中国地方Tour22#4
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てれてれ田圃と集落の中を脚を進めてゆく。どこの田圃もなみなみと水が張られ、カエルの声が響き、田植え真っ最中だ。農家の庭先にはツツジを始め春の花が色とりどり、クマバチが空中で静止したりチョウがひらひらと賑やかだ。
ガードレールも無い田圃の脇に脚を停め、自転車を置き、辺りを見回してみる。
新緑の山が青々と向峠を囲んでいる。見渡す田圃の水面に空と山が写っていて、陽差しに照らされた新緑とともに鮮やかだ。真っ青な空に白い雲がゆっくり動いてゆき、トンビがぐるっと輪を描いてカラスに襲撃されている。やっとこういう風景の中に帰って来れた、とまた思った。
向峠の集落が終わると周囲は森になり、深谷川の文字どおりかなり深い谷を渡る。深谷川大橋から見下ろす渓谷の高さは100m近くあるかもしれない程で、その渓谷の高さと濃密な森のボリュームに息を呑む。
深谷川を渡ると向こう側は島根県鹿足郡吉賀町。谷の森を過ぎて再び平地と集落が始まった。
谷間の風景はどこか拡がりを感じさせ、向峠とは少し違う雰囲気である。或いはこれが山口県岩国市と島根県鹿足郡吉賀町の違いの所以かもしれない。
稜線を回り込んだ田野原では、谷間は更に平地っぽく拡がった。谷間は山に囲まれてはいても、谷間の平地がどこか明るく広々と開放感がある。谷底が平らなのと、向峠からずっと下りが緩やかなのが、平地を印象付けているのかもしれない。こういう雰囲気は地図の絵面からは想像できていなかった。訪れてみないとわからないものである。
この後はもう今日の宿の柿木まで、ほぼ一定に緩緩で下り続ける予定だ。つまり13時台にして今日の行程は、少なくとも登り下りについては早くも完全に一段落したのだった。ここに辿りつくために、午前中車の多い道を多少我慢したとも言える。登り標高差も、GPSの気圧高度計だとまだ900m台。RideWithGPSの過大な登り標高差1800mを警戒しすぎたかもしれない。とはいえ広島からだと他にめぼしい経路は無いので、道に車が多かったのは、やはり昨夜広島泊だったことが原因かもしれない。
谷間は安定して広く、田圃と農家が切れること無く続き、やや広めの道の表情もあまり変わることが無い。脚を進めても風景があまり変わらないので、気分もあまり変わることなく淡々と下ってゆく。
こういう安定した下り基調では、例え下りが僅かでも普段と別人の様にすいすい距離が稼げることがある。そのつもりだったが、今日はかなり向かい風が強く、脚を回してもやっと20km/hだ。やっぱり毎日全く問題が無いということは無いものだ。まあ、晴れてるだけ有り難いし、交通量が少ないのは好ましい。
六日市は柿木までで一番まとまった規模の町だ。計画段階から、宿まで最後の休憩ポイントになると目を付けていたので、とりあえず何かあれば立ち寄ってはみようと、町外れから旧道に入ろうと思っていた。ちょうどその分岐で、道の駅六日市温泉ゆららが現れたので、そちらに脚を向けてみた。
道の駅としては、併設のゴージャスそうな温浴施設も含め、立ち寄って何かするには不足の無い施設なのだろうと思う。しかし、わざわざ温浴施設の食堂に入ってまで何か食べるのも億劫な気がする。ということは、あまり腹は減っていないのだ。今日は補給計画が比較的上手くいっているのかもしれない。柿木まであと25kmだし、螺関渓谷に続きトイレだけ立寄り、そのまま出発することにした。
後でわかったことだが、六日町の町の手前に、国鉄岩日線のはっきり残っている未成区間があるようだ。そしてこの道の駅は六日市駅の予定地だったようなのだ。智頭急行や石勝線並みの高規格線が計画されていたとのことなので、それと知っていれば、もう少しきょろきょろして、現代の風景の中にキハ187系か何かが高速でぶっ飛ばす様子を想像し、感慨に耽ったかもしれない。
記 2022/6/8