東城→小奴可→三井野原→高尾→吉田→八神→三瓶温泉
(以上#2-1)
(以下#2-2)
区間2
(以上#2-2)
(以下#2-3)
区間3
(以上#2-3)
(以下#2-4)
区間4
(以上#2-4)
(以下#2-5)
区間5
118km
RideWithGPS
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さすがに西日本、夜明けが遅い。東京より40分ぐらい遅いかもしれない。5時で何とか明るくなって6時で完全に朝らしい明るさになった。
空は晴れて朝陽がかっと鋭く眩しいものの、昨日の寒さが残っているのかかなり寒い。今日はしばらく防寒が必要だろう。
7時に朝食、お昼用のおにぎりをいただき、日焼け止めを顔と腕に塗ったくり、7:30東城松本荘発。腿はモンベルツーリングニッカーに隠れてるから当面いいや。
この時期、下手をすると日中25℃を越えるのが当たり前という印象があるが、今のところ気温は11℃で指先はかなり寒い。松本荘の女将さんが「小奴可は東城に比べて別世界(寒いという意味)」と仰っていた。今朝はツーリングニッカーと雨具上着が大変頼りになる。
東城の市街を旧道で通り抜け、町外れの宮平から裏道の県道12で小奴可へ。標高320mの東城から国道314、芸備線、そして県道12が三者三様の経路を経て、標高550mの小奴可で合流している。県道12は一番車が少なさそうで、比較的のんびりした風景が楽しめそうだという選択だ。小さな丘越えはあるものの、他の経路に比べて目くじらを立てるようなものではない。
栗田から森脇へ、広めの谷間に集落が続く。空は晴れから薄雲が拡がって曇り基調と言っていい。しかし、谷間には田植え直前の水を張った田圃が拡がり、出たての新緑の山肌と共に瑞々しい風景なのがとても嬉しい。コロナ禍の3年間を経て、自分はまたツーリングで走れているのだ。蛙も田圃じゅうでケロケロ鳴いている。
森脇から谷間は狭くなって、森と渓谷と県道12だけが続いた。
そして淡々と登り続けたまま、もう少し上流の千鳥で再び集落、というより農村が拡がった。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県庄原市東城町千鳥 県道448にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
標高640mの最高地点は、集落外れのちょっとした丘の茂みだし、その向こうはやや高めの単独で聳える丸目の山に囲まれ開けた盆地が拡がり、同じような集落が緩やかに下っているのであった。
標高640mにしちゃ高原っぽい地形と風景である。
少し下って、9:10、小奴可着。もう少し早く着けるとよかったのだが、まあ順当に距離なりに時間が掛かっているとも言える。
小奴可には、1984年に芸備線の撮影に来ている。1982年に乗った芸備線のダイナミックに変化する山間の風景が忘れられず、2年間地形図等で狙いを定めた訪問だったのだ。当時から、高原っぽい雰囲気を背景とした長閑な農村風景に、ここを自転車で走ってみたいと思っていたことだけは憶えている。その後鉄道の写真だけが残り、具体的な土地の印象はすっかり忘れてしまっていた。今小奴可の盆地で、堂々と独特のボリュームを持った山肌が近づいてきて、38年前の印象を思い出させてくれていた。
踏切から駅の方を伺ってみた。1984年には間違いなくここに撮影に来ているはずなのだ。何か記憶が蘇るかと思ったが、駅方面の光景に何も思い出せない。少なくとも小奴可を訪問した前の日、ここで駅寝はしていないと確信できた。ならば駅寝したのは東城だったか備後落合だったか、大穴で道後山か。と思っていたが、記録が見つかったので読み返すと、どうもその旅行では小奴可駅で2泊駅寝していたっぽい。ちなみに風呂と食事は三次だったようだ。
盆地の中の小奴可から谷間へ、国道314は芸備線と共に緩々っと登ってゆく。国道特有の埃っぽい表情と単調であまり面白くない路上空間は周囲の長閑で魅力的な農村風景や森と分離しているため、何となく次の展開を待ちながら淡々と脚を進めてゆくだけの展開になってしまっている。車がそう多くないのが多少救いかもしれない。さっきまでの県道12は素晴らしかったな。
等と思っていたら、登りピークを越えるのと、ピークに建つ瀬戸内海側・日本海側分水嶺の看板を眺めるのにかまけて、芸備線道後山駅への分岐をつい見落としてしまっていた。少し戻って分岐を入り込むと、杉の葉が溜まったあやしそうな道がその道なのだった。これは知ってないと入り込まない道である。しかし実はこの細道、林道ではなく県道414なのだ。今のところ行程は、絶好調と行かないまでも特に問題は無い。ならば芸備線もう一つの撮影地だった思い出の地としての、道後山駅には行っとこう。
意外にも国道分岐から進むと共に、路上の杉の枝が無くなり、路面は良好な舗装となった。相変わらず県道であることが疑われるような細道ではある。農家が何軒か並ぶ集落を通り抜け、9:20、道後山着。標高628m。
道後山も小奴可と同じく、1984年に鉄道の撮影で半日以上訪問している。当時から無人だった道後山駅の山深さには強烈な印象が残っている。今、2022年の自転車ツーリング的にも、猫の額のようなちょっと不思議な山間の拡がりに、どこからか芸備線が現れ山中へと消え、その間に道後山駅がある、というのがその実態だ。
駅舎はまあ残っている、という位に存在はしている。芸備線にこういう駅があり、停車してゆくことも不思議な程だ。
1984年の撮影場所はどこかと言えば、確か道後山駅から2〜30分歩いて山に登った場所だったと思う。撮影場所も訪れておくべきかもしれないが、今日の行程の場合はまだ気を許すわけにはいかず、やや気が急いている。道後山の場合、何故か駅の方が撮影場所より印象に残っていることもあり、こんなもんで訪問の目的は十二分に達せられたと思った。
森の中へと続く細道をGPSトラックの示す通りに進んでゆくと、その撮影場所に登って行く道と分岐し、こちらの県道414はおもむろに下り始めた。道後山から標高550mの保賀谷まで60m高度を下げるのだ。芸備線はこの区間、シャトルループの線形で距離を稼ぎ高度を下げてゆくため、途中で道は一旦芸備線をショートカットしてぐいっと下り、再び芸備線に近づいてゆく。芸備線、なかなかの山岳路線だとまた思う。そして県道414も県道ながら、芸備線アンダークロスの橋の高さはとても低い。相変わらず、道の空間感覚は林道そのものである。
保賀谷では、3つの狭い谷が合流して1つの谷が南の備後落合へ下っている。ここから芸備線は、国道183が通る谷間と共に、備後落合へ下ってゆく。
私はと言えば別の谷からやってきた国道183を横断して、180m程登って稜線を越えて木次線沿いの油木へ下る細道へ向かうことにした。鋭角二等辺三角形で稜線を丸ごと迂回する芸備線・木次線沿い国道183・314を、稜線越えでショートカットするのだ。
備後落合は中国山地を横断する芸備線を東西に分ける駅であり、中国山地を南北に貫く木次線との乗換駅でもある。1982年も1984年も、芸備線は備後落合で15分以上停車し、山中のどこからか突然合流してやはり山中に消えてゆく木次線との乗り換え便宜を図っていた。そして道と民家数軒しか無い谷底に建つ備後落合駅には、おでん・鶏肉が入った蕎麦・うどんのお店があり、稲荷寿司の駅弁も売っていたのである。その後2008年の出張帰路自主立寄り時には、思い出に浸れるような物が2008年の現実として順当に何も残っていないことを確認済みだ。
それに備後落合を迂回しても、ここからは備後落合への下り量と合流点の油木まで登り返しが多いため、確か登りはこちらの方が60m程度多いだけで、距離は10km近くも少ない筈だ。それにさっきの国道314の普通に国道っぽい表情を思い出すと、こちらの道の方が絶対好ましそうだ。
保賀谷から登り返し、小鳥原から急斜面に拡がる集落の細道へ、GPSトラック通りに脚を進めてゆく。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県庄原市西城町小鳥原 県道444にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
広葉樹林に入って路面に落ち葉が溜まった細道は途中まで林道だと思っていたが、標識を見ると実は県道444なのである。この細道が、自転車ツーリングには大変好ましい。明るい広葉樹林の道は意外にも斜度7%とそう厳しくなく、私でも淡々と落ちついて登ってゆける。そして途中では森林大伐採の怪我の功名?で、落差の大きな山間、中国山地がボリュームたっぷり迫力満点だ。道幅と斜度を除けば、山梨県の信州峠付近に何となく似ていなくもない、高原っぽい雰囲気でもある。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県庄原市西城町小鳥原 県道444にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県庄原市西城町小鳥原 県道444にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県庄原市西城町油木 県道444にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
名無しの峠部分はかなりなだらかな、稜線のピークというより背中という風情の変曲点だ。いつの間にか天気は晴れに推移し始めていた。
森の中を下って谷底の集落へ、160m下った油木で木次線の谷間に合流。意外にも国道314はかなり車が少なく、さっきの小奴可付近より風景のスケールが大きいような気がする。まあでも、ここまで県道444経由で正解だった。
併走する木次線に25‰の勾配標識が立っている。油木で標高580m、この先約6km、峠部分の広島・島根県境は730m。芸備線と共になかなかの山岳路線だ。中国山地としても高めの場所、という以上に高原っぽい風景なのは、今朝からずっと共通している。
標高730mの県境を越えると、突如周囲は森から開けた畑に変わった。そして県境を越えると、というより大して下っていない。周囲がスキー場に変わるとともに10:40、三井野原着。北海道内陸や清里辺りのような高原っぽさが感じられる。
こういう展開は、1982年の木次線初乗車時の印象通りである。木次線のこの先、三井野原・出雲坂根間、特に出雲坂根の3回スイッチバックは1982年の鉄道研究部合宿メニューだった。出雲坂根が標高570mぐらい。スイッチバック手前のシャトルループと合わせ技で三井野原から何と160mも下ってしまうのだ。確かその時まだ国道は開通していなかった。そしてその後開通した国道183は、木次線に対抗したのかのように2回転近くのループ区間を備えている。「おろちループ」と名前を付けたのみならず、道の駅まで作ってしまった、ということを考えていて、改めて木次線も驚きの山岳路線であることがよくわかった。
コース計画時には、ここから木次線沿いに奥出雲町まで下ってしまうことも考えていた。かなり大回りになってしまうものの、松本清張ネタと駅蕎麦が有名な亀嵩駅に興味を引かれていたのだ。しかし今日はここまで快調に登り2ヶ所をこなせている。あとひとつ標高差80m程度の小峠という名前の小さな峠を越えれば、登りは総量の半分以上をこなしたことになるし、予定2経路のうち距離が短く道が静かそうな方の経路で脚を先に進めることができる。そしてここまで、国道よりその手の細道の方がことごとく好ましく、標高差80m程度の登りは問題になっていない。そもそも、大回りなら蕎麦に立ち寄ったりしないかもしれない。
というわけで、小峠へ向かうことにした。小峠のみならず、三瓶山麓までの内陸側コースがここで決定したことになる。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県仁多郡奥出雲町八川にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
シーズンオフのためか休業中のドライブイン前で缶コーヒーだけ飲んで、木次線の踏切を渡り、少し北海道内陸のような雰囲気が漂うスキー場の細道へ。
スキー場から山裾側、田圃と森の境界に林道小峠線起点の看板が立っていた。林道は明るい広葉樹林に少し山腹を巻き、峠へ向かい始めると付近は杉に変わった。
10:55、小峠着。道端で最後の山桜が迎えてくれていたのが何だか嬉しい。
ゆるっと乗りこえた峠の向こうは、再び明るい新緑の広葉樹林だ。雑木林というより原生林かもしれない、深い森である。
谷間は地形図通りに直線基調で、山の傾斜が緩いためか狭いながらも開けた雰囲気だ。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県仁多郡奥出雲町大馬木 林道小峠線にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
渓谷沿いに下ってゆく道端が少し開けると田圃が現れた。もう少し下ると、谷間は別のもう少し広い谷と合流した。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県仁多郡奥出雲町大馬木にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
合流点の大畝は、高く切り立った山に囲まれた谷間に田圃が拡がり、農家が点在している。真っ青な空の下新緑の山肌に囲まれた田圃は田植え2〜3日目ぐらい。水がなみなみと張られ空と山々を映し、そのいくつかでは農家の方がいそいそと田植え作業中だ。多分家族総出なんだろうな。向こうの谷の奥には、壁か背景のように大きな山が二つ(吾妻山と烏帽子山というようだ)立ちはだかっている。そして景色の中で、カエルの声がこだまするように響いている。1日観ていたくなる、絵のように素晴らしい農村風景だ。しかし、本日の現実としてはそういう訳にもいかない。
裏道を少し経由してから県道25へ。谷間が広がって農村が続いているせいか、さすがに小峠からの道からは車は増えるものの、それでもまだまだ全然許容範囲だ。
杭木まで8km、ひたすら標高差100mをここまで行程とは打って変わって快調に下る、下る。田圃を囲む山々、農家の庭先は、染まってしまいそうな明るい緑で一杯だ。空はもはやさっきまでの薄曇りが嘘のように真っ青で、陽差しが強くぽかぽかだ。
汗は風にすぐ飛んで消えてしまうし、それでも寒いという感覚は全く無い。年間これだけ快適なサイクリングも珍しい。緑の明るさと光の明るさ、風景の雰囲気全体が4月中旬、いや上旬のように見える。いつも連休中に夏日になる日があることを思い出す。今年の連休は、少し気温が低いのかもしれない。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県仁多郡奥出雲町馬木 県道25にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
11:20、馬木着。
やや開けた谷の真ん中、県道25と出雲横田へ向かってゆく県道49が交差し、周囲には郵便局や警察署、小学校など公共施設が建つ交差点だ。食料品店は無いのでそのまま信号を通過してから、地域集会場に自販機を見つけたので、地図交換を兼ねて少し休憩してゆくことにした。気付けば腹が少し減っているし、もうお昼前に差し掛かろうという時間なので、この際腹が減る前に松本荘のおにぎりを食べておくことにした。コンパクトな包みにおにぎりがたっぷり3つ。梅干し、肉、鮭のトリオで美味しい。ウインナーとお漬物も効いている。なかなか頼りになる。松本壮には感謝せねば。
ここまで来れば、小峠を含む本日最大の登り3箇所が終わって標高差を2/3弱こなし、確か距離は全体の2/5に相当していたはず。到着時刻はまあ想定通りというか、想定範囲のなかなかいい方だ。この先まだ登り下りは多いものの、今日はまともな時間には三瓶温泉に着けるという気になってきた。
5kmほど下った馬木の少し先で谷間は再び狭くなり、杭元で高尾方面への分岐が現れた。しばらく、というより今日の宿がある三瓶山高原道路まで、山間に数10mから100m以内ぐらいのアップダウンが延々と続くことになる。いよいよ、というよりやっとここまで来れた、という気がする。とにかくこの区間を落ちついてこなすために早めに取付きたかったので、ここまでやや気が急いていたのだ。
県道の谷間より谷間がぐっと狭くなり、空間全体がややこぢんまりした印象となったものの、相変わらず谷に田圃が拡がり、農家が点在する農村が続くという点ではここまでと風景の要素は変わらない。谷間を囲む山々はここまでと同じく新緑真っ盛り。谷間の田圃は一面に水が張られ、田植え間近か真っ最中だ。空は真っ青、日差しは眩しく、水は青空と山々を映し、青と緑に染まってしまいそうな気分が一杯だ。これがあと5日間、今回のツーリングの風景になるのだろう。
下高尾で、棚田の上にそう高くないながらすっきりとそびえる山が迫ってきた。そちら側の山裾へは登りになるものの、魅力的な風景だ。地形図によると目の前に聳える山は伊賀平山という名前であり、すぐ先の生活道然とした細道の分岐が、10kmほど先の上阿井町で合流する道の始まりである。事前に何度もコースを選んで距離と標高差を検討した、2つの経路の分岐だと気が付いた。実際の風景と空間感覚だけは訪れてみないとわからないものである。
今、興味津々で眺めている山裾へ向かう方は、今日の位置づけとしては第2案だ。第1案より多少アップダウンはあるが距離は多少短いはずだった。そのくらいの差なら、面白い方へ行ってみよう。と思える余裕があることが、行程中盤まっただ中に差し掛かった今大変心強い。
上手の丘を乗り越えてから、道は棚田と集落の一番上手の山腹に続いた。アップダウンはややしつこく、しかししんどくない程度に繰り返された。地図読みである程度想像していた範囲で、良好に推移していると言えた。そして見下ろす田圃の展望がとても楽しいことは、期待していたが具体的に想像はできていなかった。何か得した気分だ。
想定区間の最後近くまでアップダウンは意外にしつこく続き、そろそろ下らないと辻褄が合わない、と思い始める辺りから唐突に急下りで一気に高度を下げ、12:15、上阿井町着。さっき下高尾で分岐した別コースとの合流地点だ。
別コースが終盤で通る国道432を横断し、粛々と脚を進めてゆく。国道432はかなり交通量が多く、やはり山裾経由で良かった、と思えた。
広域農道っぽい道を少し登って下り、隣の谷の県道38に合流してそのまま宇月峠越えへ。狭い谷間に続く農村、福原では、交通量極少ながらそこそこ今風の道だった。
それが福原の一番奥で県道38が急に細くなり、農村の前に屏風のように立ちはだかる小山をくるっと回り込んで、宇月峠の標識までほとんど登らずに標識を過ぎるといきなり下りが始まった。峠とはいえ登りは開けた集落の緩い登りが主であり、峠周辺の森ではほとんど登らないのだった。
峠を越えると、というよりゆるっと通過すると、細道はすぐに下りきって別の農村、芦谷に降りた。そしてつづら折れ状に340度ぐらい折り返して下手からの道と合流、田圃二皮ほどの狭い谷間を遡ってゆく。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県雲南市吉田町吉田 県道38にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
田圃が終わって森の渓谷に変わった芦谷の上手で、谷間の向こうに渡り、再び森の中を140m程登り返し、縁を越えるように梅ノ木から吉田の谷間へ出たのであった。
この辺りも計画時に、地形図とRideWithGPSとストリートビューを見比べ、なるべく楽しそうな、しかも登り下りが少ない経路を選んだつもりだった。しかし、曲がりくねった谷間が並行したり離れたりして等高線が詰まっていて登り下りの判別が付かず、地形はわかりにくかった。とりあえず森と渓谷と田圃が入れ替わり立ち替わり現れるということ、プロフィールマップで無数の登り下りがあること、そして登り総量がけっこうあることだけは理解できたが、実際に行程の順番をイメージできていなかった。
実際に訪れて初めて、低い稜線が隔てる狭い谷間の表情、それらが入り組んで重なるこの辺りの地形の特徴と空間感覚がわかってきた。思えば三井野原と出雲坂根がそんな感じだった。もっと言えば朝の糠小奴可や道後山から、大なり小なりそういう風に理解できる地形だ。
13:20、吉田着。吉田川沿いに狭い旧道と木造家屋が続く、山間の静かな田舎町だ。東城よりはるかに小さい規模の町ではあるものの、今日の行程中ではお店が比較的多く、ツーリング中の通過点として、人里の懐かしさというか大変好ましい雰囲気が横溢している。
道の脇にA-COOPを見つけた。というより、補給するならこの町しか無いなと思って予めチェックしたGoogleストリートビューで、ちょっと公共施設のような建物があることはわかっていた。それがA-COOPだったのか、と思って、あ〜れ〜とか思いながらそのまま通り過ぎてしまった。
吉田の町では、部分的にストリートビューまでチェックしておきながら、実際に食料品店があることは確認していなかった。飲食店はあるようなので、それなら食料品店ぐらいあるだろうと勝手に思いこんでいたのだ。そしてやはり根拠も無しに、町の端にある施設に道の駅っぽい駐車場があるのをストリートビューで見て、何かパンっぽい食べ物が売ってるだろうとも思っていた。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県雲南市吉田町吉田 県道38 麦わら工房前にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
実際にはA-COOP以外に食料品店は無く、観光案内所っぽい施設ではソフトを食べることができただけだった。そして私はソフトで何だか事足りた気分になってしまい、億劫がって自転車で1〜2分も掛からないA-COOPに戻ることをしなかった。
自戒で書いておくと、ここでA-COOPを逃したことが、この後三瓶山で空腹感に少々難儀する原因になってしまった。やはり先入観による計画と行動はいけない。もう勢いで走りきれる歳でもないのだから。
吉田からは県道273で民谷へ。すぐ、またもや2択の分岐が現れた。今日は2拓が多いのである。そして今度は、好ましい方の県道273梅ヶ峠の旧道細道、登りが少しだけ少なく2km弱ほど大回りな方が、何と通行止めになっていた。事前のストリートビューで途中が数10mぐらい途切れていたのと関係しているかもしれない。途切れていても、ストリートビューと空撮を観た範囲ではあまり極端にスパルタンな道であるようにも思えなかったのだが。まあ、ここは手堅く第2案、一升ヶ峠・牛ヶ首経由の日野金城大規模林道へ脚を進めておくことにした。
大規模林道区間は約4km。峠部分2ヶ所の旧道っぽい名前とは裏腹に、露骨に今風の広域農道っぽく直登気味に豪快に標高515m、527mと稜線を乗りこえ、450mの民谷へ直滑降気味に下って再び県道273と合流する道である。思ったほど車は少なかったものの、静かかと言われればそうではないようにも思うし、広い道幅を車がガーッと通り過ぎてゆく印象が強い道だ。
谷間の集落民谷から軽く登って下ってキ加賀、軽く登って下って上利根・下利根、更に登って下って獅子の谷間へ。登り下りは1箇所100m未満〜100m台、それぞれの道は所々地形図より拡幅が進んでいたものの、どこも車は期待通りにかなり少ない。そして谷間から丘へ続いてゆく田圃は、やはりどこも田植え直前か2〜3日目らしく、水が張られて青い空と緑の山を映していた。静かな谷間に蛙の声が響いていて、とても楽しい気分になる。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県雲南市吉田町民谷 県道273にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県飯石郡飯南町都加賀にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
13時台から14時台へ推移する間に、陽差しはそろそろ赤みが増し始めていた。しかしすぐにおうちに帰りたくなって泣きそうになってしまう秋や冬の低く弱い陽差しと違い、まだまだ太陽がほぼ真上と言っていい位置にある。強く鋭い陽差しは緑を明るく鮮やかに、山影を次第に碧く変え、何より絶対的安心感が感じられる。これだから春ツーリングはいいなと思う。
14:55、獅子発。神戸川沿いにしばし国道184を八神へ下って、八神からはいよいよ三瓶山の外周へ登り始める。やっとここまで来た。そしてまだ15時になっていない。
GPSトラックに従い、地形図に載っていない豪快な線形の道へ進む。紙の1/5万地形図に載っていなくても、GPSトラックとGPSに表示されている地形図にはちゃんと載っている道だ。線形が豪快に等高線を突っ切っているだけあり、行く手に直登でぐわーっと20〜30m高度を上げている道が続いていて、心が折れそうになる。しかし登ってしまえばせいぜい7%。遅いながらも淡々と登ってゆける斜度だ。
志津見で県道40に合流すると、交通量はかなり多い。流石は三瓶山。そして交通量のストレスか、この辺りから空腹感を感じ始めた。幸い十分に水はあるし、志津見では飲料自販機で甘い飲み物も飲めた。まだ15時台、あともうもう一登りだけ。
三瓶山高原道路へと続く県道40は、直登っぽい線形とは違い、最大勾配7%台表示の比較的穏やかな道なのであった。しかし、今日のコースで一番車が多い。仕方無い、島根県に轟く三瓶山なのだ。
途中、中廻では棚田の展望が拡がり、脚を停めるいい口実になった。一方、中廻からは更に多くの車が合流してきた。中廻から下ってゆく谷間は出雲市方面からやって来る国道184の谷間なので、これも仕方無い。
そんな中廻のすぐ上手で、県道40から三瓶山の北側へ向かい、三瓶山高原道路道に合流する道が分岐していた。こちらの方が明らかに県道40より車が少ない。そしてこのまま県道40を登っても、三瓶山高原道路に合流することになるので、三瓶山高原道路をぐるっと回って宿に向かうオプションコースに向かうには大変都合が良い。地形図によると、一旦100m以上登って少し下っているので、登り総量は増えそうだ。
時間はこの段階でまだ16時。ここまで予定は未定などとあまり真剣に考えていなかった、宿到着前の三瓶山周回。やや疲れているし腹は減ったし、でもこの時間なら行っとかないと、あとで後悔するだろう。まあいくら何でも、到着時刻が夕食予定の18時を過ぎはしないだろうし。
森の中の道は静かだったが、ずっと走ってきてこの時間、斜度10%はやや厳しい。しかし途中から周囲は牧草地に替わるとともに、風がすっかり涼しくなった。もう標高600mを超えている。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県飯石郡飯南町角井 三瓶山高原道路にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
三瓶山高原道路との合流点には、地形図によると高原道路に自転車専用道路が並行している。山腹北面の北ノ原まで、多少下って登り返しがある高原道路より、こちらの方がアップダウンは少ないように見えたので、行けたら行ってみようと考えていた。現地では交差点の道端の森と茂みが濃く、その中がよくわからなかった。私が知る山中や平原の自転車道の現況を思い出し、廃道になっていても全然おかしくないと思ってそのまま三瓶山高原道路の反時計回りに少し進むと、すぐに森の中から道が降りてきた。様子を伺うと、凸凹や落ち葉など無く思ったより綺麗な、ごく普通に自転車道っぽい路面が森の中に続いているのが見えた。これならきっと通りやすいに違いない。今日1日、山間のどこにも熊注意の看板は見ていない事だし、こちらへ進むことにした。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県大田市山口町山口 自転車専用道路にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
自転車道は地図で読めたとおり、この区間の三瓶山高原道路より登り下りが少ない。そして静かで通りやすく、森の中は緑に染まってしまいそうに木漏れ日が明るい。
三瓶山高原道路から少し離れた森まっただ中に道が続くので、少し寂しくなってきたところで、16:45、北の原着。
標高610m。自分で登っているのでわかっちゃあいたが、やはりなかなか登ってきているね。等と思いながら再び高原道路に合流して更に先へ進む。もう宿まで10kmを切っているこの段階で、まだ17時になっていない。道ももう概略下り。のんびり進めばいい。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県大田市三瓶町多根 三瓶山高原道路にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県大田市三瓶町小屋原 三瓶山高原道路にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
三瓶山高原道路は、基本的に森の中に続いた。広葉樹林の森はなかなかのボリュームで、夕方になって緑がますます鮮やかだ。しかしそれでも、晩秋や初冬の正午より、余程太陽は高い。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県大田市三瓶山西の原 三瓶山高原道路にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県大田市三瓶山西の原 三瓶山高原道路にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
途中の駐車場やつづら折れ区間、西の原では森が開け、その度に三瓶山が新緑もりもりで立ちはだかり、下界が見渡せたりしてその度足留めさせられた。
明日下る予定の分岐を見送った後、最後は森の中から看板が現れ、17:15、本日の宿「さひめ野」着。取付はコンクリート舗装の激坂だった。もう構わない、迷わず押してしまう。
登りきったエントランスのアプローチから、三瓶山西側山裾と中国山地が見渡せた。
中国地方Tour22#2 2022/4/30(土) 東城→三瓶温泉 島根県大田市三瓶町志学 さひめ野にて #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
夕焼けと早朝の雲海が見事らしいとのこと、明日は曇り予報なので、朝の展望は期待できないかもしれない。
夕食は18時からの分が一杯になってしまったとのことで19時からとなった。宿の値段が値段だけあり、お刺身に石見牛を始めなかなかゴージャスでたっぷりと美味しい。
大満足の1日だった。
記 2022/5/19