浜鬼志別→浅茅野
(以下#10-2)
→中頓別
(以下#10-3)
→歌登
(以下#10-4)
→西尾峠
(以下#10-5)
→仁宇布
128km
暗かった空が明るくなってきた。窓の外に見えるのは、夏でも何だか寒々しい印象があるオホーツク海と、やはり何だか寒々しい国道237だ。国道237にはナトリウムランプがあるから、夜でも見えてはいる。どちにしても、ホテルさるふつ毎度の朝の眺めである。
部屋の中では国道237の車の音もオホーツク海の波の音も聞こえない。部屋からは一見静かな風景のように見えても、外に出ると常にかなり強い風が、しかも向かい風で吹いていてがくっと来るのも毎度の事だ。今日も今のところは風は無いように見える。でもそう見えるだけでいつも風は吹いているのだ。
それよりも、今日はいつものように空に低く厚い雲がどんより垂れ込めていない。劇的に晴れている。天気予報は午前中オホーツク海側で晴れ、午後は道北全域で曇りではあるものの、降水確率は10%以下。曇っても、終日に渡って雨の心配は無さそうだ。朝の内は珍しく晴れのオホーツク海に会えるのかもしれない。でも、途中で曇り始めても全然おかしくない。何たって天気の不安定なオホーツク海沿岸なのだ。
比較的穏当そうな今日の天気より、問題は明日だ。昨日まで晴れの天気予報だったのが、いつの間にか9時頃から雨が降るということになっている。しかもその後ほぼ終日降水量2〜3mm以上、お昼頃〜午後には4mmなどという数字もみられる。SCWを見直しても、私が通る予定の山間で、それまでずっと薄曇りぐらいなのが、8時過ぎから急に雨雲が発生することになっている。これだと明日は美深→美瑛の輪行決定だ。9時以降が雨なら、美深までは自走で下ることができるかもしれない。しかしこの天気予報が劇的に好転しない限り、今日が終日自転車行程の最終日ということになりそうだ。
どういう事情があっても無くてもやることは同じ、今日も目一杯楽しんでおこう。
外に出て、ポーチから建物が風除けにならない場所まで来ると、やはり今回も強い風が吹いていることがわかった。そして昨日同様、風向きは相変わらず向かい風方向だ。
部屋からはあんなに静かな風景のように見えたのに、現実としては風がかなり強い。そして冷たい。これは猿払村、というよりオホーツク海沿岸北部ならではの特徴というものだろう。しかし空は晴れていて、辺りは例年に無い明るさだ。とりあえずフリースを着込み、内陸へ向かい始めるエサヌカ線の浅茅野まで希望を持って進もう。
5:25、ホテルさるふつ発。わかりきってはいたものの、やはり国道238はかなり強い向かい風の中だ。それでも20km/h出ている。10km/半ばぐらいまで出なかった前回に比べると、ましなのかもしれない。
もっとも、前回の向かい風自体は出来事として憶えているだけで、体験としては見事に忘れてしまっている。今回も今は向かい風に苦しんでいても、そんなことはすぐ忘れてしまうんだろう。登り区間の厳しさ以上に。
道、電線、台地上の茂みとオホーツク海。国道237にはそれだけの風景が続き、ライダーハウスやませ、芦野、猿払、スノーシェッドと目印ポイントが次々現れ、過ぎ去ってゆく。しかし、今朝のオホーツク海岸はいつもの薄暗く肌寒く彩度の低い風景ではない。明るい朝陽しに照らされて、コントラストぎとぎとの極彩色になっている。
風は冷たいものの、フリースを着ていると汗が出る。決して寒くないのは、強い陽差しのせいだ。青空の中に低い雲がかなり早く飛んでいて、朝陽が出たり隠れたりしている。朝陽が出ると眩しくてちょっと困るほど、かなり強い陽差しだ。
オホーツク海がいつもの鉛色じゃなく、空を映して凄い青になっている。海面にも朝日が反射しているし、雲も眩しい。視界の左側が全体的に眩しい。オホーツク沿岸でこれ程明るく晴れるのは、近年記憶が無い。
国道238から浜猿払の集落を通り抜け、村道エサヌカ線へ。いよいよオホーツク海岸部のメインイベントだ。
最初は海岸と茂みの境界に始まった道は、少しづつ段階的にクランクを繰り返して海岸の茂みから牧草地へ、そして内陸側へスライドして南下してゆく。
この間終始相変わらず向かい風は強い。
そして風景は、ほぼ正面から朝日に照らされていた。早朝とはいえ太陽光線はとても強い。まるで10時過ぎのように皮膚がぴりぴりするほどだ。
空の青、海の青は凄い濃度の色になっている。そして朝日に照らされた牧草地は鮮やかに輝くようだ。
途中、内陸側の茂みの上に、見覚えのあるぎざぎざの山を見つけた。何と利尻富士である。エサヌカ線、いやオホーツク海側から利尻富士が見えるということを、宗谷地方を初めて自転車で走った1993年から約30年経って初めて知った。一昨日の知駒峠でオホーツク海が見えたことにも驚いたが、更にその上を行く驚きだ。今年は天気に恵まれている。今でも、今回最後の、気象神社の神様からの贈り物だったと思っている。
この道の雰囲気は前から好きだったが、これほど晴れるのは初めてだと思う。いつもこの辺では曇ったり、青空が見えてもうっすら拡がった雲が、ぎりぎりで影が出ない程度に陽差しを遮り、全体として抑揚の無い風景である場合が多かった。
今日は早朝であることも手伝ってか、風景全体のコントラストが強烈だ。広々とした海岸の風景ながら朝日が眩しい海側、朝日に照らされている内陸側で風景の雰囲気が違うのもいい。
写真を撮るために脚を停め、廻りが日なたになるのを風の中で待ってみた。雲はずっと速く動き続け、朝日が雲に隠れたり辺りをかっと照らしたりしながら、空の雲と地表の影がどんどん通過してゆく。
エサヌカ線が南下して内陸に推移すると共に海は見えなくなり、周囲は牧草地に変わった。まだエサヌカ線区間半分ぐらいのはず。空にはやや雲が増えてきているものの、相変わらず雲と、地表では日なたと日陰が、牧草地の彼方から代わりばんこにやって来ては通り過ぎていった。
周囲が内陸に推移すると共に、視界の牧草地の端には森か茂みが続いていた。遠くではあっても、中から熊が出てきてにらみ合った挙げ句こちらに走り出してきたら、自転車では逃げ切れないだろう。しかし通過してゆく車とバイクは例年より明らかに多い。こういう時は車もバイクも心強い存在だ。
今年の北海道Tourでは車やバイクの道内ナンバーが目立つように思う。同じ印象をいろいろな場所で感じていて、そういう場所はややマニアックな場所が多いようにも思う。恐らく、昨年の夏来れなかった人たちが、狙い定めて旅に来ているように思う。
そしてそれ以上に、旅程10日目の8月19日にして、未だに道北も猿払村のエサヌカ線で立ち尽くしていること、そのこと自体が驚きだ。これが11日行程の威力というものだ。
記 2023/2/19
#10-2へ進む #9-4へ戻る 北海道Tour22 indexへ 北海道Tour indexへ 自転車ツーリングの記録へ Topへ