湯ノ又→牛廻越
(以上#3-1)
(以下#3-2)
→蕨生
(以上#3-2)
(以下#3-3)
→滝→小川
(以上#3-3)
(以下#3-4)
→上葛川
(以上#3-4)
(以下#3-5)
→東野トンネル→オトノリ
(以上#3-5)
(以下#3-6)
→宮井→日足→小口
105km
ルートラボ
目覚めてももう少し布団の中でうとうとしてから、タイミリミットの5:30に布団から出ることにした。ちょっと肌寒いのだ。さすがは標高400mだけのことはある。
でもちゃんと5時半前には起きて、フリースを着て昨日のメモやら今日の行程チェックやらを遂行してゆく。日高川の渓谷はまだ青い影の中だが、空は真っ青で朝日が一杯なのが、影の中からでもよくわかる。
今日の予定コースは国道425牛廻越・上葛川から瀞峡の再訪、終着は新宮市熊野川町の小口「新宮市小口自然の家」だ。
龍神側から牛廻越を越えるのは今日が初めてだ。逆方向からは2006年に訪れている。その時は十津川発13時。牛廻越を越えた後は、紀伊田辺の宿に向かう必要もあったため、急いでもあまり早く登れない私が精一杯急ぐという、まるで国鉄末期東海道山陽のEF62みたいに悲惨な詰め込み行程となってしまった。その結果、昨日の引牛越前回訪問時と同じく、山深いこの道の風景に感動はしたものの、具体的に記憶に残ったのはとにかく想定以上に時間が掛かるということだけだった。
今日は一応午前中丸ごと牛廻越に費やせるような計画にして、満を持して牛廻越に向かいたい。まあ計画自体はかなり大雑把なのだが、天気予報は1日じゅう晴れ。何度も通行止めや現地での雨天に阻まれているこの道の再訪に、絶好のチャンスだ。
朝食は無理を言って7:00に準備していただいた。やはり色とりどりでボリュームたっぷり、植物主体健康系で美味しい。こういう食事をしっかり食べ、朝なるべく早く出発することが、ツーリングの1日には大変重要なのだ。お弁当のおにぎりについて女将さんから 「高菜入りご飯を高菜で巻いたおにぎりでもいいか」 とお申し出いただいた。美味しそうだし、地元の食べ方らしい。喜んでお願いするものの、1個だけにしていただく。朝食をしっかり食べたから多分お昼まで腹は保つだろう。万が一午前中に腹が減ってしまっておにぎりを食べても、昨日飲食店を見かけた十津川温泉の辺りを今日もお昼前後に通る予定なので、更に何か食べることができるだろう。それに、バームクーヘンだってまだ3つもあるのだ。あまり過剰に荷物を持ちすぎる必要は無いし、バームクーヘンをもうひとつぐらい食べてしまいたいところだ。そうすれば残り2日でバームクーヘンも残り2つになる。
表に出ると、渓谷の山肌にはもう日差しが当たり始めていたものの、谷底はまだ影の中だった。空気がきりっと寒い。レッグウォーマーは要らなさそうだが、フリースを着込んでおく。7:50、湯ノ又「民宿龍神」発。良い宿だった。
宿の隣がこれから向かう国道425が通る小又川を渡る橋で、橋を渡ったその袂から国道425へ。あまりにあっけなく、今日最初のメインイベント開始である。
深くくねくね続く谷間の道は、最初は拡幅済み。
1km強ぐらいで津越の民家の小さい塊とともに段階的に細くなり、最後の集落上瀬から森区間に入るとともに、幅も路面もすっかり国道425そのものになった。
この段階で、湯ノ又を出てまだ2.5km。そしてもう牛廻越の向こうまで集落は無い。
装いをすっかり林道っぽく変え、国道425は小又川の谷底に続く。渓谷の谷間は狭く、山側に切り立った岩が続く。岩肌はごつごつ露出し、吹付補強箇所があまりみられない。路面はやや荒れ気味で細かく砕けた鋭い岩が多く、急カーブも頻繁だ。
狭く深い渓谷の道である一方、路面と小又川は近い位置にある。広葉樹の梢が覆う木漏れ日の明るい道では、日なたの斑と、木々の間にきらきら輝く川面がまぶしく、時々現れる鬱蒼とした杉の森も程良いアクセントだ。登り斜度はかなり緩い。登るというより、そろそろとのんびり辿るのがとても楽しい道だ。渓谷の酷道というより「岸辺の細道」という言葉が自然と頭に浮かぶ居心地の良さが、同じ国道425でも一昨日昨日の道に比べて特徴的だ。と言ってもやはり道幅は狭く、しょっちゅう立っている「転落事故多発」の看板通り、この道に車でやって来るのは自殺行為なのだろう。狭い道幅で細かいカーブの出会い頭などはかなり難儀しそうだ。オートバイでもあまりパワーは出せないような気がする。そう考えると、この酷道を訪れるのに自転車は一番便利なのではないか。
今日の私はタイヤを切らないように注意する必要もあるため、たとえ平坦に近い斜度であっても速度は10km台中ば前後。時間の経過に対して位置は全然進んでいない。でも、そういうことをとても楽しめている。
こんなに素敵な道を焦って通った2006年の自分が、かわいそうになってきた。「緑に染まりそう」という言葉以外に具体的な風景を全く覚えていないのだ。緑に染まりそうという意味ではまったく相違無い。しかし、我ながらもっと感動することがあっただろうと思う。そう考えると、今日自分が遅いのは悪いことではないという気もする。ある意味、これがベテランツーリストの弁証法というものなのかもしれない。自分がこんなことを考えるようになるとは。
道が坂をぐいぐい登り始めた。川縁だった国道425の外側は深い森に変わっていて、木々の間には何となく明るい光が伺えた。ちらちら見えるその距離感覚や断片の脳内合成により、それが谷間や周辺の山だということが想像でき、谷底から離陸を始めている状況は何となくわかった。
地形図で見ると、道は山肌というより入り組んだ急斜面をトラバースで高度を上げている。300mを超えて一旦斜度が緩くなり、450mを超えるとまた斜度が上がった。ところどころでは斜度が一段落し、妙に平坦に近い区間がある。進んでも進んでも実際にはあまり登れていないじれったさは、1本南側を通っている引牛越とよく似ている。
谷底区間の岸辺の道とは対照的に、木立はなかなか途切れることが無い。標高600m手前からやっと正面の木立の間に、稜線が落ち込んだ場所が見えてきた。確かあれが牛廻越だ。地形図上で峠の場所と周囲の地形を確認しておく。
峠手前、最後の山肌一巡りで高度を更に上げる場所で、やっと峠部分が見えてきた。ひと登りの高度差と、逆光でシルエットになっている周囲の森を纏い、なかなか山深い風格が感じられる。さすがに「牛を峠の手前で帰した」かつての習わしがそのまま峠の名前となっているだけの使い込まれた道、いや、道とともにある山の雰囲気、ということなのかもしれない。いい峠だ。
9:25、牛廻越着。鉈の刃みたいな岩を掘り割りでくるっと向こう側へ回り込む峠部分の形態、峠そのものがあまり他では見かけない狭さ、峠の場所そのものに取り付く島が全く無いこと、特徴的な多くの部分が引牛越とよく似ている。位置的にも牛廻り山を挟んで南北に位置し、名前も「牛」の文字が共通している。ペアで把握しておきたい、紀伊半島のツーリング的名所の一つだと思う。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 牛廻越 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
十津川側の下り始めは、道の外側の木が途絶えるほど山肌の岩場が切り立っている。道の外側が開けて谷底と一体の空間となり、ただでさえ自分がいる高度をひしひし感じるのに、そんな岩肌をきりもみ急降下してゆくのは荒れ気味路面の細道なのだ。気持ち的に絶えられず、峠から少し下った見晴らしの良い日なたで少し脚を停めてみる。
肌に熱さが感じられるほど日差しが厳しい。木陰が涼しかった龍神村側の登りを思い出す。詳細を楽しめた今回の訪問でも、前回と同じ「森の道」という印象が強く残った。ど晴天の朝一番、最高の裏の返し方だったと思う。これは昨日から続く下北山の池神社の御利益かもしれず、池神社にはツーリングの神様がお出でだったのかもしれない。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 牛廻越 十津川村側下り 牛廻越→迫西川 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
見下ろす谷間に改めて高所恐怖を感じたり、周りの山肌の新緑と青空に眺め入ったり。まだ9時40分。こんなところで出発から2時間半強もかかっているものの、この分なら11時の国道168蕨生合流は楽勝だろう。などとこの時は思っていた。
杉の森の中、岩場や山肌に貼り付いた道を200mほど一下りすると民家が登場。迫西川だ。この強烈な山間の空中集落は、さすがに12年前から印象深く記憶に残っている。
学校跡の集会場に石垣、道幅に軒を寄せる農家、畑、庭先のツツジ等々、山中に突如拡がる生活感。「チロルのような」という形容がぴったりの営みに再び脚が停まる。この段階でもう10時前。牛廻越から国道168蕨生まで28kmなのに、30分でまだ4kmしか下っていない。さっき楽勝だと思った11時まで、あと1時間。これから引牛越・牛廻越の両方を合わせた中で一番くねくねしている区間なのだ。もしかしたら、国道168合流は12時近くになってしまうかもしれないと思い始めた。それぐらいおれにもわかるぞ。
十津川側の谷間には小坪瀬・小山手・西中と小集落が断続する大字が続く。
西川の谷底と追いかけっこしながら、国道425は少しづつ高度を下げてゆく。目立ったアップダウンなど無く緩い下り基調が続くため、脚をあまり動かさずに下り続けることはできる。
しかし相変わらず道が細く、谷間がくねくねと曲がりくねっているため、下り経済運転可能とは言え、速度は速くても20km前半止まりでペースが全然上がらない。
そんなこと今日までの国道425では当たり前なのだが、この十津川側区間はそれが特に際立っている。
さっき想定した11時で、国道168までまだ7km手前の玉垣内を通過。
集落、というより民家があまり絶えないのは、上瀬から牛廻越まで12km完全に無人の谷間が続いた龍神側、そして場所的には1本南側の昨日通った県道760に比べて大きな特徴だ。小集落と小集落の間には森が続くものの、全体として集落が連続しているようにも見え、もう国道168の近くまで下りてきてしまっているような気分になる。そんなことも時間が掛かるという気分の一因かもしれない。牛廻越、本当に手強いのは下りなんじゃあないかとも思わせられる。
でも、実は12時まで掛かっても、今日の予定にはあまり影響は無いぐらい余裕はあるのだ。焦る必要は全く無い。
西川の川原と谷間の空間全体がが拡がり始め、まもなく昨日看板を見かけて何か食べられる食堂があるのかもしれないと思っていた温浴施設「昴の湯」が登場。立ち寄ってみると、敷地内の建物外部レベルでは特にそういう文字はみられない。しかし自転車を停めて内部を伺うほど、まだ食料に不自由していない。民宿龍神の美味しそうなおにぎり、バームクーヘンだって食べずに残っている。ちょっと昨日の興味を確認してみたかっただけかもしれない。
気を取り直して「昴の湯」の前の短いトンネルを抜けると、そこが昨日の県道760との合流点だった。すぐに11:25、蕨生でやっと国道168に合流。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 十津川温泉 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
今日は十津川温泉のドライブイン長谷川は通過しておく。昨日のラーメンはとても美味しかったのだが、町中に見かけた「ラーメン」の幟が気になっていて、とにかくそちらに行ってみないことには気が収まらなかったのだ。幟など普段は珍しくも何ともない。しかし、実は大変な宣伝効果があるものなのだ、と思った。
結局十津川温泉の短い町中区間では、昨日あったはずの場所で今日はラーメン屋の幟が見当たらなかったので、そのまま十津川温泉自体を何となく通過。食堂には立ち寄りそびれてしまった。まあいい、特に何か切実に食べたかったわけじゃない。やはり何か、行く手の道程に手がかりが欲しかっただけかもしれない。
蕨生から昨日国道425で国道168と合流した滝まで、国道168と国道425は一応重複区間となっている。だからあえて「国道425を走っているのだ」と言い切っても全然間違いは無い。しかしやはり、「国道425を通る」と文字で考えるにあたって、168重複区間と純正425はやはり全く別の空間として捉えたい気にはなる。
国道168は国道168で天下の十津川街道であり、関西の自転車ツーリングコースとして私だって聞いたことがあるぐらい伝統的に有名な道だ。2018年の現実としては、拡幅が進んだり山間で長大トンネル橋梁連続の新道区間に変わり、交通量も多くなっているかもしれない。しかし、神奈川山奥の道志街道が道志みちとなり、全く別のテイストの道に変わったほどの変化じゃない、と自分に言い聞かせつつ、山も水も緑色の大きな渓谷を遡ってゆく。
今戸トンネルの手前の町、折立までは何だかすぐ着けてしまったように感じられた。しかし、所要時間を見たら、実は昨日より5分多く掛かっている。昨日は下りで経済運転、今日はほとんど登らないから平坦と言っていいとはいえ、一応登り方向なので自ら脚を駆動する必要がある。そういう時間感覚の違いがあるのかもしれない。
コンクリートにナトリウム灯が延々1.9km。映画で見かけるタイムトンネルのような今戸トンネルを抜け、再び昼の光の中へ。11:55、滝着。ループ橋から谷底へ降りて国道168のコンクリート橋をくぐり、放り出されるように芦廼瀬川の谷間まっただ中へ。
ハルゼミの合唱、渓谷の瀬音、カジカの声、涼しい風。タイムトンネルを抜けて、ツーリングの時間が戻って来た。
国道425は滝から1〜2kmは拡幅済みだったのが、意識しないうちに何となく段階的に細くなっていて、気が付くとハードボイルドな表情の道が始まるところだった。昨日通ったばかりなのに、道が細くなるまではあまり記憶に残っていないのだ、と気付かされた。
十津川の手前からずっと広い道が続いたからか、新緑の静かな細道では意識していなかった身体の緊張がほぐれるのが自分でよくわかる。しかし、気を許しすぎて転倒や転落しないように気を付けねばならないのも相変わらず国道425ならではだ。
広葉樹の木漏れ日と渓谷の川面が、木陰の中できらきらしている。瀬音と鳥の声が響き、日差しの暑さが消え、涼しい気温と湿気が身体に迫ってくる。こういう道を走りに旅に出たのだとつくづく思う。
先を急ぐ気分が無くなり、この後の行程について具体的に考え始めていた。事前に考えていたGPSトラックは、この後上葛川トンネル・瀞峡・小森から国道311風伝峠とその周辺の細道へ、そして県道780・熊野川から小口へと組んである。このうち後半の国道311周辺に対し、何だかあまり魅力が無いような気がし始めていたのだ。というのは、やや大回りの割に既済経路が多く、丸山近くで拡がる棚田以外、知っている範囲では特に何か景色が良いような場所があるわけじゃない。要するに目新しさに欠けるような先入観があり、それは先入観かもしれないとわかっていても、あまり訪れたいと思っていないのだ。さすがは苦し紛れにくっつけた上方オプションである。
一方、瀞峡の国道169から先、北山川河岸の竹筒までトンネル新道が開通しているのを、昨夜発見してしまっていた。2003年2015年と、私はここの旧道、300m以上単純に登って下るだけの蟻越峠を、「何でこんな無駄な登り返しがあるんだ」と罵りながら通っている。2015年には「いよいよここも新道か」などと感慨を抱きつつ、開通間近の橋梁を下から眺めたものだ。そしてこの区間は、私が訪問した4ヶ月後の2015年9月、新道として開通していた。水呑峠ほどじゃないがそれなりに因縁の道であり、そちらを通ってみたい、というより通らないと後悔するんじゃないか、と心を奪われていたのだ。かつて骨を折った峠を新道で通過するとか思い出の谷間を大橋梁で通過するとか、もうそんなツーリングをしても良い年齢じゃないか、おれももう53歳だぞ、等とも思っていた。
それに、国道169新道の方が圧倒的に楽だ。こんなことで悩むのは、3日目になって疲れ始めているのかもしれない。しかしそれなら、尚更今日は早めに宿に着きたい。
というわけで、あらゆる面で国道169経由に気が向き始めていたのである。登りがちょっと少なくなることだけが何だか後ろめたく、決断するための大義名分を探していたのだ。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道425 小川 芦廼瀬川下流側を望む #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
12:50、小川着。滝から白谷トンネルの向こうの寺垣内まで、最後の集落である。集落の一番奥で道は芦廼瀬川を渡る橋でくるっと折り返し、そのまま上葛川へ登り始めるのだ。昨日下って恐怖を感じたほどの、上葛川への190m登りである。
6時過ぎに朝食を食べてからここまで水分だけしか摂っていなくて、そろそろ腹が減ってきていた。道の登り始め手前の橋が何だか脚を停めるのに区切りが良さそうだったので、ここで満を持して民宿龍神のおにぎりをいただくことにする。
聞いていた通り、おにぎりは塩味の高菜ご飯であり、海苔の代わりに高菜の葉っぱが巻かれていた。ラップを剥いてかぶりつくと、高菜の葉っぱの香りがお米の香りと合わさって、尚且つ高菜ご飯自体が香り高い。むしゃむしゃ噛むと、濃いめの塩味にやはり瑞々しい高菜の香りがしゃきっとした歯触りで、こりゃあすごく美味しい。フロントバッグ内を多少無理してでも、もう一つ作ってもらうべきだったかもしれない。
上葛川への登りは、やはり昨日下ってびびった通りの斜度の凄い坂だった。インナーローでやり過ごすつもりでのんびり登り始めたが、朝の牛廻越よりかなり気温が上がっていて暑いのにはやや閉口した。岩場を半分ぐらい登ったところでやっと木陰が現れてくれた。助かった。
岩場から山肌への折り返し辺りから、昨日見慣れた石楠花祭りの幟が見え始めた。まもなく葛川隧道への分岐の青看板が登場。村道へ分岐してからすぐ葛川隧道と思っていたのだが、そう思っていると意外に距離があるような気はした。何しろ15年ぶりの訪問、完全に思い出が美しくなってしまったのかもしれない。期待(希望)が過度だったのかもしれない。道自体はいい感じに涼しげな木陰の峠道だし、葛川隧道手前では周囲が開け、相対する山と谷が見渡せる。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 葛川トンネル 国道425側 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
13:25、葛川トンネル着。大型車ほぼ1台分の狭さにしては長さ400m弱とそこそこ長い。もっと長いトンネルで低い位置だといいのに、等とトンネルの現地ではいつもそう思う。訪問を計画する時はまったく逆のことを考えているのに、勝手だねほんとに。でも勝手な妄想とは別に、ひんやりとした空気が火照った身体を冷ましてくれる。
トンネルの向こう側は、しばし杉の木立のきりもみ急降下。森のジェットコースターの向こうに何となく屋根が見え始め、放り出されるように上葛川の集落に到着。
昨日の国道425、水平区間終端の森林自然公園辺りも上葛川という地名だった。実は山の向こう側のこちらが、地名の本家なのである。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 上葛川 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
見下ろす上葛川は、絵に描いたような山岳斜面集落だ。午前中に訪れた牛廻越の迫西川に比べて斜面が急で、谷間空間と集落の範囲が狭いように思う。
15年ぶりの訪問は、どういう順番でどういう風景が登場するのかは記憶に無いものの、ふと脚を停めた場所で15年前の写真と全く同じアングルの風景を眺めることができ、「あ、ここなのか」などと何だか少し嬉しくなってくる。
杉の森、広葉樹林、断続する集落、村道は延々と山中を下ってゆく。途中、崩落工事箇所が登場した。崩落の影響か伐採した斜面が崩壊したのか、切り立つ斜面全体がすかっと開け、その下の道に土砂が崩落していたようだ。道の外側が多少崩れて欠け、少し狭くなった道幅は辛うじて車1台分。ガードレールも無く、真っ逆さまの渓谷があっけらかんと開放的に開けている。通行止めではなかったものの、お尻から背骨がむずむずするような怖さを感じつつ、そろそろ通り過ぎる。ここ3日間こんな所ばっかりだ。まあ好き好んでこういう道を通っているのだが。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 下葛川→神山 土砂崩落普及工事箇所 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
やっと谷底に下りきり、そうかと思うと谷底の葛川がまた更に落ち込むいつもの展開が続くうち、流石にこの山深い谷も高度が下って幅が拡がってきた。いつの間にか道幅が少し拡がると、むしろ高く聳えた高く聳えた山に挟まれた深い谷を意識する。そろそろ国道169と合流のはず、地図でも見ようかな、と思ったところで突如13:50、国道169に合流。
というより、気が付いたらいつの間にか目の前に国道169があった。な、何だこれは。
国道169の左側にはトンネルがあり、「東野トンネル」という銘板が。あ、これ思い出したぞ。前回2003年にこの道を通り、いつの間にか国道169新道と合流した時と同じだ。その時は例によって時間がやや押していて、しかも宿に向かう必要があるので、「ここが地図のどこなのか」より「どちらに進めばいいのか」の方がテーマとしては重要だった。また、私の手持ち1/5万地形図「十津川」には100m位下の瀞峡沿い旧道しか載っていないので、この新道と交差点がどういう形で合流しているのかは読み取れない。このため、東野トンネル近くの合流点を、帰ってからツーリングマップルのやや粗い地図で場所だけ確認しただけだった。
2018年の今、同じ場所に自分はいる。GPSトラックからは少しも離れていないし、道の線形もGPSの地形図画像通りで何も疑う所は無い。と思って少し逆戻りすると、50mも戻らないうちに辺りがすぐ今まで下って来た通りの風景に変わった。そのままもう一度合流点まで戻ると、カーブの正面側補強法面の裏面が国道169の東野トンネルであり、カーブと接線の関係のように二つの道が並行した後、突き当たりではなく、鉄道のポイントのように合流していた。GPSトラックの地図を見ると、確かにそのように描かれている。あまりに新道が高規格で造られてしまったので、旧道細道との合流点も新道基準になってしまったのかもしれない。谷底の道が延々登り返してやっと合流、などということになっていないだけ有り難いと思うべきなのだろう。
過去に通っているので、今は自分が進む方向がわかっている。まずは瀞峡上流側へ。
この区間の国道169は、高速道路みたいな高規格の新道だ。険しく切り立って聳える山々と深く落ち込む谷間を、長大トンネルと長大コンクリート橋と堀割りで、地形とは全く無関係の直線と単純な曲線で、しかも山の中腹辺りで、可笑しくなるほどばんばん突き抜けてゆく。やや古い私の1/5万地形図には、旧道が大きく曲がりくねる瀞峡の断崖絶壁に貼り付く細道として描かれている。途中から破線となった渓谷沿いの細道は、東野の手前で国道色と破線が途切れ、もう一方の山間細道との間が未通区間となっていて、その未通区間が全く別の場所を通る新道となっているのだ。その差は可笑しくなってしまうほど大きい。ツーリングマップルだと両方の道がちゃんと載っているはずだ。実態としては、あるいは旧道が部分的に廃道になっているかもしれない。
東野トンネルからもう2つトンネルを抜けてゆく。この先小松から小森ダム湖まで瀞峡沿いに数km、未拡幅区間が残っていて、そのためにこの高規格新道を訪れる車はかなり少ない。
ツーリングっぽい装いの、一見緩めのロード団体が通過していった。関西のツーリストはこういう素晴らしい道が近場にあって、いやいやいや決して近い場所ではないようだが、これはこれで紀伊半島の、全国に類を見ない個性的な国道の一員と言っていいかもしれない。ならば、今日は国道169で熊野川沿いの宮井大橋まで下りきってしまうのが正解なのかもしれない。やっと気持ちが固まってきた。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道169 東山→小松 瀞峡を見下ろす #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
とりあえず細道区間、瀞峡を望む私的ポイントは訪れておきたい。K-1(と重いレンズ4本)を持ってくることに決めた時に、ここは念頭にあった場所の一つだったのだ。
小松から急に狭くなった道を過去3度の訪問とは逆方向からオトノリへ。大分下って少し登ってみると、やはり道の周囲や登り下りの度合いがよく理解できた。それにしても連日国道425をみっちり訪問した後だと、この山深い瀞峡区間が、谷の空間が上下左右に大きいだけで広々として見えてしまう。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道169 小松 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
私的ポイントで晴天の瀞峡と自転車の写真を撮り、これで満足できたような気になれた。また次に来るときも、この瀞峡が静かで個性的な渓谷であってほしい。この道が拡幅され、熊野川の渓谷のように車がどんどん通り過ぎてゆくような空間になって欲しくないものだ。
14:35、オトノリ発。折り返して再び小松、そして新道区間へ。
前述のように、国道169は高規格道路であっても車は少ない。あまり厳しい斜度の坂は皆無で、時々登り返しつつもほぼ一定の緩い下り基調が続く。橋の途中で脚を停めれば、類を見ない程緑濃厚な山々を中腹の位置で眺めることができる。谷底を見下ろせば、目も眩む谷底から空まで上下に巨大な空間が展開し、圧倒される。旧道系細道のような、周囲の風景と道の空間が一体化した楽しさとは別に、これはこれで充分に見ものだ。
瀞峡トンネルは2049m。瀞峡の最深部を一気に通過して山の向こうの玉置口にワープしてしまう。トンネル手前の橋からは、前方の山のど真ん中に、斜め上下に並んだ2本のトンネルが眺められる。新道の瀞峡トンネルは下、旧道の田戸トンネルが上。2003年にはまだ瀞峡トンネルが建設中で、田戸トンネルから国道169の旧道へ脚を向けたのだった。2015年の訪問では瀞峡トンネルを通って玉置口で建設中の橋梁を見上げてから、まだ細道旧道の国道169で蟻越峠を越えた。そして今日は、玉置口も橋梁で飛び越え、竹筒まで全部新道で下ってしまうのだ。
等と感慨に浸っていると、更に少し手前、100mぐらい落ち込む谷間を渡る大きな橋の隣に、旧道の細い橋が並んでいるのに気が付いた。ややか細く見える橋ながら通行止めじゃないようなので、少し脚を向けてみた。
地図を見ると、谷底は北山川とさっき辿ってきた葛川の合流点である。渓谷が真下に深く落ち込んでいるのに、欄干は細い角パイプで1m程度、何だか転落が怖ろしい。6m程度の道幅のなるべく真ん中をそろそろと通る。でもこちらも、かつては車が普通に通っていたのだ。というより、2003年にこの橋を確かに通ったことを、やっと思い出した。
橋の上からは、地形図に描かれている道が見渡せた。道は谷底から対岸を再び山間の集落へと登り返してゆく。この辺りで、山間の一軒旅館がカフェに改装されて頑張って営業していることが、少し前にNHKの朝のニュースで紹介されていた。いつか小松ダムから続く瀞峡とその脇道にたっぷり時間を掛け、旧道巡りをしてみたいと、以前から思っている。しかし今は、これからあそこを訪問しようとは全く思わない。谷底との高低差は100m前後だし、登ってしまえば意外に登れるのかもしれないとも思うものの、やはり疲れているのかもしれない。おとなしく宿へ向かおう。
瀞峡トンネルへ。長くひんやり薄暗く、照明に照らされたコンクリートの丸い空間断面が、渓谷の風、瀬音と鳥やカジカの声を尚更思い出させる。脚を停めてどんどん下ってゆく2000m強、やはり長大トンネルはタイムマシンか4次元トンネルのようだ。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道169 玉置口 旧道分岐 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道169 玉置口1 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道169 玉置口2 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
トンネルを抜けると玉置口だ。旧道との分岐を確認してから、谷底に拡がる玉置口を一気に飛び越える橋へ。谷底の僅かな平地、曲がりくねる川、旧道の小さな白い鉄骨橋。初訪問時の2003年、山間から下りきって印象的だった風景が、眼下に広がっている。もちろん印象の中には、折角北山川近くまで下ったのに、なんで谷沿いに道が無くて、これからまた300m登り返すの?という恨みがましい気持ちも含まれていた。今となっては何だか可笑しく思える。これが15年後のツーリングなのだ。
玉置口トンネル、短いトンネルを挟んで竹筒トンネルを抜けると、山中で国道311と合流。思えばここも国道311側からやって来た時に面倒臭い登り返しがあった。北山川の谷間の手前、橋の位置と周りの風景にも記憶がある。あの細道の橋がこんなに拡幅されたのだ、と実感できた。
そのまま道は竹筒の集落を上手で通過、更に切り立つ川岸を九重トンネルで突き抜け、次の集落九重で遂に谷底へ軟着陸。最後まで緩やかに、整った下り断面である。九重トンネルも、3年前は工事中の状態を旧道から眺めたはずだ。
九重ではもうすっかり道が拡幅されていて、集落中半の小学校はフリーマーケット的施設に変わっていた。少し休憩するとする。もう宿まで10kmぐらい。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道169 竹筒→九重 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 国道169 宮井大橋 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
国道169が国道168と合流する宮井大橋も、始めて訪れた2002年はなかなかの細い橋だった。そして16:00、日足では前回2015年に絶賛建設途上だった国道168の新道橋梁を眺めることができたのだった。まあしかし、16年でこれだけ道が変わる場所も少ないかもしれない。
日足から宿までは県道44を9km。時間はたっぷり、日差しは時々山影に隠れつつあり、向かい風も無く、過去の訪問の中でもかなり穏やかな条件だ。もう途中は努めてのんびりと、今まで通ったことが無かった旧道の細い橋などもこの際通ってみる。
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 県道44 上地で吊り橋に寄り道 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
紀伊半島Tour18#3 2018/4/29 湯ノ又→小口 県道44 小口 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA |
||
16:40、小口「新宮市小口自然の家」着。今日は外人さんが多い。そうでなくてもこの宿、熊野古道を徒歩で訪れる人がとても多い。
管理人さんに明日は和田川松根スーパー林道へ向かうとお話ししたら、
「この近くに自衛隊が開いた林道があったはずですよ」
と教えて下さった。いずれそちらにも脚を向けねば(翌朝、和田川松根スーパー林道こそがその道と判明)。
記 2018/6/2