紀伊半島Tour24#5
|
|
そのまま、昨日向かったみたらい渓谷方面とは反対側、県道53で天ノ川下流の阪本方面へ。
この道は2003年に訪れた時に、くねくね狭い谷間とともに少しづつ延々と下ってゆく天ノ川と、点在する集落の生活感溢れる風景に魅せられていた。その時は、風景を眺めたくても例によってその先の行程に全く余裕が無く、泣く泣く急いで通り過ぎてしまっていた。そして、数枚の写真以外、記憶というより印象の表面しか憶えていない。だから再訪は長年の課題だった。それがこれまでできなかったのは、天川村がそこを目的地にしないと行きにくい場所であるからだ。
十津川村の阪本まで、県道55で約20km、下り150m。途中には登りらしい登り返しが全く無い。自転車で何も考えずにひたすらのんびり身を任せられる僅かな下りと共に、天ノ川と谷間が時々少し拡がったり狭くなったりして延々と続いてゆく。清らかとしか言えない透明度の川面とやはり生活感溢れる集落、そして河岸の森が、切り立つ谷間に輝くような新緑で彩られている。それは、もう一度身を置きたかった風景そのものだと思えた。さすがに19年経つと県道55の拡幅は進んでいるようだ。でも基本的に、慌ただしかったり埃っぽいような道じゃないし、谷閧フ風景に違和感は無い。
良い道だ。この風景を今朝みたいな青空じゃなく、雨一歩手前の薄暗い空の下で眺めたら、印象が多少違うのかもしれないとは思う。まあでも天下の熊野川の最上流部。またいつか訪れたい道である。
何も考えずに下っていたので、地形図も見ていなかった。だいぶ下って来て、阪本まで14kmと言う表示が道端に現れた。え、まだこんなとこなの、嘘だろうと思ったものの、地形図で現在位置を特定するとどうも本当っぽい。確かにのんびり、景色に脚を停め停め進んではいる。時計を見ると、もう8時。
少し地形図を意識しながら下ってゆくと、下りだというのにおそろしくペースが出ていないことに気が付いた。他人事の様に言っているが、やっと前回2003年に同じようなことを考えて焦っていたことを、次第に思い出してきた。この区間、細道とカーブのため、とにかく時間が掛かるのだ。
とはいえ予定を変えて回り道をしている訳じゃない。コース全体として辻褄は合っているはず。ここで距離があるなら後で距離が短いということ、焦って新緑の渓谷を見逃すようなことは避けたい。
その後も天ノ川の谷間は、途中その空間構成・要素・雰囲気が大きく変わるようなことは無かった。渓谷、または民家が続く集落や畑、そして森が次々入れ替わって現れる。あまり地形図での位置を気にすると全然進んでない気になるので、時々地形図を意識した。
やや古びた鉄骨トラス橋と、その手前にコンクリート製の天川村案内図が登場。看板は比較的新しい物と思われるものの、鉄骨トラス橋と天ノ川の表情は何となく憶えている。
ここが十津川村と天川村の境界だ。やっと十津川村だ。しかし十津川村も天川村も奈良県であり、未だ奈良県から出ていないとも言える。
もう少しだけ県道53は、切り立つ山裾の渓谷に細道のまま続いたものの、唐突に森が開け、その向こうの明るい谷に掛かる大きな橋新しい橋と、その上を行き交う車が見え始めた。いつの間にか天ノ川の水面は拡がり、たぷんたぷんのダム湖みたいになっている。谷間の風景は一変していた。
8:40、阪本着。やっと国道168に合流したのだった。
記 2024/6/8