中国地方Tour22#4
2022/5/2(月) 広島→柿木-1

広島→廿日市 (以上#4-1)
(以下#4-2) →栗栖 (以上#4-2)
(以下#4-3) →松ノ木峠 (以上#4-3)
(以下#4-4) →向峠 (以上#4-4)
(以下#4-5) →六日市 (以上#4-5)
(以下#4-6) →柿木
100km  RideWithGPS

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路
ニューサイ写真 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 荷積みに外に出ると、昨日の夕方と同じく、明るい陽差しがすかっと澄んだ空一杯に満ちている。街の日陰がきりっととても涼しい。
 ビジネスホテルでは、6時半の朝食に客がぞろぞろ集まってくる。好きで泊まっている客だけじゃなく、仕事で宿泊する方も多いので仕方の無い話ではあるものの、客の朝を有効に使おうというやる気ある雰囲気が好きだ。そして東横INNでは、セルフ朝食に野菜も肉もご飯もたっぷり準備されている。朝からバランス良く手際よく十分に腹を満たして不安無く出発でき、大変有り難い。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 広島県広島市中区中島町 平和記念公園 平和大橋西詰にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 7:10、東横INN発。今日は島根県鹿足郡吉賀町の柿木へ向かう。最初は廿日市まで都市部の横断だ。GPSトラックには、近年都内などでよくやる、事前組み組みの裏道主体コースを入れている。考えてみると、初めて訪れる大都市でこの方法を使うのは、初めてかもしれない。
 まずはホテルから近くに建つ、世界平和記念協会を一目見ておく。作者は村野藤吾大大大先生。過去の広島訪問時に私が東横INN広島駅前右に泊まる場合が多いのは、この建物が近いということも大きな理由の一つだ。
 まだ人が少ない裏通りから朝日が当たって眩しいぐらいに明るい平和大通りを横断し、アーケード街へ脚を進めてゆく。
 次は平和記念公園だ。建築云々ではなく日本国民として、人としてここは訪問し、平和を祈る必要がある。輝くように鮮やかな新緑の木立の向こうに、丹下健三設計平和記念資料館が見える。平等院鳳凰堂がモチーフだという建物は、外部空間にやはり実際に見てこその感覚が感じられる。内部は未だに一度も訪れたことは無い。毎回出張等の途中で、早朝の訪問になってしまっているのだ。
 世界の丹下以外に、是非とも訪れておくものがある。千波鶴の像だ。東京芸術大学教授菊池一雄さんの作品なのだが、敬愛する池辺陽さんの作品集に(協力)と書いてあるのだ。池辺陽さんファンとしては、平和記念公園に来たらこちらを訪問せねばならない。
 初めての訪問ではないので、千羽鶴の像はすぐ見つかるはずだったが、探すのに少し手間取った。しかし美しい木立の中、まだ人のまばらな公園内を自転車で少しぐるぐる廻るのは、むしろ楽しい。
 千羽鶴の像のどこが池辺陽さんが協力した部分なのかは正直わからない。でも、意外と小さいその佇まい、親しみやすく素朴ながら凜とした表情は、池辺陽さんの建築に通ずるものだ。再び訪れることができたことを感謝し、戦争で亡くなられた方々のご冥福、平和をお祈りしておく。

 引き続きGPSトラックに沿って脚を進めてゆく。市街地の裏道から川を何本か渡り、住宅地、そして海岸へと次第に近づいてゆく。途中所々で大通りを渡り、急に通学中の高校生が増えた後、ほとんど学生を見かけなくなった。今日は連休中日の平日なのだということを思い出す。彼らも始業5分前以内に到着するように通学しているので、こんなに急に学生が増えてすぐに少なくなるのだろう。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 広島県広島市中区 旧太田川 住吉橋にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 広島県広島市西区 太田川放水路 庚午橋にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 海岸に近づくと、川を渡る橋の海側に瀬戸内海に浮かぶ島影が見えた。商工センター(という名前の物流地域)は一度通ってみたかった。街は繁華街や住宅地だけでなり立っている訳ではないからだ。等と理屈を付けて訪れてみた物流地域、市街地を通る天下の国道2より車は少ないだろうと思っていたのだが、予想よりは車が多い。ましてや通勤時間帯、大型車が急に増えて来た気がする。そして思ったより歩道の状態が悪い。ちょっと我慢して車道を走ってゆく。

 埋め立て地っぽい形をした商工センターの島が、唐突に海岸なのか港なのか運河なのか、とにかく水縁で終了すると、広い道は引き続き次の島に渡ってゆく。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 広島県広島市佐伯区 八幡川 新八幡川橋にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 草が生えているだけの空地から今風の巨大物流施設、その先で直登で空中へ登ってゆく橋が見えた。間違いなくこれから進む道だ。正面から見上げる直登の例に漏れず、かなり高く昇っているように見え、びびった。看板には「はつかいち大橋」とある。そういえば、地図では確かに四角い入り江のような廿日市港の入口を海側で横断する橋を見ていたことを思い出した。ここか。計画時、今日の大きなテーマは広島からどのように柿木へ向かうかであり、広島市内海岸部のコースは横浜川崎でやるような都市部GPSトラックツーリングだと思ってあまり気にしていなかったのだ。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 広島県広島市佐伯区五日市港 広島はつかいち大橋にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 広い歩道ではつかいち大橋を登ってゆく。ランニングやサイクリングの人も歩道を通っている。見下ろす廿日市港は綺麗な長方形の入り江に、プレジャーボートや漁船がびっしり並んで壮観である。登ってゆくにつれ、海側に明るくきらきら輝く瀬戸内海と宮島が見え始めた。一方、陸側はより高い位置から引き続き廿日市港を見下ろしつつ、その奥に廿日市市街、そして壁のように立ちはだかる山を見渡している。商工センター経由で海側にコースを取って良かった。山の中腹、けっこう高い位置に山陽自動車道が通っているのが壮観だ。あの道を自転車で通ることは無いと思うが、あんな高い所は通りたくない。

 橋から下って、道沿いのセブンイレブンで小休止。今日は暑いので、ここらで上着とモンベルニッカーを脱ぎ、日焼け止めを腕と膝にも塗っておくとするとともに、ここで補給食のパンを買い込んでおく。
 街中裏道でのペースとして適正化不適正かは別に、ここまでたったの16kmで1時間半も掛かっている。とはいえ、この後廿日市から軽い登り返し1回込みのほぼ1発登りで700m台後半、その後はやはり軽い登り返し1回込みのほぼ1発下りで柿の木まで。特に何か難儀するような箇所は無い、粛々と進みさえすれば。RideWithGPSの獲得標高差が1800m近くなのが気にはなるが、そんなにならないはずだ。多分。


 8:50、廿日市発。並木道、商業施設の脇、住宅の裏手とGPSトラックはめまぐるしく道を変えてゆく。広電、山陽本線とそれぞれ特徴的な鉄道の個性が滲む踏切を渡り、住宅地の細道へ。県道の狭い歩道で信号待ちしていると、小学校の遠足に出会った。全体的に賑やかで、こちらも楽しくなる。女の子の一人ががびっくりしたような顔で「こんにちはあ〜」と挨拶してくれた。
 裏道はすぐ廿日市の山裾に辿りつき、山裾から谷間へ。谷間が狭くなり、道の斜度は増え、唐突に県道30へ合流。そのまま明石峠へと登ってゆく。

 谷間というより山に挟まれた急斜面という方が適切な山の狭間に、周囲はあまり民家や業務施設が途絶えることが無く続く。県道30の斜度は6〜7%と穏当ではあるものの、車はかなり多い。何故こんなに多いのかと思うぐらい多い。緑は美しいのだが、何となくこそこそと道の端に貼り付いて、淡々と登るだけになってしまった。どちらかというと登る車が下ってくる車よりやや少なく、こちらの登り側は時々車が途絶える、というのが救いではある。

 斜度は峠手前から多少上がって8〜10%となった。まあこれは珍しくもないし、もともと私は遅い。周囲のそんな峠っぽさを余所に、車は絶える気配が無い。

 明石峠は標高320m。峠の向こうがそのまま峠という地名になっている。峠部分には道路案内風の看板に、「廿日市市峠」と書いてあって、峠の名前だか何だか大変紛らわしい。そして峠を越えると向こう側はすぐに民家が建ち並び、あまり下りもしない。「明石峠とか言われてもね。もう何でもいいよ。車減らしてよ」という気分だ。この先まだまだ登りが続くに当たり、折角稼いだ標高が下がらないのは有り難い。

 佐伯工業団地への分岐などという看板を見て、少しは車が減るのかもしれない等と期待はするものの、実際に分岐を過ぎても車はあまり減らない。実態として交通量が減るような工業団地でもないのかもしれない。河津原を過ぎても、全然車は減らない。集落未満の農村と民家や町工場は絶えること無く続いているが、地形は標高なりに丘陵地形であり、進むと共に次第に高度を上げてゆく。まあ、目立って人が多そうな場所でもないので、劇的にここらで人が減ることは無いのだろう。
 ということは、この通行量は、広島近郊であるが故なのかもしれない。昨日通った国道261も、あんなに広島から離れている一見山の中の北広島で、あれだけ車が多かった。改めて広島という都市の規模を思い知らされた気がした。まあ今回、広島にはお好み焼きを食べるという大きな目的があった。それは今回のツーリングの目的の一つですらある。それに広島近くで狙い定めた太田川沿いは、あんなに素敵な渓谷で楽しかったじゃないか。今日だって広島市内から廿日市へ商工センターを中央突破した区間では、けっこう楽しめていたし。

 もう少し進んだ津田は、県道30の狭さと交通量を除けば、全体的にのんびりとした昭和レトロ系の町だ。大竹へ向かう県道293の交差点でやっと車ががくっと減った。
 津田の町外れから続く農村の栗栖で標高320m。大竹からやってきた国道186に合流し、松ノ木峠へ向かう。その合流点で、更に多くの車が大竹方面に行ってしまったのは大変有り難いことだった。地図によると、松ノ木峠の手前までしばらく曲がりくねった渓谷を遡り、集落らしい集落は無い。そういう道でひょっとすると山中ずっとこれか、と覚悟していたよりは大分車が少ない。実は広島から大竹まで山陽本線輪行でワープしてしまい、大竹から山中に入る手もあると思い、第2案としてコースまで準備していた。しかし大竹まで行ったとしても、車の多さは広島方面から来るのとあまり変わらなかったかもしれない。やはり昨日広島に行った以上、ここまで全自走で良かったんだろうな。


 栗栖からは風景も一変した。佐伯の盆地から小瀬川の谷間、羅漢渓谷に入り込んだのだ。谷間に集落がほとんど無いためか小瀬川は眺めている分には大変清らかであり、切り立った岩場は荒々しい。車はまだ皆無というわけじゃないものの、全く車が来ない時間が1〜2台来ている時間より多い。十分にツーリングの許容範囲だ。そのぐらいの車の量なのに、普通の道幅の国道沿いにこれだけの迫力ある清らかな渓谷がずっと続くのは、他にあまり類を見ないんじゃないかと思う。そして国道なのに、道はあまり埃っぽくない。普段は車がもっと少なくて、今日は連休で普段より車が多いのかもしれない。
 道の駅スパ羅漢は標高500m。地形図には、山中の他に集落も畑も無さそうな場所に道の駅と書いてあるので目を疑っていた。こんな所に道の駅があるのだ。あまり大きな道の駅ではなく、温浴施設以外に何か手っ取り早い食事ネタも無さそうではある。まあしかし、何か食べたいという明確なイメージがある訳でもない。恐らく気の持ちようだけで全て解決するのだ。とりあえずWCに行っておく。

 その先も相変わらず清らかな小瀬川の流れ、渓谷の迫力ある岩場、森の渓谷が素晴らしい。国道沿いによくこんな渓谷があるな、という道である。
 羅漢高原の看板と共に、県道119の分岐が現れた。計画時にここを経由するコースを検討したことがあったので、現実の分岐を前に少し悩む。
 行く手の最高地点は、予定コースの松の木峠で776m、県道119の生山峠は936m。県道119の方が順当に県道らしく登りは多そうだし峠付近で登り返しもありそうだ。距離も多少大回りに見える。しかし県道119は、今ここでは国道186より明らかに細い。確実に車が少なさそうなのが、とても魅力的に思える。
 地形図で獲得標高差だけ概算チェックすると、100mちょっとぐらい余計に登ればいいだけのようにも見える。でも、事前でRideWithGPSで計画していたときは、当然こちらも検討した。獲得標高差は確かそんなもんじゃなく、300m以上ぐらい差が付いていたはず。朝から車が多いにいい加減嫌気が刺していたので、目の前の2択は大変悩ましいものの、ここは安全策でこのまま国道186を進んでおくことにした。

 再び走り始めてから、変速の調子がかなり悪いので触ってみると、幅方向にガタガタとフリーのギヤが動いているではないか。驚愕した。空走時にじゃりじゃり変な音がしていた理由はこれだったのか。さすが某国製だ。帰ってから即交換するとして、そもそもこの先走れるかというレベルの、最悪の調子である。少なくとも、あまり行程の無理はしない方がいい。さっき羅漢高原ではなく、こっちを選んでおいて良かった。そして標高差についても、この後こちらで良かったことを理解するのであった。
 幸いこの後最終日まで、フリーが走行中に分解してしまう事態に陥ることは無かった。

 小瀬川が道沿いから森の向こうへ、そしてどこかに行ってしまい、周囲は次第に狭い渓谷から山間斜面に変わり、栗栖〜松の木峠までほぼ唯一の集落、飯山に到着した。標高600m超、この辺から峠部分に続く鞍部が始まる。こんな山間にどんな山里があるのか、ここまでちょっと不思議な気分で地形図を眺めていた。国道から飯山を望むと、山間の袋のような拡がりに、まばらな農家と休耕田に太陽光発電が目立つ。廃村ではなく、奥には人が住んでいる。ごく普通の静かな山村である。

 標高600〜700mにしちゃ高原っぽい雰囲気が漂う森が続き、12:20、国道436分岐到着。螺関渓谷で既にかなり少なくなっていた車は、ほとんど国道186方面へ下ってゆくようだ。特に何の境でもないこの場所が国道186としては峠部分であり、松ノ木峠は国道436でこの先1kmちょっと。2022年の現状としては、国道186は、広島県から登って分岐を越えて広島県に降りて行く道となっている。こういう峠の構成にも、何か曰くがあるのかも知れない。まあ後の人生でわかるのかも知れない。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 広島県廿日市市吉和 国道434にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 森の狭間、そう広くない農地や牧草地を眺め、国道436は松の木峠へ向かってゆく。冠高原という看板が国道186分岐に建っていたとおり、標高700m台後半だというのにどこをどう見ても標高1000m以上の高原っぽい風景だ。車はやはりかなり少ない。静かな高原の風景が嬉しい。それでもそんな有り難いことが続くのかと少しの間疑わしく、やっとこういう道になったかと安心するまでは時間が掛かった。次回の中国地方訪問では、もう少し交通量を意識し、山陽方面に向かう場合は注意して計画しようとつくづく思った。広島に行こうと思えば、電車を使ったって行けるんだし、現に今回は最終日に新幹線で広島再訪を予定している。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 広島県廿日市市吉和 松の木峠 国道434にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 12:30、松の木峠到着。峠は広島・山口県境であり、山口県側は何と岩国市だ。山口県に広島が北側で接しているのも東京在住の私には斬新に思えるのに、それが海岸方面の岩国市というのが尚更だ。岩国市と言えば、海岸方面のイメージが強い。仙台市や静岡市同様、市町村合併で全国の巨大自治体は大変なことになっているのだと思う。そういえばこちら側も未だに海岸から続いた廿日市市だった。


 山口県に入るとともに、国道436は細道に変わり、急斜面の森を何段かのつづら折れで急降下していった。周囲の森は深く、ここまで登ってきた高原っぽい風景と比べ山間の雰囲気が濃厚だ。今日は陽差しが路上に伸びた広葉樹の梢から差し、木漏れ日の斑が染まってしまいそうな緑色だ。そして木陰部分が、ここまで望むべくもなかったほど涼しい。やっとツーリングの世界に帰って来れた。そして今日、ここまで来て良かったとつくづく思う。

 谷間に降りると森が開け、突然中国自動車道が現れた。標高はまだ640m。中国自動車道が中国山地山奥の、かなりの高所を走っていることを理解した。もう少し東の千代田で中国自動車道を見かけたのは昨日のことだ。 勢いよく下り続け、常国の集落では急斜面に田圃、そして民家が登場。急斜面の集落に、日本のチロルという形容詞をよくサイクリストは使う。ここもなかなかの急斜面集落であり、いい線を行っている。今は田植え作業も道端の草花も蛙もツバメもトンボも真っ盛り、春の賑わいが一杯だ。

 急斜面の棚田をすり抜け集落の生活道へ、国道436はかなり勢いよく下り続けてゆく。集落下手で道幅が拡がった後、周囲は農村から宇佐川の渓谷に移り、また道はぐっと狭くなった。広葉樹が側面の岩場や上から生い茂る、谷底渓谷のくねくね細道。松の木峠のつづら折れ、常国の生活道。この国道436には、400番台国道に求めるものが存分にある。

 所々で対岸の森の外に、建設中の国道436新道を見上げることができた。いずれこの国道436は、松の木峠からずっと拡幅新道に変わってしまうのかもしれない。今日こっちへ来て良かった。

 渓谷の細道が再び拡がってごく普通の国道に変わった。山口県に入ってから黄色いガードレールが目立つ。後で調べると、やはり山口県独特のもののようだ。しかし普通の国道にあまり用は無い。調子に乗って下り始めたら、道の途中から唐突にGPSトラックが分岐し、谷を渡って向こう岸を登り始めているではないか。はいはい旧道旧道とは思ったものの、登り返しはやや唐突だし旧道というには全く関係無い方向へ向かっているし、…。
 地形図を眺め直すと、100m程登り返した集落から隣の谷が始まっているのであった。思い出した。ここで別の谷間に移るんだった。隣の谷が100m高い台地上から始まっているので国道436から登り返す必要があり、それでもたかだか100m程度だと、プロフィールマップではあまり気にならない程度なのだった。
 そして隣の谷への分岐がいくつかある中、国道436からの分岐点が一番標高が高いこの道が、一番登り返しが少なかったはずだ。さっき羅漢高原への分岐で、羅漢高原経由だと登りがやや増えると思った理由がわからなかったことを思い出した。ここの登り返しを完全に忘れていたのである。


中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 山口県岩国市錦町宇佐郷 宇佐川にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 100m登り返すと言っても、落ちついてギヤを落として登れば、県道16という名の森の細道はやはり楽しい。つづら折れから最後に森が開けて台地に乗り上げ、中国自動車道をくぐり、13:35向峠に到着。向峠の峠は「たお」と読むようで、このあと山口県内の小さい峠で○○たお(文字は峠か垰)というのがいくつかあった。この向峠は集落の名前のようなのだが、谷間の最高地点でもあるのがややこしい。

 最高地点が集落の上手であり、道端のお宮の向こうに田圃が拡がっている。ここまでの森の中や急斜面の集落、渓谷など狭い谷間の雰囲気とは打って変わって、山々に囲まれた適度な拡がりの平地がのんびりと開放的だ。てれてれ田圃と集落の中を脚を進めてゆく。どこの田圃もなみなみと水が張られ、カエルの声が響き、田植え真っ最中だ。農家の庭先にはツツジを始め春の花が色とりどり、クマバチが空中で静止したりチョウがひらひらと賑やかだ。

 ガードレールも無い田圃の脇に脚を停め、自転車を置き、辺りを見回してみる。新緑の山が青々と向峠を囲んでいる。見渡す田圃の水面に空と山が写っていて、陽差しに照らされた新緑とともに鮮やかだ。真っ青な空に白い雲がゆっくり動いてゆき、トンビがぐるっと輪を描いてカラスに襲撃されている。やっとこういう風景の中に帰って来れた、とまた思った。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 山口県岩国市錦町宇佐郷 県道16にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 向峠の集落が終わると周囲は森になり、深谷川の文字どおりかなり深い谷を渡る。深谷川大橋から見下ろす渓谷の高さは100m近くあるかもしれない程で、その渓谷の高さと濃密な森のボリュームに息を呑む。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 島根県鹿足郡吉賀町 県道16 深谷大橋にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 深谷川を渡ると向こう側は島根県鹿足郡吉賀町。谷の森を過ぎて再び平地と集落が始まった。谷間の風景はどこか拡がりを感じさせ、向峠とは少し違う雰囲気である。或いはこれが山口県岩国市と島根県鹿足郡吉賀町の違いの所以かもしれない。

 稜線を回り込んだ田野原では、谷間は更に平地っぽく拡がった。谷間は山に囲まれてはいても、谷間の平地がどこか明るく広々と開放感がある。谷底が平らなのと、向峠からずっと下りが緩やかなのが、平地を印象付けているのかもしれない。こういう雰囲気は地図の絵面からは想像できていなかった。訪れてみないとわからないものである。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 島根県鹿足郡吉賀町田野原 県道16にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 この後はもう今日の宿の柿木まで、ほぼ一定に緩緩で下り続けるはずだ。つまり13時台にして今日の行程は、少なくとも登り下りについては早くも完全に一段落したのだった。ここに辿りつくために、午前中車の多い道を多少我慢したとも言える。登り標高差も、GPSの気圧高度計だとまだ900m台。RideWithGPSの過大な登り標高差1800mを警戒しすぎたかもしれない。とはいえ広島からだと他にめぼしい経路は無いので、道に車が多かったのは、やはり昨夜広島泊だったことが原因かもしれない。

 谷間は安定して広く、田圃と農家が切れること無く続き、やや広めの道の表情もあまり変わることが無い。脚を進めても風景があまり変わらないので、気分もあまり変わることなく淡々と下ってゆく。
 こういう安定した下り基調では、例え下りが僅かでも普段と別人の様にすいすい距離が稼げることがある。そのつもりだったが、今日はかなり向かい風が強く、脚を回してもやっと20km/hだ。やっぱり毎日全く問題が無いということは無いものだ。まあ、晴れてるだけ有り難いし、交通量が少ないのは好ましい。

 六日市は柿木までで一番まとまった規模の町だ。計画段階から、宿まで最後の休憩ポイントになると目を付けていたので、とりあえず何かあれば立ち寄ってはみようと、町外れから旧道に入ろうと思っていた。ちょうどその分岐で、道の駅六日市温泉ゆららが現れたので、そちらに脚を向けてみた。
 道の駅としては、併設のゴージャスそうな温浴施設も含め、立ち寄って何かするには不足の無い施設なのだろうと思う。しかし、わざわざ温浴施設の食堂に入ってまで何か食べるのも億劫な気がする。ということは、あまり腹は減っていないのだ。今日は補給計画が比較的上手くいっているのかもしれない。柿木まであと25kmだし、螺関渓谷に続きトイレだけ立寄り、そのまま出発することにした。
 後でわかったことだが、六日町の町の手前に、国鉄岩日線のはっきり残っている未成区間があるようだ。そしてこの道の駅は六日市駅の予定地だったようなのだ。智頭急行や石勝線並みの高規格線が計画されていたとのことなので、それと知っていれば、もう少しきょろきょろして、現代の風景の中にキハ187系か何かが高速でぶっ飛ばす様子を想像し、感慨に耽ったかもしれない。


 六日町の町の先からは、拡がった谷間の比較的通りやすそうな場所に裏道が続くので、積極的にそちらを選んである。六日町まで通ってきた県道16は、六日町で国道187と合流していた。こちらから眺める国道187には、多少車が増えた気がしないでもない。まあしかしそれでもまだまだ全然許容範囲だ。いずれ柿木までには裏道から何度か国道187に戻ることになるものの、全く問題無いだろう。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 島根県鹿足郡吉賀町沢田 津和野街道にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 こちらの細道は、田圃の1本道から山裾の集落へ、谷間の平地を国道187より多少大回りしながら進んでゆく。農家庭先の花や丁寧に摘まれた石垣、納屋に眺める農機具、農家から路上に生活感がはみ出すような里の雰囲気が大変楽しい。青空の下、開けた谷間の風景は陽差しで明るく、道が山影に入ると冷やっと涼しいのも何だか嬉しい。下り基調でもあるし残りきょりにしちゃあ時間はあるし、落ちついて脚を進めてゆく。ただ相変わらず向かい風が強いので、脚を停めて進むまま身を任せるという極楽状態にはならず、ややしんどいのがちょっとだけ残念だ。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 島根県鹿足郡吉賀町注連川 県道12にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 立戸から七日市へは、国道187が丘を軽く越え、曲がりくねる高津川をショートカットする。こちらは国道のひと登りを避け、高津川沿いの谷間を朝倉経由の大回りへ。トラックを描いた段階では、行程や国道の雰囲気を見て決めようとも思っていたが、行程的に問題無さそうなので、静かそうな大回りへ向かうことにした。こういう道は多分旧道なのだろうな。でも、旧道じゃなくても別に構わない。道が静かで落ち着けるのなら。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 島根県鹿足郡吉賀町大野原にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 高津川の川岸から田圃、山裾の集落を抜けて畑からまた民家の間へと、人里がずっと続いてゆく。六日町近くで山の裾を豪快に横切っていた中国自動車道は、いつの間にかどこぞの山間に消えていた。国道187から離れて静かになった谷間の山裾に、山の影が増えている。しかしそれでも陽はまだ冬の正午より全然高く、陽差しのニュアンスにも秋冬の弱々しさは全く無い。まだ15時台。もう宿まであと10km台だし、ますますかったるい向い風に焦ることは無いのだ。

 七日市の町を過ぎ、大野原へ高津川の谷間は再び狭くなり、裏道から戻った国道187は渓谷の道となった。相変わらず道幅は普通の国道なりに広いものの、車は少なく、赤くなり始めた日差しが川面に眩しく、こういう時に宿到着がもう時間の問題というのはなかなかのんびりとした贅沢な気分だ。

中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 島根県鹿足郡吉賀町柿木村大野原 津和野街道にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成
中国地方Tour22#4 2022/5/2(月) 広島→柿木 島根県鹿足郡吉賀町柿木 原田屋旅館前にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 国道186から離れ、高瀬川沿いにぐるっと丘を回り込み、16:10、柿木はらだ屋旅館着。
 谷間は背の低い山に囲まれ、こちらも向こう岸もやや狭い平地となっている。原田屋旅館の家屋はあまり大きくない落ちついた木造民家風であり、川沿い1本道の民家の並びに建っている。対岸の狭い平地には川岸に貼り付いて小さな町が続いている。山の背は低くても、川の上流方面には山の青い影が続いてゆき、地形図通りの山深さを十分に感じさせてくれている。
 旅の宿として、絵に描いたような素敵な場所である。最初は津和野に泊まろうと思っていたが、津和野の宿が取れず、ここにしたという経緯があった。しかし実際に訪れて、津和野が良かったんだけどなあと思う気は無くなった。今日の宿はここでなければならない。
 2階の部屋でも、裏手の田んぼから蛙の声が聞こえてきた。夕食も一品一品美味しい。男性向け便所が廊下に開放型で、のれんだけが仕切りとなっているのもいかにも昔ながらの宿である。どうせ今日はお客さんは私一人。
 今回の旅の印象を決めるような素敵な宿だ。山田洋次監督はこういう宿を好きだろうとも思う。2年を超えるコロナ禍の後、まだこんな宿に泊まれて旅ができているのだ。何だか嬉しい気分で、カエルの声を聞きながら灯りを消した。19時過ぎ、まだ外は少し明るい。

記 2022/6/8

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Last Update 2022/6/25
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