北海道Tour17#8
2017/8/16(水)天塩→浜鬼志別-1

天塩→稚咲内 (以上#8-1)
(以下#8-2) →豊徳→豊富 (以上#8-2)
(以下#8-3) →開源→下豊幌 (以上#8-3)
(以下#8-4) →曲淵 (以上#8-4)
(以下#8-5) →浜鬼志別  121km  ルートラボ

ニューサイ写真 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8 A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路

 4時過ぎ。西向きの部屋の窓からも、明るくなってきた空が晴れているのがよくわかる。日本海海上にはやや厚い雲が出ているものの、陸地側は大丈夫なようだ。海岸線が、日本海と陸地の天気境目になっているのを、過去にも時々見かけたように思う。海と陸地の温度は、それだけ違うのかもしれない。
 朝から晴れだと、気持ちも身体も何かとしゃきっと順調だ。5時過ぎには諸々準備完了、一晩自転車を停めさせていただいた元林業研修センターの出入り口へ。既に外には朝日が、日なただけじゃなくて影の部分の雰囲気も朝っぽい空気に入れ替えつつあった。

 

 荷物を全部積んで外に出ると、さすがは道北、寒いと思うほど肌寒い。風もけっこう強く、しかも北風なので、これから向かう北上方面へは向かい風になる。しかし空は晴れまくっていて、朝日は眩しいというより鋭く肌に突き刺さるようだ。こういうところもさすがの道北だ。
 天気予報は午前中に通る天塩町、豊富町で晴れなのに、午後の、というよりオホーツク側は終日曇りだ。日本海側はこれだけ晴れなんだから、オホーツク海側だってそう極端な天気にならないんじゃないかと思いたいものの、一方で雪以外なら何があっても不思議じゃないのが北海道の天気である。ましてやこの道北、そして曲がりなりにも日本海側とオホーツク海側なのだ。全く別の場所だという捉え方が適切だろう。
 それに、日本海側激晴れ、オホーツク側は冴えない天気というのは、昨年、一昨年と全く同じパターンだ。その例から今年も似た傾向ならば、晴れる日本海側で選択と集中的により長い時間を過ごすようなコースを選ぶ方が楽しめるだろう。
 幸い今日の宿は浜鬼志別の「ホテルさるふつ」。小石峠でオホーツク側に出れば、オホーツク海岸での移動距離を抑えられるから、その分長い間晴れている場所で過ごすことができるだろう。

 そういう方針で実際に小石峠でオホーツク海側に向かうことだけ決めておき、実際のコースは、午前中に現地の晴れ方を見ながらアドリブで決めればいいのかもしれない。天気が良ければ良いほど、あまり脚が進まないだろうし。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 5:50、天塩温泉夕映発。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 まずは旧市街裏手の海岸沿い公園で日本海を眺め、市街地へ。昨日通ったのと逆に日本海沿岸へ向かう。

 道道106で天塩大橋で天塩川を渡ると、もうオトンルイ風力発電所の巨大な風車群が見えている。市街地からずっと、相変わらず空はもの凄い青色で晴れまくっていた。北東の風はやはりかなり強い向かい風方向で、かなり冷たい。今日はしばらく、この強い向かい風にまともに向かって、北上することになる。しんどいが、むしろこの朝日に照らされた、海岸の風景を楽しんでしまえばいいだけなのかもしれない。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 冷たい向かい風で、汗はかくのに身体は意外な程冷える。時々フリースの襟に手を片方づつ突っ込みながら、やはり流石の道北最北部だと感心する。こういう冷たい空気の中に一度身体を置いてから東京に帰ったら、果たして自分はあの高温多湿の環境で生きていけるのか心配でもある。

 オトンルイ風力発電所の手前でもまたもや脚を停め、利尻富士を撮ることにした。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 相変わらず海の雲が、水面に浮かんでいるような利尻岳の裾をぼやかしている。しかし昨日夕方の、逆光で霞み気味のシルエットに比べ、今朝の利尻岳は稜線近くの山肌が朝日に照らされてちゃんと見えている。何にしても、利尻富士を撮るために道北でこういうコースを組んだって、いい天気になど狙って会えるものではない。それに、北海道に重い望遠ズームを持ってくるときに考えた、まさにその利尻岳がイメージ通り、いや、希望通りに見えつつあるのだ。絵として面白味が無いとか昨日同じ場所で撮ったとかどうかは関係無く、今撮っておかねば。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 しょっちゅう脚が停まるので、6時前に天塩を出てまだ7kmなのに、わずか10kmほどのオトンルイでもう7時前。予想通り、進行はかなり遅くなっている。しかし7日前の釧路出発以来、ここまで見ることができなかった夏の色彩まっただ中に、今、自分はいる。こういう風景の中で時を過ごしたくて夏の北海道に来ているのだ。これを楽しまずに何のツーリングなのか。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 もうこの段階で、今日は下方修正を怖れず、いや、目一杯下方修正する方向で、天気の良さそうなサロベツ原野〜内陸部をのんびりしようと決めた。

   RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 昨日この道道106に合流した幌延への分岐を過ぎると、雲が溜まっていた日本海の海上はどんどん晴れてきた。時間が経つにつれ雲は明らかに減ってきて、海上の空気も澄み、さっきまで雲に隠れていた利尻岳の裾が現れ始めた。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
   RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 一方、天塩大橋からずっと道道106の道端にの続いていた電柱と電線が、分岐のすぐ先のスノーシェッドで途切れ、それまでもシンプルだった道道106の風景は、更に単純になってしまった。道の両側が1点に収束する彼方へ、路上と左右両側の草原が一続きの空間になって、真っ青な空と対峙する。路上にいる自分の空間と空が一つであり、まるで空の中に道があるような、道道106の真骨頂と言える区間だ。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成  PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成

 相変わらず強い向かい風に、ぬれタオルが絞られるみたいにもみくちゃにされ、前に進むのはつらい。しかし、もう時間をかけることに決めてしまえば、今日のコースに下方修正のネタは事欠かない。落ちついてのろのろ進めばいいだけだ。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 稚咲内で内陸に進む前に、もう一度利尻富士を撮っておく。未だ中腹部は雲に隠れているものの、日本海沿岸の天塩に泊まって出会えた、最高の朝の風景である。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 8:10、稚咲内着。ここから北へは比較的最近訪れているので、今日は内陸へ向かう。道道106を曲がって少し東に進んだだけで、暑さを感じ始めた。海からの冷たい風が遮られ、いつの間にか大分高く登っている日差しと照り返しが路上の気温を上げているのだ。この時間でもう、内陸はこんなに暑いのだ。海岸から離れたことを少し後悔した。まあしかし、今日の宿はオホーツク海沿岸の浜鬼志別。いつかは内陸に向かう必要はある。

 

 日本海海岸とサロベツ原野の間には標高20〜60m程度の丘陵があり、境界部となっている。一昨年にこの丘陵を訪れているので、今回はその裾、サロベツ原野側の未済細道をGPSトラックに選んでいた。
 しかしこの晴天で考え直した。一昨年行った丘陵へ、もう一度行ってみよう。

 前回は低く濃い雲に空が覆われた薄暗い日だった。しかし、丘陵からところどころでサロベツ原野を見渡す場所があり、すかっと晴れた日に来たかったものだ、などとその日は思っていたのだ。今まさに、晴れの日の再訪のチャンスなのである。丘陵裾の細道も雰囲気は悪くないかもしれないが、景色がいいのはより高い場所からの展望で間違い無いだろう。そもそも、サロベツ原野を見渡す場所自体が意外に少ない。ビジターセンターの展望台だって、せいぜい高さ10m台だし。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 実際に丘陵を訪れてみると、目論見は大当たりだった。見渡すサロベツ原野、上サロベツの牧草地は、近景も遠景も、鋭い日差しに照らされ、濃厚なのに輝くような緑色の草原となっていた。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 眺めのいい場所で狙い定めて脚を停めたり、前回行かなかった上手の道に回り道したり、またもやさっぱり進まない行程となった。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 サロベツ原野を眺めていると、原野を挟んで東側、内陸部の低山上空がすっかり晴れていることに気が付いた。視界の奥まですっきりと晴れているので、今日は内陸部も晴れていることが確信できた。

 実は昨夜、この先の豊栄からサロベツ原野北側、標高20〜40mの丘陵にGPSトラックを組んでいた。ただ、以前もう少し奥の兜沼やオネトマナイを訪れた時の印象や、地形図から私が読み取れる印象で言えば、あまり何か特別な風景が拡がっているというわけでもなさそうな先入観もあった。しかも行きがかり上、既済経路もコースに入ってしまった。まあとにかく、あまりすっきり納得して組めたようなコースではないのである。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 というか、今日は止めとこうか、この丘陵区間、と思い始めていた。たかだか20〜40mぐらいの坂すら面倒くさい、という理由もあるものの、細道の未済経路消化にかまけて、この晴天絶好調のサロベツ原野や道北内陸部の風景を見逃してはいけない。
 サロベツ原野を反時計回りでだけで豊富に向かうだけだって、未済経路は消火できる。そして豊富の先の丘陵地帯には、脚を停めるべき場所が一杯あるはずだ。

 8:50、豊栄着。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 あまり戸惑うこと無く、豊富へ向かってみたものの、方向を変えて少し進み始めると、横風がかなり強い。早朝の北風が、内陸では北西気味の海風に変わっているのだった。そして、今までいかに海沿いの丘陵が海風を遮ってくれていたかを思い知った。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 ふと振り返ると、サロベツ原野を囲む丘陵の上に、利尻富士の意外な程大きな姿が見えた。ギザギザの稜線が大変ものものしい。さっき海岸沿いにいたときは、あんなにはっきり見えなかったはずだ。明らかにどんどん晴れてきている。

 豊栄で道の向きが変わってから、それまでの追い風アシストは丸ごと向かい風抵抗に変わり、路面からの強い照り返しは更に暑く感じられ始めていた。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成

 事前のイメージは一気に悪条件に変わり、豊富まで9kmが大変につらい。少しずつ近づく豊富方面の山を眺めて普通に進むだけで、何だか汗だくになってしまい、その割に豊富方面の山々は近づかない。まあ景色としてはそんなもんかもしれない。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 道のちょっとした向きで、強い横風は時々追い風気味になった。強い風に煽られ、前に進むことだけに何となく一所懸命になってしまっていた。

 もともとこちら方面は里に近く、雰囲気もサロベツ原野的拡がりというよりごく普通の道北の牧場集落的で、立ち止まるようなネタも少なかった。

 結果的に豊富までサロベツ原野の風景はあまり味わえなかった。当初コースに行っていたら時間は押していたと思うものの、何となく下方修正しすぎた気になった、豊富までの道だった。

 

 10:15、豊富着。毎度立ち寄る国道40沿いのセイコーマートへ。
 日差しは店に対して正面気味なので、軒の影はほとんど無くなっていて、すっかり高く登った日差しはちりちり暑く感じる程暑い。相変わらず照り返しも顔が火照るようだ。美味しいセコマアイスで身体を冷やしつつ、店の脇の日陰に待避する。もう10時過ぎ、1日で一番暑くなる時間帯に入っていた。そもそもここで休憩する時に天気が晴れなら、大体いつも日差しに炙られている気がする。
 一息付きながら、豊富から先の行程を再確認してみた。予定としては、既知の道道84で東に向かい、谷間の未済経路を繋いで、道道121に合流するつもりだった。ただ、さっきサロベツ原野で下方修正しすぎたという気持ちから、もう少し何かしたいなという気もしていた。

 こういう時はとにかく地形図を眺めるに限る。すると、去年訪れて広々とした風景が感動的だった豊富町営育成牧場に裏から入る別の未済経路を見つけることができた。そう言えばその時、眺めのいい丘の上で突如別の道と合流したことを思い出した。またそれとは別に、その道から分岐し、途中1回の丘越えを経て豊富町育成牧場の北の谷間を回り込む未済経路も発見。やはり地形図は頼りになる。
 どちらも100m〜140mぐらいの登りがやや億劫ではある。ただ、今日の予定全体で考えると、そんな登りは大した差ではない。それに当初予定経路より二つの道は細く描かれていて、のんびりと過ごせそうだ。周辺の地形も、より丘や谷間のバリエーションに富んでいて景色が良さそうに思える。
 とりあえず当初予定の道道84ではなく、有明方面へ向かう町道へ行くことにした。


 10:45、豊富発。開源までちょっとだけ国道40を経由。サロベツ原野だけじゃなくてやはり内陸も向かい風が強い。

 内陸へ向かう町道は、豊富から内陸部へのアクセスに使いやすいので、私的に凖幹線ルート化している道だ。サロベツ原野と内陸の丘陵の天気が違う場合、この辺りがその境界であるという印象がある。今日はさっき日本海沿岸近くの丘陵で眺めた通り、内陸部もサロベツ原野と同様快晴が続くようだ。

 濃厚で明るい色の青空と草原の緑、透けて輝くような木漏れ日に、やはり豊富町営育成牧場を経由する道に向かうことにした。140mぐらいの登りは、まあ一汗かけば済む。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 谷間からの登りでは、やはり一気に汗が吹き出てきた。あんなに寒かった朝を、まるで嘘みたいだと思い出す。しかも道は普通の舗装道路ながら交通量皆無。静かすぎて、木陰の鬱蒼とした背の高い茂みからは、熊が出てきそうな不穏な雰囲気が発散されていた。

 しかし、森と茂みは丘陵の稜線手前で突如、輝くような緑の丘と牧草地となった。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 丘の背中には、カラマツ防風林が牧草地の縁に続いている。もう豊富町営育成牧場まっただ中である。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成

 明るい緑と濃い緑、青い空と白い雲を口実に、脚を停めて水を飲む。日差しと照り返しはやたらと厳しく暑いものの、涼しい風が吹いてほっとするのは流石の道北である。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 丘に登り切ると、牧草地の展望は更に拡がった。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 去年感動的だった豊富町営育成牧場の、更にもう少し高い場所をまともに乗り越える道なので、去年より景色がいいのは当然の展開なのだった。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成  PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成

 似たような高さの丘と低山、牧草地と森が、谷間を挟みつつ幾重にも重なり、視界の彼方へ続いてゆく。真っ青な空には白い雲がぷかぷか、けっこう低い位置で早く動いていた。草原の上に大きな影が、やはりけっこうな速度で次から次へとやってきて去ってゆく。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 雲は浮かんでいるものの地平線近くに溜まっているわけではなく、丘の上からは北西方向に未だに利尻岳も見えるのには驚いた。確かに利尻岳は標高1000m以上。道北内陸でも、小高い場所ならどこから見えても不思議じゃない。確か去年は豊富町営育成牧場に登り始めてやっと空が晴れてきた。空の低い場所にはまだ雲が溜まっていたので、利尻岳が見えなかったのだ。

 牧場の最高地点から少し丘のアップダウンが続いた後、するするっと道は下り始め、間もなく去年の道と合流。あとは丘の形なりに牧草地、森の中に下り基調が続いた。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 道道121に合流後も、豊富町営育成牧場の凄い開放感がしばらく身体に残っていた。つい最近まで道北らしい風景を楽しんでいたはずの、道道121の一番静かな区間が、凄く裁けた道に感じられて仕方ない程である。

 豊富町育成牧場では登り下りだったり下り基調でごまかされていたかなり強い向かい風も、道道121の広い道幅の空間では緩い下りでも全く進めないのが気になってきた。

 早く次の脇道に行きたい。

 12:45、有明着。有明の交差点は丘の谷間に一直線の道が2本交叉している。交差点の近く、ちょっと古めの牧場は、まるで西部劇の田舎の風景のようだ。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 交差点から再びGPSトラックに従い、道道121東裏手からの脇道から小石峠麓の曲淵を目指すつもりで組んだGPSトラックは、牧草地まっただ中の丘を巻くうち、次第に先行き危ぶまれる程の細道からダートに替わり、最後に行く手の先は鬱蒼とした茂みに変わった。明らかに廃道である。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
   RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 とは言え、脇道での時間はそれが徒労であっても時間の余裕がある間は楽しい。脇道は路上と周囲の空間が一続きになっている。それは周囲と自分の時間が一続きになっているということでもある。そして自分がいる空間や時間を、外からやってきて外へ消えてゆくことで分断してしまう何者か、例えば高速で通り過ぎる自動車やオートバイの音がほとんどしない。同じ自動車でも、軽トラや牧草トラック、牛乳トロリー車にレッカー車など、その地の生活を感じさせるものなら何の問題も無い気分になれるのは、それはそれでまた身勝手な話ではあるとも思う。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8ED SDM WR パノラマ合成
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 身勝手な妄想はともかく、かなり内陸部に来てしかも北上しているのに、丘の上や視界が開けるところどころで未だ利尻岳の頭が見え続けていた。今までの訪問ではことごとく、その辺りが霞んでいたり雲に隠れていたのだとも気付かされた。やはり晴れの日に、ここへ来て良かった。

 道道121に戻り、曲淵へは最後の悪あがきで未済経路をショートカット。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 いつもは沼川のA-COOPで物資を補給したり昼飯を軽く食べたりすることが多い。この辺に商店は沼川しか無いので、沼川に立ち寄る必要があるのだ。しかし今日は、豊富のセイコーマートに立ち寄ってきた。物資も水もまだ充分にある。そこで、曲淵へ直接向かうことにしたのである。

 曲淵に着いてみると、道道138に貼り付いた集落が、町未満ではあるものの何とも人里っぽい。毎回通る道道138沿いには何も無いのに、ここなら自販機ぐらいあるんじゃないか、これから小石峠へ向かうに当たって何だか缶コーヒーぐらい飲まないと気が済まない、ぐらいの気分になってきた。
 そこで、旧道っぽい裏道を覗いてみると、何と自販機を発見。実は曲淵にも自販機があったのだ。まあしかし、今後も曲淵を通る時は大体前後に沼川を経由するパターンが多いだろう。ここに自販機があるとわかっても、大体沼川で用事を済ませてしまうのだろうな。


 道道138が小石峠へ谷間を遡り始めると、途端に正面から冷たい向かい風が吹いてきた。ひょっとしてこれ、オホーツクから吹いているのか。

 天気予報通りに、オホーツク海側は暑かった午前中の日本海側と全く違う天気になる事を、今実感できた。

 小石峠は標高たったの160m。標高40m程度の曲淵からは、100m足らずしか登らない。坂の斜度も緩い。


 しかし曲淵辺りから毎回やや表情を厳しくする天気の変化、谷間区間でも離陸区間でも稜線部でも感じられるその意外な程の山深さなど、峠の名に恥じない風格を持つ道だ。稜線部では欺し峠っぽいアップダウンも登場する。

 15:00、小石峠着。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 峠の鬼志別側に落ち込む谷間には、地形図に旧天北線の土手が描かれている。その辺りはもうすっかり茂みの笹に埋め尽くされている。しかし何となくああ、あの辺の山腹からトンネルを抜けた列車が谷を下っていったんだな、ということはわかるようになっている。今回もその雰囲気だけは確認しておく。あまりしげしげ観察しすぎて、熊など発見したくない。

 たかだか160mの峠なのに、峠からオホーツク海までは21kmもある。かなり内陸にあるのは道北の峠に共通する特徴かもしれない。
 峠から下り始めると、向かい風は更に強く、肌寒さを感じる程冷たくなり、空は目に見えて曇り始めた。これまでの夏らしい天気が、がらっと寒々しい雰囲気に替わってしまったのだった。オホーツク海岸の寒々しさがますます想像される。

 フリースを着てもまだ寒い程の低温に震えつつ、峠麓の集落、標高80mの小石まで6km弱。

 その後も、微妙なアップダウンとともに延々と下り基調の道が続く。アップダウンの一つ一つは大きいものでもせいぜい10m弱。決して大きくないものの、いくつもいくつも連続して、今日は向かい風と共に大変面倒だ。そして風景も、渓谷でも平原でもないだらっとした谷間が続く。

 こういう時の現実逃避に有り難い自販機も、小石を過ぎると鬼志別まで10km以上無い。更に今日は強い向かい風で寒めの曇りなので、そのじれったさが度合いを増している。

 やっと鬼志別を過ぎ、海岸の浜鬼志別まであと5km。向かい風は更に強くなったものの、空の雲が高くなって切れ始め、青い部分が現れた。海岸沿いだけは青空が現れているようだ。希望を持って、フロントをセンターに落とし、15〜20kmぐらいで何とか前へ、前へ。

 最後の大きなアップダウンを越え、海が見えてきたときは嬉しかった。午前中には少し下方修正しすぎたかなと思っていたが、今この肌寒さの中で、考えられるのは宿の風呂のことだけ。この時間に着けるような行程で、つくづく良かったと思う。

 15:50、浜鬼志別着。もう宿到着目前だが、道道138と国道237のセイコーマートで小休止しておく。午前中の豊富以来の、有り難く暖かい休憩場所である。ここで明日の朝食も買い込んでおかねば。

 国道237をホテルさるふつまであと2kmちょっと。最後の最後で向かい風は絶好調、冷たい向かい風にもみくちゃにされた。

浜鬼志別漁港裏手の段丘登りでは、脚を回しても面白いほど前に進まない。漁港の向こうに拡がるオホーツク海には、やや高い波が次から次へと押し寄せていた。オホーツク海のこういう海面は、あまり記憶に無い。かなり風が強いのだと思われる。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 

 16:05、ホテルさるふつ着。軒下への駐輪をお願いしたら、何とロビーの片隅に自転車を停めさせてくれた。道北最北部では、2000年代初頭にして既にベテランサイクリストの友人が野宿中に自転車をやられている。屋内駐輪じゃないと心配だという先入観が、私にはあるので、有り難い出来事だった。
 今日も走行距離は120kmちょっとだけ。そしてかなり早めの宿到着だ。浜頓別まで行く計画であったなら、この更にエサヌカ線経由で2時間半強、走行距離は160km台になったかもしれない。いやいやいや、昨日の午後と今日お昼過ぎまで晴れてくれたので、今の現実としては、何もこの寒さと向かい風の中をせこく距離を稼いでもしょーがないよ、というのが正直な気持ちだ。
 昨日今日の快晴は、前半道東で天気が悪かった今回の旅全体の印象まで完全に変えてくれていた。何しろすっかり満足できていたのだった。

 明日の天気は朝から曇り。雨にはならないようだが、仁宇布まで山間の道道120を予定している。天気予報が晴れじゃなければ、実際の天気はどう転んでも不思議は無い。途中で慎重に天気の推移を見定めた上で、極力16時までには山間を抜けて仁宇布に着くようにしたい。状況次第では、或いは国道40・道道60への迂回も必要かもしれないが、さて。

記 2017/12/29

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Last Update 2018/2/20
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