北海道Tour24#3 2024/7/15(日)
民宿地平線の根釧台地ベスト130km×2/3-1
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夜が明け始めた。外はガスっている。牧草地がしっとり、雨上がり直後みたいに見える。ぱっとしない眺め以上に、そもそも自分自身がどちらへ行こうかあまり具体的に決めていない、ぱっとしない気分の朝だ。昨夜の天気予報がぱっとしなかったからだ。他力本願の自分が、たるんどるというより可哀想になってくる。
しかし実は既に、こういう場合を想定してネタを準備している。「民宿地平線の根釧台地130km」ショートカットコースが、午後の東京便にちょうど間に合うようなまさにぴったりの程良いボリュームなのだ。北海道Tour18秋、中標津3日間最終日に実施したことがあり、ボリュームに何の不安も不足も問題も無いことがわかっている。そして北海道出発前や前夜に何も準備してなくても、私のGPSには常に根釧台地ベストコースと石川さん俺の根釧台地(にわ)コースが入っている。
あれで行くか、と思うだけでいい。何度も来ていると、こういう有り難さがある。
荷造りをして外へ出ると、空気は生暖かいものの、雨が降る気配は無い。疲れも無いのは有り難い。5月中に2本奥武蔵のGL往復をこなしておいたせいか、体調はなかなか悪くないかもしれないと思う。思うだけなら只だし。
5:25、民宿地平線発。石川さんとお母さんが早朝から見送って下さった。また8月にお世話になります。
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町道北19から武佐へ向かう道は昨日と同じ道。今日はタイヤがトラブることは無い。
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武佐へ下る途中、130kmコースのGPSトラックに従い、東の海岸方向へ分岐する。方向は海岸で、海岸まで10kmとかそこらな筈なのだが、道は下ることなく、何とこの期に及んで標高120mまで標高を上げてゆく。この先は延々と標高30m未満の世界が別海町手前まで続くというのに。
最初にこの辺に来た1986年、初訪問の民宿地平線に連泊し、オホーツク海のトドワラに出かけた中日のこと。行きは結構脳天気に脚を進めたが、帰りに向かい風がこの辺まで続き、何だか信じられない程脚が重かった。その後の訪問でもこの辺は、武佐岳裾野の開けた風景と、妙に脚が重いという記憶が多い。強い向かい風以外に、海岸の丘から120mまで登っていたことを意識できていなかったことも、大きな原因だろうと今は思っている。120mまで登りなら、そりゃあ重かったろう。
一見平べったい根釧台地の、罠みたいな高低差なのだ。
その後は次第に標高を下げ、川北に到着。
中標津からもオホーツク海岸からも10km程度のこの場所。交差点には珍しく信号があり、商店とAコープのスーパーと標津線遺構のバスターミナルがある。この辺としては比較的纏まった市街だ。コンビニこそ無いものの、補給に全く不自由は無い。ただ、今日はこの先セイコーマートがある上春別を経由するので、天気と自分の体力と熊以外の心配要素は無い。食料は昨日中標津のセイコーマートで十分仕入れておいたので、今この段階で何か食べる必要も無い。バスターミナルのロータリーにWCを見つけたので、お世話になっておく。が、WCに紙は無いのであった(とだけ書いておこう)。
202kmに比べてオホーツク海寄りのエリアに、130kmコースは描かれている。202kmコースが根釧台地東側では少ない南北方向の一続きの道を別海まで南下してゆくのに対し、130kmコースは直行する道道・町道をじぐざぐ気味に辿ってゆく。周囲は当然のように牧草地や畑や防風林が低めの丘に、河岸の低地には茂みが現れ、これらがアップダウンと共に入れ替わる。
しかし、2つのコースの空間感覚はやや異なり、コースがじぐざぐな分130kmコースは様々な牧場の中を走ることができ、かつて1/20万地形図にはこの辺にパイロットファームという文字がみられたこと、NHKでこの辺の牧場のドキュメンタリーを観たことを思い出させる。
大人の社会勉強みたいな体験も、自転車ツーリングならではの大きな魅力のひとつだと思う。
空には雲が多くたまに空気中に水滴が感じられるものの、今日もあまり暑くなくて気温としては絶好のサイクリング日和の範囲と言っていい。
前回の130kmコースは、行程前半が雨と霧雨にずっと悩まされたことを思い出す。牧草地と防風林、所々で感じられる風景の拡がり、からっと乾いた爽やかさは、この道で明らかに前回感じていなかった。
それにしても、前回訪問は2018年、もう6年前になってしまっていることには驚く。こんなふうにして油断している間に、私はあっという間に歳を喰ってゆくんだと、最近思うようになった。
コースがイレギュラーに曲がりくねり始めると共に丘が波打ち始め、牧場とアップダウンが入れ替わり、130kmコースは次第に内陸へと向かってゆく。
谷間の森の向こうに唐突に裁けた感じの町外れが現れ、9:10、中春別着。
とりあえず、みたいな気分で道道8沿いのセイコーマートに立ち寄っておく。特に何も買う必要は無いし、そもそも腹に入れるものが何も思い浮かばない。昨日食料は十分に仕入れてあるし水もまだ十分に残っている。今日はもう午後飛行機に乗ってしまうので、特に何も買っておく必要は無い。強いて言えば、北海道ツーリングらしい気分になるためと、セイコーマートに立ち寄れることが民宿地平線の根釧台地シリーズ中130kmコースの特徴の一つだから、という程度の必要性だけだ。
まあそれでも、グランディア缶コーヒーを飲んでおく。無駄な行為とかコース上に無駄に店があるとか、ではない。備えあれば憂い無し、こういう余裕が一番大事なのだと思う。ツーリングは楽しいものだから。
店の前、道道8は根釧台地東側内陸部の幹線道路だ。頻繁に行き交う大型トレーラーやトラック、ワゴン車などの乗用車を眺め、休むというよりぼうっとした気分でコーヒーを飲む。9時か、あと3時間もすれば、多分中標津空港に着いてるか、または向かう途中なのだろう。
中春別で道道8を越え、コースは内陸方面へ進んでゆく。
牧草地、牧場、カラマツの防風林と低めの広葉樹林。豊原の風景は、ここまで辿ってきた道道8の東側と各要素は一見同じではあっても、風景全体にもう少し内陸っぽいとしか言いようが無い、台地の雰囲気が漂い始める。
象徴的なのが道の線形で、中標津中北部の直行グリッドではない。内陸を地形に沿って突き進み、一直線かと思えば時々かくっと折れ曲がり、また一直線に続いてゆく、別海風の線形に変わっている。
開けた牧草地と空の縁に続く森に建つ物見塔が見え始めた。豊原の集落だ。
9:55、豊原着。農道と農道の交差点に、西部劇みたいに牧場と元小学校らしい公民館、元校庭らしい広場が集まっている。
公民館には自販機がある。この広い広い根釧台地を旅する者にとって特筆すべき施設であり、この豊原を人の営みが何だか懐かしく嬉しい象徴的な風景にしてくれている。130kmコースの、石川さんの優しい心遣いを気付かされる豊原の自販機。130kmを訪問するということであれば、やはり表敬訪問せざるを得ない。
豊原の交差点を西へ。
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少し先、農道と道道831の交差点は、130kmコースが南側で8の字を描く交差点だ。
本来の130kmコースは、この先は別海町に差し掛かる内陸部。果てしなく漠々寂々とした広がりに、突き放されるような寂しさすら感じられる、130kmコースハイライトの32kmだ。しかしここで折り返すと一気に距離がお手頃な、空港までの半日お手軽コースになってしまうところも、130kmコースの奥深さである。
今日はここで折り返すことにしている。このパターン、2018年に続いて2回目だ。またやることになるのかもしれない。
出発から60km。コースは2/3を過ぎたここから北に向かい始める。空港へ向かい始めるとも言える。
しばらく平坦な台地上に道が続いた後、福山で国道272と交差。三角形の一辺をショートカットする国道272を通らずに、農道の二辺をわざわざ経由してゆく。「なるべく国道を通らない」根釧台地コースのコンセプトが感じられる、印象的な区間だ。ただ、一旦国道272を越えて少し北側に進んだ辺りに茂みのような浅い谷があり、そこに何か野生動物が潜んでいそうな気はしないでもない。
再び国道272と交差する豊岡には、部落会館と高さ20m以上はありそうな鉄骨物見塔が建っている。周辺には牧場もある。こぢんまりと人里っぽい雰囲気ながらややハードボイルドな雰囲気も漂い、良くも悪くも釧路からの幹線道路である国道272沿いの集落らしさを感じさせる。
ここには集落そのものの雰囲気以外に、少し北に130kmコース随一の展望ポイントがある。丘の防風林を抜けると、谷に向かって下り始める牧草地の向こうに、根釧台地北側の知床山脈まで一気に視界が拡がるのだ。ただただ平坦な台地上だったここまでの地形に比べ、急に意識される山々の風景と開放感が際立っている。130kmコースを民宿地平線発着で全部こなして通るときには、コースもいよいよ後半であることを意識させてくれる風景だ。今日みたいに別海内陸まで行かずに中標津空港終着で通るときは、この景色を眺める気分が少し違い、「もう残りあと何kmだろう」などと少し寂しいニュアンスが混じってしまう。
この先は、次々現れる風景を憶えている。根釧台地東西方向の幹線道路道道13沿いの当幌まで、農道の谷間越えが3回。根釧台地なので谷間の深さは知れているものの、農道だけあって谷間の段丘は全部直登。結構な斜度だ。
まあしかし、ここまで来ると当幌も、その先根室中標津空港も近いはずだとも思う。
そんな事を思っていると、3つめの谷間越えで、工事通行止めが現れた。回り道の看板は掲示されていたもののAバリが何となく緩い雰囲気だったので、一応現場の手前まで行ってみたら、休日だというのに工事中なのであった。工事中じゃなかったとしても、道路部分が完全に掘り返されている状態であり、通れる状態じゃない。
大人しく向かった回り道は、途中短いダート区間はあったものの、アップダウンは手前の舗装区間だけ。緩めに済んで良かった。道道13への合流点は、当幌の市街地からやや東寄り。ここでフロントバッグの1/5万地形図を中標津に替えると、記憶以上にもう中標津空港が近いのに驚いた。最短で空港に向かってしまうと11時台には空港に着いてしまいそうな程なので、この際俣落まで回り道して空港に向かうことにした。
回り道とは言えこの辺の持ちネタは少ない。12時過ぎには空港に着いちゃうんだろう。まともな時間に昼食でも食べて平和に過ごすか。
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12:10、根室中標津空港着。
帰りの飛行機では、出発時刻は遅れなかった。中標津空港だけじゃなく、羽田空港の円滑な運航が大きく寄与している。定時運航を守ってくださる関係者の皆様に頭が下がる。
しかしレストランで昼食後、検査場を通って入った出発待合室に、売店が無いのが盲点だった。こういう点は売店はある旭川空港との大きな違いだ。まあ何か売っててもビールなんか呑むわけじゃないし、どうせ店先をぶらっと眺めるだけで何も買わないだけなんだが。
記 2024/10/26
記 \d\d\d\d/\d/\d
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