北海道Tour23#6 2023/8/14(月)生田原→仁宇布-1

生田原→丸瀬布 (以上#6-1)
(以下#6-2) →濁川 (以上#6-2)
(以下#6-3) →下川 (以上#6-3)
(以下#6-4) →上幌内 (以上#6-4)
(以下#6-5) →仁宇布 (以上#6-5)
(以下#6-6) 区間6  178km

赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路と航路
RYDE WITH GPS

 4時に起きて少し経つと空が白み始めた。雨は降っていない。山の上に霞が掛かっている。しかし、そんなことは気にしない。今日は9時頃から晴れるのだ。
 朝食は持っていても食べずに、荷造りの準備を進めてゆく。歳なのか起き抜けに食べ物を喉に入れることが億劫になっているので、補給物資は立ち止まって食べやすいパン系に統一してある。数年前は補給物資はおにぎり一色だった。パンもお米系もカップ麺も全部、昔も今もセイコーマートの商品は美味しい。私の北海道ツーリングの心強い味方だ。その補給物資はバッグの中に2日分ぐらいある。
 外に出てバッグを自転車に括り付けて4:50過ぎ。空の下で日焼け止めクリームをべたべたに塗り、ムシペールを直吹きすると、いかにもツーリングしている気分になれる。いや、直吹きはムシペール取り扱い上問題はあるのだが、6日目にしてやっといつもの北海道ツーリングの通りになっていることが嬉しい。

 5:00、生田原発。

 早朝の国道242は、野菜畑と森が断続する谷間を遠軽へ下ってゆく。幅や路盤や標識やフェンス等など、道そのものの構成は相変わらずいつもの国道なのに、まだ早朝のためか車が殆どやってこない。静かな路上空間を独り占めしている気になる。国道がいつもこんな感じだといいのに、とも思う。まあしかし、いくら車がいなくても車線の真ん中を走るようなことはやっちゃあいけない。それに道の雰囲気は国道そのものだと、それだけで信用しきれない気もする。

 今朝はまだ、ぎりぎりで寒くないぐらいに気温が低い。年間こんなに快適な気温の中を走るのが何回あるかなあ、などと考えることができる程涼しい。風もやや追い風気味、有り難く何も考えずに快調ペースで下り基調を軽々進んでゆくと、時間と距離がすぐに過ぎてゆく。

 安国は国道242と佐呂間方面からやってくる国道333が漸近線のように近づき、かなり近い距離で集落(というか民家と畑の一皮)を挟んで数100m続く、ちょっと不思議な感じの場所だ。そして安国の遠軽寄り、国道333と国道242の合流点には、国道同士の合流点だというのに昔から信号すら無い。

 国道242と国道333が合流すると、まあ当然のようにあちらからやってきた交通量と合わせて、車は2倍ぐらい増えるのであった。こうなるともう遠軽が近づいてきた気分になる。

 道道242が遠軽へ別れてゆく分岐に、以前立ち寄ったセブンイレブンがある。今日はそのまま通過しておく。以前生田原で翌日分のセイコーマート補給を忘れてしまった結果、ここで20分費やしてしまった苦い(というより悔しい)思い出がある。交差点の赤信号に停まって横目で眺める店先に、今日はお客さんはいない。でも、さっき缶コーヒーを飲んだばかりだから、立ち寄る必然性が全く無い。

 分岐で遠軽方面に殆どの車が向かっていったので、丸瀬布へ向かう国道333に再び車はほとんどいなくなった。

 生田原・安国の谷間と違い、谷間が広くない。また、山の斜面が迫ってきた。国道然とした道のすぐ隣には遠軽自動車道が並行していて、そちらには車がそこそこ通っているので、まだ早朝で森とか茂みが怪しげでも流石に熊は出てこないだろうという安心感はある。まあ最近は油断できないということもわかってはいる。

 瀬戸瀬を過ぎて、前回より進行が快調なのではないかという気がし始めた。早い時刻に出発できたため全体の進行が早いのが大きな要因ではあるものの、気分の上では重要なことでもある。

 瀬戸瀬から丸瀬布に向かう間に、空気中に水滴が感じられ始めた。水滴はまだ雨という程じゃないものの、すぐに消え去ることも無く丸瀬布まで続いた。空はかなり薄暗く、雲が低い。どう考えても、これから道道305の狭い谷間で高度が上がると、水滴密度が上がって雨に変わっちゃう可能性が高い。今のところはなるべく降らないことを祈って、進んでゆくしか無い。それに基本的には、この後今日は晴れるはずなのだ。天気予報だとね。


 6:15、丸瀬布発。この段階でまだ6時を過ぎたばかり、安心感があっていい。出発準備は億劫でも、ツーリングは早出に限る。

 分岐の角(交差点と言うには雰囲気がのんびりしすぎ)を曲がってすぐ、道道305は金八トンネルへ続く狭い谷間、森の中に入り込む。トンネルへの登標高差は100mちょっと。登り量の割に距離が長い、北海道らしいトンネル峠だ。

 谷間へ入って早々に、丸瀬布で感じた水滴は予想通り霧雨に変わった。そして登ってゆくにつれ、水の粒は大きくなって、密度が高い雨に変わった。こういう雨は勢いは弱くてもすぐ全身がびしょびしょになってしまうので、あまり濡れないうちに雨具を着込んでしまう。

 まあここで雨だとしてもあまり降らない筈と思っていた。

 しかしトンネルの向こう側では雨の粒が大きくなっていた。そしてトンネルからの下りが一段落した鴻之舞の谷間で、雨は本降りに変わってしまった。

 辺りは霧っぽく煙っている。やや不本意な現状に、もう大分昔この谷間で雷雨に見舞われたことを思い出す。その時よりもますます茂みに埋もれてしまった鴻之舞の遺構を眺め、あのときよりまだましだよ、などとつぶやいてみる。

 7:15、鴻之舞の道道305分岐着。雨の中、今日前半の山場ともいうべき狐沢橋越に臨むことになってしまった。この区間、標高差200mぐらいではあるものの、紋別山中の舗装道路では過去に一番通行止めが多い。開通自体が2005年。山奥度がダントツに高い区間なのだ。

 分岐を曲がると、それまで本降りだった雨はかなり弱くなり、そのうち止んでしまった。山深い道を淡々と上れることは有り難いものの、もう少し晴れててもいいのにという気もしないでもないぐらいに霧が濃く辺りは薄暗いのは相変わらずだ。道が谷底の茂みから離陸すると、開通が新しい道の雰囲気がいかにも新道っぽいためか、熊っぽい箇所はそんなに無い。

 山腹の法面、そして切り通しや森が断続し始めるともう稜線近くだ。それでも稜線近くを巻くようにしばし道は高度を上げていった。

 7:45、狐沢橋着。相変わらず辺りはかなり濃い霧の中だ。2000年、通ったというより突入したダートの上古丹4号沢林道・ウチャンナイ林道の白樺峠が見下ろす位置にある。もちろんそちらも完全に霧に包まれてしまっている。それでも23年後、あの日は(も)無謀な行程計画で下方修正しちゃったんだっけ、等と思い出しながらまたこの辺にやって来れて、白樺峠方面を見下ろしている(見えちゃあいないが)ことが大変感慨深く嬉しい。

 狐沢橋区間の登り下りは、地図だとどっちも同じような距離に見えるのだが、狐沢橋から中立牛側への下りは長く続くように感じられる。稜線から山腹、谷底へ降りてから、上古丹の牧草地が現れるまでずっとあやしく茂る森が続く。いかにも熊が潜んでいそうなのだ。。

 まだ8時。時々(ほんとに時々)やってくる乗用車以外、前後のバッグに付けた熊鈴だけが心の頼りである。なるべくささっと下ってしまいたい。調子に乗って下っていても、前方の路上に熊が現れた場合にはむしろ危険だ。とにかく都合の悪いことは忘れて、現実逃避に意識の全てを集中する。時よ早く過ぎてくれ。

 上古丹で向こうからやって来た谷間と合流し、周囲に広くないながらも牧草地が開けてやっとひと安心。いや、これぐらいの里の方が熊が出やすいのかもしれない。でも、人里の香りのようなものにひと安心してもいいじゃないか。相変わらず雲は低いものの、やっと路面が完全に乾いたのは、晴天に向けて明るい要素である。このまま晴れてくれ、と思う。

 上古丹4号沢林道への入口はかなり茂みっぽい。今なら絶対に踏み込まない、あやしい雰囲気がぷんぷんしている。2000年の訪問時に林道入口を尋ねた牧場の納屋は、もうかなり前から廃墟になっている。久しぶりのこの道も、訪れ始めてもう20年以上経っているのだ。同じ道を走っているので感慨ばかりだと思いつつ、そういうのが楽しいのかもしれない等とも思う。曇りなので思考はやはり自分の中に向かってしまう。

 もう少し下って8:20、立牛を今日はさくっと通過してしまう。どきどきしていても行程は順調だ。空は少し明るくなってきた。そして、路上の気温は目に見えて上がり始めていた。また暑くなるのか。晴れるんなら仕方無いことではある。

 と思っていたら、札中トンネルを抜けると再び辺りは霧の中。それどころか、そのまま谷に下りきる途中で霧は雨に変わってしまった。おいおいおいおい、いい加減にしてくれ。

 さすがに濁川手前で雨は止み、路面は再び乾き始めた。しかし今日はこのまま山間に行くと雨っぽいままなのかもしれない。

 9:15、濁川着。先行き不安なときこそ心の余裕が必要だ。以前から、ここの道の駅に漂うソフトっぽい雰囲気には興味があった。この際宛の無いソフトを宛にして、一息付くことにする。
 道の駅本館は、徹底的な安普請が普通である道の駅にしちゃあ箱物行政系地味ゴージャスっぽい建物だ。肝心のソフトは本館に無く、隣のログ小屋で所望することができた。

 改めて今日の予定と現状を比べてみる。下川・仁宇布間、道北有数の山深い区間をあまり夕方っぽくない安心可能な時間に通過するために、濁川・滝上を10時半ぐらいまでに通過しておきたいと思っていた。現状、出発時刻が早かったことを考慮しても、進行状況は好調と言っていい。何より身体が全然疲れていない。このままさくさく行けそうだ。
 等と思いながら缶コーヒーをもう1本。


 9:25、濁川発。濁川と滝上市街の間には建物が全く無い谷間部分が2〜300m、それ以外ほぼ連続しているもののそれ故に昔から別の町ということになっている。

 滝上には以前必ず立ち寄っていたセイコーマートがある。しかし補給物資は十分持っているし、曲がりなりにも濁川で立ち止まって自転車から降りることができている。何よりどこかに立ち寄りたいような気分にならない。もう滝上はそのまま通過してしまうことにした。時刻が早いというだけで、気分が前向きに、落ち着けている。

 上々な気分とは別に、滝上の町外れで弱い雨が降り始めてすぐ止んだ後、またもや雲が低く暗くなってきていた。10:00、上札久留分岐を通過。濁川から国道や他の道道と併用となっていた道道137は、ここから再び単独となる。その道道137を札久留峠へ登る途中で霧が出始め、谷の奥で霧粒が大きくなってきた。

 そして峠の向こうでは、霧粒は再び本降りの雨に変わってしまった。今日は本当に晴れるんだろうか。

 しばらく下り続けて、谷間に平地が安定して拡がり牧場が続き始める中藻の辺りで、やっと雨が落ち着き始めた。そして西興部への瀬戸牛峠分岐で雨は弱まり始めた。

 こんな天気でも、たかだか80mぐらいの瀬戸牛峠で雨具の中が蒸し風呂みたいに暑い。一体今日は晴れるのか。蛇の生殺しみたいな天気にもううんざりしていた。

 11:00西興部着。そろそろ腹が減り始めているし天気予報を確認する必要があるので、セイコーマートに立ち寄っておく。物資を仕入れているほんの数分間に、雨は納まり始めていた。
 天気はこのまま1日こんな感じかもしれない。それなら、ここまで来ればバス輪(又はタク輪ww)→名寄→美深→デマンドバス(又はタク輪ww)というストーリーでこの跡の輪行が選択肢に入ってくるな。と覚悟して緊張しながら天気予報を確認すると、相変わらずこの後お昼から晴れる予定になっている。晴れに変わる時刻は確かに朝の予報より遅れているようだ。進行状況はさっきの滝上よりますます良くなっていて、下川到着希望の13時台が確実という状況だ。札久留峠・瀬戸牛峠とのろのろとろとろ通過しているように思っていたが、それなら予報を信じてこのまま行ってみましょう。

 11:25、西興部発。国道238は、やや強い向かい風が吹いている。

 西興部の先で雨がぴたっと止むとともに、空に相変わらず雲が垂れ込めているものの路面も渇き始めた。辺りが渇き始めると、セイコーマートで水を買い忘れたことに気が付いた。下川ではまたセイコーマートに寄って水を買わねば。

 今日の国道238は交通量が少ないように思われる。向かい風と緩い登り基調で淡々としか進めないものの、過去にはもっと向かい風が厳しかった記憶がある道でもある。今日は淡々と進めば距離が淡々と過ぎてゆく。こうなると、道も静かな好ましい国道であるように思えてくるのが我ながら単純だなと思う。

 上興部の、拳骨山(という名前の山)を望む広々とした牧草地のカーブを過ぎると、谷間が狭くなって天北峠への登りが始まる。この時点で峠までもう標高差は120m。

 12:15、丘の上で緩緩っと鞍部を越え、という感じで天北峠通過。道の脇に生い茂る薮の拡がりに名寄本線の痕跡を想像し、1986年の冬に乗車した名寄本線を普通列車を思い出す。この峠での毎度の私的イベントだ。40年近く後、こんなことをやっているとは。人生は不思議なものだ。

 下り始めて何度か道の向きが変わり、気が付くとさっきまでの向かい風が凄い追い風に変わってしまっていた。下川ではこの向きに風が吹くことが多いので、いつも天北峠で風向きが変わるのかもしれない。今はそんなことどうでもいい、よっしゃいけいけー!等と自分の力のせいじゃない快調ペースに嬉しくなる。
 そして一の橋を過ぎて急に雲の中に青い色が伺え始めた…、と思っている内に、あんなに垂れ込めていた雲は一気に無くなってしまった。それが驚く程一気に、雲が動いて去ったんじゃなくてすっと消えてしまったのだ。こんなことがあってもあまり不思議だとは思わない。これが北海道だ。
 こうなると気温は一気に上がる。追い風が熱風だ。調子に乗りすぎて転倒するのには気を付けて、速度を抑えても30km/h巡航で二の橋、元名寄本線の跨線橋を過ぎ、三の橋から下川へ。

 下川手前で空は完全に晴れてしまった。12:45、下川着。13時台どころか12時台、やった。これでこの先安心して、晴れの道北縦貫道道でのんびりゆっくり過ごせる。それでも仁宇布には、17時頃までに着けるだろう。
 打って変わって灼熱の直射日光で皮膚がぴりぴりする。町中の自販機で冷えた水を2本飲んだ後、セイコーマートでちょろっと物資補給し、13:00、下川発。
 道道60を曲がったところで、放牧地橋工事で迂回との看板が現れた。何と!看板の迂回路と手元の地形図を比べると、結構大回りするのみならず、向こう岸に渡ってから山裾の細道を経由するようだ。この熊が怖いご時世に。しかもこの橋が渡れないと大回りする必要がある農家の方がいるじゃないか。と思ったが、農家はサンルダムの下に数軒、それぐらいならこういうことをやっちゃうのかもしれない。
 こういうときこそ急がば回れなのもよくわかっているし、今日は幸い早出と好調な進行のお陰でやろうと思えば不可能じゃない。仕方無く看板通りに国道243から対岸へ渡って大回りした。名寄川の涼しい空気と山裾細道の木陰は国道238の熱風に比べるとかなり快適だったし、山裾区間のアップダウンも思った程じゃあなかった。
 迂回区間を終え、下川市街の向こう岸で対岸の道道60に戻ってみたら13:30。途中写真撮影込みで30分も損したことになる。まあしかし、工事が原因なら、今日ここで30分損するのは運命に近いとも言える。むしろもともと早めの出発が必要なことだったということかもしれない。


 サンルダム堤体へは、日陰の無い暑い路上、緩いながらもダム堤上まで一気に続く直登の視覚が効く。しかしゆっくりでも登ってしまえば、なみなみと水を湛え拡がるダム湖湖面が開放感と少しの気分的な涼しさで癒してくれる。
 それでもダム湖新道の、木陰の少ない暑さは如何ともし難い風は向かい風に替わっていて、熱風と照り返しが尚更暑い。木陰を探し努めてその中を通るようにして、大きく登り下りの湖岸区間を少しづつ進んでゆく。サンル牧場を見渡しながら下って行く区間が現れると、サンル大橋も近い。
 サンル大橋には13:45着。今日のサンルダムは過去最大級の満水だ。ダム側から橋の下、そして上流側が全て水没している。天気が良く、青空を映して真っ青な、そして遠くでは現実から浮遊しているような白っぽい水色の湖面が目の前に拡がっている。
 2時間ぐらい前までどうなるともわからなかった今日の天気。それが天気予報通りとは言え、一気に晴れてくれた。2017年にはこのコースで下川手前まで晴れだったのに、山中が雨とのことでタク輪を余儀なくされた。その後このサンル大橋には晴れの日を含め何度か訪れることができているし、その度にこの風景に感慨を感じることができている。改めてつくづくこの眺めが有り難い。
 今日またこんな高所の空中からダム湖を見下ろすにつけ、過去の訪問やそれ以前、建設中のこの橋を見上げたことを思い出す。時が過ぎるといつかはこんな日が来るのだ。道道60とサンルダム訪問は私にとって、道北有数の名道であると共に、初めてダム建設により迂回が始まった2004年から続く時間への感慨が大きいと思えた。同じ所ばかり行くのにもそれなりに良いところ、わかることがあるものだ。

 14:00、サンル大橋発。放牧地橋さえ通れていればまだ下川から数kmなのに、あっという間に下川から1時間15分が過ぎ去ったことになる。中高年少年老い易く学成り難しだ。それでも時間的にはまだ無理は無い。仁宇布到着に向け、着々と脚を進めて行けばいいのだ。
 サンル大橋で対岸に渡った道は、ダム湖から上流側の森林へ続いてゆく。そのうちサンル牧場への行き止まりの道となってしまった旧道が合流し、更に上流側へ。
 周囲には延々と森、サンル牧場の牧草地が入れ替わって続いてゆく。相変わらずやや強めの向かい風は続いているものの、青空に緑がこよなく明るく美しく、ところどころで脚を停める口実になっている。そして脚を停めて所々で水を飲んだり補給食を腹に入れたり、日なたが暑くても森と川の風を感じ感謝しながら、のんびり落ちついて楽しく脚を進めることができた。
 今日は記憶にある風景の通過時間が、ひとつひとつ長く感じられる。脚を停めた箇所と全体の時間を考えるとむしろさくさく進めているようにも思う。

 道道70沿いにいくつかある中の、最上流部のサンル牧場を過ぎて少しだけ高度を上げた後、幌内越峠周辺で緩やかな鞍部を乗り越える。
 GPS画面の表示でしかわからない峠の辺り、奥幌内本流林道入口を横目に眺めて通過した後は、谷間へ100m一下り。

 谷底の少し開けた平地、道道49合流点手前には休憩広場みたいな道の拡がりがある。今回そこで、数頭のキタキツネ親子が路上にまで出てきて遊んでいた。近年の道内野生動物の例に漏れず、自転車が大分近づいて蜘蛛の子を散らすように道端の茂みに逃げ込んだ。車の事故に遭わないといいなとも思う。


 15:45、上幌内着。いよいよ仁宇布への最終区間、今日もここまで来れた。
 道道49は松山峠へ、深く密に生い茂る森をイキタライロンニエ川沿いに登ってゆく。道に覆い被さり包み込む森には何かが、というよりクマが潜んでいそうな雰囲気が露骨に横溢し、いつも押しつぶされそうな気になる。この道をなるべく早い時刻に通過したいから、ここまで通過時刻を気にしていたのだ。
 そんなこの道が、今日は斜めから午後の陽差しが強く差し込み、木漏れ日が本当にきらきら眩しい。森を透けた光で辺りが全体的に緑に染まり、影と日なたで路面は縞々、見ているだけで楽しい模様になっている。かつてこういう訪問が無かったのは、この方向から陽が差す時間にこれほどいい天気で訪れたことが無かったからかもしれない。
 登り斜度は緩急あるものの、今日通った道の中で一番厳しく感じられる。そしてその間ずっと森が続くので、尚更森が深く、長く感じられる。でも今ここでまだ16時過ぎ。ファームイントント着18時を回ることは絶対無いだろう。「いや、本当は欲を言えば17時までに着いておきたい」などと気を揉むこと無く、淡々と粛々と脚を進めてりゃあいい。
 そんな風に考えていると、毎度の不気味で怖ろしい森を何だか楽しんで通過できている。早出と晴天のお陰だ。

 淡々と登っていたつもりだったが、峠前あと数10m、斜度が8%ぐらいに上がる手前で流石に息を整えた。水を一飲みし、GPSトラック画面を確認する。もう獲得標高が1800mを越えている。
 松山峠は、1/5万地形図だと美深峠と書かれている。大分前のツーリングマップルには美深松山峠と書かれていたと思う。そして現地に町界標識とともに建つ看板には、松山峠と書かれている。個人的にはやはり、これだけ山深い場所の峠だなんだから、なるべく仰々しく美深松山峠と呼びたい気がする。しかし現地は切り通し斜面と茂みと森に覆われた、単なる最高地点だ。いや、茂みに埋もれた山道ぐらいは交差しているのかもしれない。
 等と思いながらそのまま通過、あとは仁宇布へ一下り。行く手のほぼ正面から道を谷間を照らす陽差しに、眩しい光の中を下ってゆくような気分になる。そう言えば朝にこの道を下川に向かってゆくときには、逆方向なのやはりで正面からの陽差しが眩しいことを思い出す。いつのまにか16時も30分を過ぎ、さっきの松山峠登りでの午後の陽差しは、赤みの強い夕方の光に変わっていた。

 松山湿原分岐を過ぎて下りも一段落。道端に牧草地が現れ、スバルテストコースのフェンスを過ぎ、遠くに仁宇布の交差点が見え始めた。その辺りから道の脇に白樺が続き始める。私にとって仁宇布の象徴的な風景だ。改めて、17時前の到着が嬉しい。何度も訪れている道のたかだか175kmに、早出を始め何かと万全の体制で臨んだものの、2017年から6年。やっとこの区間でこの道を走ることができた。
 16:50、仁宇布通過。もうファームイントントは目の前だ。最後の3kmは赤く染まり始めた畑の中を写真撮り撮り、夕陽の中をのんびり脚を進めてゆく。もう多少遅くなっても何の問題も無い。

 17:10、ファームイントント着。
 予約段階から既にそうだった通り、ファームイントントは完全に新メンバーでの体制に変わっていた。さすが前宿主さん、段取りが完璧だ。これが今後のファームイントントになるんだろうな。
 明日も天気は終日全区間でほぼ晴れ、全く申し分無い。問題は浜鬼志別から天塩へ向かう予定の明後日だ。猿払村、豊富町、天塩町の全区間で朝8時以降降水確率60〜70%となっている。これはもう今の段階で輪行決定だ。そして、その次の日も雨マークが付いている。まあ明後日についてはこのまま天気予報通りに推移するとも思えない。あまり先入観を持たず、明日の予報で再度確認、検討すればいい。ただ天塩出発で仁宇布へのコースに、あまり選択の余地は無い。GPSトラックとしては2004年に通って以来のロクシナイ峠を準備しているものの、朝が雨だと標高が80mぐらいであっても、あまり谷間に踏み込む気はしない。
 何はともあれとりあえず、今日も楽しく満足な1日だった。

記 2023/12/13

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Last Update 2024/2/13
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