北海道Tour17#10
2017/8/18(金)仁宇布→大村-1

仁宇布→上幌内→下川→十和里→愛別→当麻→日の出→東神楽→千代ヶ岡→大村 (以上#10-1)
(以下#10-2) 区間2 (以上#10-2)
(以下#10-3) 区間3 (以上#10-3)
(以下#10-4) 区間4 (以上#10-4)
(以下#10-5) 区間5
155km  ルートラボ

ニューサイ写真 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8 A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路 濃い灰色は既済経路

 天気予報は終日曇り。降水確率は最大30%、全体的には10%ぐらいで低めではあるものの、旭川盆地までは山間が続く。曇り予報というだけなら、山間で雨でも全然不思議じゃない。ここ仁宇布の現実としては、夜明けの空は重く低めの雲に覆われていた。雨は降っていない。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 

 雨っぽくなるなら、今日は幌加内経由で行こう。と思いつつ1階に荷物を降ろすと、空の中に明るい青い色が浮かび始めた。更に朝食中、それまで厚かった雲が次第に薄くなり、空が何だか明るくなってきた。
 今日は晴れ基調の曇りなのかもしれない。そんなもの仁宇布から5kmも走れば、ころっと変わって雨が降り始めてもおかしくない。何たってまだ早朝である。それでも、見た途端こりゃダメだという感じじゃない。
 ならばとりあえず山間コースを下川まで脚を進めるつもりで仁宇布の交差点へ下ってみて、その時またそっち方面の様子を伺って決めればいい。何事も思い込みは良くない。今年の北海道もあと2日。残り少ない時間、現実に柔軟に対応して行動せねば。

 6:25、仁宇布ファームイントント発。
 上空に未だ雲は多いものの、青空の中に雲があると思える位に、確実に晴れ始めている。緩斜面に拡がるソバ畑、盆地を囲む山々。もうお別れの、緑明るい北国の風景が心に染みる。

 下川への道道60分岐の交差点でも、道道60方面の空の表情に特に問題があるようには見えない。ならば予定通り道道60で下川へ向かおう。下川までは45km、無人の森が続く。いや、今のところサンルダム工事中なので、下川手前で多少ましにはなっている。でも、一度脚を向けてしまえば下川までエスケープが利かないことに変わりは無い。そして、下川での予定変更は、事実上輪行含みとなる可能性が高い。しかし今の天気なら、実態がどうであっても自分の選択に後悔することは無いだろうと思われた。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 仁宇布周辺で特徴的な道端の白樺の森は、すぐに鬱蒼と静かな広葉樹林と笹の茂みに替わった。毎度のことながら、なんとなく野生動物が一杯潜んでいそうな不気味さを感じつつも、緩く淡々とした登りを落ちついて進んでゆく。

 美深松山湿原への分岐を過ぎると、谷間は一気に狭くなって周囲の山肌が迫り、道は美深松山峠へ向かって高度を上げ始める。とはいえまだこの段階では5%未満程度。まだ道北の峠らしい緩い坂だ。空にはやや雲が増えているものの、空全体は眩しいぐらいに明るい。一方、茂みの雰囲気は次第にワイルドさを増している。もう仁宇布から数km山間に入り込んでいる。辺りの稜線はそう高くないように見えても、空が明るくても、何だか薄気味悪さで居心地はあまり良くない。未だ6時台、たとえ舗装路面上と言えども、この山中では野生動物が主役なのかもしれない。

 美深松山峠への最終段階は、峠手前2〜300mで斜度が突然上がって8.5%に。道北道道の峠としては異例の急勾配だ。こちらもぐっとギヤを下げてを乗り切って、7:10美深松山峠通過。

 峠の向こうは、オホーツク海側の雄武町となる。

 イキタライロンニエ川沿い、狭い谷間の深い密林を上幌内の道道49分岐へ下りきるまで、仁宇布側より更に濃厚な野生動物の雰囲気と、路上にまでぷんぷん漂う熊の臭いが怖い。

 そのため、上空が明らかに空が雲で一杯になっていることに気付かなかった。南に下るにつれ、内陸の天気は冴えないのかもしれない。或いは一昨日からの例に漏れず、オホーツク海側はあまり天気が宜しくないということなのかもしれない。雄武町は、自治体的にはオホーツク海沿岸である。辺りが山深いので、オホーツク海沿岸の雄武を思い出すことができないだけだ。

 年によって、道北の天気はオホーツク海側、日本海側で、それぞれ独立して絶好調だったり絶不調だったりする。今年は日本海側が好調だったが、オホーツク海側は不調で低温気味だ。オホーツク海高気圧が活発だと、内地の秋の訪れも早い傾向があるようなので、そういう意味でも早くオホーツク海高気圧になっていただき、東京で糞暑い夏が少しは涼しくなって欲しい。東京の鬱陶しい夏は、子供の頃にはもう少しましだったと思う。私は夏が大好きだったからだ。

 等と思いながら、道道49に乗り換えて次の幌内越峠へ。


 意識せずに登ると6%位の坂はあっという間であり、あっという間と思っていると冗長に感じられる。そういう捉え方とそれなりの距離感覚とともにこの道を通ることができる程度に、私はこの道を訪れることができている。
 谷間を挟む対岸の山はそう高くない。谷間はややだらっとしたボリュームの空間として感じられる。しかし道の外、木々の向こうに伺える谷間の森には、山深い迫力がある。2002年に訪れたピヤシリ林道を思い出させてくれるこの眺めは、毎年毎年成長している道端の木々が遮り、近年明らかに眺めが悪くなっているのは残念なことだ。

 峠周辺に近づくにつれ、前方に霞みのようにガスが漂い始めた。そして空の色が急に濃くなり始めた。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 7:30、幌内越峠通過。

 「幌内越峠」という小さい標識がある前後、ほぼ平坦な区間が数百m。道がおもむろに下り始めてから50mも下ると完全に谷間に降りてしまい、下り斜度そのものが一段落してしまう。

 上幌内側のやや大きな谷間とは打って変わった、なだらかな地形である。

 峠の向こうで雲が引くことを期待していた。しかし道が原生林の山肌を緩緩と下り始める辺りから、雨粒がぱらつき始め、すぐに止んだ。意識してここまで考えないようにしてきた今朝の判断は、やはり間違いだったのかもしれないという気がしてきた。

 峠付近の原生林から谷間に下る途中、周囲は植林っぽい森となってしばし続き、その後更に斜度が緩くなってからサンル牧場が断続し始める。

 まだ8時前。牧場の間に現れる森は深く、相変わらず大型野生動物が潜んでいるような不気味な雰囲気が漂っている。

 昔はあまり意識しなかったこういう雰囲気を、近年はとても強く感じるようになった。ただ、思い出してみると、昔から熊の糞は道端に落っこちていたように思うし、オホーツク内陸部のこの一連の道で、舗装路面にかなり巨大な熊の足跡を見つけてびっくりしたこともある。

 それに実際、鹿ぐらいはしょっちゅう見かける。やはりそういう特有の雰囲気は、漂っているのかもしれない。

 谷間には、かなり緩い下りが安定して続く。登り返しのようなものは殆ど無い。あまり何も考えずに脚を間欠的にくるくる回していれば、それなりに一定のペースで下ってゆけるので、ツーリング的には都合が良い。

 ただ、下川から登りで訪れるときより通過速度自体は速いにも関わらず、下りの方が登りより距離(というより時間か)はやや長めに感じられるのが面白い現象だ。

 旧道がサンルダム貯水池周囲の新道区間に移行する辺りから、雲が急に低くなり、向こう側の山が霞み始めた。

 それまでも小雨ぐらいは降っては止んでいたのだが、いよいよ文字通り雲行きがあやしくなってきたようだ。しかしもう何が降っても、少なくとも下川までは勢いで中央突破しちゃえ、という段階ではある。

 道はしばらく山裾の森を進んだ後、おもむろに山腹へ高度を上げ、サンル大橋へ登り始める。将来の湖面はどうせ水平なのだから、あまり湖面から高く登っても仕方無いのに、とも思う。しかし湖岸の道と、湖面を渡る橋では、湖面からの規準高さは違うのかもしれない。ならば多少の登りはこの手の道では避けられないのだろう。それに今日この後通過する予定の岩尾内湖の唐突で露骨な登りに比べると、大分ましとも言える。こういうところはいかにも平成っぽいダム湖だ。

 サンル大橋の上で谷間を眺めている間、一旦雨は上がった。天気は安定していないのだと思われる。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成

 いずれこの湖も、岩尾内湖のような風格を帯びる日が来るのだ。そして私も湖がそんな風格を帯びる頃、湖を見下ろして「昔の旧道もけっこういい感じでねえ」などとつぶやけるぐらいに北海道を訪れることができていると有り難い。行く手の天気があまりすかっとしないので、思考は妄想気味に展開してゆく。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成

 雨具を脱ぎ、サンル大橋を渡って対岸に向かうと、再び雨が降って止んだ。

 そして何度目かのサンル牧場辺りから、今度は路面がここまでとは違うレベルで濡れ始め、サンルダム堤体から路面はもうすっかりぬらぬらに変わってしまった。明らかに今までけっこう盛大に雨が降っていたようだ。

 下川到着間近だが、この辺で雨具を着込んでおく。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成

 ちなみにサンルダム堤体は、何と大体できあがっていた。それもそのはず、サンルダムは遂に来年2018年完成予定なのである。

 9:15、下川着。

 下川手前から既に、路面は濡れているどころか黒々ぬらぬら、道の轍に大きな水たまりが目立つ。ここ下川では、明らかについさっきまで盛大ににわか雨が降っていたようだ。今この下川では空は明るいものの、雲自体はかなり低く、早く動いている。そして下川盆地を囲んでいるはずの山は、低く濃い色の雲に完全に隠されていた。明らかにあの辺では雨が降っていそうな雰囲気だ。
 仁宇布からここまで南下する間、何とかあまり本格的に雨が降ることは無かった。しかしこの先、早朝仁宇布で決めた通りに山間の道道101を南下すれば、糸魚峠まで少なくとも10km以上山間を通ることになる。その間、間違い無く雨に降られると考えるのが自然だ。そしてその雨は、少し前下川に降ったのと同じぐらいの、というよりけっこうな大雨である可能性が極めて高い。
 今日はここでいっそ撤退し、名寄から輪行するのがいいだろうかという気になってきた。そこでセイコーマートの軒下で天気予報を確認すると、士別市と愛別町に12時以降、何と晴れマークが付いていた。その先の旭川盆地も、雨の印などどこにも見当たらない。ほんとか。
 ということは、今この山間でこんなに雨が降っていても、中広域的には次第に晴れへ推移するということなのかもしれない。ならばこの先多少降られることがあっても、そう長く続かないのかもしれない。折角山間コースをここまで来たのだ。この先1時間ぐらい雨の中を走れば旭川盆地へ自走で到達できるなら、もう少しこのまま進んでみよう。仮に想定外のもの凄い大雨で撤退を余儀なくされたとしても、その時点で名寄まで下れば美瑛へは充分に早い時間に着ける。
 というわけで、ここはとりあえず、そのまま更に進むことにした。


 9:25、下川発。班渓までの下川盆地内では、空の雲は辛うじて落ちてくることは無かった。ただ、南の山間に近づくに連れ、雲は確実にどんどん低く濃くなってきた。雨が降り始めるのは時間の問題だろう。これは予想の範囲内だ。

 ここ数年、仁宇布を早朝に出発して南下すると、この辺りで毎回9時半〜10時になる。道北もやや南に位置する下川盆地。更にそのまっただ中、畑に続く道道101なだけあり、晴れの日に日差しを遮ってくれる木陰などは全く無い。気温自体の上昇と照り返しの相乗作用で、この辺りからたまらない暑さを感じ始めるのが毎度お馴染みの展開である。今日は暑くないのだけは有り難いのを、前向きに捉えねば。

 班渓から先、道は盆地からパンケ川の谷間へ入ってゆく。辺りは畑から森に変わった。ほぼ同時に、満を持したように遂に空から雨が落ちてきた。しかし意外にも雨はぱらぱら気味である。

 流石に道北と言えども下川以南まで南下すると、谷間を囲む山々は明らかに仁宇布以北辺りよりは高い。谷の屈曲も緩く大きく、谷間全体が空間として大きく感じられる。道端は法面補強か森の茂みであり、どっちにしても頭上は開けているとともに、何か適切な屋根のようなものや木陰など全く無い。落ちついて自転車を停めて雨具を着ることができる場所を探す間に、雨は次第に本降りに変わっていった。雨の降り方も思い切りが悪く、これ以上降ると服がしっとり濡れてしまいそうという段階になって、やっと仕方無く雨の中で雨具を着込む始末だ。登り斜度も、糸魚峠へ向かって登りが始まったという段階で5%未満程度。まあこれはこの道毎度の事だし、道北では当たり前の話でもある。

 何となく登り始めた谷間の直線気味の道を、更に雨が強くなったらどうしよう、引き返すタイミングはどうしよう、等と次第に悩みを増やしながら何となくだらだら進んでいた。茂みから熊っぽい甘い香りが漂ってくるのも何となく怖ろしいs。まあでもさすがに10時台。早朝に比べて車は時々通るようになっているので、多少安心はできる。

 斜度が多少増してきた辺りから、雨の勢いも増し始めた。引き返すなら今かもしれない。と思ったところで車が通り過ぎ、気が付いた。向こうからやって来る車に、この先の展開を聞いてみよう。
 15分ほど後に停まってくれた車は、何と
「トンネルの向こうは降ってないよー。雨はこっちだけみたい」
とのこと。雨は更に強くなり始め、大雨と言っても差し支えない程度になっていた。しかし、じゃあそれならこのまま行こう。

 その後の展開は、意外にも、教えていただいた通りにすぐ雨は上がり、糸魚トンネル手前では路面が乾くまでになってしまった。全く雲が低い日の天気は読めないものだ。今日の場合は、良い方に向かいつつある。

 11:00、糸魚トンネル通過。

 トンネルの向こうでは、確かに雨は降ってないものの、路面は多少というぐらいには濡れていた。まあここまで来たら、そのまま麓まで下ってしまうだけだ。

 糸魚の集落下手辺りで空気が完全に乾いたという感覚が感じられ、間もなく雲が高くなり空が明るくなり始めた。11:15、十和里着。

 雲の濃度次第で影ができたり、空の一部に青空が継続して現れるというまでに、天気は回復しつつあった。岩尾内ダム方面にも、どす黒く不穏な低い雲が溜まっているということは全く無い。

 このまま最後の於鬼登峠を越え、愛別から旭川盆地に到達できる目処が見えてきた。天気予報通りと言えばそれまでなのだが、つくづく下川で引き返さないで良かった、とようやく感じられていた。

 岩尾内ダムへは取付の坂を60m程一登り。7%ぐらいの一気に高度を上げる坂道だ。道北でよく見かけた、緩くだらっとした谷間の道とは明らかにちょっと違う感覚の、いかにも内陸の山地を感じさせる登りである。身体が火照るように日差しが暑く感じられ始め、雲が動いて日が翳るのが大変有り難い。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成

 見上げるダム堤体のコンクリート壁面はやや黒ずんでいて、ボリュームと迫力と風格がある。ダム管理事務所が水飲み場も自販機すらも無く、一般訪問者に対してかなり素っ気ないのも、いかにもやや古めのダムにありがちである。何か飲めるとこの道への訪問にも大分助かるのにとか、すぐ脇の巨大な岩尾内湖には水がこんなに一杯あるのにとか、この道を初めて訪れた1990年から毎回思っている。湖岸外周にはキャンプ場もあるんだから、誰かの予算で1台ぐらい自販機を置く方が、観光資源としての岩尾内湖には役立つ方向になるんじゃないのか。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成  PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成

 岩尾内ダムに着いた段階ではまだ空は明るかったものの、湖岸区間に入ってすぐ空が陰り始め、水滴がぱらつき始めた。さすが山深さが湖面に漂う岩尾内湖、急な展開である。

 雨具を再び着込みつつ、湖岸区間のアップダウンにも文句があるんんだよな、などと考える。登ってもどうせまた下るから、湖岸区間で高度を上げること自体にあまり意味は無い。それにしちゃちょっと登りすぎるような気がするのだ。自転車としては。単純に建設費用を節約、いや、適正に計画するとこうなるのだと理解はできる。今の交通量を見ると、その選択は正しいとも思われる。まあ、登り量自体はせいぜい60mぐらいだし、何も文句を言う程の話じゃないかもしれない。

 天気が悪くて湖岸の木々で展望が効かないと、どうしても思考は内向きになってしまう。とは言えところどころで広々とした湖面が拡がるので、なんだかんだ言いつつあまり退屈はしない道だ。

 12:00、道道60分岐通過。

 道道101はしばし岩尾内湖沿いの森に続いた後、湖も終了すると森が開け、広くはないものの比較的開けた、天塩川上流の谷間となる。この間天気は、湖岸区間で一度雨が本降りで降った後、断続しながら小雨に収束する方向で茂志利まで推移。

 なんとなく雨具を脱ぐタイミングを逸しつつ、しかし未だ空気中から水滴っぽさは消えない。当然のように雲はかなり低く、その下にところどころあやしげで不穏な、雲のようにふんわりした塊ではない、曇りガラスのように不透明に霞んだ空間がある。恐らく、そこだけ降っている雨粒が、空の中で光を拡散しているのだ。

 行く手の対岸の山も、何だかそんな感じで部分的に霞みっぽい。その辺に近づくと、やはり結構な雨が降ってきた。

 しかし雨は本当に数10mの範囲だけですぐに止み、その後は遠景まで空気が澄んだ。茂志利の盆地部ももう上手、いよいよ於鬼登峠への登り区間手前だった。

 気が付くと、時刻はお昼。天気予報で士別、愛別が晴れになっていた時間帯に入っている。かなり山間とは言え、ここは士別と愛別の境近くである。やっと天気予報通りの展開になっているのだった。今日はこの先雨はもうあまり降らないだろうと思えてきた。降らないといいな。

 於鬼登峠までは200m弱の登り。5〜6%程度の緩い斜度が、峠手前で斜度が7%ぐらいに変わる以外、極めて淡々と安定した登りである。線形も山腹に沿って屈曲するというようなことは無く、淡々と直線基調で幅広の、やはり安定感が感じられる道だ。ただ、掘りの深い地形とやや鋭いエッジの稜線は、ここ2〜3日間眺めてきた道北の山々とは根本的に異なる上下の振幅を、道周囲の空間に作っている。それが於鬼登峠北側の大きな見所になっているように思う。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8 パノラマ合成

 離陸開始すると左側に谷間が落ち込み、間もなく天塩川の最上流部が山中へ分岐してゆく。

 旧道っぽい段と茂みが見える切り立った稜線が真正面に見え始めると、もうトンネルは近い。連続し始めたカーブの回数と正面の山姿の距離を想像しながら脚を進め、12:55、於鬼登トンネル着。

 トンネルを抜けると、愛別町の標識が登場した。もうこの次点で旭川盆地へやってきたという気になれることが、何だか我ながら自分が可笑しいぐらいに嬉しい。

 愛別湖へ向かってまずは一下り。つづら折れ区間から谷底へ降り、まだまだ下りが続く。愛別湖手前の40m登り返しは毎回ややしんどいが、わかっていればもう焦らずに粛々と脚を回すだけである。

 登り返しは面倒臭い。しかし、旭川盆地らしい暑さが何だか嬉しい。もう道北じゃないのだ。自走で別のエリアにやって来たという、長期ツーリングならではの実感を感じることができているのも嬉しい。

 愛別ダム手前の貯水池湖岸区間では、空の中に目に見えて青空が増え始めた。

 ただ、この後晴れてゆくことを確信できるという程ではない。私はここ2年ほど、旭川盆地で遠くのゲリラ豪雨を眺めたり、かなりの土砂降りに遭遇している。ここ愛別湖畔では、かなり大きく濃厚な雨雲に追いかけられたこともあった。

 後ろを向いて確認しておくと、山方面の雲は灰色ではあったものの色は薄く高度もそう低くなく、大きな雷雲が目を血走らせて追っかけてきているという雰囲気ではなかった。とりあえずひと安心しておこう。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成

 ダムから降りると、谷間と言うにはやや広い平地に田んぼが一杯に拡がって、お米関係の施設や看板が目立ち始める。

 今日の宿、美瑛大村のポテトの丘YHでは、毎回宿主さんが北海道のお米が日本一になったことを毎回説明してくれることを思い出す。美味しい夕食も思い出す。

 愛別まであと10km。追い風下り基調なのも手伝って、何だか旭川盆地に降りてきた安心感でうきうきしてしまう。下川で撤退しないで本当に良かった。

 13:40、愛別着。

 大分雲は高くなり、暑くなっていたが、未だ空は雲に覆われてはいた。セブンイレブンで休憩がてらスマホ予報を確認すると、お昼以降の予報は晴れから曇りに変わっていた。多少悪化したようではあるものの、しばらく今みたいな天気なのだろう。ゲリラ豪雨っぽくないだけ上々である。


 愛別駅から当麻へ、今回は山裾に近い東側のコースを選んでみた。

 なるべく登りは避け、山間に入りそうで入らないようにGPSトラックを組んだつもりではあった。

 しかし途中ほんの少しではあったが10%の坂が現れたり、細道が森の中でダートに変わって1〜2kmほど続いたりもした。

 ダートが終わってからは当麻まで登り下りは少なく、直線基調ながら静かな道が続いた。

 過去に経由した西側コースも、序盤〜将軍山辺りまで微妙に起伏や屈曲はあった。そう思えば、東回りコースはまあまあ効率はいいような気はした

 ただ、今日は向かい風がやや厳しい。日差しも遂に現れ始めていた。北海道でも一番暑い場所の一つである旭川盆地だけあり、かっと照りつける日差しに皮膚がちりちりするような感覚がある。道北では全く感じられなかったしんどさが、当麻まで続いた。

 14:40、当麻セイコーマート着。
 多分これが北海道で最後のHotchefだろう。ここは満を持して、午後の日差しの中店先で豚丼を食べておくことにする。それにしても暑い。

 15:15、当麻発。休憩前までの追い風は、いつの間にか向かい風気味に変わっていた。

 埃が目に入って痛く、西日もそろそろ眩しい位に太陽が落ち始めていた。

 東神楽まで、旭川盆地東南部、山裾からすっかり離れてひたすら平地の田んぼまっただ中。今回組んだトラックは、並行する道の中でも幹線道路を選んでしまっていた。

 この辺はもう何度も訪れているはずなのに。もう1本ずらせば良かった等と思いながら、それでも東神楽手前の東神楽橋まで10km足らず。わざわざ脇道へ向かうほどの交通量でもないし、どうせ東神楽へ着くためには東神楽橋を通るこの道に戻ってこないといけない。

 結局そのまま行ってしまうことになってしまった。

 16:10、東神楽着。旭川空港近隣の町だからか何なのか、いかにも都市部らしい整った街路と住宅地が特徴的だ。さすが旭川郊外。本当はセイコーマートもあるのだが、ここの店にはHotchefは無い。その気になればこの先西神楽で寄り道すればセイコーマートに寄ることは可能だし、さっきの当麻で必要な物はあらかた購入してしまっていたし、ここはもう通過してしまう。

 旭川空港の脇を西神楽へ一登り。標高差30m程の直登が視覚的に応える登りである。

 西神楽から美瑛へは、最短ルートを選んである。平野に拡がる田んぼの1本道国道452から、美瑛の丘へ1回だけ、しかも比較的安定して穏やかに登れる谷間の町道へ。

 狙って選んだコースは、その意図に合うという意味では狙い通りだった。ただ、狭く薄暗い森に囲まれた谷間を、けっこう最近利用していると思われるのに、いつ来たか全く思い出せないぐらいに退屈ではあった。

 その分、登り切って突如拡がる美瑛の丘を、それまでの道とは全くの別世界に感じられた。

 美瑛の丘は真っ赤な夕陽の中だった。当麻以降向かい風や小坂や谷間であまり意識していなかった天気がいつの間にか好転し、終着目前にして遠景まで見渡せる程の今日最大級の晴天となっていた。

 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA15-30mm1:2.8 ED SDM AW パノラマ合成

 東側には旭岳が雲の中から姿を現していた。美瑛で旭岳を眺めたのは、随分久しぶりのような気がする。

 西から南側に向かう山々は、夕方の青い影に変わりつつあった。遠くから近くまで青い影が、彫りの深い丘、森の木々、畑の作物や畝に続いていた。

 波のように重なって続く丘の、彫りの深さと空への拡がりを感じられた。

 美瑛に着けた。そして期待通りのダイナミックな空間を、光と影のコントラスト色彩豊かに味わえている。こういう景色の中を走りに、美瑛にやってきたのである。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 またもや、仁宇布から美瑛まで自走で来れて良かったと思った。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8
 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 17:20、大村「美瑛ポテトの丘YH」着。
 明日も晴れ予報。問題無く最終日の行程に出発できるだろう。宿はここに連泊だ。以前はツーリング行程終了後に札幌泊で千歳空港から帰っていたが、美瑛でこの宿に泊まって旭川空港から帰る方が楽しいということに、昨年気が付いたのだ。
 美瑛でも街ではなく西側の丘、畑まっただ中。小綺麗で適度に賑わい、食事は美味しくボリュームたっぷり。唯一の難点はYH特有の相部屋だった。私の場合、朝の出発が早いので、荷造りなどの出発準備に気を遣う必要があるのだ。しかし今年は個室を早くからお願いしている。連泊でもあり、その分YHらしからぬ宿泊料金になってしまったが、いいのだ。こんなに素晴らしい宿で旅を終えることができるのだから。

 

 夕食は18時半過ぎ、時間はたっぷりある。その前に風呂で汗を流しておく。明後日はもう帰京なので、洗濯する必要は無いのが何だか寂しい。寂しい気分にたっぷり浸るために、サッポロクラシックでほろ酔い状態ぐらいになっておくことがまた楽しくて仕方ない。
 夕食時、宿主さんのスピーチも毎回楽しみだ。内容は毎年殆ど変わらない。お米、ジャガイモ、野菜、夕食の大豆コーヒー等食材が地元産であること、近所に映画の撮影地があるということ、美瑛観光の際には畑に入らないこと、などなど。しかしこのお話しを聞いて夕食を食べるのがいいのだ。そして、北海道Tourもいよいよ明日で終わり、という気になってくるのである。
 そのままのいい気分で夕食を終えると、もうあとは寝るだけだ。

記 2018/1/28

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Last Update 2018/2/20
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