北海道Tour24#2 2024/7/14(日)民宿地平線の根釧台地ベスト202km-1

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

区間1 (以上#-1)
(以下#-2) 区間2 (以上#-2)
(以下#-3) 区間3 (以上#-3)
(以下#-4) 区間4 (以上#-4)
(以下#-5) 区間5  km 
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ニューサイ写真 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

北海道Tour24#2 2024/7/14(日)民宿地平線の根釧台地ベスト202km-1

赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路と航路
RYDE WITH GPS
------------------------------------------------------------ --> 開陽→開陽 201km ■

 外が白み始めた。たっぷり寝ることができて目覚めさっぱり、ふかふかの布団に静かな部屋に感謝しか無い。牧草地に潜んでいる吸血昆虫が窓から入らないよう、部屋の照明は点けず窓を少し開けてみる。ガスっているが雨は降っていない。風が盛大に吹き荒れているということも無い。上々だ。何の問題も無く、今日は根釧台地202kmに行くぞ。

 5:10、民宿地平線発。

 出発したばかりの町道北19、武佐岳側に畑が拡がる辺り。爽やかな朝の空気に包まれる気分になっていたら、突如タイヤに異音を感じた。見ると、何とタイヤの縁がリムから外れかけている。確かに身に覚えはある。出発前、チューブを替えるときに心に余裕が無く、雑にタイヤを填めてしまったのだ。ちょっとだけ気になって、「中でチューブが暴れているかもしれないなあ。まあいいか、心配しすぎだよ。問題あったらやり直せば良いじゃん」とか思ったのを憶えている。その後北海道出発前恒例の試運転を、今回に限ってしていない。前の週は尾瀬に行っちゃったからだ。★ 私が使っているタイヤはリムの寸法にぴったりなので、毎回指で押し込むだけで填められる。それだけにチューブが暴れると、こういう70年代のツーリストみたいなことが起こるということは、知識としてわかったつもりになっていた。それを実感としてやっと理解できた気になった。ちなみにこのタイヤも入手が難しくなったので、今は別のタイヤを使っている。最近は年々こういうことになる。高齢者とランドナー乗りはつらいよ。★ などと思いつつ自転車をひっくり返しホイールを外して空気を抜き、タイヤをリムに(やっぱり指で)押し込み、再び空気を入れて5分経過。出発早々の痛いロスだ。

 でも前向きに再出発だ。時々タイヤを伺いつつ、先へ進んでゆく。南武佐へ向け舗装区間(と202kmコース)がかくっと曲がる町道北19区間の東端で、ここから更に東に向かうダートから砂利が舗装路面上に埃っぽく拡がっていた。その中に何故か、カブトムシの死骸が目立つ。この辺でも、カブトムシが普通に生息しているということを、昨日民宿地平線でも伺った。お母さんのバイト先では、カブトムシが人気だそうだ。人気だということは、近年増えてきたということなのだと思う。★ 逆に北海道でよく見かけるミヤマクワガタは、人気が無いらしい。私が育った東京の平地ではミヤマクワガタは生息していない。このため小学校の頃は、厳つい大顎に頭部の出っ張りが大変格好良いミヤマクワガタを、図鑑でしか見たことがなかった。山地や東北地方に行った友人がミヤマクワガタを見たというだけで、友人の間で羨ましがられた。しかし山地にはミヤマがうじゃうじゃいたらしい。★ そういうわけで、私にとってはカブトムシよりミヤマクワガタの方が圧倒的にプレミアム感が高い。しかし確かに、北海道の路上で見かけるミヤマは、やや貧相な個体が多いようにも思う。そして、地元の森に生息するノコギリクワガタは、スーパーカーのボンネットみたいな優美な曲線、素速い動きに闘争本能、圧巻の投げ技など、それなり以上に個性的で格好良く魅力的な昆虫だということもわかってきた。★ 何にしても、カブトムシやクワガタを好きな大人が多いのは、とても楽しいことだと思う。夏がこんなに暑くなってしまっただけに。

 標高50m台の南武佐まで、約110m下りが続く。初っぱなでいきなり最大の下り区間が現れるのが、この根釧台地202kmコースの厳しいところだ。牧草地から防風林へ、また牧草地。道端の要素は入れ替わっても、足を停めるようなものは現れない。途中で130kmコースへの分岐を過ぎ、順調にどんどん下ってゆく。

 5:40、南武佐着。今日は商店に表敬訪問しておく。私の訪問では珍しく、店からおばさんが出てきた。早朝に訪れるサイクリストは珍しいようで、親しげに話しかけてくださった。空き缶を自販機脇に置かせていただくことをお知らせしておく。缶コーヒーをぐいっと呑んでおもむろに出発だ。

 俵橋の低地は地形の彫りは浅く起伏の振幅が小さい。丘、谷のアップダウンが続くものの、丘の上には平地も多く、比較的走りやすい。拡がる畑の中、コースは直行する道を時々方向を変えたり、乗り換えたりしては次第に南に進んでゆく。

 ソバ畑が拡がると、昨日食べた美味しい蕎麦とともに、以前この辺りで畑のすぐ上に見上げた濃厚な雨雲と雨を思い出す。かつての過酷な訪問を思い出すとともに、今日は風がほとんど吹いていないことに気が付いた。根釧台地にしては珍しいことだと思う。まあ、まだあまり気は許せない。

 標津川の低地に降り、しばし一直線の道が続く。空は時々明るくなったりまた暗くなったりしつつ、次第に明るくなっていた。雨の不安は全く無い。順調な行程になりつつあるのかもしれない。いいぞ。

 等と思っていたら、ここまで時々様子を伺っていたが問題無かった後輪から、急に音がし始めた。ちらっと眺めると、またもやリムからタイヤ端がはみ出ているのであった。しまった、また押し込まないと。
 ブレーキを掛けた途端、パン!と音がした。バーストだ!こいつはまずいぜ。
 とりあえず何も巻き込まず引っかからず、無事に停まれたようではあった。フレームは問題無い。しかしタイヤが破けてたらツーリング終了だ。というより、歩いて開陽に戻る必要がある。
 まずは状況確認、自転車をひっくり返し後輪を外し、タイヤを引っぺがしてチェック。見た感じと触診で、タイヤ側は問題無さそうだ。一方、チューブは1点から見事な星状に裂けている。ここに熱か何かが集中したんだろうな。パッチだらけ使い回し品チューブの、修理箇所が破れたわけじゃあなさそうなのが救いだ。ならば今後も古チューブのせこい使い回しは続けるんだろうな、おれは。
 それにしてもバーストなんて20年振りぐらいだと思う。憶えているのは旧1号車、2004年井川湖への下りである。あの時は確かリムテープを貼ってなかったんだった。あれ以来リムテープ起因のパンクは起こしてないつもりだ。経験を活かす能力はおれにはある。いや、学習能力が無いと思うことも多いな。反省しよう。
 などと思う余裕は出てきていた。フロントバッグの荷物の下を漁ると、…あったあった。安心の新品チューブが。こういう時に、チューブの予備が2本あるのは心強い。昔とある先輩ツーリストに、「予備ューブは2本」と教わった教訓を守っていて良かった。
 とは思うものの、タイヤ交換の基本を疎かにしてメカトラが起こっているので、世話は無い。弛まないように気を付けて、慎重に神妙にタイヤにチューブを押し込み、少し空気を入れてもみもみ。また空気を入れ直してもういちどもみもみ。これならいいんじゃあないのか。と思う。


 6:30、再出発。25分、いや、さっきのを含めて30分ロスだ。これはちょっと痛い。でも、昔の202kmはこれぐらいの時刻だったと言えばその通りでもある。焦らず着々と脚を進めてゆけば、18時までには宿に着けるだろう。幸い今のところ、今日の天気はあまり悪くなさそうだ。

 標津川の橋はそこからすぐだった。開陽に歩いて戻るのはしんどそうでも、まだこんな所までしか来ていないのだ。

 雲はやや濃くなっていた。しかし風は全く無い。

 標津から別海へは、標高40〜20m台の緩やかな丘陵に、あまり曲がったりクランクしたりしない1本道が延々と続く。入れ替わり現れるのは牧草地、低地の茂み、防風林、ミズナラの森。

 南へ進むにつれ、牧場の割合が増えてきた。時々現れる道路行き先看板の地名は茶志骨から尾岱沼に、中標津から中春別に変わり、そして別海が現れ始めてからが、この区間は長く感じられる。

 タイヤバースト前からずっと、行程としてペースは悪くないような気がしていた。いつも民宿地平線を出発する前、もう走れないかもしれない、やっぱ止めようかな等と考える。しかし毎回出発してみると、意外と出発してみるもんだ、等と思う。

 このまま最後までこの気分で行ってしまえるといいな、とも思う。この後メカトラさえ起こらなければ、今日はけっこう行けるのかもしれない。

 ★★★7:50、別海で国道243に到着。前回は確か8時に上風連に着いていた、と思う。ここから上風連まで40分だと8時半到着で、ここまでのタイヤ関係が原因の30分遅れを言い訳にできるが、いや1時間ぐらい掛かるだろう。やっぱり遅れ気味なのかもしれない、と少し残念に思う。焦っても仕方ないのは私のツーリングで毎度のことなので、気分は前向きに悩まずに着々と粛々と地道に脚を進めてゆくだけだ。


 クランク状に国道243を経由し、新酪農道へ。

 低めの防風林の茂みに道が続いた後、おもむろに地形が大きく波打ち始め、周囲の牧草地に広がりが出始める。

 ダイナミックな地形の起伏は明らかに根釧台地内陸、別海南部特有の風景で、ここまでの202kmコースに無かったものだ。毎回、コースの新たな段階を実感させてくれる。

 新酪展望台の先、大きな波のようなアップダウンから道は台地上へ。

 道はややイレギュラーなカーブや分岐離合を伴いつつ、西へ向かい始める。地形が安定しているので周囲は牧草地と牧場が続くものの、中標津の整然とした直行グリッドとは異なるラフな味わいであり、またもや根釧台地まっただ中、別海中部にやって来たことをつくづく感じさせてくれる。要するに、一見牧草地ばかりでも、中標津とか標津辺りとは風景が全く違うのだ。

 行く手の森に突然コンクリートの建築物が見え始めた。あれが上風連小中学校だ。

 8:45、上風連着。ちょっと前回より遅れ気味かもしれない。ちょっとというより、8時前に着いた前回より50分遅れている。メカトラ30分に出発時刻10分遅れを加えて40分。今日は全く追い風が無い分が10分で、そんなもんなのかもしれない。
 ここで距離は75km。奥別寒辺牛の折り返し地点で確か95km、道道928の北上区間分岐で確か大体110km。ということは、長い長いと思っている奥別寒辺牛までの道道813区間は、あと20kmしか無いのだ。そう考えると今回も着々と進めていることは確かだ。とにかくこのまま焦らず落ちついて、着々粛々と行こう。いつもそれで走りきっているのだ、大丈夫。と思っていた。
 でも帰着後わかった真実を書くと、8時前だと思ったのは実は9時前で、8:45上風連は十分どころかなかなかの早着なのであった。こういう間違いをするのは、実際には自分ではあまり時間を気にしていないということかもしれない。

 今日はAコープはやってない。そこで森重商店の自販機で、缶コーヒーを飲んでおくことにする。ちょうど店から出てきたおばさんが話しかけてくれた。以前お会いした森重商店さんの野球少年は、今は中学生か高校生だろうな。などとは口に出さず、Aコープは閉店してしまったのかを聞くと、「今日は日曜だから営業日ではない」とのこと。そうか、例年8月の行程だといつもここは金曜日だから店が開いてるのか、と思った。★ ここで気付かなければならなかったことがある。そういう理由で農協関連施設たるAコープが営業してないなら、この先の重要水場である西円取扱所も営業していないだろう、ということだ。いや、西円取扱所の自販機が表に出ていなかったので水ヶ仕入れられなかったのだが、そういう可能性に気が回らなくてここで水を仕入れておくのを忘れてしまったかったのは事実だ。そしてこの後、中春別手前まで水場が無いので、少し気を揉むことになる(気を揉むだけで実害無しに済んだ)。


 上風連の道道449との交差点は、202kmを走るようになる前、専ら道道449を北上するだけだった1990年代から、この道で珍しい集落である上風連を私に強く印象づけている。

 少し先の、道道813との交差点もそうだ。これらの交差点は、牧草地ど真ん中、根釧台地の重要ルートが交わるというのに信号も民家も無い平地まっただ中。何か厳しく頼りになるような味わいの、根釧台地ならではの風景だと思う。

 道道813はいよいよ202kmコースも中盤の核心区間。

 防風林の後、北上区間へ向かう道道928との分岐を過ぎると、奥別寒辺牛への往路だ。奥別寒辺牛についたら、折り返してそのまま同じ道を丸々戻って来るという、202kmの最重要区間である。

 緩やかな起伏の牧草地に直線基調の道が続いてゆく。

 少し先では根釧台地のハイライトとも言うべき、浜中町手前までの一直線区間が始まる。

 丘を越え谷を越え、東円朱別・トライベツ・西円朱別と分岐する道の行方を示す地名が替わってゆく。202kmコース中、特に風景の広がりと空間の推移を感じさせる区間だ。

 今日は西円朱別のJA出張所もお休みだ。日曜だからAコープはお休み、とさっき上風連で伺ったことを思い出す。上風連ではそのことをあまり深く考えていなかったが、ここでやっとそのことの意味を私は理解し、水が少し心配になってきた。というよりそもそも、ここが営業していてもいなくても、上風連で水の補給に気付くべきだったのだのだと、今気が付いた。いつもは自販機が店の表に出ているので、ここ西円の出張所で水を調達できる。それに今日はタイヤバーストでの遅れに気を取られていた。全体的に現状を鑑みず油断していた、と言えばその通り。親父ツーリングには至る所に落とし穴が一杯なのに。己の愚かさに悔い入るばかりなのはもう毎度のこと。
 幸い、実際にはまだ水はあるし、結果として言えば西春別手前の自販機まで水は足りた。でもやはり、やや心細い思いをしたことも確かではあった。

 根釧台地まっただ中のこの道でも、いつもの強風は無い。まだしばらく風が無いと思っていいだろう。

 東円朱別への分岐、トライベツへの分岐を過ぎ、一直線の道が丘を越え谷を越えてゆく。先の遠くが、道じゃなくて森になっているのが見え始めた。いつも、あの手前に一直線区間の終わりがあるのだと思う。しかしいくつか丘と谷を越え、最後に丘を下って一直線区間の終わりが現れるまではすぐじゃない。

 一直線区間が終わってしまえば、もうそこが森だか何なのか気にする必要は無い。もう次の目印、浜中町と厚岸町の町界に気が向いている。この谷間もいつも強風に悩まされる場所だが、今日は相変わらず風が無い。比較的、というかかなり楽に、知った風景を眺めている気がする。

 牧草地と茂みが拡がる谷底から台地に登ると、牧草地と防風林の中に牧場や廃校が点在する高知だ。あとはすぐ奥別寒辺牛、と思ってはいても、やはり地図で見るなりの距離はある。

 距離と共に、道の両側に続く防風林や牧場や牧草地に、整然とした開放感が感じられる。それは町界の谷の向こう側、浜中町区間での突き放されるような孤独感とか台地と空の境界を意識するような広がりとはまた別の、厚岸町区間ならではの雰囲気だ。いつも奥別寒辺牛までやってきた、という気分を盛り上げてくれる。

 10:30、折り返し地点の奥別寒辺牛着。道道813はこの先、広大で底知れない谷底の別寒辺牛湿原に降りてゆく。こちらは人里なのに奥という接頭語が着いているのは、地名が厚岸基準だからだろう。或いは、この辺りは厚岸町としては近年開拓された場所なのかもしれない。等と思いながら、交差点の糸魚沢への行き先看板を眺め、糸魚沢駅も廃止されちゃったなあ、と思う。★ 前回、10:25にここを折り返し出発したこと、それは202kmコース訪問の中じゃかなりの好調ペースだったような記憶がある。だとすると、何だかか急に遅れを取り返したのか。というより、もう訳がわからなくなってきた。何はともあれ現実としてこのペースなら、少なくとも11時台には北上区間への分岐に着けるはず。それならいつもの順調ペースだ。幸いチューブのバーストの後、その後タイヤの心配は無さそうだし。もうあまり細かいことは考えず、今日のツーリングを楽しんでいれば良いのだ、と思うことにする。


 帰路も当然の様に向かい風は無い。

 特に身を削られるような向かい風とか追い風で驚くべきペースとかそういうことが無い、しかも雨の心配とか晴れすぎて焼かれるように熱いとそういうことが無い、平穏な根釧台地なのが有り難い。

 まあしかし、帰路で眺める西円取扱所には、やはり店の外に自販機が無いのであった。これだと水が買えない。以前は絶対外にあったはずだ。

 11:10、道道928分岐着。浜中町・奥別寒辺牛への折り返し区間が終わり、コースはここから後半の北上区間に推移することになる。確か過去の一番速いときに、ここには11時過ぎに着いていた。これなら今日は順調な進行ではある、と思っていい。やっと、焦らず急がずのんびり落ちついて、しかし粛々と進める気分になってきた。

 道道928の北端部、コースが北西に向かい始める変曲点の辺りは、毎回代わりばんこにコースを変えている。どっちも四角形の2辺であり、距離は殆ど変わらない。

 今日は道道928を長めに通る、内側廻りにしておく。道道だというのに農道の外側廻りと比べて、何回か丘と谷をまともに横断するの直登があるのが、こちらはしんどい。でも丘の上の分岐や直角カーブに、妙な風格というか西部劇っぽさが漂い、雰囲気ある良い道だとも毎回思う。


 コースは北西向きに自衛隊矢臼別演習場の北に沿ってゆく。左手演習場側には、カラマツの大森林が殆ど切れることが無い。一方右手には、緩く波打つ牧草地が広がり始める。というより、雲が無い時には、ここで知床山脈まで一望できるのだ。開陽台みたいみたいに見下ろす眺めじゃなくても、根釧台地の広大さを実感させてくれる、202kmコース後半ハイライトの一つなのである。

 ということを何度か通ってから私は理解できるようになった。そしてそういう展望が拡がることを知ってはいるものの、ここ10年ぐらいそういう事態に出会ったことは無い。とは思いつつ、雲の切れ間からそろそろ青空と陽差しが出始め、かなり暑くなってきた。どうせ雲が多いのだ。あまり暑くなってほしくない。

 11:55、別海町大規模育成牧場着。相変わらず左に矢臼別演習場のカラマツ大森林、右に広々と牧草地が拡がる。根釧台地202kmコースを構成する横方向銘道、北側山裾の道道885・150・町道19号、南端の道道813、そして矢臼別・別寒辺牛北側のこの道。どれも北海道のどこと比べても何ら見劣りのしない、いつまでも訪れたい素晴らしい道だと思う。そういう箇所ばかりっちゃあそういう箇所ばかりだが、このコース、本当に濃密なのだ。

 地形と牛の柵を目印に、いつもの私的展望ポイントで少し足を停めることにする。北側の牧草地を眺めてはみても、今日は相変わらず雲が多い。牧草地の向こうに遠景や知床山地が全く伺えない。

 等と思いながら、サドルバッグの食料を少しづつ食べてゆく。少しづつ行動食を食べるのが楽になっちゃった身体に、クロワッサン(特にミニクロワッサン)は食べやすくて大変都合が良い。まあ、おにぎりも随分お世話になったし今でも嫌いじゃあないんだが。

 西春別の自販機まで、まだもう少し。そろそろ水の残量が心配だ。すぐに尽きるという程じゃないので、確か国道272の手前に現れるはずの自販機までは保たせることは可能だろう。しかし自販機が撤去されていたら、マズいことになる。まあ、ヤバくなったらどこぞの牧場で水でもいただくか。こういうのんびりしたところが、延々と無人の大森林が続く道北縦貫道道とは根本的に違う、根釧台地のいいところだ。

 南側の矢臼別演習場が成長途上のカラマツに替わり、その後牧場に替わった。北西に向かっていた道が北に向かったりまた北西に向かったりし始めると、そろそろここまで続いた中西別から西春別に移行し始める、と思っている。

 分岐の行き先を示す看板の地名は中西別から西春別に変わたものの、相変わらず自販機は現れない。まだかまだか、と思っていたら、やっと登場してくれた。まだボトル残量はあと2回ぐらいぐいっと飲める感じではあったものの「やったー」と自然に声が出るくらいに、そろそろ給水したくなっていた。そして自販機は撤去されていなかったのだ。良かった良かった。
 自販機の前でとりあえずペットボトルを1本ごくごく飲み干し、こういう点では、202kmコースも大分裁けてきて難度は下がったと言えるかもしれない、などと思う。さっきまでかなり心細かったのに現金なもんだ。
 番犬がワンワン吠えながら寄って来た。優しさを心がけ、ニコヤカによしよししてやると、向こうも態度を軟化させてくれ、こちらを襲ったりしない。話せばわかるのだ。いろはす2本をボトルに入れ、残りをまたがぶ飲みし出発すると、その番犬がしばし後を追ってきて焦った。牧場の端で引き返していったのは、番犬としての業務範囲なのだろう。また来月会えるといいね。

 西春別(より南側の牧草地だが私は202kmコースでは便宜上この辺をそう呼んでいる)から泉川は、地形に沿っているわけでもない線形の道を、分節的に乗り換えてゆくイレギュラーな分岐や変曲点が続く。GPSトラック無しではなかなか辿りにくいんじゃないか、というエリアだ。

 過去の石川さん手描き202kmコースの地図では、この辺から根釧台地北西縁の道道13まで、特に道道13合流手前の傾斜地に直交区割りの牧草地が続く辺りは、何種類かの経路があるように思う。

 実際には過去に通ったどの道も、防風林や開けた牧草地、谷底の不気味な林など、泉川という場所の豊かな個性を感じさせてくれる風景ばかりだった。ただ西春別と泉川の間には谷がいくつかあり、道が地形に沿っていないため、この辺で道をどう選ぶかでしんどさはかなり変わる。
 このため、この辺は何処を通っても楽しめるということだと勝手に解釈し、石川さんの手描き地図から少し外れたりして毎回経路を変えることにしている。

 前回は、国道272に沿った経路を気軽に選んでしまい、現地で大回り過ぎたかとか考えすぎで実際は既済経路が多かったとかちょっと後悔したような記憶がある。今回は、比較的楽にこの辺の経路をこなすことを前提にいろいろ考えていた。しかしそのコースはGPSに入れるのを忘れてしまっていた。そこで、うろ覚えに計画を思い出しながら走ってみた。結果として結構あっけなく道道13に合流できてしまった。また、開陽に戻ったら距離はほぼ200kmだったので、もう少し大回りしても良かったかなと思う。

 ところで、西春別から泉川に来た辺りに、仮設みたいなお店でソフトを売っているのを発見した。ちょうど暑くなっていたものの、ここまで来たらながかわ商店の自販機まで行っちゃおうと思い、結局通過してしまった。間違いなく有り難い202kmコース上の補給施設なので、次回通ることがあって開いてたら立ち寄ることにしようとも思う。

 そしてもう1箇所。直交区割りの牧草地まっただ中で、自販機を発見してしまった。今後存分に活用させていただくことになると思う。


 根釧台地縁の標高が比較的高い緩斜面を、道道13は虹別へ下ってゆく。広々とした開放感は、202kmコースでも随一のものだ。202kmコースで随一なら、北海道でも随一と言っていいだろう。
 道道13に合流するまで、周囲は広々とはしていても、ちょっとどこにいるのかよくわかりにくいような比較的漠々とした雰囲気が漂っていた。台地上や谷間にイレギュラーな線形の道が続き、周囲は牧草地に防風林に茂みが次々入れ替わり現れていたからだ、  それがここでは、一面に拡がる牧草地に広めの道が行く手に下ってゆく。裏摩周や西別岳が俄然近づき、時々地平線かと思うような遠景が展望される。風景が明快な開放感を伴うこと、そしていよいよ根釧台地も北側山裾区間に戻ってきたことが実感できることが、この道を印象付けてくれる。

 国道243の少し手前で町道を経由しておく。ちょっと登り下りがあるものの、国道243を迂回するという以上に、牧場から丘の畑を越えてゆく完結した纏まりが感じられる区間だ。

 14:45、萩野着。国道243を渡って道道895へ。いよいよ北側山裾の1本道。

 道沿いの防風林と、左側に俄然近づいてきた裏摩周の山々が、いよいよ202kmコースも終盤だという気にさせてくれる。ここまで来れば、開陽までもうあと30kmぐらい。

 上虹別から西別岳登山口、標茶・中標津町界。道はほとんどずっと一直線だ。

 空はやや薄曇り。根釧台地の中でも風景が大好きなこの道で、改まって脚を停めるという気分でもなく、やや受動的に風景の中に身を置くことができている。少し幸せというか、しかしそういう普通の幸せを噛みしめ、てれてれ通り過ぎてゆく。

 15:20、養老牛ながかわ商店着。もうすっかり普通のペースに乗れている、というより走ってみたらかなり好調な行程かもしれない。解けた気分の安心感とともに、そろそろ疲れも感じ始めている。この段階で出発から179km。ちょっとぐらい疲れても、文句は言われないだろう。
 交差点など眺め自販機で休憩していると、道の彼方に展が現れ、近づいて車になり、信号で停まってから去って行った。この道は初めて来た1986年に比べて大分車が増えたと、最近よく思う。


 15:30、養老牛ながかわ商店発。いよいよ開陽台までの最終局面、あと20kmちょっとで17時まで残り1時間半。

 養老牛から旭新養老牛へは、北側に迫る西別岳の手前に牧草地が続く。整った形の山々を背にした草原に、空間と風景の拡がりが感じられ、北海道でも私的銘道の一つになっている。初訪問の1986年以来、晴れやら雨やらの思い出も多い。

 今日は空に雲が多い。山裾や牧草地、俣落や開陽方面へ続く遠景は霞んでいる。私的名所の数々であまり脚を停める気にならないのが、行程の進行上は好都合だ。ここで天気がいいと、脚が停まりすぎて全然前に進めないらだ。

 かなり高くなっていたカラマツの防風林は、一部の区画で全部伐採されていた。少し驚いたものの、どこの防風林でもよく見かける、新陳代謝のようなものだ。次にまたここに植樹された森が高くなるのは、30年後ぐらいかもしれない。その頃私はもう北海道には来れないだろうな、と、そういう森に出会ったときにいつも思う。でもいいのだ。今その時その時を、その場所で精一杯幸せに過ごすことができれば。だから精一杯幸せに過ごすようにしよう。と最近は思うようになった。

 北進から俣落へ、道道150には根釧台地随一の坂がある。豪快な下りのこの区間は、1度は通っておきたい道だとは思うものの、下り以降の風景はやや穏当ではあり、1度通れば十分だとも思う。202kmコースの時だけじゃなく、私は開陽・俣落・北進間を、いつも少し下手の町道を経由することにしている。私としては長年の試行錯誤でこういう経路になっているのだが、根釧台地マスターの石川さんにとっては「ああ、そっちですか」ぐらいの感じではないかとも思う。

 思い出一杯の楽しい道が、そろそろ疲れ始めている202kmコースの終盤を、とてもドラマチックに私に見せてくれる。

 16:35、俣落着。開陽台入口へ登り始める交差点を曲がると、チャリダー風の外国人の方が後から付いてきた。交差点の直前で追い抜いた方だ。

 開陽台入口、地平線が見える場所でいつものように、というより10%へ向けて少し脚を停めておく。と、その方も立ち止まり、「Great・・・Great!」と地平線に感嘆していらっしゃる。間違いなくいい人だ。

 この後標津のキャンプ場に向かうというその方を説き伏せ(私はここからすぐの場所に宿まで行けば今日の行程はお終いという事情はお話しした)、一緒に開陽台に向かうことにした。


 いつも202km最後のこの坂は押している。200km走った後に10%を登る気がしないからだ。今回は行きがかり上、最初は少し乗車で登ってゆくことにした。その方と片言英語と身振り手振りでお話ししながら登ってゆくと、退屈しないというより意外にも坂を登れる。

 少し登ったあたりで右手に開ける西側の丘や、一旦斜度がほんの少しだけ緩くなる展望ポイントで、次第に拡がる空間にその方はOh!とかWao!とかGreat!を連発して顔色を変えて喜んでくださった。そういう場所で脚を停めたものの、結局最後まで押さずに乗車で開陽台に辿りつけた。嬉しかった、というより我ながら驚いた。おれもやればできるのだ。

 16:55、開陽台着。
 「私は宿が近いのでまずは展望台に向かう、でも売店は17時に閉まっちゃう」とお話しはした。しかし、その方も一緒に、まずは展望台を眺めに来てくださった。そりゃあ駐車場からの眺めをみたらそうでしょう。展望台の建物が無かった昔は、ここが開陽台の展望台だったのだ。

 展望台から拡がる今日の根釧台地は、言ってしまえば曇りなりの根釧台地である。陽差しはあまり出ていないし、思っていたより雲は低い。曇り故に遠景の空気が澄んでいる場合は過去にはあったものの、今日はそういう訳でもない。

 しかしやはり、目の前に根釧台地がどこまでも拡がっている。それを存分に眺めて実感し、その空間感覚に衝撃を受け、言葉を失う。202kmを経て辿りついた開陽台のこの眺めが、根釧台地のご褒美だ。

 夕方の風景と涼しい風の中で少し360°の展望を見回した後、17時過ぎだというのにこれから標津のキャンプ場へ向かうというその方を後に残し、私はもうあと3kmの民宿地平線に帰ることにした。宿が近いと本当に気楽である。気楽な行程で良かった(すみません)。

 17:20、民宿地平線着。GPSによると、距離は200kmほんの少しオーバー。下回らないで良かった良かった。思えば泉川でもう少し大回りしても良かったかもしれない。あの辺が202kmコー史の鍵なのだ、とつくづく思った。まあ今回は、序盤でバーストがあったしね。でも、終わってみれば2年振りの202kmコースが好調だったことはとても嬉しい。

 8月は初の逆回りで行ってみよう。開陽台はやっぱり最後に回すかな。

記 2024/10/17

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Last Update 2025/2/3
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