛
(以上#13-4)
(以下#13-5)
→笹川
(以上#13-5)
(以下#13-6)
→芽室
(以上#13-6)
(以下#13-7)
→中美
(以上#13-7)
(以下#13-8)
→八千代町
131km
RYDE WITH GPS
![]() |
|
夜明け過ぎから空は薄曇りだ。しかし雲は薄く高いし、天気予報ではお昼以降晴れる予定になっている。
今日は北へ向かう日だ。十勝縦断道道周辺の未済経路の裏道を適当に経由して北上し、清水で十勝川を渡って十勝北部の台地へ。鹿追から一番西縁から北端の山裾に到達してから、おもむろに少し東を逆戻り。そのまま南下、往路の東を八千代まで戻るという、南北に非常に細長い周回コースである。全体的に山地ではないが、前半羽帯までの十勝西部山裾、それに十勝側北側の丘陵に頻繁なアップダウンがある。坂はあまり大したことは無くても、区画毎に足留めを食うような、広々と十勝らしい絶景連続区間が何カ所かあるはずだ。そういう場所で時間を取るのが今日の優先事項である。
R0010664.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道帯広市八千代町基線 帯広八千代YHにて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
6時半に外に出て荷積み等の準備を済ませておき、7時から美味しい朝食をささっといただく。これで昼まで腹が減って仕方ないということは無いだろう。
7:35、八千代発。
トラック通りに進んだ宿近くの農道は、白樺の防風林に沿ってのんびりした細道だ。間近な日高山脈裾の山々、その手前に広々とした畑。畑が拡がる平地は、緩やかに起伏しながら全体的に山側へせり上がっている。規則正しい直線とともに続く畑が、地形の大きな起伏をより意識させ、空へ向かって広がる空間に独特の開放感を与えている。その開放感は、真っ平らな平地の開放感とは少し違う、地形の変化の力強さを伴っているのだ。何だかこの辺りの風景が魅力的で独特な理由がわかったような発見に、今日も元気に出発できる嬉しさ一杯の、まずは幸先良い1日の始まりだ。
R0010665.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道帯広市広野町西5線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
農道から区画を1本南へ移動し、雄馬別へ。頭上が曇り始めているのに進行方向は晴れている。雲が追いかけてきているのかもしれない。
R0010666.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町雄馬別12線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
いくつもの谷間を下って登って横断してゆくのが厄介な、芽室・羽帯辺り。何も十勝に限ったことではなく、根釧台地でもそんな場所はいくらでもある。その中にあって、雄馬別川の谷間は台地から川原へ下って集落へ、せいぜい20m。ワンバウンドみたいなものだ。えっちらおっちらと登り返すことが無く、朝の気分を削がずに済むので有り難い。
農家が数軒寄り集まっている雄馬別の交差点を通過すると、予定コースのGPSトラックは、下手の道道55へ下り始めた。本来一番山裾の道を進むところだが、そちらは昨日通っている。過去の既済経路も含め、毎日の経路がなるべく重ならないよう、GPSトラックを決め決めで組んであるのだ。このため今回の4日間、コースは平行している区画道に進むものの、予定コースを1本ずらすようなアドリブはしにくいことになっている。
道道55への下りは、3kmでたかだか30m。途中には微妙なアップダウン含みではあるものの、下り基調で次から次へ快調に、どんどん下ってしまうのが爽快だ。下るに連れ地形は山裾から平地に推移し、起伏が次第に平らに、風景は人里っぽくなってくる。しかし、日高山脈の佇まいは、どこを見回しても絵になるのは恐れ入る。この辺の風景の何がいいのかというと、山の大きさ、適度に空間に変化を与える起伏、そして防風林の適度なリズムを、移動とともにダイナミックに感じられることのように思う。
R0010667.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町伏美13線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
道道55に合流し上美生川を渡り、9:30、上美生着。
昨日見つけた商店でまたもや小休止とする。今日は店には入らず、缶コーヒーを店先で呑むだけだ。ここまで2時間かかって30kmしか走れていない。何も不思議なことは無く、風景に脚を停めすぎなのだ。脚を停めているのは間違いなく自分自身なのだが、ちょっとそういう状況を意識しなければならない。
上美生から段丘を登って台地上へ。事前に選んだGPSトラックは、何度か通った記憶がある道だ。記憶というより、登りとともに道の風景が厄介な印象として残っている。登り量は何だかんだで美生川の谷から70m。さっき雄馬別川の谷間で登り量が少なくてほっとした、その分ここは多い方の登りであり、楽ができたように思えた分が丸々我が身に返ってきているのだ。
R0010668.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町上美生にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
人生の因果応報を考察しつつ登り切った台地上には、畑が至って平和に拡がっていた。GPSトラックは台地の中を周回する農道へと描かれていた。
渋山川の谷を越え、道は再び山裾に乗り上げ、行く手には頻繁に登り下りが増える。ここまで山裾とは言え、平地の畑に通っていた道は、森の中に続くようになる。森の中には時々牧草地が現れ、そういう場所では遠くで霞みに消える十勝の地平線を眺めることができる。そういう場所はどこも記憶に残っていて、「そうそうここだよ」「ここだったのか」などと思いながら、山裾のアップダウンとともに通り過ぎてゆく。
R0010669.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町旭山にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
平地の広々とした風景と、森のアップダウン区間が入れ替わって推移するこの十勝西部縦断道道。前回2015年の訪問から、それ以前は次々に現れる風景と記憶を照合して通過していた状態だったのが、その風景が順番とともに整理されるようになってきている。そして部分的に通っている状態でも、改めて十勝清水から大樹までの距離の長さ、コースのボリュームが把握できるようになってきた。いや、まだ総量としては把握しかけている途上である。
何にしても、この魅力あるエリアでこの道のボリューム。今回も天気があまり荒れることは無さそうなのがありがたい。
R0010670.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町旭山にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
上美生のすぐ先で、道のど真ん中をA型バリケードが塞いでいた。道路工事迂回とのこと。えー、こんなところで道路工事で通行止め?まあでも昨日の八千代牧場辺りでの道路工事通行止めを見ていると、そんなもんかなとも思う。崩落じゃなくて工事だよね、脇かどこか通してるんじゃないのとは思うものの、どうせこの辺車しか来ないんだから、多少迂回させても、はいそうですかてな感じで何の問題も無いのだろう。住宅地のガス水道工事みたいなものかもしれない。進んで結局ダメで引き返すのも面倒だし、おとなしく迂回することにした。
看板に描かれていた迂回経路だと、1本下手の道を迂回し、また戻って来るということになっていた。しかし下手の道に下る途中で、林道への分岐を発見。もしかしたら少しショートカットできるかもしれない。少し通り過ぎてから戻ってのぞき込んでみると、明るいカラマツの木立の中へ、静かで穏当そうなダートが続いていた。地形図を見直してみる。迂回経路が元の道に戻ってくる向こう側区間へ、迂回経路全体の登り下りが半分弱ぐらいになりそうな位置で、ショートカット的に結んでいる黒い単線を発見。この道っぽい。もう一度顔を上げて路面を見直すと、軽トラぐらいのタイヤ跡が明確に認められる。頻繁な通行じゃなさそうだが。熊はどうでしょう。明るそうな森だし、熊鈴を付けていけば大丈夫、かもしれない。
しかし踏み込んでみて少しの間調子良く進めた後、意外に、というかやはり路面はけっこうずぶずぶに柔らかくなった。水たまりも多く、想定範囲上限ぐらいにはそういう道なのだった。多少心細くなり始めた頃、前方の先に周囲が開けているのが見えてきた。森が開けて現れたのは、牧場の豪邸の裏庭だった。束の間の森ではあっても、人の営みには何だかほっとさせられた。
元の道への登りは短い距離だったものの、最後に10%を越えていそうな直登となった。さすがに山裾部だけある。
山裾の道へ戻り、更に進むと周囲は森から再び牧草地に変わった。既知の牧場や十勝の地平線を望む展望ポイントが現れ、この風景はこの辺りだったのか、などとまた再確認させられた。
R0010671.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町旭山にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
せり出す山裾を迂回するために、いつも下手方面へ道をずらす下りの分岐で、今日は逆方向へ。山裾側オプションルートでもう少しだけ続く牧草地へ入り込んでゆく。今じゃないと、こういう機会じゃないと、ここを経由する気にはならないだろう。
そういう中途半端なエリアだけあり、GPSトラック通りのコースは道が次第に細くなって、例によってダートに変わった。
R0010673.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町旭山にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
道端の茂みは高く、ややワイルドな表情の道である。明らかに里の道ではない。途中で渡った久山川はほぼウォッシュボードに近い、大きな石ごろごろのやや放置気味の暴れ川原であり、昔通った富士山の林道を思い出した。十勝も清水まで来ると、山裾の脇道は山中の道になってしまうのだ、と思った。
R0010674.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町旭山にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
裾を横断する道から下手へ下る道に移った後も予想外にダートは続き、結局、羽帯南の十勝西部縦貫道道手前までダートが続いた。心細さとともに、毎回通っていない場所だけのことはあると思わされた。しかし十勝西部縦貫道道に合流してみると、辺りは見覚えがある牧場なのであった。これもまた、流石に山裾のいつもの道だけある。
合流してすぐ、丸山展望台への分岐が現れた。10:00。
R0010675.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町羽帯南10線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
丸山展望台への道もオプションコースということにしていて、200mの登りがあることもわかっているので、ここについては計画時にはちゃんと全区間舗装であることを確認している。行くとなると今日随一の登りである。展望台というぐらいだから、眺めはいいのだろう。しかし、流石にここまで未済経路のオプションコースに脚を向けすぎた結果、時間がやや押し気味だ。それに、この辺の裏道にちょっと辟易し始めていた。200mの登りは間違いなく億劫である。しかも牧草地の直登、10%台は覚悟しておく方が良い。
地図を眺めている間に乗用車が1台、目の前をそちら方面へ向かっていった。まあでも己の身の振り方としては、今回は丸山展望台はやめておくことにした。また何時の日か訪れる機会を作ろう、縁があれば。全体的に寄り道ストーリーの構築整理をしていなかったかもしれない。
そうなると、いよいよコースは十勝西部縦断道道パートが終了し、十勝川横断区間へ推移してゆくことになる。
朝からここまでの距離感覚から言って、国道36までしばらくかかるかなと思っていたら下る下る、標高差120mを一気に下ってしまった。意外な程早く現れた根室本線の踏切には記憶があった。多分2015年に通ったコースと同じかもしれない。というより、選びやすいいつもの道なのだ。
気が付くと、やっと周囲に陽差しが差していた。雲が溜まっている山裾から十勝の内側に降りてきた、ということかもしれない。
十勝川まで河岸段丘を2段、事前に組んだGPSトラック通りに下ってゆく。例によって脇道主体に選んだコースは、車が少なく静かで落ちつく。
R0010676-Edit1.jpg 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町清水にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
しかし、周りは下りも一段落したまるっきりの平地まっただ中。農道は本当に単なる脇道である。八千代〜羽帯までの何も考えずに選んだ道端に脚が停まる風景が続く状況とは違い、喧噪からは解放されているものの空間の変化に乏しく、やや退屈なのだった。また、終盤の段丘降下部では必要以上に道が細くなり、段丘部の急下りではこの期に及んで想定外のダート直滑降まで登場。少し焦った。あまりマニアックに細道を選ぶのも、場所を考えないといけない。
R0010677.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道上川郡清水町清水にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
道道718の清水大橋で十勝川を渡り、11:00、熊牛着。
熊牛の平地を、道道75で鹿追の西までしばらく北上してから鹿追へ向かう、つまり鹿追への丘陵横断を最短距離にするのが、今日のコースのポイントの一つだ。
鹿追は、十勝北部の広大な台地上の平地にある。この台地と十勝川河岸の間には、標高差100mぐらい河岸段丘があり、更に河岸段丘に面する台地の縁は丘陵になっていて、南へ行くほど十勝川支流による谷が多い。こういうことは、実は2001年の訪問から何回かかけて、身を持って思い知らされている。思いがけず現れた際限無いアップダウンに、もう少し考えとくんだったという恨みが溜まっているのだ。悪いのは自分だということはわかってはいる。
とにかく、なるべく北でこの段丘を最短距離で横断し、登り総量も少なくするというのが往路のポイントだ。往路で楽をした分、復路で南側の一番谷が多い道道54を経由し、言い訳にしている。
意外と考えた因縁の十勝川河岸段丘越えがいよいよこれから始まる、という道道718と道道75の交差点。「ドライブインいとう」という看板と食堂が建っているのを発見してしまった。まずはちょっと自販機休憩のつもりで停まってみた、はずだった。しかし店の脇の自販機に近づくと、豚丼のCMソング(っぽい歌)が耳に入ってしまった。もともと「豚丼」の文字は見えていたので、この時点で視覚に加え聴覚からも豚丼が私に入力されたことになる。
次は時計を見た。11時ちょっと過ぎ。昼食には少し早いが、早すぎはしないし、早いと何か問題があるというわけでもない。鹿追でセイコーマートを見送っても、帰路途中の芽室に確かセイコーマートがあったはずだ。そして今ここで豚丼を食べても、鹿追に着いてからセイコーマートで豚丼を食べても、結局豚丼を食べてかかる時間は10分も違わないだろう。などと自ら他人事の様に自分の行動を検討しつつ、私はほとんど自動的に「ドライブインいとう」に入り、豚丼を注文してしまっていたのだった。
店にいる間中、15秒ぐらいの豚丼のCMソングが止まる事無くずっとかかってたのにはやや閉口したものの、セイコーマートに比べてやや肉厚の豚肉が美味しい豚丼自体は大変美味しかった。
11:30、熊牛発。低く暗目の雲が空を覆い始めていた。畑が拡がる十勝河岸の平地を道道75で北へ8km。その間にぱらっと水滴が落ち始め、すぐに雨雲から脱出し、間もなく道道416へ。
道道416で河岸段丘を登り、途中農道を渡って道道133で直接鹿追の市街に降りてゆく。2015年に日没に追われて通った国道274に比べると今日の経路は登りそのものが明らかに短く感じられる。また登ってから丘陵部の起伏が殆ど無く、何より丘陵部そのものがあっけないほど短いので、過去に通った十勝川河岸段丘横断の経路に比べてかなり楽に思われる。途中の農道で、道幅が例によって部分的に心配な程細くはなるものの、ダートにはならないし、迷ってないことがわかってさえいれば十分以上に楽しめる。次に通ることがあれば、何か特別な意図がない限り迷わずこっちにしよう。
丘陵部から丘の縁をちょっと乗り越え、然別川を渡り、12:00、鹿追着。市街の宿に泊まった2015年の訪問を思い出しつつ、今日のところはもう町を通過してしまう。さっき十分昼食を摂ったし、自販機はまだもう少し先の笹川にもある。等と思ってアドリブで何となく道をつなげていたら、2015年に泊まった「福生館」の前を通過するところなのだった。宿の隣、ビールを仕入れに出かけた酒屋も懐かしい。思い出せなくても、知った道へ何となく脚を向けてしまうのかもしれない。
市街から町の外へ町道を北上してゆく。1区画毎に、市街地の裏から住宅地、再び畑と防風林に、区画は変わっていった。途中から、ここも何だか見たことがある風景だと思い始めた。多分、宿の前から全部2015年に通った道なのかもしれない。
笹川で少し缶コーヒーを飲んですぐ出発。国道274を渡り、十勝北側の台地の西側外縁へ。
静かな畑の細道が次の区画で更に細く、畦道が舗装されているような道になった。国道274から西側の台地縁まで狭い範囲の畑には、裏道通行の需要も少ないのか、かなりのんびり静かなのが嬉しい。
十勝北側の山々が、鹿追辺りに比べてぐぐっと大きくなって見える。鹿追の北側なら、北側の山裾、すなわち今日のコースの折り返しはもう近い。羽帯とか清水辺りではやや時間が押しているように思えたものの、これなら予定していた北縁の道まで今日は到達できるかもしれない、という気になってきた。
しかし一方、ここまで追い風は結構強かった。そして頭上には、熊牛から増え始めていた雲が、一気に空を覆い始めていた。冷たい風も吹き始めていて、何時雨が本格的に降り始めても可笑しくない気もしないでもない。
この先の身の振り方を真面目に考える時期だろう。こういう時はとりあえず地形図を再確認するに限る。地形図を見直してみると、思っていたより山裾までもう少し距離がある。折り返し想定の13時に北縁区間から南下を始められるかというと、そこまで順調でもなさそうだ、というのが現実っぽい。あと1時間あればいろいろと余裕があるんだけどなー、とも思う。
今日ももう12時半前。まだまだお昼ではある。でも、日没まであと4時間ちょっと、でもあるのが秋ツーリングの落とし穴だ。
目的地まで行けそうかな、と思った直後に現実を突き付けられ、もう少し粘ってみたいものの、やはりこの辺が潮時かもしれない、という気もする。どうせ台地北縁山裾の1本道は、部分的とは言え一度通って雰囲気がわかってはいる。それに現実と言えば、山裾に近づくほど雲が増えて低く薄暗くなっていて、ここまでコースを描いたときに期待していた、明るく鮮やかな風景のイメージと現状に多少差があるのも現実だ。
予定の折り返し地点には達していないものの、区切りのいい未済経路で折り返し、後のコースに余裕を持たせるべきかもしれない。そうしよう。
次の区画まで脚を進め、12:30、鹿追演習場裏発。
しばし十勝北部の平地を東へ向かう。この辺りは山裾まで緩く傾斜する平地に防風林で区切られた畑が続き、その背景に北側の山々や南側彼方の拡がりが見渡せる、十勝北側のハイライトであるはずだ。2015年をはじめ過去何度かの訪問で、平行するどの道も、いかにも十勝らしい迫力のある風景がダイナミックに推移することはわかっている。今日は雲が低く薄暗く、緑が鮮やかじゃないためなのか、やはり記憶ほどの見応えは無い。それに風が予想外に強くなり始めていた。未だ追い風ではあるものの、そろそろ始まる南下方向では、この風がもろに向い風に変わってしまうはず。ここで折り返して正解だったかもしれない。
北鹿追北西24線で、GPS画面に予定コースのトラックが戻って来た。予定の復路通りに南下を始めると、脚を停めても面白いようにどんどん下れてしまう。十勝河岸まで10km弱の100m下り、平均1%程度でもこんなに楽なのだが、やはり向かい風は吹いている。いや、吹き付けている。
しかも下り始めると、辺りが急にどんどん暗くなってきた。途中から雨までぱらつき始め、振り返ると背後からかなり黒く低い雲が追っかけてきていることが初めてわかった。さっき山裾の手前で、どんどん低くなってきていた雨雲だろう。天気予報では午後は晴れることになっているし、予報が大外れするような気圧配置ではないので、どうせ通り雨だとは思う。しかし気温はけっこう低い。濡れたら風邪を引きそうだ。途中で雨具を羽織っておく。
13:00、佐幌橋到着。雨は本降りに強まってから、然別川の段丘を下ると何とか上がってくれていた。雨には降られたものの、下ってみれば、十勝北部の台地を思ったより早く下れてしまっていた。これならもう少し北端へ向かっても良かったかもしれない。でも、この時間にここに来れているからこそそういう気分にもなれているのかもしれない。それに山裾に向かっていたら、もっと本格的に雨に降られていただろう。
などと現実を承認、橋の向こうで雨具を仕舞い、名実気分とも十勝北側台地は終了だ。今日は雨雲くんに追い立てられてしまったものの、また来れる日まで、しばしの別れじゃ。
引き続き道道54へ、美蔓の丘陵部へ登り開始。芽室までの丘陵横断に、標高差50m級アップダウンが6回も繰り返される、本日最大の登り区間だ。往路で姑息に避けた難所の倍返しである。実はこの道、2001年と2008年に通っている。2001年は特に事前に警戒していなくて、地図読みが甘かった結果これほどアップダウンが多いと思っていなかったため登りのペースダウンにいらいらし、後半には嫌気が刺した程だ。しかし芽室と鹿追という、私のツーリング上重要な地点をいい位置で結ぶ道なので、計画時にはつい選んでしまう道でもある。
今日のコースでは、私にとって十勝最大級の要注意箇所でもあるこの区間が、最大の難所だと思っていた。しかしそういう地形だと理解した上で実際に通ってみると、覚悟していたよりは登りは少なく一つ一つの斜度も緩い。所詮は標高差50m程度なのだ。
それより、交通量はやや多いものの、谷間の森を登り切って丘の上で畑が一気に開ける、その開放感が何とも楽しい。そういえば、嫌気が刺していた記憶が残った2001年にも、谷間の森の涼しさと畑が次々代わる代わる現れるのを楽しんでいたことを思い出す。この道を少し毛嫌いしすぎていたかもしれない。あの頃の方がパワーは遙かにあったはずだが、やはり余裕というものが道の印象まで変えてしまうのかもしれない。
美蔓の丘陵部3つめの丘で、登りきった先の遠くの空が、見事に晴れているのに気が付いた。まだ辺りは曇っているものの、行く手は確実に晴れ始めているのが確信できた。
そして最後の丘では、それが芽室方面の山裾であること、その辺りが眩しい程の陽差しの中なのがよく見えた。ちょうとあの辺から再び十勝西部の山裾の風景が始まるはず。早めに折り返した分、あの辺から先で時間を掛けることができるのだ。
十勝北側まで脚を延ばしたのに天気は思わしくなく、夢破れて雨雲に追われた気がしていた今日後半の行程だったが、捨てる神在れば拾う神ありである。とにかく臨機応変に方針変更したのは正解だった。これも今日の運と思える、行程の余裕のお陰だろう。
R0010678.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町祥栄西14線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
最後の丘から直滑降、十勝川沿いの河岸平地へ。
緩く十勝川へと下ってゆく開けた畑に、芽室大橋へ一直線に道道54が続いてゆく。ちょうど十勝川まで半分の辺りで、雲の影の中から日なたの中へ戻って来た。途端に陽差しが眩しいほど強く、暑くて仕方無い。開けた平地では、相変わらず横風もかなり強い。芽室大橋では煽られながらやっと十勝川を渡る有様である。
対岸の河岸を国道36へ登り返し、14:10、芽室着。
国道手前だというのに河岸の直登は斜度が厳しく、国道36との交差点ではもうへろへろだ。ちょうど交差点の袂にセイコーマートを見つけ、思わず緊急避難する。それほど陽差しは厳しい。秋とは言え、流石に暑い十勝である。夏じゃなくて秋のツーリングで良かった、とつくづく思った。
芽室まで戻って来た安心感もあり、この際アイスを食べちゃうことにした。アイスが冷たくて気持ちいい。おれは生きている、などと思う。北海道に来れてよかった。
14:30、芽室発。
国道36を渡り、芽室公園の森の青い木陰を通り抜け、住宅地裏手の静かな道で市街地をクリアしてゆく。こういう場合は裏道トラックがとても有り難い。
横風はますます強まっていた。北西の風なので、しばらく横風でも、その先八千代への南下区間は追い風気味になるはずだ。
農道で市街地上手の段丘部から美生の台地上に乗り上げると、辺りは山裾まで拡がった畑のまっただ中に変わった。
R0010679.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町芽室南5線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
強い横風のせいか車が飛ばしたものか、埃が目に入ってコンタクトの裏側に入ったらしく、痛くて痛くてしばし立ち往生した。涙をぼろぼろ流しても、埃は流れず痛くて仕方無い。強い風に飛ばされないように冷や冷やしつつ道端でコンタクトを外し、やっと目に入っていた埃が涙で流れて外に出た。
指を舐めて唾で濡らし、細心の注意でコンタクトを目にはめ込み、やっと辺りの風景が再び目に入ってきた。
R0010680.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町美生にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
10分ぐらいの間に雲が動き、辺りは完全に陽差しが直射する眩しい光で一杯になっていた。直射日光がますます熱く、コンタクトを飛ばされる心配が無くなった今となっては、強い横風が助かるほどだ。
道は土手のカーブ状になっていて、辺りの平地が近くや遠くの日高山地の山裾へ続く拡がりが、強いコントラストとともにより拡がってゆくのを、周囲から少し高い位置で見渡すことができる。
地上の緑、特に畑の作物が光り輝き、やはり眩しいように鮮やかだ。正面の山々、山陰が青いシルエットになり、空中にかなり早く軽快に動いている大きな雲とともに、まるで舞台に置かれた大道具のように目立っている。その縁が陽差しに照らされ、雲の端から天使の階段が降りてきている。
八千代まで凄い風景が続くぞ、ということがわかった。
R0010681-Edit1.jpg 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町美生3線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
美生の市街で道道317へ合流。昨日から今朝通ってきた上美生や美生川の、ここが本家の美生である。広い道に貼り付いた背の低い町並み、その中に酒屋に農協施設が点在している。北海道の片田舎らしい風景だ。
中美生への谷を遡るとともに、美生から次第に近づいてくる山裾と、美生川河岸の森の間の畑は次第に狭くなり、途中で畑が無くなって山裾と河岸の森が一体化してしまう。道が山の影の中に入ると、森の木陰が涼しく、山と木立が横風を遮ってくれるのが有り難い。
見覚えのある嵐山の国民宿舎の脇を通過してゆく。レストランが営業中のようだ。今日の私にはとりあえず必要は無いものの、人里というものは有り難いものだ。
中美生から道道62で美生川を渡り、山裾から再び十勝の畑の中へ。
R0010682-Edit1.jpg 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町坂の上13線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
上伏古、広野町を経由し、今朝通った道のやや下手を未済経路主体に八千代へ戻ってゆく。
R0010683.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町坂の上12線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
真っ平らな畑を、南へ緩く高度を上げてゆく町道12線では、途中から道端の電柱が無くなった。道の高さが周囲の畑とほぼ同じのため、畑と路上空間が一体となり、自分が十勝の拡がりまっただ中にいることが強く感じられた。
R0010685.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町上伏古12線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
遠景の山々が畑の風景中準主役ぐらいの適度な大きさで見えるぐらいに近づいていて、鋭い午後の半逆光の中でやや漠然としたシルエットになり、畑の鮮やかさ、開放感を高めている。1区画どころか、畑の作物が替わったり防風林が近づいて大きさが変わるだけで、しょっちゅう立ち停まってしまう。ここ数年分ぐらいのネタを発見したかもしれない。
R0010686.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道河西郡芽室町上伏古にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
つくづく、さっきの十勝北部から早めに折り返して良かったと思えた。鹿追や屈足の晴れの風景は2015年にたっぷり見ている。今回は八千代に泊まるんだから、この辺の裏道を目一杯眺めておくべきなのだ。
後でGoogleストリートビューを見返すと、ストリートビューはそれ程印象的な画像でもない。どうやら赤みがかった鋭い陽差しが、風景をかなり鮮やかにしてくれていたようだ。
コースは上伏古で南東へ向きを変え、帯広川を渡り芽室町から帯広市に入り、広野町まで更に南下してゆく。
農家と畑が程良く入れ替わる道端が、大分傾いて赤みが差した陽差しに眩しく照らされ、畑も防風林も緑がますます鮮やかだ。風も目論見通り追い風基調に変わっていて、ちょっと脚を回しただけでびゅーんと進む。それでも、脚は区画毎に停まって仕方無い。今日は晴れると思っていたものの、終盤でこれ程晴れるとは。
広野町から八千代YHまで1区画平行移動するために、裏道っぽい農道を経由してみた。計画時の空撮確認ではややあやしげだったので現地で行けそうなら行こうと思っていた道だけあり、少し入り込むと道幅はどんどん細くなり、舗装路面は荒れ始めた。しかし、畑まっただ中の細道空間には、やはり区画道路には無い風景との一体感があった。
傾いた赤い日差しに照らされ、畑や牧草地の背の低い緑は鮮やかに、黒い土はしっとり。背の高いトウキビ畑の、すっかり長くなった影の中へと道は続いていった。ぽつんと立つ道端の木立も印象的だ。
とぼとぼと一直線の道の正面に、一直線に直交する区画縁の防風林が近づく頃、やはり道はダートに変わった。その防風林を横切って再び南東へ曲がった区画道は、朝に通った白樺の農道だった。突然宿間近まで来てしまったように思えた。夕陽が白樺の森を明るく照らし、またもや風景が鮮やかだ。宿の前なのに、脚を停めて自転車写真を撮ってしまう。
R0010687.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道帯広市広野町西1線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
芽室から26〜7kmぐらいで2時間。風景が良いので、この辺では脚がさっぱり進まない。2008年、八千代YHに泊まった時も、中札内から八千代への道でこんなことがあった。さすが八千代YH、どこもかしこも絵になって仕方が無いところに建っている。
R0010688.JPG 北海道Tour20# 2020/9/20(日)八千代町→八千代町 北海道帯広市八千代町基線 帯広八千代YHにて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
16:35、八千代YH着。素晴らしい風景と空間体験、夏の欲求不満が一気に全部消え失せた1日だった。
今日も夕食は美味しい十勝牛ステーキだ。お客さんは私以外がらっとメンバーが替わっていた。道内のお客さんが多いようだ。
夕食後、部屋へ戻って明日のコースを少し確認しておく。今日の北回りと逆方向の、南へ細長い周回コースをどっち廻りにするか考えていなかったのだ。
天気予報は午前中曇り、お昼以降が晴れなので、どっちに良い景色を持ってくるか、という話である。一応悩んではみても、やはり過去の訪問から実績のある山裾側を午後に通る、つまり時計回りに決めてしまうのは、何事も保守的な私の限界かもしれない。
記 2021/2/23
#13-2へ進む #13-1へ戻る 北海道Tour20秋 indexへ 北海道Tour indexへ 自転車ツーリングの記録へ Topへ