五島列島Tour19#7
2019/5/3(金)
福江島-2 福江→玉之浦-1

福江→猪掛峠→荒川→大宝→玉之浦→大瀬山→玉之浦 (以上#7福江島5-1)
(以下#7福江島5-2) 区間2 (以上#7福江島5-2)
(以下#7福江島5-3) 区間3 (以上#7福江島5-3)
(以下#7福江島5-4) 区間4 (以上#7福江島5-4)
(以下#7福江島5-5) 区間5
49km ルートラボ

赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路と航路

 12:15、福江港着。
 船の壁が向こうに倒れてそのままで渡り板となり、そこを渡って福江島に上陸。交通機関の次は輪行作業と身体に染みついてるためか、更にそのまま進んで港の道をてれてれ流すのも何だか手持ち無沙汰で違和感がある。もちろんお手軽なことに全く不満は無い。楽しんでしまえばいいことだ。

 港に面するいくつかの食堂の前を流して、徒然と街中へ。確たる目的地があるわけじゃない。何となく旅を自分のものと感じられるような体験がしたいだけなのかもしれない、等と他人事のように思う。もう少し事前調査して、「男はつらいよ」で出てきた食堂の跡を探してもよかった。五島が舞台となっていることは知っていたのだから。しかしそこまで狙い定めて、力一杯旅している訳でもないのである。
 福江の街中には、五島列島唯一のアーケード商店街がある。その実態はシャッター街となっていて、あまり目新しいものは無い。それは他の地方都市と全く同じだ。かと言って港前の食堂に戻るのもためらわれた。周囲の状況とは無関係に、お昼になってそれなりに腹が減った気がし始めていた。今日はこの先福江島を東西に横断するので、それなり以上に何か腹に入れておく必要はある。しかも、あまりカロリーを気にせずに。こういうチャンスに限って何も無い、おれの人生よ。しかし実際には、食べなくても意外に過ごせてしまうかもしれない。初日のように。所詮玉之浦まで40km、獲得標高差400m台だ。
 何も見つけられらず、自分の居場所にすら困るような気持ちで、徒然とアーケード街を抜けてゆく。いつかアーケード街を抜けて、更に何も無くなるな。気が付くと、目の前に男子高校生っぽい3人組が道を横断していた。ラフな運動着っぽい格好でスポーツバッグを担いで、或いは午前部活の帰りなのかもしれない。文化部だった自分の高校時代、休日の部活の後お昼に町を歩く状況とはどのような場合だったか、高校時代の自分がどれだけ果てしなく昼飯を食べていたかを思い出し、今、自分の昼食場所選択を任せるのに彼ら以上に適任はいないと直感した。これが大当りだった。
「すみません。つかぬ事を伺いますが飯屋を紹介して下さい」
「飯屋ですか。そうですね。…安さに拘りますか?」
「…いえ、敢えて言えば拘りません!」
「じゃ、望月がいいですよ。お肉主体です」
「肉ですか、いいですね!どの辺でしょうか」
「ここから1kmぐらいです」
「1km!街の外ですか?」
「いえいえ、じゃもっと近いです。すぐ近くですよ」
などという会話があって、結論から言えば「望月」はすぐ見つかった。
 かなりさりげない、知らなかったら絶対入らないと思う木造モルタル家屋に、やや入りづらい戸建住宅のようなガラス引き戸の店構えの店内は、お昼のためかやや混んでいた。店内にもメニューの一番目立つ場所にも「五島牛ステーキ」、これこそ一番探していたものだったかもしれない。
 五島牛ロースステーキ200g¥5200を超レアでお願いした。やや値段は張るものの、今こそ旅にメリハリを付ける時だと確信していた。果たして本格的五島牛ステーキは、レアだが生っぽくなく、霜降りっぽいんだが油臭さが無く、とろけるように柔らかくまろやかで豊かな味わいだった。大変価値があったと思えた。明後日、福江島最後の夕食は絶対にここにしよう。


 13:05 福江発。4/27に福江に着いてはいても、福江の市街地から走り始めるのは初めてだ。何だかこれも不思議に新鮮な気分である。
 福江島の横断は県道27へ。初日に林道の猪掛峠を越えているので、今日は現県道の猪掛トンネルでいいかなとも思ったものの、福江郊外だと県道27の交通量がやはり耐え難いほど多い。それに猪掛トンネルの新道との標高差はたった50mぐらい。というわけで、猪掛峠への林道へ分岐。
 木漏れ日の静かな路上に、透明な羽のカワトンボがひらひら、黒に黄色い模様が目立つサナエトンボもびゅんと飛び回っていた。曲がり角の草花には、黒系アゲハ、アサギマダラ、タテハチョウなどが飛び、森の中からウグイス、ホトトギスの声が響き渡るのも初日と同じ。斜度緩々の楽しい道だ。多分3度目があったら、またこちらに来るだろう。
 下りもブレーキをあまりかけないぐらいで下れる、細道の程良い斜度でくねくね徒然に。

 初日に大曲へ分岐した雨通宿で、今日は県道27へ。再び谷間を登り始めた県道27に、下りじゃないのかと川の流れ方向を確認しても、間違いなく登りである。岐宿の盆地へはもう一山あるのだった。山間にやや開けた谷間の後、5〜6%位のゆるっとした登りでそう高くない丘を越え、今度こそ岐宿の広い盆地の中へ。

 お昼過ぎの眩しい光の中、山に囲まれて畑が拡がる盆地の中心では、県道27と県道31がそれぞれ一直線に直行していた。全く海の香りがしない、内陸ならではの風景だ。普段のツーリングならこういう所にコンビニがあるのだが、等と思いながら目に付いた自販機でとりあえず休憩しておく。そう言えば、今回のツーリングではまだ福江周辺でしかコンビニを見かけていない。

 交差点から再び盆地の西側縁へ、80m程登り返しが始まった。普通に県道っぽい幅の道は、車は殆ど来ないのがありがたい。

 七ッ岳登山口を過ぎると道が下り初めた。そういえば北側に、つんととんがった山が見える。あれが七ッ岳か。 狭い谷間の下りが落ちつき、次第に拡がって行く手に山が無くなって川幅が拡がり、福江島西岸が姿を現した。


五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町荒川 国道384 荒川漁港 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 14:30、荒川着。切り立つ山に挟まれた狭い湾、その先唐突に拡がった海の奥行と色の濃さ、眩しい光で一杯の空を前に、ちょっと脚を停めてみる。間髪を入れずに国道384を、DHバーを付けたトラ系ロードバイクが、後輪ディスクホイールのごーっいう音とともに高速で1台、また1台。何台か通過していった。福江島では明らかにスポーツ系自転車乗りをよく見かける。他の島では中通島でツーリングっぽい女性を一人見かけただけだった。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町荒川 国道384 荒川漁港 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 国道384は切り立った海岸際に、布浦、河原浦と小さい漁港を繋ぎ、湾と湾の間の半島を越えて南下してゆく。連日のことながら、今日も天気は絶好調。傾き始めた日差しが眩しく、赤味を帯び始めた日差しの中で緑も青も鮮やかで凄い色だ。比較的近い島々が黄砂で霞んでシルエット気味なのも昨日と同じである。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町荒川 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 岩場の漁村、河口の平地の畑。道端には次々と、小さく静かな生活感が断続していた。海上の比較的近い対岸には常に向こうの陸地が、その奥には時々島山島が現れた。小さな岬を回って道の向きが変わるにつれ、湾の風景は刻一刻と替わり続けたが、対岸の陸地や島は、ことごとく無人である。岸辺のどこかに漁村が見え始めないと、まだ今日の宿には近づいていない。
 まだまだ進まなければならないのに、海岸の景色に脚がしょっちゅう停められている。国道なのに、さすがは日本の道100選だ。
 15:00、トンネル迂回でたまたま回ってみた中須に、商店と自販機を発見。海岸の写真を撮ってから水分補給していると、店の中から声を掛けられた。店のおばさんがお得意さんっぽい建設技術者っぽい方とお話ししていたようで、私もお邪魔させていただき、少しいつものツーリング中のお話しをする。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町中須 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町小南 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 中須の南では、ツーリストのグループが挨拶してくれて通り過ぎていった。福江発を約1時間半早めた余裕のお陰で、とても楽しい行程になっていた。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町小南 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大宝 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大宝 国道384 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 大宝で国道384から県道50へ。玉之浦まであと8km。

 細長く湾曲して入り組んだ半島と玉之浦湾の海岸と、陸地を登ったり下ったり。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 途中、戸町切に60mぐらいの登りが地形図に描かれていて覚悟していたが、そこにはあっさりと玉之浦トンネルというトンネルができていた。事程左様に1/5万は情報が古い。

 玉之浦トンネルを抜けると、静かな内海の井持浦沿いにもう井持から玉之浦への漁村が見え始めた。赤みを帯びた日差しが、静かな井持浦を鮮やかに濃厚に彩り、なかなか脚が進まない。しかし遠目に見てもやや新しめの井持浦教会は、この際通過させていただく。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町井持浦 県道50 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 6:10、井持着。玉之浦とは蛭子崎を挟んで一続きの集落であり、もうほぼ玉之浦到着に近い状態だ。多分16:20には確実に宿に着けるだろう。結局これだけゆっくりしても、福江からぎりぎり3時間。当初の目論見通りだったのが嬉しく、せっかく中通島の行程を前倒ししてきたのに、何だかやや拍子抜けでもある。いや、宿の夕食時刻18時に間に合うかどうか心配しながらの3時間とは、やはり質的に全く違うツーリングができたと考えるべきだ。
 それにしても夕食まであと2時間。いや、もう行程も7日目だからこれでいいのだ。風呂に入ってゆっくりしよう。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成
五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町井持 県道50 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 等と考えていると、道端に「大瀬崎3km」との看板が現れた。大瀬崎には明日行く予定だ。標高差200m超で3kmか。今なら、大瀬崎へ行って帰ってきても、せいぜい17時過ぎだろう。そして明日の朝、天気予報通りに晴れると限らないのは、ここまでのツーリングの通りだ。むしろ明日云々ではなく、西向きの大瀬崎は晴れている夕方の今、立寄るチャンスなのではないか。しかし標高差200m以上。事前のストリートビュー調査では、確かかなり厳しそうな坂だったぞ。どうする。

 などと悩ましいのは一瞬、やはり大瀬崎へ登ることにした。取付の急坂で高度がすぐ上がり、すぐに斜度は一段落。日差しが傾いてすっかり山影の中に入ってしまった東側斜面から、まだ日なたの中で眩しいほど明るい井持浦を真下に見下ろしつつ、淡々と登りが続いた。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町井持浦 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 地図上の距離で最後の1/3強ぐらい、標高80m以上から、道は再びぐいぐい登り始めた。10%を軽く越える、かなりの激坂だ。上の方からロード乗りが下りが嬉しそうに下って来た。そりゃ嬉しいだろう。道が尾根を巻いて東側から西側斜面へ移ると、ガードレールの外は底が見えない開けた急斜面となり、日差し一杯の空中から100m下の海まで大空間が立ちはだかった。自分の高さが怖ろしく、海を見下ろさなくても道の外に顔を向けるだけで心許ない。よくこんな所が車道になったな。
 駐車場と展望台を過ぎ、道の最高地点まで登ってみた。標高220m。一応車道の先端、ストリートビュー予習で見覚えがある灯台への入口だけ眺めておく。ここから灯台までは標高差100mぐらい、徒歩で下る必要がある。 こういうのに立ち寄るためには、自転車行程だけ考えていてはいけないのだ。いや、時間のせいではなく、怖ろしさでお腹いっぱいになってしまっていた。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成  RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 折り返して16:50、展望台着。まだ陽差しは夕陽という程低くないが、充分に赤っぽい。赤い直射日光をまともに反射した東シナ海の中へ、シルエット気味になった大瀬崎が突き出していた。
 巨大な岩の柱が集まって海面から飛び出し垂直に立ち上がり、樹木は岩のてっぺんにしか生えていない。てっぺんが先へ下ってゆき、一番先に灯台が小さく見えた。あそこまで100m、徒歩で下るのだ。
 そしてこちら側の岸と大瀬崎の岩が海と空を挟み付け、上下に拡がった空間。急斜面の底は見えないものの、柵が無ければ、いや、柵があっても、例によって海を見下ろすのすら怖ろしい。眩しさ、空間ボリュームの迫力、濃厚な物質感、そして怖さで、風景を長い間直視したくないほどの迫力だ。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大瀬山 大瀬崎展望台 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 宿の夕食までまだあと1時間ぐらい。この風景を眺めながら、日が落ちるのを待つべきなのかもしれない。しかし風はどんどん冷たくなっている。風やちょっとの寒さなんて雨具を着れば凌げるのだが、もう満足してしまっている。それ以上に風呂に入りたい。こういう時、結局私は意外にすぐ下り始めてしまうのであった。
 でもこの際、少し下の大瀬崎駐車場にも寄っておく。

 RICOH GRV GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 さっきは西側の大瀬崎を見下ろしていたのが、こちらは南側、少し遠くのオゴ瀬、赤瀬である。相変わらず海から高く立ち上がった白っぽい断崖。巨大な岩を巨大な力ですぱっと割ったような、力尽くの岸壁が、海のしぶきで霞みながら遠くへ続いていた。外側は真っ青な東シナ海。もう少し北側に振り返って見下ろせる、さっきまでいた井持浦の、静かな内海の風景からは全くかけ離れた味わいだ。どっちも素晴らしい。やはり今この時間に、ここまで来て良かった。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町大瀬山 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 下るのはあっという間だった。そのまま海岸沿いに玉之浦へ。海の向こうの島と島の間に、やっと大きな橋のシルエットが見え始めた。玉之浦から日ノ島へ渡る橋だろう。玉之浦へ行ったら、日ノ島には是非訪れておきたい。どうせ橋を渡って向こう岸に集落があるだけなのだが。でも明日にしよう。

五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 17:15、民宿たまのうら着。漁村がぐるっと取り囲む入り江の、静かな玉之浦港に面する小綺麗な宿である。

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五島列島Tour19#7 2019/5/3(金) 福江島-2 福江港→玉之浦 長崎県五島市玉之浦町玉之浦 玉之浦港 民宿たまのうら前 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

 女将さんには今日は他に他に自転車3名だと言われた。自転車乗りの中では私が一番到着が早く、風呂も洗濯も最初にできたのは有り難かった。
 3名のお客さんは佐賀のロードバイク乗りの方で、とても気さくな方で夕食時には話しかけていただき、時間があっという間に過ぎた。

記 2019/6/15

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Last Update 2019/6/30
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