五島列島Tour19#8
2019/5/4(土)
福江島3 玉之浦→三井楽-1

玉之浦→向小浦→大宝 (以上#8福江島3-1)
(以下#8福江島3-2) →黒瀬 (以上#8福江島3-2)
(以下#8福江島3-3) →富江 (以上#8福江島3-3)
(以下#8福江島3-4) →荒川 (以上#8福江島3-4)
(以下#8福江島3-5) →貝津
(以下#8福江島3-5) →柏
(以下#8福江島3-5) →八ノ川→三井楽
103km ルートラボ

赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路と航路 ルートラボ

 5時過ぎになってやっと空が明るくなってきた。今日も雲一つない晴れだ。部屋からは、正面の玉之浦漁港に、釣り人がいそいそと移動したり集散したりしているのが見えた。漁船は停泊している船が多いものの、時々エンジン音を鳴らして静かな湾に波を残し、どこかへ向かって行く船もあった。港の賑わいに誘われて外に出てみると、やや肌寒い。昨日と同じく、7時頃には行動可能な気温まで上がるのかもしれない。
 今日は福江島南西部の玉之浦から北西部の三井楽へ向かう、1日福江島のコースである。今回、1日船又は飛行機に乗らない予定の日というのは意外に少ない。そのうち3日目は雨の短縮行程、4日目は終日運休になってしまった。行程もいよいよ後半まっただ中という日の朝を、晴天の静かな漁港で迎えることができている。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 玉之浦港 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 朝食を納豆と卵と干物でたっぷりいただいた後、7:30「民宿たまのうら」発。
 まずは昨日行かなかった島山島へ行っておく。玉之浦半島と島山島の間の海は岸の形が入り組んでいて、狭いところが何カ所かあるため、海に面した淡水湖のようですらある。また、島山島の集落向小浦の住所は、福江島側と同じ五島市玉之浦であり、別の島というより海に面した淡水湖の両端であるようにも見える。しかし一応というか、福江島から別の島に訪問しておく意義は大きい。しかしこれで断崖を100m下るとかなら、躊躇無く省略するかもしれないんだが。
 などと朝の風とは無関係に妄想葛藤しながらぐるっと集落の北岸を回りこみ、玉之浦大橋へ。玉之浦大橋の手前には岸辺の丘に登っていく神社があった。小さい神社とは言え鳥居は堂々たるものであり、この土地に住み続けてきた人々にとって、生業の漁業にも、唐への航路の経由地としても、海の神様をお迎えする場所は大切なもの立ったことが伺える。
 玉之浦の南にも井持浦教会がある。五島列島と言えば教会やキリシタンが有名だ。しかし現地では、こういう厳しい地形や海に向き合ってきた人々の教会と神社が、隣り合って共存してきたこともとても大切で特徴があることのように、この数日間で思えてきている。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 玉之浦大橋 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 島山島の集落は、玉之浦大橋を渡った岸辺のほんの2〜300mの範囲にしか無い。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 島山島向小浦 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 内側に向かう南へ一応行ってみて玉之浦港の賑わいを対岸から眺めてから、東シナ海を望む北岸へ。こちらは民家が途絶えた先が防波堤で停まっていて、玉之浦半島と島山島に挟まれた狭い隙間から、沖へ続く東シナ海が見える。二つの岬の間の東シナ海の明るさには果てしない奥行が感じられ、先人はあんな所に船で見えない陸地を目指して行ったのだ、ということを考えさせられる。この海を眺めると、遣唐使という言葉の感じ方も大分変わると思う。考えることが多いのは、やはり人の営みが場所や地形に現れているからかもしれない。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 玉之浦大橋 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 玉之浦大橋を再び引き返し、7:55「民宿たまのうら」前通過。昨日通った県道50を井持浦、玉之浦トンネル、淡々と昨日国道384から分岐した大宝へ。
 大宝の漁港にも立ち寄ってもいいかなと思っていたものの、大宝ではついそのまま、昨日の反時計回り継続で国道384の富江方面へ向かう。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町大宝 国道384 大宝港 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 分岐からはすぐに登りが始まった。富江まで道は一応国道384となっているが、林道のような幅と線形と斜度の、まともに3回登って下ってを繰り返す道なのを事前調査済みだ。ルートラボのプロフィールマップは山が3つ、100m〜180mだったかな。充分時間は見込んでいるので、今日までの行程と同じく、落ちついて進めばいい。
 福江から玉之浦方面に向かう場合、昨日通った内陸経由より海岸経由のこちらの方が距離・獲得標高・斜度とも厳しい。民宿たまのうらのロード乗りの方もこちらを通ってらしく「あれキツかったね〜」と仰っていた。
 山間を巻いてゆく道の外側には、木々の間に青い海がちらちら見えた。時々見晴らしが開け、振り返り気味に遠く高い岸壁も見えた。昨日大瀬展望台から眺めた赤瀬の反対側だ。朝からそこそこ時間が経っているだけあり、あの岬の反対側、こんなに遠くに来れているのだ、と実感することができた。しかし遠くではあっても距離感なりに、岸の明るくもざらっと質感はリアルで明瞭だ。波のしぶきを思わせる海面近くの霞みにも、潮の香りや冷やっとした海の湿気を思い出す。思わず脚が停まる、というよりこれを口実にちょっと脚を停めた。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市富江町長峰 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 相変わらず、道は真下が見えない切り立った斜面に張り付いているのだった。せいぜい標高100mちょっとでもガードレールがあっても下が海岸じゃなくても、道から海に落ちる怖さをひしひしと感じてしまう。奥武蔵とかではあまり経験したことが無い怖さであり、頸城の深坂峠に近いかもしれない。

 最初の峠は標高150m。下り始めるとどんどん下りはじめ、意外とすぐに太田の集落を見渡す谷に出た。急斜面から狭い谷間に展開する、落ちついた集落を谷底まで下り、民家の軒先を掠めて谷の奥をくるっと回り込むと、すぐ次の90mが始まった。きりきりっとした斜度の登りではあるものの、坂なんてもう毎日の事である。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市富江町長峰 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 峠部分を越える手前、海側の前方結構近くに、霞んで半ばシルエットのような富江半島と、漁村らしき海岸部の賑わいが見えてきた。計画時には富江を初日に訪れる行程を、だいぶ後まで組んでいた。いよいよ眼前に富江の半島が現れ、感慨深い。

 次の谷間の琴石では、狭い谷間を横断する鯉幟が見事だ。子供がいる家が懸けたのだろう。今回、五島列島のどの島でも、見応えある鯉幟を見かける。その多くには子供の名前が描かれていて、大変微笑ましく、また子供を大切にする親御さんやじいじばあばの愛が微笑ましい。昨日中通島で見かけた、晴れの日の朝に釣りを家族総出で楽しむ漁村を思い出した。例によって谷底に下ってバウンドするように次の190m登りへ。
 登り途中で、谷を折返して向こう側の尾根を巻いてゆく道が見えた。谷が狭いためけっこう見上げる位置関係に高度差は感じるものの、まああれ一発だと思えばカワイイものである。
 もう少し斜面を巻いて到達した最後の峠には、やや放置気味のバス停があった。後で調べるとバス路線は2年ぐらい前に乗合タクシーに転換されたようだった。バス停の看板には「牧場入口」と表示されていたので、もしかしたら山中のどこかに放牧場があるのかもしれない。多少なりとも10%を登ってきて峠を越えた気になっているこちらとしては、なんだかがくっとくるバス停名称ではある。
 下りもくねくねの急斜度で、丸子の谷間、小さい丘の後で海岸に着陸。黒瀬の漁村では、国道とは思えない軒先細道となった。国道384、大宝・黒瀬間は細道国道合格である。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 黒瀬からは富江半島、平地の畑を反時計方向に回る区間となる。海岸から少し内側の農村に続く道は、県道でもない市道級だが、比較的直線気味で車の通行には十分な幅の、ごく普通の今風車道である。それにしても最初は内海の湾沿い、次は山中の激坂無人細道、そして今は里の道。今日だけじゃなく、雰囲気が短い間にがらっと変わるのが島サイクリングの特徴だと思った。
 交通量は多くはないものの、やや幅広の道にはすぐ厭きた。路上に居辛く感じられてきた頃、GPS画面のトラックは唐突に脇道へ分岐してくれた。我ながらわかってるね。

 山下の集落内側生活道に面した地元スーパーみたいな商店で、とりあえず補給物資を購入しておく。とはいえ例によってあまり差し迫った必要性は無い。ネタも缶コーヒーに疲労時ドーピング用のチョコ程度のものだ。むしろこういうお店で地元の買い物お婆さんを眺めるのが楽しかったりする。
 集落の中の細道をくねくね繋ぎ、やがて道は畑の中へ。岳、山崎と南向きから東向きへとぼとぼと畑に道が続いてゆく。こういうあまり目印の無い細道でしょっちゅう立ち止まって位置を確認する必要が無いのが、GPSトラック頼りのツーリングの良いところだと思う。
 山崎から女亀、土取へ向かう間に、道の向きは東から北向きへ。富江半島周りも後半だ。畑の中に民家が次第に増え、丘の上から市街地へ下り、民家の並びが急に賑やかになり、街中の国道384の交差点に到着。11:05、富江着。
 富江は民家がぎゅっと密集した市街地である。福江から近いだけあり、交差点近くの雰囲気はいかにも町中っぽい。道幅もごく普通の車道幅で交通量も多い。さっき富江半島周回へ分岐した黒瀬から、実は数百mしか離れていないのに、一体どうしちゃったのかという程だ。
 後で地図を見ると、少し先が国道384の終点だった。今回福江島と中通島で国道384を意外に通っているので、折角だから表敬訪問しておけば良かったと思う。そういえば、中通島でも有川、奈良尾とも国道384の終端近くを通っているのに、その時には終端を意識していない。みんな後の祭りである。

 いつの間にかお昼近くになっていて、しかも今日はけっこう暑い。国道脇の店でソフトを仕入れて次に進むことにする。


 山手で国道384から林道の、150mちょっとの峠へ。谷間に続くのは、富江半島の平地と違う山裾の農村である。谷間に拡がる田圃、麦畑がどんどん狭くなり、森の中では木漏れ日の道に蝶やトンボがひらひらすいすい。きりきりっと高度を上げて最高地点を越え、向こうの谷間を下ってゆく。景色の展開が早く、周りがころころ変わってゆく。
 谷が急に深くなってゆく、と思っている内に上の平で県道164に合流。渓谷という程でもないものの、地形図から読めた谷の幅からは想像しにくい上下ボリュームの、なかなかの谷だ。
 コースはこのまま県道164を海岸まで数km下り、昨日立ち寄った商店がある中須の北側で、国道384に合流する予定だ。しかし、中須から荒川は昨日通っている。風景自体は日本の国道100選に入るのが納得の、魅力的な海岸線ではあった。しかしさっき、県道164の1本北から昨日国道384に合流した荒川に下る、やや細目っぽい道を発見していた。荒川からは昨日とは逆に北へ向かう形になり、重複区間が一応無くなる。コースの纏め方としてこの方がキレイなような気がした。最高地点はせいぜい180m。1/5万地形図上の細道の現状がやや心配ではあるものの、熊はいないし、やばそうになってきたら引き返せばいい。

 幾久山から細道の分岐へ、狙い定めて入り込む。集落外側に向かい、民家の脇から畑の間、茂みから山裾へと幅2mぐらいの細道が続いたものの、舗装路面はダートにすら変わらない。ずっと車の通行跡が認められ、安心して辿ることができた。
 180m弱ぐらいの峠をあっさり越え、山間を下って谷間に降り、細道のまま谷底の川に沿って更に進んだ。谷間には全く人気が無かったものの、間もなく向こう岸に昨日通った県道27が下って来て前方の山が無くなり、角を曲がると唐突に海岸の荒川に到着。山中から一気に海岸に出る道だった。昨日はここで、またこの川を下ってくるとは思っていなかったな。

 黄砂の影響か、空がやや霞み始めている。昨日澄んで鮮やかな青緑だった荒川の入り江が、何だかやや緑っぽくどろんとした色に見える。


 13:00、荒川発。矢ノ口、白泊、国道384は入り組んだ岩場の裾を海岸沿いに北上してゆく。地形図に、計画時には気付いていなかった、丹那という名前の集落を見つけた。ならば集落の向こうのやや大きなトンネルは丹那トンネルなのかもしれない、と思った。「丹那トンネル」という名前は、東海道本線熱海・函南間に昭和9年開通した、大変有名な鉄道トンネルの名前である。掘削の記録が本になっていて、土木技術史上というより昭和の歴史として知られていると言っていい。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成
五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町丹那 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 丹那手前のやや短いトンネルは「丹那岬トンネル」だった。そうだろうな、これだけ短いトンネルに丹那トンネルの名は着けられないよ。と思っていると、自販機すら無い丹那の向こう側、60mまで登って現れた延長600mのトンネルが、やはり天下の「丹那トンネル」だった。丹那トンネルをおれは自転車で通ったぞ、と何だか嬉しい。

 頓泊の短い谷間では、入り江一番奥の白い砂浜がちらっと見えた。そろそろ国道384沿いに砂浜が続く区間である。あまり深いことを考えずに計画時のイメージに従い、とりあえず立ち寄ってみることにした。まだ13時台、時間はあり余っている。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町頓泊 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 砂浜沿いに湾の外に向かう間、入り江一番外側に頓泊海水浴場のレストハウスが見えていた。軒の深い、いかにも何か食べられそうな雰囲気のテラスは、一方で小汚いおやじツーリストが訪れてもいいのかというようなリゾートの雰囲気を、1km手前から漂わせていた。しかし近づいてみると、その印象は単純に屋根・柱の細い木造部材やウッドデッキによる開放感であり、そもそもレストハウスの売店が営業休止中で、トイレだけが利用可能だった。静かで落ちついた雰囲気も単純に人が少ないだけの話で、何人かの訪問客はやや手持ち無沙汰そうにその辺をぶらついていた。まあこの季節では仕方無いことかもしれない。
 小汚いおやじツーリストとしては、折角人がいないので、この際レストハウスのウッドデッキに自転車を停めさせていただく。波打ち際の、靴にあまり海の砂が付かないぐらいの場所まで行ってみると、海面が近いせいか潮の濃厚な香りが感じられた。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市玉之浦町頓泊 頓泊海水浴場 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 足下の明るく透明な砂浜の海中に、メダカのような小さい魚が群れている。もちろんここは海なのでメダカじゃない。
 辺りを見回してみる。白い砂浜、青い海が鮮やかだが、海の色がどこか鮮やかではない。さっきより更に空に薄雲が拡がっていて、日差しはやや陰り始めているた。太陽の周りに虹の輪ができているのに気が付いた。

 次の砂浜「高浜海水浴場」へも立ち寄ってみた。こちらでは渚が国道384沿いで、休憩施設は国道384から近く、訪問客も多い。しかし休憩施設が営業していないのは頓泊と同じだった。まあ自販機があれば小汚い親父ツーリストは最低限 事足りる。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市三井楽町高浜 国道384 高浜海水浴場 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 しかし一方、少し手前で道端に現れた「道の駅」の看板を見た途端、条件反射で腹が減り始めたような気がし始めたのには参った。道の駅まで何kmかは書いていないのに。ちくしょう、近くにあるんだろうな。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成
五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市三井楽町高浜 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 旧道らしい細道で岬を回り込んだ次の港町貝津で、周囲の切り立った岩場の海岸と内陸の低山は、がらっと変わって三井楽半島の台地となる。
 三井楽半島は、中央に聳える標高182mの京ノ岳を中心にして、海岸へ向かって下る裾野の台地に丸い形の畑や田んぼ「円畑」がびっしりランダムパターンで拡がっている。「空から日本を見てみよう+」では、泡のように小さく丸い畑が拡がる特徴的な空撮と共に「牛タンが一杯落ちてます」と紹介されていた。個性的で楽しい農村風景を見ることができると思ったので、まずやや外側を時計回り、西側で折り返して内側の山裾をもう1周、計2周するコースを描いて楽しみにしていた。2周のんびり廻って時間が足りるかやや心配ではあったものの、今まだ14時台。大丈夫かもしれない。まあ、とりあえず1周目へ。

 貝津で漁港立寄りを省略したため、序盤で道をちょっと間違えたものの、集落から畑の中をアドリブで修正してゆく。ついさっきまでの絶壁際や山中の1本道とは全く違う気楽さが楽しい。こういう振幅が楽しい今日の行程だ。
 農村に建つ貝津教会を見学し、三井楽半島南の山裾、森と畑と農家集落の境界部を北東、半島の内陸方面へ。桐ノ木で折り返してちょっとだけ経由した国道384では、「航空自衛隊福江島着陸場」が現れた。計画時に地形図や空撮で眺めて、どんな飛行場か楽しみだったものの、現地には簡素な標識塔以外に建物や飛行機関係の機器は一切無く、フェンスで細長い滑走路が囲ってあるだけの大変あっさりした場所だった。名前が飛行場ではなく着陸場である所以だろう。
 後で知ったが実はこの時、道の駅まで数百mの場所にいたのだった。竹山から桐ノ木まで裏道を経由したため、国道に建つ道の駅関係の標識を見落としたのだろう。

 GPSトラックに沿って国道384から北へ入り込むと、計画時にまっすぐだと思っていた道の線形は、丸く区切られた円畑や田んぼ、牧草地の中を緩く細かくカーブしていた。畦や木立が囲む円畑が細胞のように並び、その間を細道は細胞壁のように、緩やかに右へ左へ曲がりながら畦や木立の中に続いていた。道端の木立が切れると円畑の外周は畦や茂みとなり、道の反対側が木立となる。こうして円畑の空間が畑単位で分割され、細道が次から次へと小さい空間を渡り歩いてゆくのだった。それは空撮で見た、おびただしい丸い畑がびっしり集まる面的な拡がりとは、全く別の味わいである。
 また、棚田のような展望が拡がるのかとも想像していた。現地ではそういう展望よりも、小さく居心地がいい円畑の空間感覚が楽しい。空撮と地面を辿る時の風景は全く違うということがよくわかった。しかしこれはこれで、大変特徴的で、印象に残る訪問だった。

 浜窄からは、県道233へ。波砂間、丑ノ浦、塩水、渕ノ元と小さな集落を繋いだつもりで選んだ道は、ここまで円畑を辿ってきた道よりやや広めとなり、いかにも集落間の生活基幹道そのものである。とはいえ、道の表情はのんびりとあまり県道っぽくなく、やはり楽しい道だ。基本的には海岸と京ノ岳を除く三井楽半島全域が円畑農村地帯であり、畑の中へ向かえば、そこには円畑が続いているはずだ。しかし却って、さっきまでの畑の細道が10数km続くよりも、変化があって良かったかもしれない。

 渕ノ元からは丘陵を乗りこえ、コースは三井楽半島最北の漁村、柏へ。確か半島最北集落への表敬訪問のつもりでトラックを描いたような気がする。


 柏はやはり陸地の突端部、それなりに最果て感が溢れる漁港だった。海上にはややシルエット気味に姫島が浮かんでいた。薄く拡がっていた雲が普通に濃くなり、海の色もやや重いものの、再び海を意識させる風景である。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 一旦内陸の畑を経由して高崎で再び海岸へ。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市三井楽町高崎 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市三井楽町高崎 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 観光案内の出ている高崎鼻で少し脚を停めてみた。この辺の海岸も、五島列島の各島でよく見かける不自然なほど真っ黒くやや大きめの石浜である。あちこちで余りに漂着ゴミを見かけたために、不自然に黒い石も、近年のタンカー沈没か何かで重油が付着したのかと心配していた。そこで岩場の海岸で何かを採っていたおばさんに尋ねてみると、黒いのは火山岩の黒さであり、むしろ所々白っぽい部分は潮に晒されたためとのことだった。少し安心できた。ただ、黒い石の中に漂着ゴミが目立つことは変わらない。
 高崎鼻を回って海岸から千々見ノ花へ続く道では、白い砂浜がところどころで現れ、海も澄んだ青緑で大変美しいのだが、黒い石の海岸ではやはり漂着ゴミが目立ち、何かやはり済まないような申し訳ないような気持ちは残った。岸辺のやや放置気味の茂み、曇り気味の空と共に、気分があまり落ち着かない。

五島列島Tour19#8 2019/5/4(土) 福江島-3 玉之浦郷→三井楽郷 長崎県五島市三井楽町浜ノ畔 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 後網から八ノ川への内陸の畑でやっと人の営みの雰囲気にほっとして、やはり自分は里の風景が好きなのだ、と思った。

 浜ノ畔辺りから、道は畑の中を登り始めた。ちょうどGPSトラックの画面に三井楽YHの文字が出て、三井楽半島2周目のGPSトラックの交叉点が登場。そろそろ2周目へ乗り換えるタイミングだ。まだ15時台、2周目も行こう。
 京ノ岳の裾から中腹へ、集落上手ぐらいのつもりで描いていたトラックの実態は、むしろ森の中主体の林道だった。さすがに拾いやすい道だっただけあり、林道は京ヶ岳一周道路という通称があるようで、そんなような看板が時々みられた。京ノ岳の外周を反時計回り、しばらくやや緩めに登りが続いた。森は道を覆ったり、或いは海側が開けて時々集落上手の畑を掠めたり、若町島で通った道のように時々東シナ海や海上の姫島が見えたりして、退屈しない。時々京ノ岳を直登で登ってゆく道が直行したものの。もう今日も宿が近いので、たかだか100m足らずを登って頂上に行こうとも思わない。
 岳では道が集落上手を通過。その辺りで最高地点も通過し、京ヶ岳一周道路は再び森の中をどんどん下り始めた。最初は森の道かと思ったものの、やはり里に接しつつ一番山裾を周回する道である。
 再び浜ノ畔に戻り、そのまま畑の中から三井楽の港町へ。小綺麗な民家が多く、生活感溢れる美しい町並みは流石元三井楽町中心部である。
 三井楽半島2周はここで終わりとなる。エリア自体は狭く、高度の震幅も狭く、曇り始めた天気のせいもあり、全体的にやはり空撮で思い描いていたイメージとは異なる風景が展開したものの、ころころ景色が変わる楽しいコースだった。私的には、こういう走り方をあまり移動系宿泊ツーリングでしたことが無い。

 もう宿まで数百m。この期に及んで、やっと懸案の道の駅「遣唐使ふるさと館」が行く手に現れた。
 今更とは思ったものの、一方で引っ込みが付かなくて、つい立ち寄ってみた。食堂は既に営業時間が終わっていたので、勢いで売店でソフトとチョコだけ買い、ソフトをむしゃむしゃ食べてみる。食堂は15時まで営業していたようなので、さっき桐の木からほんの1kmぐらい下るだけで、何か食べられたのだ。やや残念だったものの、こちらがコンビニツーリングに慣れすぎているのだとも思う。

 16:50、民宿西光荘着。案内された部屋の名前は「京ノ嶽」。さっきまでぐるっと回っていた、三井楽のどこからも眺められる低山の佇まいを思い出す。或いは、京ノ岳一周道路から宿到着時刻を電話したので、女将さんが気を回して下さったのかもしれない。「夕陽は見ないんですか」と尋ねられたものの、今日は空が霞んでいるし、今は網風呂の方が有り難い。
 夕食は五島の名産が集められ、大変美味しかった。食器もイメージが揃っていて、野菜はやや少なかったものの、今回の旅程中一番豪華な宿の食事だったかもしれない。私の場合、通常メニューに加え、オプションのまぐろ大トロと鯛の刺身、五島牛ヒレステーキが付いた。中でも五島牛はここまで食べたものと同じく、霜降りのようにとろける、しかも油臭みの無い極上の肉だった。五島牛ってもれなく美味しいのかもしれない、と思わせるに十分なものだった。

記 2019/6/16

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Last Update 2019/6/30
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