紀伊半島Tour24#5
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広い水辺の狭い岸に建物が立ち並ぶ阪本の町を抜け、さっき見えた橋の下をくぐり、道はダム湖周囲を舐めるように続く。
こちらも基本的に道なりのままGPSトラック通り、道の合流と分岐を地形図で確認すべきかもしれないとは思いつつも、GPSトラックと実際の道に何か問題があるような違いは無さそうだ。
湖岸に続く道には車がほとんど来なくて、大変静かだ。湖の向こうには日なたの中に切り立つ山々、新緑の森、見上げる集落。これが十津川街道という言葉の延長線にある風景と雰囲気なのだと、具体的に何が十津川街道なのか全く知らない私でもそう思わせられる。山腹の森には、山中を通ってきた国道168が湖岸近くへ一気に高度を下げている様子も伺える。車の姿とともに、国道168をまともに経由するような計画じゃなくて良かったと思う。まあでも、坂だけで言えばこれから野迫川村、高野龍神スカイラインがまだ待ち構えている。
そしてすぐに、野迫川村への分岐が白いトラス橋とともに登場した。ここから国道168と別れて再び単独となる県道53で野迫川村へ。これから標高1000mまで登ってゆくのだ。
トラス橋のすぐ向こうから始まった杉の森を、県道53はきりきり登ってゆく。洞川を出てから初めての登り区間であるせいか、一気に落ちるペースにやや勝手が狂う。大丈夫、7〜8km/hは私の普通の登りペースだ。これなら高野龍神スカイラインまで問題無さそうだ。
ただ、涼しい森の中ではあっても、9時前にしていつの間にか気温が意外に上がっていることに気付かされた。標高860mの洞川や610mの天川と比べると、もう標高400m台まで下っているんだから当たり前の話ではある。脚を停め、防寒で来ていたレインジャケットをしまい込み、洞川の宿でボトルに入れた美味しい水を一口。
ある程度登った山腹で辺りの森が切れ、急に谷間の風景が開けた。谷底より周囲の山々を見回す、いかにも山まっただ中の風景だ。まだ標高600mちょっとだというのに。
野迫川村に入り、道はいったん谷間の集落へ降りてから、谷底で里の道を再びじりじり高度を上げてゆく。
周囲から村への主要道、県道53が一度登りを経て里に下りるという点は、野迫川村の大きな特徴だと思う。県道53だけじゃなくて他の谷間から野迫川村に行くには、一度必ず峠的な登り下りがあるのだ。ひとつだけ、熊野川の谷間から登りだけの林道があるものの、途中までやや枯れ気味のダートであり、しかもかなり大回りで野迫川村の中心部に到達する道なのだ。2005年、私は通行止めをくぐってこの道に入った挙げ句、途中の崩落箇所で危機一髪な目に合った。今通っているこの県道53の、十津川手前の登り返しを避けてそちらに向かったというのがその道に向かった理由だったことを、感慨深く思い出される。あんなにアブナイ目に合うんだったら、おとなしくこちらに向かうんだった。というぐらいに、野迫川村に入ってからの県道53は長閑で落ちつく親しみやすい表情の道だし、さっきの登りだって大したものじゃない。
そういう山深い地だけあり、気が付くと辺りの季節が逆行している。農家の木や庭先の花が春先っぽい。もう標高600m台後半、天川村の川井より高い場所にいるのだ。
ストリートビューで確認していた通りの高野山方面への分岐を過ぎ、稜線まで本格的に登りが始まった。
まあ当然の如く斜度は谷底の里よりぐっと厳しく、8〜9%ぐらいで山腹をぐいぐい登ってゆく。
すっかり陽は高く登り、噴き出る汗を掌で拭う。見晴らしの良い場所では大変都合良くありがたく脚を停めることにする。
記 2024/6/8