天塩→佐久
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→歌登
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→仁宇布
140km
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4時に起き、すぐに天気予報を確認。昨夜と変わらず、5〜6時降水確率60〜70%、7時以降20%に下がってそれ以降は晴れだ。SCWでも、その時間にいるべき辺りで7時には雨が上がるようだ。やはり2004年以来のロクシナイ峠に向かった場合、その時間帯は雨だ。あちらに行くわけにはいかない。標高は低くても道北まっただ中の谷間、そしてマイナー道道である。熊の心配が怖い、というより危険がアブナイ。というわけでやや受動的に、今日のコースは2014年以来の日本海沿岸と道道119経由に決定だ。
窓の外はまだ大雨だ。序盤、海岸沿いの静かな細道、更岸開拓農道はダートがあるので雨だとパス、国道232一択ということになるんだろうな。多少車はいても、その方が今日は都合が良い。とはいえやはり車に水を飛ばされて頭から濡らされるのは勘弁してほしい。とにかく雨が上がることに全精神力と念力とお祈り力を集中させておく。
晴れた後は至るところで最高30℃とか31℃ぐらいに上がるようだ。これはこれで、開けた牧草地での悲惨な事態が予想される。毎日の事だが、もう少し天気の振れ幅が少なくなってほしい。できることは水分の事前準備と、早め早めの進行だ。
5:10、天塩温泉夕映発。
どうせ途中で国道232に移ることは予想されていても、最初は宿の前から続く開拓農道町道浜更岸線を行ってみる。更岸川を渡ってもしばらく町道を進んではいた。しかしダートが見え始めた段階で諦め、早々に国道232へ。
雲は未だ低く時刻にしちゃあ辺りはかなり暗い。そして天塩から離れると共に雨は強まり、4時頃見かけたような本降りに変わった。4時にこの雨を眺めているので、特に絶望感とか無力感とかは無く、やっぱりそうなのかという気しかない。
雨中の路上で、淡々とした気分になって脚を回し続け、白黒みたいな景色が過ぎてゆくのを眺めていた。それでも5時半を過ぎたら雨は弱まるだろう。なってほしいと期待はしていた。
5時半にはまだ雨は弱まることはなかった。天気予報が遅れるのもごく普通の現象だから、それ自体にあまり驚きとか疑問とか焦りは無い。7時までこんな感じなのかもしれない、とも思っていた。
しかし5時50分を過ぎたぐらいに、突如前方南の雲が彼方から切れ始めた。空の色は明らかに雲と違う。あれは晴れた朝の空だ。まだその辺りは遠いように見えるものの、あの晴れがこの後一気に北上して天気が変わるんだろうなと思った。
やっと、夜が明けたという気分になった。そして、ここまでいかに暗い雨の中を黙々淡々と進んできたかを改めて思い出させられた。どういう朝でも、やはり朝は人間の希望なのだとも思った。
6:00、啓明で道道119へ。交差点で急に弱まった雨は、内陸に向かい始めるとすっと収まってしまった。さっきまで国道232を南下していたのが今は道道119で東に向かっているため、その分南からやって来る晴れに近づく速度は遅くなっているはずだ。しかし晴れがこちらにやって来る速度は予想以上に速く、谷閧フ南側の山の上の厚くしつこそうな雲が一気に晴れた空に替わるのに、余り時間は掛からなかった。それとともに路面は急に乾き始めていた。スリップに少しは気を遣わないので助かる。
前回2014年も、道端の萬屋に自販機を見かけたで休憩したなと思っていた清川では、今回萬屋そのものが無くなっていたようだった。しかし、その先すぐ近くの住宅前に自販機を発見。まるで西部劇の牧場が無くなって、すぐ先に移っていた、そんな現象だ。こういう有り難い自販機には表敬訪問せねば。
コーヒーを飲む間、雨上がりっぽい風が吹き始めた。と思ったら空気がからっとした感触に変わり、出発してみるともう路面はすっかり乾いていたのだった。佐久間での軽いトンネル越えを前に、とりあえず雨は安心してもいいだろう。
清川の先から平地が無くなって屈曲し始める谷間に沿って、道道119は先に進んでゆく。
いつまでもあまり斜度が上がらないのは有り難く、あまり登った記憶も無いのでこんな感じで峠部分のトンネルをさらっと越えちゃうんだろうと思う。実は前回、トンネルがどんな感じだったかもあまり憶えていないのだ。
まだ時々水滴が空気中にぱらついているものの、空がこの時間の普通の明るさになり、青空も見えるようになり、時々陽差しが現れては失せるようになってきた。あとは道端に迫った茂みから熊が出てこなければいい。頼むぞ。
だいぶ進んでおもむろに斜度が上がり、谷底からの離陸が始まったと思ったら、すぐ峠部分の佐久越橋・咲花トンネルがカーブの向こうに現れた。そしてその少し前に突然、雲が一気に動いて空から消え、劇的に陽差しが照りつけ始めた。周囲の風景、森の、風景のニュアンスは一気に変わった。山深く、路上にまで押し寄せ人工物を潰してしまう茂み全体の生命の重苦しい圧迫感が、とたんに全部生き生きと上昇へ転じた。
早朝から真っ暗だったからそんなことを思うのかもしれない。でも、森のこういう変化は初めての経験じゃない。近頃は、これは葉緑素が日光で活発な状態になる現象なんじゃないか、などとすら思っている。
何はともあれ今は、緑も空も人工物も、色濃度と彩度が一気に上がった上に、さっきまで降っていた雨の水分に鋭い陽差しが反射して、風景全体を更に無数の細かいきらきらで彩っている。目がチカチカする程だ。これが夏の北海道だ、と思った。何度来ても驚きが感じられるのが北海道の凄いところであり、こういう風景の中に身を置けることは有り難いことだと思う。
しかし一方、路上の気温上昇も凄まじい。あっという間に暑さ、というより熱さを感じ始めた。まだ7時なのに。今日も気温がこんなもんじゃなく上がるんだろうなと覚悟した。まあ、まだ木陰は涼しいですから今のところは。木陰もそんなに涼しくなくなった時悩めばいい。だってそれ以外やりようがないじゃないか。水は十分に準備しておこう。
咲花トンネルの佐久側、下り区間は森みたいな茂みみたいな抑揚の無い無人の谷間で、記憶よりも意外な長さがあった。周囲に牧草地が現れたと思ったら、もう国道40との合流点近くだった。
7:30、国道40合流。次は24km先の音威子府を目指す。
両側を低山に囲まれ、しかし悠然と堂々と谷間一杯に拡がって続く天塩川。基本的には広葉樹林、時々牧草地や畑が拡がる狭い平地が現れる。谷間の底を天塩川に貼り付くように、北岸に宗谷本線、南岸に国道40が淡々と続いてゆく。屈曲した谷間を貫通するトンネル以外に天塩川と両岸の山との位置関係が変わらない。地形も景色もあまり変化が無い道だ。音威子府まで1/4を過ぎた辺りから先は牧草地と畑が途絶え、広葉樹林だけが続く。こちらもやはり風景の推移を受動的に浮け流すような、黙々と淡々とした気分で脚を進めてゆく。僅かに登り基調でところどころ10mぐらいのアップダウンが現れるものの、今日は弱い追い風が吹いているっぽくて意外に疲れず、近年の訪問の中ではいいペースであるのが気分が良い。もちろん追い風込みのペースなので、調子に乗ってはいけない。
ところどころで密な森の隙間に、天塩川が見えたり川原が開けたりした。川は昨日の大雨が影響しているのか水量が多いように思われる。氾濫寸前の泥水濁流状態というわけじゃなく、過去に見たやばい状態の時より大分安心感はあるものの、やはりなみなみとした状態かもしれない。川原の石原のところどころにあまり落ち着かない状態っぽい流木が転がっていて、昨日の宗谷丘陵区間での大雨を思い出された。
この間、周囲は予想以上にどんどん暑くなっているのであった。まだ8時なのに。他人事みたいに「今日はどんなに暑くなるんだろうなー」などと思うことにした。
佐久と音威子府の間、としか憶えていない筬島は、中間点というより音威子府から6、7kmぐらいなのを、通過して改めて気が付いた。そして松潤(は当面の間徳川家康になっちゃったので松浦武四郎)の北海道命名地点が音威子府から3〜4kmなのも意外だった。両方とも憶えたぞ。
等と思っているうちに正面に谷間の拡がりが伺え始め、道端に牧草地が、そして行く手に音威子府の市街が登場。谷間が開けたせいもあるのか、地図確認で脚を停めると風が止み、改めてかなり暑くなっていることを思い出す。今日はこの先ヤバいぞ。
8:40、音威子府着。まだ補給物資は一杯あるし、無理無いペースで進んできたためそんなに疲れていないのだが、あまりに暑いのでセイコーマートでちょっと補給休憩することにした。ここで休むと、20分ぐらいの間に更に気温が上がりそうなのは予想はできるものの、何をやってもどうせどこかで気温は上がるのだ。もうあまり考えないでおく。パンとパック生野菜を仕入れてばくばく食べつつ、同業者の若者チャリダーと少しお話しした。元気そうに、今日は稚内まで行くと教えてくれた。
9:00、音威子府発。
少し休んでいる間にやはり気温は上がったようだ。8時40分から9時まで20分間。字面だけでも印象はかなり違うし、午前中時刻が遅くなれば暑くなるのは当たり前だ。そんなことはわかっているのだがとにかく暑いもんは暑い。何故こんなに暑いのかというと、路面の照り返しが大きな要因なのだと思う。北海道の暑さは、陽差しと舗装路面とワンセットなのだ。
雰囲気の素敵な天塩川沿いの細道なんて行く気がしない。もう面倒だ。咲来まで国道40で直行する。暑くてしょーがない一方、過去の訪問でしんどい印象があった無駄なアップダウンを、今日はさくさく進める。特にこちらからだと登った後の下りが緩いもののその分長く感じられる。なかなか調子は悪くない。
咲来から道道220で咲来峠経由、歌登へ。
初っぱなで台地に乗り上げ、その後は台地上を着々淡々とゆっくり登ってゆく。緩斜面を囲む周囲の山々や道端に続く白樺の静かな森、牧草地、ソバ畑や茂みの中の廃墟らしい物体を眺めつつ、厳しい陽差しが辛くてしょーがない。調子に乗って音威子府から国道40を進んでいる間に、気温はますます上がっているようだった。
おまけに音威子府までの追い風が、向かい風気味の横風に変わってしまっている。丘陵と森方向から吹き続ける風が時々強くなり、緩い登り基調とともにペースが国道40に比べてがくっと落ちる。陽差しが照りつけている間は、鮮やかな景色も静かな1本道も熊の恐怖も、全てが他人事だ。雲が動いて辺りが陰になると、少しは意識が戻ってくる。
ただ風景は淡々と展開しているように感じられる。そして前回の記憶より少しは速いような気もする。国道40での快調な印象とともに、今日の調子は悪くないかもしれない。昨日輪行日だったしね。でも単に風景に見慣れて淡々と感じられるだけかもしれない。などと思考は自問自答気味になってゆく。
10:00、咲来峠着。咲来からの標高差がせいぜい100m台だったこともあり、登りそのものでは疲れちゃあいない。でも、まだ暑くてしょーがない。過去の訪問ではここで風の温度が下がってオホーツク海を思い出させる場合が多いと思っているのだが、今日はまったく変わらない。それに峠から本幌別方面へ降りてゆく森の見晴らしが悪く、広々とした開放感が感じられない。樹が高くなっているような気がする。
期待していたオホーツク海の涼しさが現地に来てみたら全く感じられない。そういう裏切られ感と相変わらずの暑さで絶望感に苛まれつつ、まあそれでも受動的に、気を取り直して下り始めると、こちらでは向かい風が追い風に変わっていた。しかも強風だ。ツーリングは捨てる神あれば拾う神ありである。
あまり自分で脚を回さないようにしても、本幌別をあっという間に通過。途中既知の撮影ポイントで脚を停め停め牧草地の丘陵を一杯楽しんで、晴れていると緑がこよなく鮮やかで伸びやかだ等と嬉しくなる。走り始めると追い風アシストでかなり好調に下れてゆく。この道で向かい風が悩ましいことも良く憶えているだけに、尚更ひたすら楽しい、牧草地の道である。やはり良い道だ。
10:55、歌登着。
この盆地で一番晴れる傾向がある歌登だけに、とにかく暑い、暑い。物資を仕入れたら店の外に出ないといけないものの、この暑さに慣れておく必要がある。今できることは、ぐだぐだ言わず身体が冷えそうなものを食べておくことだ。アイスとグランディアコーヒーで、助かったという気になれてしまえば、軒下にいる分には陽差しと照り返しの中で辛くて辛くてしょーがないということもない。これならまた出発できそうだ。もっと辛かったことはいくらでもある。水を十分に持って行けば仁宇布まで走れるだろう、という気になれた。
11:20、歌登発。
出発してみると、やはり開けた歌登の盆地では、空から照りつける強い陽差しと路上の照り返しが両面焼きで襲いかかってきた。暑い。とにかく暑い。やや強めの向かい風が暑いのは、盆地に溜まった熱気が暑いんだろうな。もう無理、という感じでもないものの、いくつかの要素の相乗効果でやはりかなりの暑さになっている。
辺渓内から志美宇丹峠へ登りではあっても、森の木陰が路上に張り出てきて、むしろ助かっていた。しかし峠を越えて志美宇丹の牧草地が拡がると、盆地効果なのか更に暑さは厳しい。
毎度の撮影ポイントで立ち止まると、路上の暑さがむっと襲ってくる。気温は天気予報ではたかだか28℃ぐらいだったはず。気温としてはこれぐらいなら埼玉のグリーンラインで(何とか)こなせているので、これほど暑く感じるのは、陽差しと照り返しのせいがいけないのだろう。
志美宇丹の集会所バス停自販機でコーヒー500mlを一気飲み、というより身体の中に冷たい水分を入れておく。驚く程一気に水分が、身体の中で吸収されてゆく。気持ちと身体が少し落ちつくのが自分でよくわかる。助かったものの、いや、水分がもう少し頭を冷やしておいてほしいとも思う。自分のヘルメットに鍔が無いのは、やはり問題だとも思う。
水はまだ1.5lペットボトルに一杯だし、さっき500mlを1本余計に買っておいた。仁宇布まで心配は無いだろうとは思う。そして、空に雲が増えて来ているのは助かる要因だ。晴天の風景は一昨日の朝眺めてしまっているので、夏の1日で一番暑いこの時間、晴れより何より少しでも気温が下がることが有り難い。
12:35、志美宇丹発。一旦谷間が狭くなり、乙忠部への分岐を過ぎて再び盆地が拡がって上徳志別へ。
拡がる牧草地を囲む山々の伸びやかな風景が、今日は恨めしいほど暑い。しかし雲はますます増え、直射日光はほぼ遮られている。大曲までの山間谷間区間が近いからだろう。このまま山中に入れば少しは何とかなるだろう。なってほしい。
大曲への登りに入ると、志美宇丹峠と同じく木陰が有り難い。でも、お昼の陽差しは高いので、一昨日より木陰の部分が少なくなっていることがよくわかり、もう少し木陰が欲しくなってしまう。
いくら何でもここなら涼しいだろうと思いながら脚を進め、やっと辿り着いた天の川トンネル。入った途端、果たして想像以上の涼しさだ。冷蔵庫に頭を突っ込んだように、脳幹を一気に冷やしてくれた。それぐらい暑かったんだなあ、などとトンネルの中で他人事の様にここまでの暑さを思い出す。後で思い出しても、この涼しさで今日は助かったと思う。仁宇布まで辿り着けないということは無いにしても、気分ががらっと変わった、山の神様からの贈り物だった。
そして、トンネルを出ると空に雲が増え、天気は曇り基調に変わり始めた。風も強くなってきて、向かい風は追い風に変わったり、何だか気流にもみくちゃにされそうなほどの乱気流に変わったりした。しかし、風は森を抜けてきているだけあって明らかに涼しく、照り返しも無くなったことで、辺りの気温は確実に下がって更に助かった。山深いこの道ならではの場面転換なのだった。
ここまで来て雨さえ降ってなければ、あとは西尾峠まで登っていればいい。長い登りではあるものの緩々のたかだか180m。熊が出ないことを祈り、もはや逃げすらしない物欲しそうなキタキツネを無視し、淡々と脚を進めてゆく。
谷底から道が離陸し緩斜面を直登、欺し峠はもうGPSの標高でわかっている。峠というより鞍部の背中を乗り越えると、仁宇布の盆地の上空に雲が溜まっているのが見えた。仁宇布は薄暗い曇りに違いない。
想像通りに、仁宇布の牧草地はもうすっかり低い雲が空を覆っていた。2日前に晴れの風景をたっぷり眺めた後でこういう状況だと、あまり写真を撮る気にならない。一目散に交差点へ降りてしまう。一目散とはいえ、向かい風と言うより乱気流でハンドルを取られそうだ。
暴風の牧草地を登り返して15:05、仁宇布ファームイントント着。到着してみればほぼ15時。至って好調な行程だったのかもしれない、などとすら思う。いや、あんなに暑くて泣きそうになってたんだけどね。
この時点で吹き荒れていた風は、夕方から嵐に変わった。吹き荒れる風が木々を振り回すように揺らし、引きちぎられた木の葉が空を飛び、落ちていた。夕食時、手摺に立てかけておいた自転車ががたんと倒れたところで、宿主さんが自転車を食堂に入れてくださった。その時は恐縮していたが、間もなく大雨が降り始めた。或いは仁宇布ではよくある展開なのかもしれない。本当に助かった。
明日の天気予報は6時まで雨、12時まで曇りでその後旭川盆地は晴れ。早朝に雨は残りそうだが、多分松山峠までだ。その後は問題無くなるだろうから、多少雨っぽくても行ってしまえ。久しぶりの美瑛自走到達が可能だろう。
しかし天気はますます荒れたようだった。夜中に凄い風と雨の音で何度か目が覚めた。その度にいまは布団の中、自転車も屋内だし、とりあえず屋根は飛ばされそうだがまあ百戦錬磨のファームイントント、飛ばされやしないだろう。心配が無いのは大変有り難いことだ。明日のことは明日考えよう、と寝ぼけつつ思うのであった。この段階では、まさかこの嵐が翌日の行程に影響するとは思っていなかった。
記 2024/1/28
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