紀伊半島Tour24#6
2024/5/4(土)龍神寺野→日置-

龍神寺野→龍神村東 (以上#6-1)
(以下#6-2) →中辺路町川合 (以上#6-2)
(以下#6-3) →地蔵峠 (以上#6-3)
(以下#6-4) →合川 (以上#6-4)
(以下#6-5) →宇津木 (以上#6-5)
(以下#6-6) →日置 109km

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路
ニューサイ写真 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 ホテルの朝はなかなか明るくならない。と思っていたら、窓から外を見上げると空は時間なりに光で一杯だ。渓谷の山が切り立って、谷間になかなか陽が差さないのだ。

 6時前から荷造りを開始、屋内に泊めて頂いていた自転車を外に出すとけっこう寒い。とはいえ標高860mだった昨日より、当然の如くましだ。今朝も出発段階では何とかなるだろう。

 7:25、龍神寺井「季楽里龍神」発。今朝も雨具を着込めば、日陰の下りでも何とかなりそうだ。時々登り返しもあるようだし。

 昨日に引き続き、日高川沿いに国道371を下ってゆく。国道371では、所々で時々分岐する旧道っぽい細道を選び、GPSトラックを描いている。出発して「道の駅龍神」を過ぎ、早くもトンネルへ向かう国道371から旧道っぽい細道へ分岐。すぐに龍神温泉の町並みが現れた。看板によると日本3大美人の湯とのこと、その実態もこぢんまりと素朴ながら名湯の趣漂う温泉街だ。

 以前お世話になった宿が温泉街の下手にある。計画段階では閉館しているとのことだったこの宿、やはり閉まっているようだが、建物自体には人が住んでいない訳でもなさそうだった。親切な女将さんと元気で人なつこいお子さんはどうしてるだろうか。生活感が漂う窓の中を眺め、出発時にいただいた美味しいおにぎりを思い出す。

 少し下ったところで、GPSトラックの寄り道が日高川に掛かる吊り橋を渡るようになっていた。我ながら興味本位で計画しているなあと思いつつ、脚を向けてみた。果たして杉の森の中とんでもない斜度の坂と、山道未満のダートが出現し、早々に自転車を押しながら、あまりこういう道には踏み込まない方がいいと思った。しかしそのお陰で、寄り道区間の後半では、畑の裏手から集落の素敵な道に入り込む事ができたのも確かではある。

 国道371に戻ると、曲がりくねる道の向きによっては、路上に光が射す位に陽差しが高く昇っているのだった。

 何となく気を良くして入り込んだ次の細道も、国道のカーブを畑の中でショートカットする道だと思っていたら、やはり坂を登り始めた。やはり等と思っているぐらいなので、坂ぐらいは現れるとは思っているのだ。しかしそういう坂に限って、地図の集落ハッチングで等高線がうやむやになっている。結局脚を着く頃には後の祭り。脚を着いて辺りを見渡し、仕方無いので良い眺めだと思ってみたりする。まあ実際、国道を通っていると体験できない空間ではある。

 しかし坂が待ち構えているばかりじゃなく、国道が丘を貫きショートカットするような場所では、ひたすら川添いに集落の庭先を縫うような細道もあった。木陰で少し脚を停め、日高川など眺めながら現在位置を地図とGPS画面で確認したりするのが楽しい。

 国道371そのものでも、時々道から直接日高川の眺めが拡がり、その度に脚を停める。以前は龍神温泉下手の国道425分岐から役場がある西まで20kmぐらいを、「40分。200m下りだから行ける!」などと無理矢理一気に下ってしまっていた。毎度の如く行程に余裕が無く、というより紀伊田辺まで行かなければいけないのに、この辺で日暮れが近づいていたのだ。その時は泡を食っていたものの、濃厚な緑の山々に清らかとしか言いようが無い日高川、美しく人なつこい集落が魅力的だということも感じてはいて、この道をもっとじっくり味わいたかったと、ずっと残念に思っていたのだ。

 国道から日高川の対岸に渡り、8:50、龍神村東着。


 引き続き国道371で次は丹生ノ川の谷間に移り、標高差300m程度の一山を越える。途中国道371が無駄に小山を登って下る箇所がある(ように思えた)ため、丹生ノ川沿いの県道735を経由。本日の上り一発目を前に、静かな新緑の渓谷に脚を停めておく。

 殿原の宮前大橋で対岸に渡った国道371は、集落の外れから谷間へと進み、途中からおもむろに山中を離陸し、高度を上げてゆく。山と森に新道がぐいぐい切り込み、大きなカーブで谷間を一気に越える橋が次々現れる。豪快な線形の凄い道だ。すぐに山間に、くねくねのたうち回る丹生ノ川の谷間と、引牛越へ向かってゆく県道735が見下ろせるようになる。廻りの濃厚な森に覆われた山々とともに、壮観な眺めだ。そして、広い道が登ってゆくのが見通せるため視覚的にキビシイのとともに、一気に暑さが感じられ始めた。龍神村東まで、朝から2時間以上ずっと下り基調だったのが、この時間になって本格的な登りとなり、しかも木陰の無い開けた路上をとぼとぼ登っているからだ。まあ暑いとは言え、夏に比べると涼しいとも思う。

 こういう道なのに、車はほとんどやってこない。橋の上では深い谷の眺めが拡がるなど、脚を停める口実が多いのがまたホスピタリティ一杯だ。山中、というより空中みたいに辺りの地形とはあまり関係無いような線形で、国道371はトンネルまで高度を上げていった。

 トンネルを抜けると、再び空中に放り出されたように、山腹を谷底へまっしぐらに下ってゆく道が始まった。支流の小さい谷間は大きな橋でばんばん飛び越えてゆく。道そのものの表情や道路設備などが多少落ちついて枯れた表情なのは、建設時期が古いせいかもしれない。大きな谷間に見渡す新緑、濃い緑の山々。青空には5月の光が一杯だ。

 下る途中の栗垣内で昭和30年代っぽい鉄骨トラス橋を渡った道は急に細くなり、桑垣内へ農家の庭先や畑の畦道みたいな道が続いたのには驚かされた。その後はまた拡幅区間になったりしたのが面白い。途中、昨日通った龍神和歌山スカイライン、そのなれの果ての日高川流域区間、この新道山越えや次の紀伊半島細道国道区間、極めつけでもう少し東に山道区間等々。国道371は実に多彩な道だ。多彩というよりは、いろいろな道のつぎはぎみたいだとも思う。

 下りが落ちつき、森が切れて現れた集落には、休耕田や太陽光発電が目立つ。もう少し先の田圃には田植えが始まっていた。再び辺りは森に変わって下りが勢いよくなって、まだしばらく下り続けた。


 10:35、中辺路町川合でやっと国道311に合流。

 何日か前、前半の熊野灘を臨む静かな絶景細道だった国道311が、中辺路から田辺に向かう幹線国道として再登場だ。車が見違えるように、というより目を覆わんばかりにびゅんびゅん行き交っている。かつて通った記憶よりも圧倒的に車が多いような気がするのは、ここまで細道ばかり通っているからだけじゃなく、実際に今年のGWの人出が多いのかもしれない等と思う。とにかく、ごく普通の幹線国道なのである。

 一旦国道311を遡り始めて引き返し、富田川対岸を並行する旧道っぽい細道へ脚を向けてみた。どうせ1kmちょっとぐらいでまた国道311へ戻るのだが、悪あがきのつもりだった。

 岸壁に貼り付いた細道では、森の中ひんやり木漏れ日がきらきら、サナエトンボやカワトンボや大型アゲハがひらひらと、素敵な路上空間が10分ぐらい、登りと共に続いた。登りは仕方無い。どうせあっちへ行っても同じぐらい登るのだ。しかし再び国道311に合流し、GPS画面にトラックが無いことに気が付いた。そういえば、進むべき道はこっち方面じゃなくて、少し下ってから国道371の未済区間に進むんだったことに気が付いた。

 折り返して逆方向に国道311を下り、栗栖川の南で国道311と分岐して再び単独路線となる国道371へ。分岐の熊野古道館が目に入った。どうやら軽食できる施設のようだ。こちらとしては、昨日の高野龍神スカイライン対策として橿原神宮でも仕入れておいたパンやらケーキがまだあって、今日の補給食は心配無さそうだし、そういうのを道中ちょこちょこ食べてもいる。そもそも美味しい朝食をお腹いっぱい食べて出発しているので、要するに何か緊急にどこかで食事したいほど腹は減っていない。というより、今は食事より脚を進めたい気の方が勝っている。お昼前ではあっても食事の時じゃないのだ。合川で何か買えれば買えばいい。まあ過去の印象から、合川で何かを買えるとは思っちゃあいない。

 熊野古道館ではWCだけ借りてちょっとだけ身体と気分を軽くし、分岐から国道371で谷底を遡ってゆく。最初幅広の新道だった道は、事前調査どおりに細道に変わった。国道371はこの区間では、そう高くない山間に狭い谷間の森を遡って下る、やはり日高川沿いや中辺路町川合までの豪快新道とは全く違う表情の道だ。もっと言えば、紀伊半島山中の細道国道そのものである。中央の峠には地蔵峠などという名前も付いていて、森の木漏れ日と渓谷の合間には親しみやすく人の手が感じられるような小さな集落がいくつか現れる。

 計画段階では、未済経路ではあっても国道のこちらに脚を向けるかどうかを迷っていた。4度目の訪問ではあるものの、いい印象で好ましい林道系県道の県道217が手堅い選択肢だったのだ。その印象が残っていて、さっき中辺路町川合から逆方面に向かってしまったのだった。しかしこの国道371地蔵峠区間、なかなかいい。

 地蔵峠手前の登りは山中なのに比較的直線基調で、山の背中をするっと越えてゆく。この手の道にしちゃ木陰はあって、平和で静かな峠である。


 向こう側もやはり狭い谷間へ下ってゆき、谷底では渓谷沿いの森にしばし下りが続く。この道を今まで避けていたのは、この先日置川の谷間が拡がる県道217の平瀬付近で、合流してきた国道371に何台か車が続いて通っていたために、交通量の多い拡幅新道だと思い込んだためだ。今日国道371を通り、この区間のこの道にはそういう事は全く無く、ほぼ交通量極小の細道国道であることがよくわかった。

 大内川で森が切れて集落に入っても、民家、田圃の間を細道が抜けてゆく。その先でも森の中に細道が続いていった。平瀬では確か拡幅済みの新道だったので、どこかで道が拡がるだろうと思っていた。しかしいつまで経っても道は細道のままだし車は殆ど来ない。結局平瀬の合流点手前でやっと、記憶どおりというより記憶の範囲で一番狭いぐらいに道の表情が変わっただけだった。国道371地蔵峠区間、思いがけずいい道だった。

 12:30、平瀬着。この辺りとしては比較的まとまった山間の平地に田圃、畑が拡がり、商店は無いものの郵便局がある。山間に拡がる、のんびりと静かな里である。

 ここでやっと日置川に合流できた。今日はこのまま日置川沿いに海岸の日置まで下ってゆく。日置川はこの4日間、最大の目的地のひとつである。日置川の谷間は何度か部分的に通ったことがある。その度に、のんびり静かな谷間と川そのものの清らかな表情にずっと魅かれていた。今回海辺のかんぽの宿を投入し、日置川を今日の終着地とすることにより、やっと本格的に下流部まで下ることができるのだ。

 平瀬から先、やや幅広の日置川から切り立つ谷間の道が続いた。川原からやや高い場所に道は通っていて、森の合間のところどころの平地に畑や集落が現れた。

 平瀬で拡がった谷間は、少し下ると切り立つ渓谷となり、平瀬で広い道だった県道217も山間の細道に変わった。そして合川までの後半、日置川はダム湖に変わった。全体的に下流に向かっているはずではあっても、山腹に続く次々現れる登り下りは斜度が厳しい。狭い谷間の急斜面で地形図では等高線がややうやむや気味に読みにくく、都合の良い解釈と通常より厳しめの実際の道の狭間で、なかなか脚を進めた気分にならない道である。こういう印象は、初めて通った2002年から変わらない。

 13:10、合川着。標高160m。ここで国道371は支流の前ノ川の谷間へと再び登ってゆく。そして途中で山道区間となり、その山道区間は舗装道路として林道木守平井線が代わりに通っている。もう林道木守平井線を国道指定すればいいじゃんと以前から思っているが、大人の事情があるのかもしれないとも思う。いち訪問者の妄想とは別に、日置川沿いの海岸への道は県道37となる。

 国道371は細道のまま、合川でダム湖に掛かる合川大橋を対岸へ渡ってゆく。合川大橋の「大型車は1台しか通れません」という看板が、初訪問時から印象的だ。同じく細道の県道37が、ダム堤体脇から合川へ下ってきて合流している。対向車をどこかでやり過ごしてまとめてやって来た車が、やはりまとめて合川大橋を渡ってゆくのがまた象徴的だ。

 あてにはしていなかったものの、交差点には数軒の民家以外何も無い。ここで何も無ければ、多分今日終着の日置まで、めぼしい商店は多分無い。しかし補給食の備蓄は未だ十分だし、この先もう、河岸の登り下り以外に峠的登りは無い(実はちょっとだけあった)。このまま脚を進めて何も問題は無い。もうひたすらのんびり、日置川の風景を味わって、海岸へ向かえばいい。日置川の風景に魅かれてからずっとこういう訪問をしたかった。

 そういうチャンスを前に、天気は絶好調の晴天である。


 合川の交差点を過ぎ、県道37へ進む。再び森の細道が始まった。

 合川ダムまでは、ほとんど登らないという逆方面からの記憶をちょっとだけ超えるぐらいの20m登り。そこから記憶を大幅に上回る斜度と規模の90m激下り。ブレーキを目一杯かけてハンドルを押さえ込み、こんなの絶対登りたくないと思う。しかし2006年のツーレポには、いつものボリューム目論見違いで散々遅れた挙げ句、「やっと合川ダムに来た」と思ってこんな坂の登りが嬉しかったようなことを書いている。もうああいう行程は組まないようにしようと、心から思う。

 河岸へ降りた県道37は、中流域の日置川とともに、新緑もりもりの急斜面が切り立つ谷底に続く。河岸の森に続く路上には緑色の木漏れ日が道にきらきら斑を作り、杉の木立の向こうに青い川面がきらきら光っている。時々森が開け、川面が拡がったり、小さな集落が現れる。見渡す川原には、ごつごつ大きな石が荒々しい。透き通る川面と対照的だ。日置川の道は記憶通り、光と瑞々しさに満ちているのであった。今日も午後になって、ここに来れて良かった、今日のコースで良かったという気になれている。

 途中で富田川沿いの鮎川から一山越えてきた県道221と合流し、県道37・221は対岸へ渡る。

 峠ではないものの、憶えていた登り返しは早々に現れた。それが紀伊田辺方面からの県道36の分岐であることは憶えていた。そして登り返しの最高地点は、やや枯れた雰囲気の県道36分岐ではなく、もう少し手前の山肌の峰へ登って下った場所であり、県道36・37となった道は、その先再び日置川の川原際まで支流沿いの森の中へ下ってゆくのだった。

 銀色のがっしりした鉄骨トラスが印象的な宇津木橋を渡ると、明日通る予定の小附方面へ県道36が分岐してゆく。ここから海岸の日置まで、再び単独となった県道37は初めて通る道だ。明日の朝、もう一度日置から通ってくる道でもある。


 日置川の川幅と谷間はこの辺から幅がゆったりと悠然と拡がり始める。川幅の拡がり以上に、周囲は両岸に切り立つ山肌が迫る渓谷から、山に挟まれた平地に畑や集落が拡がる下流域の雰囲気に変わってゆく。この期に及んで峰越の登り返しが2回も現れた。そして1つは100mを越える規模なのを、事前の計画で完全に見落としていた。しかし少し高い位置から見下ろす対岸やこちら側の岸辺には、居心地良さそうなキャンプ場が散在し、多くのワゴン車が停まっていた。家族連れの子供が川で遊んでいて、子供にとって最高に楽しいだろうなと微笑ましい。

 河岸の道幅は拡がっても、日置川の流れ、流域の風景は、こよなく清らかで美しく堂々としている。渓流の険しさが薄れ、ゆったり穏やかで人懐こい里の雰囲気なのに、ますますきりっと素敵な川だ。こういう川は初めて出会うように思う。いや、同じく和歌山南部の古座川が、こういう表情だったかもしれない。

 日置の町に近づき、特徴的な紀勢本線のアンダーパスと紀伊日置駅を過ぎ、海岸の雰囲気漂う日置の町へ進んでゆく。商店っぽい建物があったと思ったら、スーパーのオークワだ。どこかコンビニに寄って調達しようと思っていた、明日早朝の食料と夕食までの間食を、ここで調達することができた。

 15:45、オークワ日置店発。釣り人が竿を振る河口の港をぐるっと回り込み、海岸へ。河口までのんびりと、しかし寂れていない不思議な雰囲気の、見事な日置川の風景だった。

 岬部分を回り込んで現れたのは、日置海岸の白い砂浜だ。ぐるっと弧を描く浜沿いに、自転車道が続いている。最後の最後で、そろそろ夕方が近づく海岸の風景を眺めることができた。

 16:20、リヴァージュ・スパひきがわ着。私と自転車ツーリングの宿としては過去最高を更新する宿泊料金、さすがはかんぽの宿だ。それだけあって、太平洋と海岸の千丈敷を真っ正面に臨む(1階屋根防水層の眺めを挟むが)部屋、温泉とも設備に何か不足を感じる余地は全く無い。18時からの夕食も、会席コースで大変ゴージャス、お腹いっぱい大満足。太平洋を暗くなるまで眺めること無く、まだ明るい19時過ぎに寝てしまった。

 この宿、6月から宿泊営業を止め、日帰り入浴専門の温浴施設になるとのこと。何はともあれ、泊まれて良かった。

記 2024/6/8

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Last Update 2024/6/9
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