北海道Tour23#12
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北海道Tour22夏で、ファームイントントの代替わりを伺った。近年、私がこれまでお世話になってきた宿が諸般の事情で次々閉まっている。理由はコロナ禍とは別に様々であるものの、好きな宿に泊まれなくなるのは大変残念に思っている。ファームイントントも、ひょっとして2023年がファイナルになってしまうのではないかと心配した。早くもその段階で、翌年2023年秋のツーリングがファームイントントに決まったことは、北海道Tour22で書いたとおりだ。
秋に北海道に行くなら、私的には日程は9月下旬の連休がまず第一候補だと思っている。天気が一番が安定する印象があるし、前の週には雨や台風の特異日が集中している。
現実としては、2023年夏にファームイントントにお世話になって、実にスムーズに代替わりしたことがよくわかった。このため北海道Tour23夏が終わった段階で、秋にファームイントントへ訪れる必然性は無くなっていた。しかし秋のファームイントントというだけで、楽しめる途中経路と魅力的な宿を繋ぐ私的決定版コースがある。2019年秋のコースだ。そして行くつもりで、既に宿も飛行機も予約済みだ。ならば行くしかない。
初日は旭川空港から朱鞠内湖を目指す。夕方が早くなって夜が寒い秋なので、旭川空港には始発で着いておくことが必須だ。という条件から、便は羽田7時発旭川8:40のエアドゥ81便一択となる。まあ、雨が降ったら輪行前提で便を遅らせる手もあるかもしれない。列車が少ない宗谷本線の連絡も調べちゃあいない。頭の中は晴れるという先入観しか無いし、天気予報も前日まで4日間とも晴れのままだ。
空港まで早朝のタクシー予約もいつも通り、のつもりだったがそうじゃなかった。いつも母のマンションのフロントサービスでお願いする大手会社が、今回に限って早々に埋まっていたのだ。ケッ、しけやがってと思いながら自分でタクシー会社に問い合わせると、有名どころの2社でやはり埋まっているとのこと。一社などは一旦受付後、やはりダメとのお返事が返ってきた。3社目でやっとOKとなり、事なきを得たことは有り難かった。そんなに混んでるのか、コロナ禍開けの連休初日は、と思った。だってそれぐらいしか想像が付かなかったからだ。
せっかくそんなに苦労して予約してタク輪で4時半過ぎに羽田に着いても、エアドゥ81便の出発は35分も遅れた。
エアドゥ81便は途中15分も時間を稼いでくれたのだが、旭川空港への到着は20分遅れ。おまけに着陸した旭川空港は低い雲によるかなり濃い曇りだ。今日は旭川で午前中から晴れ予報だから晴れるんだろう、どこかで。
エアドゥの科学力と飛行能力と努力には感謝しつつ、荷物を受け取って9:15。ちなみにこの便、折り返しで夏にいつも旭川空港から乗る羽田行きのエアドゥ便になる。夏の旅が懐かしく思い出される気がするが、出発前で気が張っているので気分はすぐに切替わる。どんより曇りとは言え。
自転車を組んで荷物を積んで9:50。例によって更になんだかんだ用事がある。
まず、GPSに入れたつもりの予定トラックがGPSに入ってないようなのだ(その後、ちゃんと入っていたのを何故か年末に確認できた)。どうせGPSトラックが必要そうな難所は旭川市街だけだが、旭川市街では効率良く道を選ぶ必要がある。GPSそのものを忘れてしまった2019年、旭川市街で見事に時間を食ってしまったのだ。何かとGPSで因縁が多いコースだとも思う。今回は一昨日までこの旭川市内の通過経路を検討していたし、その経路は大体頭に入っちゃあいるので、あとは地図とスマホとアドリブで何とかしよう。
次はコンビニ補給だ。今日の道、というかこの先明日の名寄盆地か、下手をすると下川セイコーマートまで経路上にコンビニが存在しない。いや、下川は町のすぐ来たの放牧地橋が通行止めなので、町の2km手前から体現へ迂回する必要があり、できれば下川市街への行って戻っては省略したい。この場合、確実にコンビニに寄れるのは、何と明後日の歌登になってしまう。この観点から、できれば旭川市街を通過するまでにコンビニに寄り、明後日午前中ぐらいまでの物資を多めに仕入れておく必要がある。幸い旭川空港にはセブンイレブンがあり、とても助かった。そして結局ここで仕入れたパンが、最終的に翌々日の午前中まで残っていてくれたのだった。
出発は10:05。目論見より遅いのを気にしつつ、とにかく走り始めないと。
旭川空港の台地から降り、ややアドリブ気味に静かそうな道へ。予定経路としては、確か東神楽の手前で忠別川に向かうトラックを組んでいた。地図上では一番近道を選んだつもりだった。しかし、初めて通る道でもあった。曲がる予定の箇所はいつの間にか通り過ぎてしまい、何となく流されるままごく自然に既知の道へ。前回もアドリブに近い状態でこの道を通ったことを思い出す。脚を向けやすい道なのかもしれない。まあ、この辺は旭川市街と違い、多少予定と違っても何とでもなる。
辺りに住宅や店舗が増え、旭川郊外っぽい雰囲気に変わってきた。いつの間にか霧っぽさは失せ、雲が高くなり、ポン川沿いの土手から雲の中に青空が見え始めた。やっと晴れてきたか。
忠別川に合流し、南岸に自転車道が無くなるので北岸へ移ってあとは旭川市内へ向かってゆく。空は一気に晴れつつあり、いつの間にか辺りは陽差しの中となっていた。陽差しは厳しいものの、流石に秋の午前中。暑くて仕方無いという感じじゃないのは助かる。
忠別川では土手の上と、土手の中の川原に自転車が通れる道がある。土手の上からは郊外から戸建住宅が増えて次第に旭川市街へ替わってゆく様子が見えるし、土手の中ではそれこそ真面目に熊が心配な茂みの脇や木立の中に道がある。どちらも大都市の道としては静かで退屈しないいい道だと思う。今日は橋での道路横断時に何かと手間取るのを極力避け、土手の中へ降りて脚を進めることにする。
土手の中で外の街並みが伺えないまま脚を進めてゆくと、いつの間にか右側の丘や既知の橋が見え始めた。嘘、と思うぐらいに意外に早く旭川市街に入っていたのだった。これが旭川という街の、親しみやすい距離感覚なのだと思う。
10:50、旭川駅南通過。
次の忠別橋では北岸から南岸へ移っておく。忠別川と石狩川との合流点を自転車道で通過するために橋を渡る場所は重要だ。
sそして南岸に移るとすぐに、道道71が近づいてきた。この先、石狩川南岸の自転車道は川原の茂みに進んで埋もれてしまうみたいだったので、ここで道道71に移っておく。この辺が今日最大の要注意箇所のはず。
道道71は、江神橋で再び石狩川を北岸へ渡り、というより江丹別への谷間へ入り込んで北上してゆく。これでほぼGPSトラックに描いていた予定通り、旭川市街を通過できたことになる。もうあとはGPSトラックが無いと心配、という箇所は無い。そして嬉しいのは、前回に比べて進行上の貯金ができはじめたことだ。前回は蜂屋に寄った後の出発が10:50、今日の旭川駅通過と同等だ。そしてその後市街地から石狩河岸へ時間が掛かり、更に近文までやたらと時間が掛かってしまった結果、その先の雨宿りも含めて時間が掛かり、宿到着がぎりぎり暗くなる直前になってしまったのだった。今日は少なくともそのときより全然早く石狩川沿いから北上し始めている。この安心感はこの先大きい。前回余裕の無い行程だったため、小雨と迫り来る夕暮れに不安だったからだ。
石狩川から北、ここまでの旭川盆地から谷間が突然一気に狭くなり辺りは森に囲まれ、突然北海道の山間が始まる。
こういう森の中で、いつもの南下方向の訪問だと、行程後半で午後なので気が急いていたり、下りに任せて慌ただしかったりという印象が強い。たまにこちら方向から訪れた時は雨っぽかった。それが今日は、狭い谷間の森にいかにも道北の森っぽい雰囲気を感じられている。もっと言えば、道北に来れた気分になれている。多少大型ダンプが多くて埃っぽいような気はするものの、道内の大都市たる旭川すぐ手前までこういう雰囲気の道なのは、この道の大きなチャームポイントだと改めて思った。いやいやこの後、まだまだ江丹別峠と幌加内町内の国道275と良い道がが控えている。
などと思いつつ、たまに開ける見晴らしの良い畑で脚を停め、少し水など飲んでみた。天気が良くて陽差しは厳しく、秋っぽいどころか暑いぐらいだ。いやしかし、夏と違ってやはり風が爽やかだ。
今日もツーリングまっただ中になっている。来て良かった。
谷間が開けると江丹別中央が近いはずだ。と思っていると、12:05、大変あっけなく江丹別の町に到着。
全然焦らずに脚を進めて未だ12時台前半。全く問題無くここでお昼としよう。既知のお店、「蕎麦の里江丹別」へ入るとお客さんは多いものの、あまり待たずに天ぷら蕎麦大盛りをいただくことができた。香りと味わい豊かで歯切れいい蕎麦、出しの効いたお汁ともに大変美味しい。
美味しいお昼をいただけて、風景は上々。順調すぎる、いや、有り難すぎる。こういう日もあるのだと思うとともに、これこそ北海道ツーリングが好きな理由だとも思い出す。本来こうであるべきであり近年の夏がおかしいとも、もう秋にだけ来ればいいんじゃないか、とも思う。
12:35、江丹別発。次は江丹別峠だ。町外れで裾野の台地に乗り上げかけて、北進方面へは裏道のGPSトラックを描いていた思い出した。
出戻りで蕎麦屋の旭川側まで戻って裏道へ入り直す。かなり前に通ったことだけ憶えているこの道、畦道が舗装されているというだけ、というぐらい細く静かな道だ。道道71沿いに建っていたソフト小屋と濃厚なこちっと美味しいソフトを思い出す。今日はソフトは逃しちゃうなあと思うものの、美味しい江丹別蕎麦を食べたばかりだしソフトはこの先政和のルオントでも食べられるし、人生欲張り過ぎちゃあいけない。今は先に進みたい気が勝っている。
江丹別峠へ登り始めるすぐ手前で道道71に合流。こういう小ネタにもGPSトラックでの計画が効いている。裾から山腹へトラバースして北進の畑を見下ろし始める辺りから、かつて地形に忠実に貼り付いていた線形が直線化されている箇所が散見されるようになった。道幅も拡がり、いかにも今時新道っぽく変わっている。そういう箇所が、前回2019年秋の訪問で工事中だった箇所より多い。地形の入り組んだ部分はショートカット気味に直線になっているので、5~6%ぐらいだったの登り勾配は、ところどころで7%になっているようにも感じられる。馴染みの道に、久しぶりの訪問でよそよそしくされているようにも思え、ちぇっと思うものの、時々展望ポイントにかまけて写真を撮るためには都合がいい。そして展望ポイントから見下ろす北進の蕎麦畑や牧草地は、かつて何度も写真に撮った北進の眺めそのものだ。道の線形なんて、風景の中じゃ小さい要素なのかもしれないとも思う。
妄想とは無関係に、例によって登りは遅い。でも新しくなった表情の道を眺めながら全体の展開を思い出し把握しながら、何となくするするっと登れているように思えるのも、時間が前回より早いからだ。
13:30、江丹別峠通過。ここから今日終着地の朱鞠内湖までずっと幌加内町というのが凄い。以前峠周辺でちらっと眺めることができた西里の谷間と幌加内の盆地は、訪れる度に道端の森が成長し、もはやほとんど見えなくなってしまっている。この木々が伐採されてまた眺めが良くなるときに、私は江丹別峠を登ることができるだろうかなどと思う。最近はどこでもこういう事を考える。時の流れに抗えない残念さはあるものの、むしろ風景の長いサイクルに自分も入り込めている、という嬉しさも感じられる。そういう風に思っておけばいいのかもしれない。
それ以外、幌加内側の景色はあまり変わっている印象が無い。道路改良工事はこちらの幌加内側、登り始め一番下手の方が早かった。今後も優先順位を付け、江丹別峠全体が順次改修されていくんだろうと思う。
盆地に降り、ソバ畑の真ん中に続くいつもの裏道へ。前回の秋の訪問と同じく夏には盆地一杯のソバ畑が一面緑っぽい白に彩られるソバ畑が、大分赤っ茶色ぽく変わっている。でも、晴れだとやはり風景の鮮やかさや空の高さの方が印象的だ。枯れた雰囲気は全く感じられない。それに、まだ白い花が咲いている畑もある。晴れていると下幌加内の風景は、秋でもやはり広々と素晴らしいのであった。
気を良くして夏にいつも訪れる時よりもう少し裏道を大回りした後、熊牛から道道72に復帰。幌加内盆地の山裾で、粛々と落ちついて印象的な風景を味わうことができた。最近経由することが多かった下川経由のコースに比べ、やはり勝るとも劣らない魅力がある、道北有数のいい道であることを改めて実感した。
今のところ食料も水も全く不足は無い。蕎麦は江丹別で食べたばかりだし、バスターミナルの蕎麦屋「せい一」は多分お昼のオーダーストップ後だろう。久しぶりの幌加内市街に脚を向けたとしても、多分バスターミナル手前の自販機で脚を停め、缶コーヒーを1本飲んで通りを眺めるだけになると思われる。それに前回よりかなり早めの進行になっているものの、薄暗くなって朱鞠内湖に着いた前回の記憶があり、今のところは引き続き早めに脚を進めておきたい。この際幌加内市街はパスして、市街東側、雨煙内の畑を経由してみることにした。
初めて通る丘の畑。道端に樹が1本、絵になる場所で脚を停めて少しパンなど頂く。空中を行き交う赤トンボなど眺め、先行きの不安は全く無い。いいツーリングになっている。この先もうひとっ走りして、政和手前のルオントでソフトを食べよう。
14:30、国道275に合流、この先朱鞠内まで国道275だ。まずは政和の盆地を目指す。
狭くなった谷間に、僅かに登り基調の道が続いてゆく。意外に淡々と進めるのは、流石の国道だ。以前の夏の訪問を思い出しつつ、今日はいつも夏に通るときより車が少ないと思う。こういうのなら、国道ツーリングもそう嫌ったもんじゃない。
谷間がどんどん狭くなり、山腹の岩場が迫ってきた。この先政和で再び静かな盆地が拡がることはわかっている。谷が狭くなるほど政和が近づいたt思っていると、その感覚通りに突如行く手が開け政和の盆地が現れた。15:00、ルオント着。
私的にルオントと呼んでいるものの、ルオントは道の駅「森と湖の里ほろかない」の温浴施設の名前であり、私が立ち寄るのはそのうち売店がある物産館だということを今回認識できた。それは、道の駅は営業していても、全体的にがらんと物寂しかったからだ。さすがに3連休の前日だけある。道の駅は人出あってのものであり、お客さんがいなければとにかくどうにもならないものだと思った。それでも、ここで美味しいソフトが食べられるということが、今日の行程を成立させてくれている。とても有り難いことだし、食べてみるとやはりここのソフトはとても美味しい。この際2つ目も頂いておく。
15:20ルオント発。
国道275沿いに民家がややまばらに続く市街、盆地外周の山々を背景にした畑、白樺の森。政和の風景はとてもいい。晴れの日の風景を見ていると、夏の素敵な風景と印象が同じであり、ちゃんと時間が連続していると思う。前回は雲が低くて盆地全体が薄暗く、印象が全く違ってまるで別の場所のようだった。つくづく今日が晴れなのは有り難い。
盆地から次の添牛内に続く台地に乗り上げる展望台(になってしまった道端の台地縁)は、夏に通行客が立ち寄っていく仮設売店が撤収されていた。あずまやだけがぽつんと、砂利敷きの駐車場に建っていることだけが、夏の後1ヶ月の経過を感じさせる。
台地上は添牛内まで開放的な平地が続くものの、道の周りは草の茂みと森が断続したり、茂みと森の合いの子みたいな茂みに囲まれるようになる。西側にいつの間にか羽幌山地の青いシルエットが迫り、夕陽の斜光線が眩しく白樺の森を照らす。政和のソバ畑と対照的な、国道275幌加内区間の魅力的な風景の一つだと思う。
添牛内手前の私的撮影ポイントで写真を撮った後、分岐というより道をくっつけたような国道239の合流点を過ぎ、添牛内の市街を通過。蕎麦屋「ほろほろ亭」を眺め、早くもまた美味しい蕎麦が食べたくなる。もう夕食まで我慢だ。
さっき添牛内の手前で合流した国道239が士別へ向かって分岐し、国道275は再び単独路線となった。こうなるともう朱鞠内まで10km。いよいよ朱鞠内湖まで先が見えてきた。まず確実に明るい内には着ける。
北星までは牧草地が続くものの、その先から次第に次第に谷が狭くなり、辺りは一気に山深い雰囲気に変わる。いくら今日が晴れだと言っても、もうそろそろ日陰がきりっと冷え始めている。森と茂みが何だか高く濃くなって、川原からのそっと熊が出てきても不思議じゃないぞという気になってくる。この時間に通れていることは有り難いことだ。
16:35、朱鞠内着。陽差しはもう大分赤くなっていて、青い影が行く手の町を覆っている。でもまだ空は明るい。日没までもう少しだけ時間はある。これなら朱鞠内湖で夕方の風景を楽しめるかもしれない。では有り難く問題無く、向かってみよう。
湖岸の丘の上に建つ宿の前を通過しても、まだ辺りと空は明るい。最低限、もう宿には着けているようなもんだと安心し、目の前に現れた湖畔へ向かう。
16:55、朱鞠内湖畔着。まだ明るいとは言え、何だか秒速で段々暗くなっているようにも思われる。大急ぎで湖岸の木陰で自転車写真を集中的に撮り、波打ち際へ。
波打ち際とはいえ、彼方から足下まで湖面に波なんか無い。普通の鏡と比較にならないぐらいに平滑な湖面は、夕方の光と空を映すというより発光するように反射していて、ほわんと明るい液体金属というか、まるで未知の物質みたいに手前から彼方の対岸に拡がっている。対岸の森はかなり低くなっている夕陽に直射気味に照らされ、緑の梢と白樺の幹が光っているようによく目立つ。延々と拡がる微妙な起伏の樹海。森の明るい部分と闇、無数の生命に囲まれ、極限まで水平な湖面と夕方の空が対峙する、そんな状態を想像する。今、自分は朱鞠内湖の大空間に入り込めている。朝から交通機関を乗り継ぎ、自転車ではるばる100kmを走って。
手前の湖畔に数人キャンプ客がいることと対照的に、ますますその静かで動かない湖面の精密な平面、空間の大きさが実感される。それは4年前の朝に訪れたときと同じ感覚だが、今回は夕方の真っ赤な光のせいか、ますますその静かさが感じられる。夜の前の静かさかもしれない。この辺、5月にクマが出て釣り客が襲われ、亡くなっている。湖面を数百m挟んだ彼方の湖岸の森を望遠レンズで撮りながら、夕陽に輝く白樺の間に熊でも見えたら怖いぞと思う。いや、近くの対岸の方がもっと怖ろしい。今のところ幸い、それは私が妄想しているだけに留まっている。
辺りが少しづつ暗くなっている。朱鞠内湖の大空間が、夕暮れの少し寂しい雰囲気で一杯になっている。長い影に沈んで一体になってゆく周囲とは対照的に、湖面はますます、非現実的に明るく、少し寂しく輝いている。横からの最後の夕陽も、遠い対岸の白樺を照らしているのがはっきりわかる。こんな風景、狙って訪れて眺められるもんじゃない。
晴天が演出してくれた今日1日の、最大の見ものなのだった。
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17:20、レークハウス朱鞠内着。
洗濯機が故障中とのことで、洗濯ができないのであった。ファームイントントも確か洗濯できないので、3日間洗濯できないことになる。まあ、こういうのは高校時代の旅で慣れている。あの頃は、日中の鉄で真夏の日なたを1日中歩き、汗でぐしょぐしょになった綿のTシャツとかGパンをいつも3回ぐらい回していた。それを思い出せば、秋の極楽ツアー3日間など比較にならない。まあ、そんなことはあまり思い出したくないし、当時58歳になってもこんな旅をしているとは思っていなかった。
現実としては、替えシャツは2枚ある。就寝用のシャツを1枚。これから3日間温存し最終日はそのまま着て帰るとして、今来ているのを含めた残り2枚を、今日を含めた3日間で使い回すことになる。今日は汗はかいたものの、かいたそばからすぐ乾いていたので、明日1日今日のシャツで我慢できない訳じゃない。というより、明日新しいシャツを着たとしても、朱鞠内湖湖岸アップダウン区間ですぐ汗が浸みちゃうだろう。今日風呂に入ったら新しい就寝用シャツに着替え、明日出発前に今日着たシャツに着替えれば、3日目と最終日は朝から新しいシャツを着ることができる。これで3日間、問題無いとしよう。
などと考えつつ、夕食の美味しいダッチオーブンチキンを頂き、今日の行程を振り返る。連休前日の夜なのに、レークハウスには4組のお客さんが泊まっているようだ。さっき夕暮れの朱鞠内湖岸でお話ししたおばさん3名もいらっしゃった。気分上々、近年の私には珍しくサッポロクラシックを2杯も飲んでしまった。考えるのは汗を吸った服の使い回し方法でも、間違いなくとても贅沢で幸せな時間だ。
記 2024/2/17
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