北海道Tour22#10 2022/8/19(金) 浜鬼志別→仁宇布-1

浜鬼志別→浅茅野 (以上#10-1)
(以下#10-2) →中頓別 (以上#10-2)
(以下#10-3) →歌登 (以上#10-3)
(以下#10-4) →西尾峠 (以上#10-4)
(以下#10-5) →仁宇布
km

赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路
RYDE WITH GPS

 暗かった空が明るくなってきた。窓の外に見えるのは、夏でも何だか寒々しい印象があるオホーツク海と、やはり何だか寒々しい国道237だ。国道237にはナトリウムランプがあるから、夜でも見えてはいる。どちにしても、ホテルさるふつ毎度の朝の眺めである。
 部屋の中では国道237の車の音もオホーツク海の波の音も聞こえない。部屋からは一見静かな風景のように見えても、外に出ると常にかなり強い風が、しかも向かい風で吹いていてがくっと来るのも毎度の事だ。今日も今のところは風は無いように見える。でもそう見えるだけでいつも風は吹いているのだ。
 それよりも、今日はいつものように空に低く厚い雲がどんより垂れ込めていない。劇的に晴れている。天気予報は午前中オホーツク海側で晴れ、午後は道北全域で曇りではあるものの、降水確率は10%以下。曇っても、終日に渡って雨の心配は無さそうだ。朝の内は珍しく晴れのオホーツク海に会えるのかもしれない。でも、途中で曇り始めても全然おかしくない。何たって天気の不安定なオホーツク海沿岸なのだ。
 比較的穏当そうな今日の天気より、問題は明日だ。昨日まで晴れの天気予報だったのが、いつの間にか9時頃から雨が降るということになっている。しかもその後ほぼ終日降水量2〜3mm以上、お昼頃〜午後には4mmなどという数字もみられる。SCWを見直しても、私が通る予定の山間で、それまでずっと薄曇りぐらいなのが、8時過ぎから急に雨雲が発生することになっている。これだと明日は美深→美瑛の輪行決定だ。9時以降が雨なら、美深までは自走で下ることができるかもしれない。しかしこの天気予報が劇的に好転しない限り、今日が終日自転車行程の最終日ということになりそうだ。
 どういう事情があっても無くてもやることは同じ、今日も目一杯楽しんでおこう。

 外に出て、ポーチから建物が風除けにならない場所まで来ると、やはり今回も強い風が吹いていることがわかった。そして昨日同様、風向きは相変わらず向かい風方向だ。
 部屋からはあんなに静かな風景のように見えたのに、現実としては風がかなり強い。そして冷たい。これは猿払村、というよりオホーツク海沿岸北部ならではの特徴というものだろう。しかし空は晴れていて、辺りは例年に無い明るさだ。とりあえずフリースを着込み、内陸へ向かい始めるエサヌカ線の浅茅野まで希望を持って進もう。

 5:25、ホテルさるふつ発。わかりきってはいたものの、やはり国道238はかなり強い向かい風の中だ。それでも20km/h出ている。10km/半ばぐらいまで出なかった前回に比べると、ましなのかもしれない。もっともそのこと自体は出来事として憶えているだけで、体験としては見事に忘れてしまっている。今回も今は向かい風に苦しんでいても、そんなことはすぐ忘れてしまうんだろう。登り区間の厳しさ以上に。

 道、電線、台地上の茂みとオホーツク海。国道237にはそれだけの風景が続き、ライダーハウスやませ、芦野、猿払、スノーシェッドと目印ポイントが次々現れ、過ぎ去ってゆく。しかし、今朝のオホーツク海岸はいつもの薄暗く肌寒く彩度の低い風景ではない。明るい朝陽しに照らされて、コントラストぎとぎとの極彩色になっている。

 風は冷たいものの、フリースを着ていると汗が出る。決して寒くないのは、強い陽差しのせいだ。青空の中に低い雲がかなり早く飛んでいて、朝陽が出たり隠れたりしている。朝陽が出ると眩しくてちょっと困るほど、かなり強い陽差しだ。オホーツク海がいつもの鉛色じゃなく、空を映して凄い青になっている。海面にも朝日が反射しているし、雲も眩しい。視界の左側が全体的に眩しい。オホーツク沿岸でこれ程明るく晴れるのは、近年記憶が無い。

 国道238から浜猿払の集落を通り抜け、村道エサヌカ線へ。いよいよオホーツク海岸部のメインイベントだ。

 最初は海岸と茂みの境界に始まった道は、少しづつ段階的にクランクを繰り返して海岸の茂みから牧草地へ、そして内陸側へスライドして南下してゆく。

 この間終始相変わらず向かい風は強い。そして風景は、ほぼ正面から朝日に照らされていた。早朝とはいえ太陽光線はとても強い。まるで10時過ぎのように皮膚がぴりぴりするほどだ。

 写真を撮るために風の中で脚を停め、廻りが日なたになるのを待ってみた。雲はずっと速く動き続け、朝日が雲に隠れたり辺りをかっと照らしたりしながら、空の雲と地表の影がどんどん通過してゆく。空の青、海の青は凄い濃度の色になっている。そして朝日に照らされた牧草地は鮮やかに輝くようだ。

 この道の雰囲気は前から好きだったが、これほど晴れるのは初めてだと思う。いつもこの辺では曇ったり、青空が見えてもうっすら拡がった雲が、ぎりぎりで影が出ない程度に陽差しを遮り、全体として抑揚の無い風景である場合が多かった。今日は早朝であることも手伝ってか、風景全体のコントラストが強烈だ。広々とした海岸の風景ながら朝日が眩しい海側、朝日に照らされている内陸側で風景の雰囲気が違うのもいい。

 エサヌカ線が南下して内陸に推移すると共に海は見えなくなり、周囲は牧草地に変わった。まだエサヌカ線区間半分ぐらいのはず。空にはやや雲が増えてきているものの、相変わらず雲と、地表では日なたと日陰が、牧草地の彼方から代わりばんこにやって来ては通り過ぎていった。

 周囲が内陸に推移すると共に、視界の牧草地の端には森か茂みが続いていた。遠くではあっても、中から熊が出てきてにらみ合った挙げ句こちらに走り出してきたら、自転車では逃げ切れないだろう。しかし通過してゆく車とバイクは例年より明らかに多い。こういう時は車もバイクも心強い存在だ。そしてもっと言えば、道内ナンバーが目立つように思う。今年の北海道Tourでは、同じ印象をいろいろな場所で感じている。しかもややマニアックな場所が多い。恐らく、昨年の夏来れなかった人たちが、狙い定めて旅に来ているように思う。

 途中、内陸側の茂みの上に、見覚えのあるぎざぎざの山を見つけた。何と利尻富士である。エサヌカ線、いやオホーツク海側から利尻富士が見えるということを、宗谷地方を初めて自転車で走った1993年から約30年経って初めて知った。一昨日の知駒峠でオホーツク海が見えたことにも驚いたが、更にその上を行く驚きだ。今年は天気に恵まれている。今でも、今回最後の、気象神社の神様からの贈り物だったと思っている。

 そしてそれ以上に、旅程10日目の8月19日にして、未だに道北も猿払村のエサヌカ線で立ち尽くしていること、そのこと自体が驚きだ。これが11日行程の威力というものだ。


 浅茅野からは内陸方面へ向かう。GPSトラックに従い、国道237を渡って既知の道道710へ。クッチャロ湖岸の丘陵を反時計方向に回り込むのに、前回は別ルートの農免農道を通ったというだけの理由で、今回は道道710を使う。やや受動的なコース取りである。受動的とは言え、点在する牧場以外は森や茂みの中を通って退屈しない道だ。今朝は退屈しないというより、まだまだ早朝のため、森の中から熊が現れたらどうしようという心配が拭えない。

 内陸に向かったためか強風は弱まってくれていて、途中では未だ動き続ける雲が切れ、青空が見える場所もあった。クッチャロ湖外周の丘陵は、晴れたらその景色が夢見るように素晴らしいと聞いている。浜頓別南の国道275からそれらしき風景が伺えたこともあった。しかし、この湖岸区間自体は近年ほぼ毎年訪れているにも拘わらず毎回曇りか雨。晴れてくれたのは、エサヌカ線同様過去に記憶が無い。

 今日の晴れはここまでだった。道が南西向きから南へ方向を変えるあたりから先、空はすっかり雲に覆われてしまった。

 そして道道84をクランク経由して金が丘へ向かう農道では、薄暗くなって水滴まで感じられるようになってしまった。

 やはりこの辺の天気は、なかなか一筋縄ではいかない。

 空が薄暗くなってきたので、常盤から予定していた短い裏道経由コースを止め、早々に下頓別から国道275へ乗り換えてしまう。

 寿トンネルは意外に軽々通過することができたものの、寿トンネルを挟む下頓別から中頓別まではやや長く感じられた。こういうのは単純に印象と実態が違うというだけの現象であり、特に好調とか不調とかは関係無いのかもしれない。

 8:25、中頓別着。セイコーマートはパスしてそのまま道道120へ。次にセイコーマートがある歌登の先には落ちついて休憩できる場所は無いから、歌登ではセイコーマートに寄っておく必要がある。ここでセイコーマートに寄っておく必要は無い。

 と進みかけて思い直し、セイコーマートで少し休憩してゆくことにした。出発から3時間経っている。今日は仁宇布まで行くだけなんだから、焦らない焦らない。空が暗くなっているので、さっきから気が急いているかもしれない。
 とはいえやはり空が暗いと、物資を腹に詰め込んでいても気はそぞろである。急ぐ必要は全く無い。今日は天気予報は終日曇りなんだから、落ちついて進めばいいのだ。とまた自分に言い聞かせる。


 休憩後は道道120へ。まるっきり一昨日通ったの逆走になるが、車が多い国道275へ向かう気はしないし、他のどの道も大回りで過去に通ったことがある。この道が最短距離で車が少ない、一番穏当なコースなのだ。

 しかし、今日は空がやや暗い。薄暗いと、兵知安峠区間では深い森から熊が出てきそうで心配なのである。一昨日は確か、峠から谷底に下った辺りで拡幅工事していたはずだ。車の少ない道を選んでいながら、自分で車の通行を頼りにしている。

 兵安で道道647が、国道275の秋田へ向けて分岐していった。兵知安峠が嫌なら、今ここで道道647へ向かうという選択肢がある。ただ、個人的に見かけた熊出没実績としては、より山深いこちらの道道120より、里に近い道道647の方が多いようにも思う。単に道道120が山深すぎて、人間向けの看板が立っていないというだけの話かもしれない。何にしても、どっちも山深いというのが適切な捉え方なんだろうな。

 牧草地を通り過ぎて谷は一気に狭くなった。そして森の谷底区間へ入ると、空が暗いだけあって雨が降ってきた。天気予報では雨の兆しは全く無いので、あくまで山間の現象だと自分に言い聞かせ、雨具を着てそのまま先へ。もはやここまで来たら、夕方には仁宇布に着くためにそれしか選択肢は無い。

 標高差たかだか200mも無いのに長い登りなのと、その登り斜度が段階的に上がってゆくのは一昨日下って来たばかりだからわかっている。低い峠なので、離陸したらもう峠は近い、等と思っていると肩透かしを食うのも毎度の事。標高は低くても何かと侮れないのは、道北の峠に共通した特徴だ。

 兵知安峠を越えて歌登側へ。稜線部分から急降下し、斜度が緩くなって谷底に降りたと思っても、まだまだ見上げる稜線部は谷底の道から遠くない。密な森も笹原もいかにも山深く、道北最北部ならではの険しい表情が漂っている。そんな土地にもちゃんと地名があり、川や山には名前が付いている。よくこの地に人々は住み着いたものだと思う。思えば宗谷丘陵の道道884だって、全通してまだ20年経ってないんだよな。

 しばらく下り続け、谷底が拡がり始めると陽差しが現れ始めた。例によって路上が途端に暑くなる。拡がった谷底の森が切れて牧草地が現れ、牧場が現れ、やっと人里に帰ってきた気分になった。

 11:05、歌登着。セイコーマートで休憩しておく。
 兵知安峠区間では雨まで降ったのに、ここ歌登では多少雲は出ているもののよく晴れている。そしてかなり暑い。山間が曇りか雨で歌登だけ晴れるのも、毎度の現象で珍しくない。この先、山間で再び雨になっても驚くようなことではないものの、穏当な過去実績の範囲で天気は推移してゆくだろう。そしてこのまま着々と進めば、穏当な時間に仁宇布に着けるだろう。
 まあ、毎度のパターンから外れることは無いだろう、と思う。

 11:35、歌登発。そのまま道道120へ。

 軽く向かい風気味に風が吹き始めている。しかも道の斜度はかなり緩いものの登りであり、さっきまでの下り基調のペースからがくっと速度が落ちる。一昨日はこの道を下ってきているので、その下り借金をあまり溜め込まずにここで返しているのだと思えば、仕方無いという気にもなる。

 向かい風と緩い登りと暑い照り返しが辛いと思っているうち、歌登の市街地を抜けて1〜2kmぐらいの辺りから速くも空がうっすらと霞っぽい雲に覆われ、日が陰り始めた。そして盆地から谷間に入る辺渓内手前辺りで、雲は完全に空に拡がった。やはり歌登だけ晴れていたのだろう。別に珍しくもない。雨さえ降らなければ、今日は御の字だ。

 そして曇りなので路上の気温が目に見えて下がり、志美宇丹峠への登りはやや楽になって助かる。

 しかし一昨日、晴天で牧草地が夢見るように輝いていた志美宇丹の盆地でも、今日は薄曇りのままだった。更に進んだ乙忠部への道道1023分岐手前ではもうすっかり雲が厚く低い。そして、志美宇丹と同じく素晴らしい牧草地の風景に出会えた上徳志別では、もはや薄暗くないのだけが救いというぐらいの曇りに変わっていた。

 再び谷間に入り、少し進んだ大曲への登りでは、再び空が明るくなって一気に気温が上がってきた。何と低い雲の合間に、青空まで現れ始めている。今日はこんな感じで天気が推移してゆくんだろうな。

 道北スーパー林道分岐から織姫休憩所。天の川トンネルを抜け、フーレップ川沿い区間へと森の中を延々と淡々と進んでゆく。

 その後雲は極端に低くならず、雨も降ることは無かった。想定範囲内の穏当な行程となっている。

 一昨日とは逆方向からゆっくり登ってゆく道は、地図で眺める以上に延々と、そして鬱蒼と深い森に囲まれている。熊が心配になり始める辺りで車がそこそこ通るので、安心感もある。ただ、キタキツネが例年にも増して馴れ馴れしくなっているのには閉口した。ガリガリに痩せた奴が、白昼堂々もう警戒すらせずに寄ってきたりもするのだ。そういう奴はエキノコックスを持っていそうでコワイので、追っ払う程である。

 延々と森が続いた後、道はおもむろに谷底から離陸し、西尾峠周辺の鞍部へ向かってゆく。だまし峠の後登りが一段落し、再び登りとなる登り構成がわかっていれば、その長い距離にじれったくならずに済む。それに、峠部分には枝幸町と美深町の町界が建っていることを知っていれば、鞍部のどこが峠なのか紛らわしいということも無い。ただ、歌登方面から長い登りを延々だらだらと登ってきた末に、以前建っていた丸太の西尾峠標が完全に無くなってしまっているのは、やはり何だか寂しいような気もしないでもない。峠標を新しく立てないのは、やはり西尾峠の名の由来が故西尾氏から来ているためなのか、などと余計なことを想像してしまう。


 西尾峠から少し下りきると、仁宇布の盆地はここまでと同じく薄曇りである。陽差しが出ていないので、記録という以上に見覚えのある風景の写真を撮るには今ひとつだ。何と言ってもこの3日間、晴れの風景を一杯眺めた後なのだ。

 おとなしく粛々と、しかしあっという間に仁宇布の交差点へ下ってゆく。開けてはいてもけっこうな下りであるようで、一昨日のろのろだったのがやっと納得できた。こういうのも、登り下りに係る貸借関係の一環なのかもしれない。

 14:55、仁宇布着。
 トロッコの15時便には間に合うと思われるものの、今日はもうファームイントントへしけ込むことにした。牧草地やソバ畑を眺めながらてれてれ進んでゆく。薄曇りの風景ではあっても、明日は雨の予報なのだ。早く風呂に入ってすっきりして、食堂で明るい風景を少しでも多く眺め、記憶に焼き付けておこう。

 15:15、ファームイントント着。
 早速お風呂を頂き、食堂でアイスをいただきながら暮れなずむ牧草地を眺めて過ごす。

 夕食は美味しいジンギスカンだ。野菜をたっぷりいただいて、栄養バランスが大変良い。

 雨だと思っていた明日の天気予報が、再び盛り返しつつあるようだった。下川町で雨は10時から、愛別町から旭川盆地で雨は午後からになっている。これなら明日の状況次第では、走って走れないことはないという展開があるかもしれない。
 こういう時はいくら思い悩んでも仕方無い。明日の天気予報と、ここ仁宇布での空模様で判断しよう。

記 2023/2/19

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Last Update 2023/2/19
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