下畑野川→川口→中黒岩→七鳥
(以上#3-1)
→蓑川
(以上#3-2)
→長崎→二箆
(以上#3-3)
→とろめき→日野浦
(以上#3-4)
→森→長者
72km
RIDE WITH GPS
合流点に「土居のうまいもん」という名前の飲食店兼土産物屋を発見。ちょうど水滴は明らかな小雨のぱらぱらに変わりつつあった。まあそうでなくてもちょうどお昼、そろそろ腹が減ってきていたところなので、迷わずお店へ。ラーメン大盛り、ソフトを連続で頂く。
国道33は深い谷間の渓谷に通っている。道の周囲にはまとまった平地は無く、この店も軒のすぐ外はもう国道33である。店先の車の通行を眺めつつ、石神山は無いなあと再び思う。というより何となく未練がましいその理由は、天気のせいにしているが、実は計画時にノリノリで軽薄に詰め込みすぎたコースをやっぱりこなせないからではないのか。全く逃げ道が無かった昨日の瓶ヶ森林道と違い、現実的で楽ちんなエスケープルートも最初からちゃんと確保しているのは、いざとなったら諦めようと思っているからだ。なんだか恥ずかしく恨めしい。下方修正の理由がはっきりしているのは、むしろ有り難いことかもしれない。
店を出ると、意外にも影ができるぐらいに辺りは明るい。とりあえず出発にはいいタイミングだ。12:30、「土居のうまいもん」発。
国道33は、面河川の深い谷間に続いてゆく。川幅は二桁国道なりにやや広く、切り立った山の緑に挟まれ、谷底の川原にごつごつごろごろ荒々しい岩場と青い水面が見応え一杯だ。ただやはり、路上はなんだか埃っぽい。通常ならこれもツーリング許容範囲、何とかぎりぎり上限かもしれない。昔ならこれぐらいは楽しんで走れていたとも思う。しかし、一昨日からの素敵な細道の数々は、既に私を細道しか走れない身体に変えてしまっていた。
落出で国道494の巨大ループが折り返して山中へ消えていった。地図では高低差100mを一気に駆け上がるこの道の脇に旧道らしき細道がつづら折れで急斜面を登っている。実際に眺める細道も、新道とは無関係の楽しそうな道に見えた。
しかし今、目の前の旧道で登り返してまた下ってくる気はしない。対岸には少し登り返して「高地休場」なんていう名前の集落もあるのだが、やはりもう無駄に登る気は無い。計画時、無責任にいろいろ考えていた自分が恥ずかしい。
面河川はダム湖となり、国道33は湖岸を数10m程度の比較的穏当な高低差で推移しつつ東へ向かってゆく。数10mとは言え登り返しはしんどい。相変わらず道はやや埃っぽく車は多い。
低い雲の動きは早い。雲が切れて青空が見えた後、雨具着替えが必要になるぐらいの通り雨が降った。雨具を着てしばらくすると、再び雨は止んだ。全体的に天気はかなり不安定と言えた。
石神峠への道、別枝大橋では、ダム湖となっている広い川巾を渡る細く長い橋と、対岸に畑や農家が断続する楽しそうな雰囲気が漂う道が見えた。ここで石神峠へ向かわないのは残念な気もする。
いや、やはりしんどい気持ちの方が先行しているし、天気のせいにしてしまえるうちにもう有り難く天気のせいにして通過することにした。
大渡ダム大橋から対岸へ。赤い鉄骨トラスが見事だったので地形図を見直してみると、対岸に細道を発見したのだ。あまりアップダウンも無さそうだし、大渡ダムの向こうでは国道439へ直接下れそうだ。実は一つ手前の別枝大橋から、既にこの細道に向かうことはできたようだった。
再び空は心配になるぐらいに雲の色が濃く、全体的に暗くなっていた。対岸の道はやはり静かで、桜並木は青々とし、湖面が間近だ。
ダムの先で谷が一気に100m落ち込む。水が一杯で広々としたダム湖から打って変わって急に落ち込んだ谷底を見下ろし、つくづく登りじゃなくて良かった、などと思う。
前回ここを通った2001年は雨の中。国道439との重複区間を終えて100m登ってゆく国道33を国道439から見上げ、地形図でとろめきまでの距離と等高線を見て、「とろめきはちょっと立ち寄ってみるという訳にはいかない場所だな」などと考えていたことも思い出した。
谷底の小さな町、森で国道439に合流。
町中は国道439が未拡幅だ。「百貨店」という名前の万屋、古びた木造理髪店、幅員6m程度の橋などがいかにも旧道然としている。与作ルールてんこ盛りだと思った。
町を出ると道幅は拡がって、与作というより国道439というか、ごく普通の田舎国道となる。
道と川と森だけの長者川の谷間を淡々と少し遡り、「えっ、こんなに近いの、この時刻で」という距離で、14:10、長者着。少し手前から雨が降り始めていて、雨の到着となった。
長者という場所は、国道439と県道18の分岐点から少し下手の谷間の集落だ。国道439は谷底で、東側の山肌をつづら折れで大峠へ向かって登ってゆく細道の県道18に、民家の記号が群がるように貼り付いて描かれている。どこをどうみても、細道沿いの斜面集落っぽいなと思っていた。
実際にも、谷底の国道439沿いには公共施設はあるものの、多くの人が住んでいるのはむしろ急斜面だった。谷底から斜面を駆け上るように何段も積み上げられた石垣の段々、更に上に急斜面にびっしり貼り付く集落は、まるで戦国時代の砦のようでもある。季節柄か谷間には数十の鯉のぼりが掛かっている。ここまでの国道439で、「だんだんの里 長者」と看板が出ていた、その「だんだん」の意味をようやく理解できた。
見事な斜面地集落だ。こんな素敵な場所に、今日泊まることができるのだ。確か前回、雨の中でこの風景を眺めて、しかしその時はまだまだ先の窪川へ向けてそろそろ焦り始めていていたために、立ち止まって景色を眺めることもできなかったことを思い出した。つくづくその時の自分が可哀想になってきた。まあその時の失敗があるからこそ、今日余裕ある計画ができていると言える。
しかし、今はまた雨が降り始めていた。見上げる空は、相変わらずどんより薄暗く、雲はますます低い。普通、15時以降が宿到着の常識的な時間である。ここは素敵な景色を眺めながら、やはりここまでの看板で目を引かれていた農家レストランで2度目の昼食を頂いて時間を潰そうと思ったものの、水曜日は営業していないようだ。そこで宿に電話すると、もう問題無く入れるとのこと。ありがたい。
田んぼのつづら折れの急斜面をインナーロー投入で這い上がり、集落の中へ。
細道県道18の両側に密集した集落がほんとに続いていた。いや、集落というよりこれは町並みと言っていい。急斜面で狭くなってしまう敷地故か、民家はしばしば3階建てである。道に迫る建物が、狭い道をますます狭く感じさせる。こんな山間にこんな町があるとは。
登ってわかったが、下から眺めると一見田んぼに見えた石垣の段々は畑が主体だった。ただ、田んぼもあるので、蛙の声が谷間に響いていた。今夜も蛙けろけろの中で眠れそうだ。
14:25、「高木旅館」到着。
早めの到着だが、今日はもういいのだ。部屋からの段々の展望は楽しみだったが、薄暗い障子を開けると、そこは段々とは反対の上手側、隣地への擁壁が間近に立ちはだかるドライエリア状態。再び障子を閉め、風呂の後は早々にビールを呑んでひっくり返った。
ざーっという音で目が覚めた。15時半前、音がするほどの雨が降っていた。どういう事情があろうと、今日は早仕舞いで正解なのだった。
記 2017/6/11