紀伊半島Tour24#4 2024/5/2(木)吉野→洞川-

吉野→洞川→川合→神童子谷分岐→川合→洞川 58km (以上#4-1)
(以下#4-2) 区間2 (以上#4-2)
(以下#4-3) 区間3 (以上#4-3)
(以下#4-4) 区間4 (以上#4-4)
(以下#4-5) 区間5
km

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路
ニューサイ写真 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8

 とにかく洞川には一度泊まってみたい、と以前から思っていた。山深く何とも清らか、いかにも修験場らしい雰囲気の土地で朝を迎えたい。そして、天川村の渓谷を朝の行程として通り、じっくり眺めたい。そのために、今回はどこから洞川へ向かうかをいろいろと考えていた。洞川で予約できた宿は夕食の提供が無い。近くに飲食店はあれど、そのお店は最悪、15時ぐらいまでがラストオーダーになってしまうかもしれないとのことだったからだ。

 前日の5/1お昼前、大雨の中ではあったがのんびり出発、品川13:19発のぞみ35で15:27、京都着。次は近鉄で橿原神宮だ。

 調査段階の乗り換えアプリで、新幹線から近鉄特急へ乗り換え時間が少ないのが気になっていた。このため、わざわざ1本遅い列車を予約したのだ。しかし実際に行ってみたら、近鉄京都は新幹線の改札から通路を挟んでほぼ正面。あんなに近くだとは全く憶えていなかった。改札に入ってから、予約していた16:05時の1本前に変更するのも全然余裕で、15:35京都発。予約していたビスタカーが22000系になったものの、元々こっちの方が車両としては好み(新ビスタは顔が嫌い)だし、輪行するのにも確か都合が良かったはず。2009年は同じ橿原神宮への特急が確かビスタカーで、自転車置場に随分苦労したという印象がある。

 16:29、小雨の合間の橿原神宮着。2009年に泊まった、昔ながらの木造駅前旅館はもはや影も形も無い。そして二つあるホテルの内、一つは外資系になっている。今日はその外資系のホテルを予約している。9年後なんて味気ないものだ。
 夕食は近くのCOCOSで包み焼きハンバーグ。大変美味しい。ファミレスでも落ちついて夕食が食べられ、夜中に橿原神宮に着いた2009年に比べて余裕がある、文句の無い橿原神宮前泊だ。

 明日の天気予報は、行程直前になってころころ変わっている。今日の午前中には、午後から降水確率60〜70%の雨とのことだった。しかし今は、終日降水確率10%の曇り時々晴れに変わっていて、もっと言えば一昨日ぐらいまでの予報に戻っている。こういう天気予報はそのまま鵜呑みにするわけには行かない。天気の推移が不安定なのかもしれない、しか言えない。
 走るなら、上市発で国道169から旧行者環林道国道308を経由する予定だった。国道169は、今下北山村で全面通行止めのため、交通量が少ない。走るなら今がチャンスだ。いや、実は国道309を経由して、確実に宿の近くのお店で夕食が摂れる15時に着けるか自信が無く、どうしようか迷っていた。
 そこに雨の可能性が出てきた。一度は洞川温泉までバス輪行を覚悟し、路線バスが下市口から出ていることまで確認した。雨ならバスがある。バス輪行できるかどうかは、明日天気をみてから営業所に電話すればいい。例えバス輪行が拒否されたとしても、朝ならどうなってもどのようにもできる。
 そこで気が付いた。洞川までは吉野発の林道吉野大峰線は2009年のコースだし、国道168は2003年に通っている。つまり未済経路は無い。
 それならあまり無理する必要は無い。上市発国道169は止め、手堅い2009年のコースで行こう。吉野から林道一発越えで洞川に降りたら午前中に着いてしまうので、国道309で川合から適当な所まで往復しよう。というわけでのんびりコースに切り替えるのに大変都合が良い大義名分が付いた。


 5/2は橿原神宮5:45発、近鉄吉野線の始発に乗車。車窓から眺めるJR和歌山線のちょっと鄙びた雰囲気に心魅かれたり、国道169のいかにも国道然とした表情にああ、あっちじゃなくてよかったとか思いつつ、6:33吉野着。

 輪行袋を持って改札から出ると、駅前広場の向こうからすぐに、明るく輝くように、しかしむせかえるように濃厚に生い茂る新緑の山が始まっている。これが吉野だ。来て良かった。自転車組立にやや時間が掛かってしまったのも何だか嬉しく、7:15、吉野発。放置されて朽ちていくようなロープウェイを横目に、尾根道参道へのつづら折れへ。

 土産物屋や飲食店や旅館の玄関先が続く朝の吉野山参道。折角前日お昼頃に出発できたんだから、こういう所の宿に泊まっても良かった等と思う。まだまばらな観光客の中に、これからこの尾根道を登ってゆくのか登山の格好をした方が目立つ。2009年の訪問もこの時間だった。これぐらいの人口密度が、この道に対する私の印象になっている。しかしこういう道は多分9時頃以降は普通に人出が増えるのだろう。

 参道の町並み区間で確か100m以上標高を上げているだけあり、緩急あるもののけっこうぐいぐい登ってゆく。更に町の上手から森と寺院が断続する辺り、道が一旦分岐してしばらく進んで合流する区間は、前回通った時に悲鳴が出そうな激坂だと思って通らなかった方を、今回はGPSトラックに選んでいた。ほんの軽い気持ちで選んだつもりだった。現地でヤバそうなら止めることだってできるんだから、とも思っていた。

 脚を進めてみると、やはり意外以上の激坂で、前輪が浮きまくる。しかし引き返すタイミングも逸し、そのまま早々に押しで進んでいった。後で思えばこれが判断間違いで、結局500mから600m以上まで押しは続き、意外にというより想定以上に時間が掛かってしまった。こっちに行くんじゃなかったとは思いつつも、相変わらず桜を主体として広葉樹林の明るく濃厚な新緑、瑞々しさに包まれるような道には心が救われた。


 稜線で林道吉野大峰線に合流し、その後は稜線と山腹の森を繋いで渡り歩く無人の林道が続いた。林道としては比較的安定した道幅・路面が続くものの、どこも切り立つ岩場に深い森なのは共通している。深山の趣漂う、大変ツーリング情緒溢れる道だ。当然のように人里っぽい要素は一切見当たらい。時々展望が開ける谷間の彼方が緑じゃないので、あの辺に人の営みがあることが想像できるというだけだ。熊の看板が見当たらないのは助かる。

 標高900mを越えた辺りから登りは緩くなったものの、結局1100m台までずっと登りが続いた。前回訪問時のツーレポでは、この道についてアップアップダウンなどと書いている。しかし実際には下り箇所など結局1箇所だけ。それは標高1100mの最高地点から、林道吉野大峰線の最後、山中で林道洞川高原線との標高900m台の分岐に降りてゆく区間なのであった。

 ど迫力の林道吉野大峰線では何だか岩肌の険しさやところどころで拡がる下界の展望に心を奪われていた。林道洞川高原線へ下り始めてやっと、1100m台と900m台では辺りの季節、森の茂り方が4月始めと4月中旬ぐらいには違うようにも思えた。

 登り返した五番関トンネル周辺の雰囲気も天川村までの下りも、前回の訪問は2009年。全く記憶に残っていなかったのがちょっと意外ではある。しかし全体的に概ね期待通りの山深く、人里離れした清らかな雰囲気が漂う森が続き、吉野から紀伊半島側に来た気になれた。

 以前参拝したお寺に今回も参拝、その少し先で森が切れ、いつの間にか拡がっていた谷間に民家が登場。11:00、洞川温泉の上手に到着である。標高860m。2009年には10時に着いている。大分ペースダウンしていると思ったのだが、吉野発の時間が20分遅れなのと、吉野山の激坂区間で時間を食った分を考えると、まあそれぐらいかもしれないとも思う。こういう情け無い状態でも全然焦る必要が無い、余裕のある行程で良かった。


 道端に、今日の夕食場所として目を付けておいた中華料理店を見つけた。ちょうど店が開いていたので、心配だった夕方の営業時間を確認しておく。17時から夕食営業を始めるとのこと、これで15時以降に着いても安心だ。林道吉野大峰線をのんびりたっぷり楽しめたので、国道169に向かえば良かった等という気にはならない。

 洞川温泉の町並みを抜け、少し先で辺りが山中の森となって、道はおもむろに下り始めた。下る途中、道なりの虻峠トンネルではなく、旧道の虻峠を経由しておくことにする。過去2回の訪問ではとにかく先を急いでいて、この旧道は通過してしまっていた。3度目にしてやっとの訪問、時間の余裕があるとこういうことが気軽にできるのだ。

 虻峠の登り返しは標高855mまで。斜度もボリュームも道幅も路面の適度な枯れ具合も、まあ普通に地図で読んで想像した範囲内ぐらい。こうして旧道を通ると、洞川も紀伊半島の隠し里と同じく、他からは峠を越えてしか辿り着けない秘境だったのだと思う。

 虻峠から下って、おもむろに元の道に合流したのは虻峠トンネル出口。標高差130mのつづら折れを一気に下り、谷底の拡がりに降りてゆく。杉の向こうに集落が現れ辺りが盆地状に拡がり、11:25、川井着。標高は620m。15年前の2009年から1時間遅れだ。吉野の出発遅れと吉野山参道での押しを自分に都合良く考慮すると、それでも40分ぐらい遅れている。でも遅れに関しては、もうどうでもいい。今日は時間の余裕を使ってのんびりできるところでのんびりするのだ。

 交差点に商店が営業していて帰りに寄れそうなのを確認し、そのまま国道309、天ノ川の谷間に進んでゆく。天ノ川というと耳慣れないが、熊野川の本流上流部である。


 川井の谷底盆地は急に狭まり、辺りは一気に山深いとしか言えない雰囲気が漂い始める。2009年にとても印象だった展開は、今回もその通りだった。しかし谷間を遡り始めてすぐに北角でソフトの看板が出ているカフェが登場、これ幸いと1本頂いておいた。お話し好きなおばさんが営業されていて、洞川の食堂や新規オープンしたばかりの温泉施設等、今日の宿周辺の情報を仕入れておく。

 「みたらし渓谷」と看板に書かれているこの谷間の風景は、やはり記憶以上に山深い。そして渓谷の風景がいちいち絵になって仕方無い。切り立った山に挟まれた渓谷であるというだけなのだが、ごつごつの岩間の川面、その見晴らし。新緑の広葉樹の茂り具合と道の狭さ、枯れ具合。正面に聳え立つ山。そしてアメゴ(らしき魚)がすいすい泳ぐものすごい透明度の水。全てが申し分無い。

 基本的に同じ要素の、似たような風景が続いているのに、どこで立ち止まっても絵になる風景に写真を撮り撮り、少し走っては停まり少しづつ脚を進めてゆく。今日、ここで目一杯、何の制限も無く時間を取るような計画にして本当に良かったと思う。とともに、15年前訪れた時、この風景に驚き、脚を停めたいのに先の道程が長いために随分我慢して悔しかったこと、次回の訪問ではここでたっぷり時間を取る計画にする必要があると考えていたことを思い出した。風景は憶えていて再訪の必要があるとは思っていても、そのことは忘れてしまっていて現地でやっと思い出せたのだ。

 と思いながら、少しづつ少しづつ脚を進めてゆく。谷間の風景が変わる川迫ダムから先、今回もダム湖は石だらけでほとんど川原の状態だ。川の部分の水はここまでと同じく、川の水じゃなくてガラスかアクリル樹脂かというぐらいに透明度が高い。道が川原を望む場所で少し脚を停め、おにぎりを食べることにする。

 またもや思い出す。みたらし渓谷で心ゆくまでのんびり時間を取って、迫力の渓谷風景を満喫することこそ、2009年以来国道308でしたかったことじゃあなかったか。もし今日の行程が国道169と行者環トンネル経由だとしたら、国道308は通れるとしても、洞川15時、いや、16時着を目指しまた駆け足の行程になったしまっただろう。今、これだけのんびりと再訪したかった風景を楽しみながら、これから帰りに又同じ風景の中で過ごすことができる。今日はこの計画で本当に良かった。

 川迫ダムでいったん拡がった谷間は上流部で再び狭くなり、周囲の雰囲気はますます山深く浮世離れしてゆく。もう少し遡れば十分かなと思っていた。この先神童子谷への林道分岐があり、その先国道309は行者還トンネルを目指してスパルタンに登ってゆく。風景についてはみたらい渓谷の方が印象が強く残っている。分岐の天ノ川を渡る橋は標高810m、川井からいつの間にか200m近く登ってきたことになる。行者環トンネルは標高1110mだから、その先もう300m。私の脚だと多分45分かもっとかかる。明日は野迫川村から高野龍神スカイラインを登る予定なので、この際面倒くささと脚の温存も兼ねて、ここで折り返すことにした。

 13:00、神童子谷分岐着。古びたコンクリート橋は銘板が剥がれ、河川監視施設がただならぬ山深さを感じさせる。橋の上手方面は岩間の森の中へ、国道308がカーブして消えてゆく。何となくその先に脚を向ける必要はあるような気はするものの、こちらも大義名分を忘れちゃあいけない。写真を撮って、何より風景を心に焼き付けて、また来よう。


 来た道を下ってゆく。上流部から再び川迫ダム湖、ダムの脇から一下りしてみたらい渓谷へ。だらだらではあってもここまで200m登ってきただけあり、脚を停めても面白いようにどんどん進み、周りの季節は早春から再び新緑に変わり、次第に車や釣り人が増えていった。

 川井では、さっき確認した交差点のコンビニ風商店に立ち寄っておく。明日の行程上、ここでパンが買えると安心だと思っていたが、とりあえず前倒しで目の前に品物があるうちに、持ちやすそうで食べやすそうなパンを仕入れておく。出発前や昨日橿原神宮で仕入れておいた分と合わせ、明日朝から少なくとも15時ぐらいまでの補給食になるのだ。

 13:50、川井発。つづら折れの140m、新道の虻峠トンネル、再び谷間を一登り。14:25、洞川着。新装オープンしたばかりとの洞川温泉センターバス発着所前の、これぐらい田舎の食堂っぽい雰囲気も今時珍しいぐらいの食堂で、うどんを戴き、時間つぶしみたいな一休みとする。

 もう今日はこの後宿に向かうだけだ。明日の天気は上々だし、何の心配も無い。いや、高野龍神スカイラインで疲れ切って動けなくなってしまう心配はあるな。まあ、早めに出発してのんびり無理せず進めば大丈夫なはずだ。

 15:00、チェックイン開始時刻と共にゲストハウス一休着。さすがは標高860m。ここ数日冷え込んでいるとのことで、宿の中は凍えるように寒かったものの、共用部のファンヒーターを点けて頂き部屋に暖気を入れ、その後風呂にゆっくり時間を掛けて入れて大変助かった。川合から登ってきて一休みした後、身体が冷えていたかもしれない。ただ、気を付けていたつもりの標高860mを、やはり甘く見ていたことも確かだ。過去の紀伊半島Tourで一番標高が高い宿は、確か400mちょっとだったはず。そもそもあの国道425白谷トンネルですら標高870m、洞川は同じぐらいの標高なのだ。

 夕方は17:30から開けるという情報を仕入れておいた、宿から徒歩5分ぐらいの中華「彰武」へ、開店とほぼ同時に夕食へ。さっき立ち寄った川合では、ソフトクリームを仕入れたカフェのおばさんが「天川村唯一の中華料理店、普通にとても美味しいので大好き」と仰っていたので、味に全く心配は無かった。メニューの中から狙い定めて注文した硬焼きそばは、果たして塩味のとろみとしゃきっと中華料理のいい感じで炒めた野菜がとてもおいしい。2杯目には通常焼きそばを頂くことにした。こちらは麺がラーメンみたいなのが珍しい。両方ともとても美味しく、特に硬焼きは写真を眺めて味がつくづく思い出されるほど気に入った。

 夕食を頂きながら、明日の天気を確認しておく。早朝から14時ぐらいまで降水確率は0〜10%の晴れ時々曇り、夕方に少し雲が出て、夜から明日はまた晴れるとのこと。何の問題も無く、野迫川村から高野龍神スカイラインへ脚を進めることができる。今のところあまり疲れている感じは無い。あまり欲張らずに粛々と脚を進めれば、全く問題無く楽しい1日になるだろう。高野龍神スカイラインの交通量がどの程度かはわからないが。とにかく今日はゆっくり休んで、明日も早起きしよう。

 この間、私を含めてゲストハウス一休のお客さんが3組、結局全員ここに集結して夕食を摂っていたのが何だか可笑しい。まあとにかく、初めての洞川泊が何とかなって助かった。そして、明るい内に全部片が付いて良かったと、青い山陰の中に入ってやや涼しい田舎道をのんびり宿に向かいながら思った。

記 2024/6/6

#4-2へ進む    #4-1へ戻る    紀伊半島Tour24 indexへ    自転車ツーリングの記録へ    Topへ

Last Update 2024/6/9
ご意見などございましたら、E-Mailにてお寄せ下さい。
Copyright(c) 2002-24 Daisuke Takachi All rights reserved.