中国地方Tour22#5
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12:50、萩到着。ちょうど賑やかな国道191に出た所でセブンイレブンの看板を見つけた。萩と言ってもまだ東側の町外れ。とりあえずそろそろ脚を停めてもいいタイミングだし、ほぼ自動的にセブンイレブン反射炉前店に自転車を停めてみた。
ただ、コンビニへ入っても、特に何か心から食べたいようなものは無い。今日は有り難いことに補給計画に抜かりが無いのだ。いや、田舎道であっても、あまり山間には入り込んでいない里ばかりだから、とも言える。大して走っていないので腹も減っていないとも言える。とにかく、昨日買ったものとはいえパンだってまだ残っているのだ。ただ何となく安心するためだけにコンビニに入っているのかもしれないなおれは、等と思いながら外で缶コーヒーを煽ってみる。
コンビニの駐車場が「萩反射炉」の駐車場に面していて、その反射炉の説明看板が立っている。反射炉か。長州藩縁の進取の気性がある方が先進の技術を導入されたんだろうな。どうやって作ったのか、建築系の人間として見ておくべきかもしれない。しかし、私は誰がどうしたこうした的な、歴史旧跡にあまり興味が沸かないという習性がある。反射炉については技術史的興味が無いわけじゃない。でも、そういう旅をする才能が無いんだろうなといつも思う。さっきの津和野に引き続き。
GPSトラックに身を任せ、萩の市内へと進んでゆく。道の駅が現れたものの、立寄りかけてやや混雑していたため、何とは無しに退散してしまった。今日は道の駅に立寄りそびれてることが多い。
国道191が山陰本線を越える陸橋で、歩道を登りながらGPSを見ていたら、道端の(あり得ない)大きな枯れ枝に激突してしまった。幸い低速だったこともあり、がしゃっという大きな音に驚いた以外に大事無かったのは有り難かった。しかし、普段から事故は全てあり得ないと思っているから起こるのだ、と思っていてもこういうことが起こったことには、ショックを受けた。あるいは、さっきから何となく気分も含めて疲れているのかもしれない。毎日行程を緩くしているのに。歳だね。
何となく打ち砕かれ疲れたような気分のまま、それでも脚は進めてゆく必要がある。そのまま、海岸はとりあえず向かわねばと思って描いたGPSトラックに従い、とりあえず海岸を見ておこうと何の気なしに菊ヶ浜へ向かって進む。
川岸沿いの町並みは古風で落ちついていて上品だ。河口部分の川も川岸の松並木も、町中としては鮮やかで美しい。空は青空だし陽差しは明るい。何も不満は無い。
海岸に出た途端、目の前に砂浜と日本海が開けた。菊ヶ浜だ。
真っ青な空の下青緑の日本海、緩やかなカーブの眩しい白浜に寄せては返す静かな波、すぐ先の半島まで短いものの風景としては十分な長さの海岸線。水平線まで開けた空間、青と白の色彩は、今日ここまで無かった風景である。浜沿いの県道には車も人も少ないし、ブロック舗装の歩道にはフェンスが全く無く、歩道状に何の突起も無い。足下からすぐ白浜の海岸が始まっているのである。それが他ではあまり見たことが無い開放感の要因かもしれない。整った菊ヶ浜の曲線が存分に活きる、大変心憎い演出だ。というより、萩の人々にとって、この風景が大切なものであることが伺える。こちらに向かって正解だったということがすぐにわかった。
沖には大小の島が浮かんでいる。山陰にこんなに島が見える場所があるなんて、地形図で計画していた時には全く意識していなかった。
五島列島Tour19
での離島サイクリングを思い出し、船でこの島々に渡るとどういうことになるのだろうなどと思う。
これこそ旅先で見たいものだ。自分はこういう風景を見にサイクリングしているんだ、とつくづく思った。これだよこれ。
気分が盛り上がったまま、引き続き萩城址へ。萩城は城址内へ自転車で行けるのだと驚きつつ、何となく脚は海岸方面へ向いてしまう。やはり歴史系より空間系の方が多分興味があるのだ、と我ながら今度は何だか可笑しい。
石垣の隙間から海岸へ出ると、期待通りさっき眺めた菊ヶ浜を半島側から眺めることができた。しかし同じ砂浜でも、こちらは海に突き出した半島の小さい湾から、正面に向こう岸を眺める風景となっている。菊ヶ浜で感じられる、沖合の水平線の向こうへの拡がりとはまたひと味異なり、こちらは海岸の漁村や山裾の畑、人々の暮らしに思いが馳せる、そんな風景なのだ。
城から見える風景として、こちらの方が素敵だ。萩城、なんて美しい風景と町並みが眺められる城だったのだろう。萩の人々が眺めてきた風景が、萩の歴史の重みを教えてくれるようだ。萩に訪れたかそうでないかで、長州藩や何年か前の大河ドラマの印象はがらっと変わるなと思った。
GPSトラックは遊覧船が通り過ぎるお濠沿いに更に西ノ浜へと向かっていった。
海岸沿いの住宅地を抜けた西ノ浜も、小さな湾と砂浜、岸辺の松が素敵だ。地元の人しか来ていなくて、何だかプライベートビーチ風に大変静かなのもいい。奥の陸側に最終処分場が建ってはいても、静かでとてもステキな海岸である。こういうところはしっかりばっちりトラックを組んでいる自分が少し可笑しい、というぐらいに前向きな気分で楽しめた、萩の海岸3箇所セットなのだった。
14:30、萩発。町の西側へと橋本川を渡り、玉江駅前から国道490へ。宿まであと20kmちょっと。登ってもせいぜい200m台、車が少なさそうな道を選んでGPSトラックで繋いでいる。
国道490に入った途端、さすがは400番台国道、交通量が急に少なくなった。
山に囲まれて田圃と農村が拡がる谷間の表情は、何となく南伊豆松崎の岩科辺りに似ている。
途中で大型車通行止めの看板とともに分岐してゆく細道旧国道を見送り、その細道旧国道の旧道だった道をそのまま拡幅したと思われる新道区間へ進む。登り総量は変わらないと思われるのだが、旧国道は最後に凄まじい激坂が登場しそうに思えたのだ。しかし、これも今思い出すと細道旧国道でも良かったかもしれない。
新道の谷間は高度を上げると共に次第に狭くなり、眺める山肌には標高100m前後にしちゃ険しさが感じられるようになっていった。斜度は一定していて、道幅が広いのにも拘わらず、相変わらず車が殆ど来ないのがいい。
記 2022/6/20