4時に起床、目覚ましに露天風呂へ。出発前にお風呂に入りすぎるとだるくなってしまうので、気を付ける必要があるが、温泉宿はこれがいい。
昨日の天気予報では今日から天気が崩れ、今晩から明日は全道で大雨になるようだ。そろそろ完全に明るくなっているはずの空は、山間のためか厚めの雲でまだ薄暗い。夏の暑さで有名な十勝でこの天気だと、逆に気温が上がり過ぎなくて好都合かもしれない。でも、同じ十勝でもこの最北部と言っていい山間と、今日通る平野部まっただ中では、天気のニュアンスはやや違うだろう。とりあえず天気が問題無いのなら、ツーリングを目一杯楽しむべく粛々と予定通りに足を進めるだけだ。
荷物を積みに表へ出ると、昨日の夕方到着時からは考えられないほど空気がひんやりしている。辺りがしっとり濡れているのは雨ではなく、朝露と考えるのが自然だろう。さすがに山深い。
6:10、芽登温泉ホテル発。
まずは林道糠南線を昨日の逆走で道道88へ。早朝の森は宿周辺と同じく空気がひんやりして気持ちいいが、相変わらず道は埃っぽい。
それと、森の奥まで何となくしーんと静かなこの時間、薄暗い茂みから何か現れそうな気がして仕方無い。大型のシカが路上に出ているだけでどきっとする。しかし、途中で犬の散歩中の芽登温泉ホテルの宿主さんと遭遇すると、にこにこと至って普通に歩いておられるのであった。
昨日の夕方に引き続き、曇り空の下、道道88で再び芽登へひたすら下る。
標高350mの西喜登牛から標高200mの芽登まで15km程、脚をそんなに動かさない経済走行で30km前半〜20km後半ぐらいが維持できる、効率のいい下りが続く。昨日ずっと森だった道の周囲は、西喜登牛から先は基本的に牧草地。段丘部分になると森がある、というぐらいに開けた里の景色となる。
下り一辺倒の道に時々短い登り返しが現れ始め、「そろそろ芽登か」と思っていると、「芽登9km」の看板が登場。すぐ芽登に着けるわけもなく、途中からでもやはりなかなか手強い道道88である。
下ると共に空には青い色が現れた。谷間の奥から手前に溜まった雲を想像する。道にも少しだけアップダウン気味になり始め、長かったこの谷も出口に近づいているのだと実感できる。それにしても長い峠区間だったと思っていると、唐突にカーブの出口に民家が続き始めた。
6:55、芽登着。喜登牛の長い谷間は、本別へ屈曲する狭い谷間に唐突にぶつかって終わっている。その縁に、芽登の町は低くかたまったように続いている。芽登で道道88とぶつかっている国道274からは、芽登の町が国道274に裏手で面することもあり、とても独特の山深く寂しい表情が感じられる。今回は昨日道道88であれだけ無人地帯を通ってきた後なので、何か人の営みに接しているような気分だ。
芽登からはその国道274。広いお皿のような十勝平野の北東縁へ標高差100mを乗り上げる、その名も芽登坂開始である。
登坂車線まである幅広の道には、交通量のほとんど無い道道88とは打って変わって車がやや多い。大型のトラックやトレーラーみたいのまで、轟音を上げて高速で通り過ぎる。そんな道を、さっきまでの下り基調の快調ペースからは嘘みたいにのろのろ登り続けざるを得ない。地形が変わる台地縁の常で上空の空気がぶつかっているのか、小雨までぱらつき始めた。
それでもまあ登りきってしまえば、斜面の森の向こうが一気に開け、突然十勝平野が登場。十勝にやってきたことを実感できる一瞬だ。国道274の喧噪も芽登坂の排気ガスも、これがあるから我慢できるのである。十勝平野の東縁で、段丘部の森のてっぺんで一気に十勝平野が開ける景色、実はここだけではなくいろいろな道で見かけることができる。
十勝平野に着いてしまえば、国道274に長居は不要だ。北門からさっさと脇道へ分岐し、居辺川の谷間へ。
2年前通った道の逆走で、十勝平野東端部をしばらく南下するのだ。
空は曇りではあるが、畑の中の道は見晴らしが良く、北側の糠平方面の山裾が見渡せる。
▼★★にて 展望270°(Quicktime VR) 画像上でマウスをドラッグしてください
▼★★にて 展望270°(Quicktime VR) 画像上でマウスをドラッグしてください
平野上端からまたしばらく下り基調、再び居辺川の谷間へ、川を渡って対岸へ。
田舎道らしく登り返し斜度はけっこう急で、牧場の中を地形など一切お構いなしにどんどん登って下って再び居辺の谷へ。
基本的に無駄な登り下りだが、登ると景色はいいし、道がそうなっているから仕方無い。
谷底の開運から再び十勝平野東縁へ登り返すと、中居辺段丘部の防風林からまたもや広々とした畑の中に放り出された。一気に拡がる十勝の景色、何度見てもいい。 ▼★★にて 展望270°(Quicktime VR) 画像上でマウスをドラッグしてください
その先は、ややせり上がった地形の上っ縁辺りに沿って、一直線の道がしばらく続く。緩い下り基調の道からは、丘の傾斜次第でさっきのように十勝北側山裾まで見通しが開ける。
期待してこちらに足を向けたものの、伸びやかな景色の感動はやはり想像を軽く上回ってくれる。こちらに足を向けて良かった。十勝平野北部のハイライトの一つだろう。
地形はとにかく平滑で、緩い緩い下り基調が続く。畑の中を下るに連れ、北上居辺、北開と地名が変わり、平滑ながら丘を感じられたいた展望とわずかな地形の傾斜は、そのうち完全に無くなってしまった。
開運で一旦道は十勝平野の縁の外、段丘部へ降りてゆく。道の方向は変わり映えしないのだが、東の居辺川の谷間が西に少しだけ食い込んでくるのだ。谷を下っても、再び登り返すのは地図で見てわかっちゃいる。
登り返しで合流する谷底からの道は、居辺からの道道134だ。この道で十勝平野に乗り上げるのは、1999年以来10年振り。前回通った旧道は茂みの中に風化しかけていて、確かその旧道の脇で路盤工事が始まっていた新道が、豪快に谷底から十勝平野の縁まで一直線に高度を上げているのだった。かつての訪問で想像したとおり、10年振りの再会が新道との再会で、これはこれで感慨深い。
西居辺からは道道316、再び十勝平野の東端の道。もはや限り無く真っ平らな畑と防風林の景色の中、延々とひたすら、さっきより更に斜度は緩くはあるが、それでもまだ下りが続く。
佐倉、共豊、東豊田と時々交差点近くに集落も現れるようになってきた。豊田の集落で道の向こうにAコープが現れたので、少し立ち寄ることにした。
店先に自転車を横付けするべく駐車場に乗り上げて店に近づくと、おびただしい数の大型のガが辺りに散らばっている。散らばっているだけではなく、ひらひら飛び回っているのである。ガは店の中にも入り込んで、本棚の裏側にも溜まっていた。ここでようやく、昨日置戸で聞いたマイマイガの大発生の話を思い出した。そういえば、朝なのに、ここまでの道でもあちこちでガが飛び回ってたな。
マイマイガというのはドクガ科の中〜やや大型のガだ。初齢幼虫以外毒は無いらしいが、基本的に大量にやって来られると誰だってニガテだろう。幼虫はけっこう大型の毛虫で、背中に赤と青の丸い模様が2列に行儀良く並んでいる。広葉樹にこういう毛虫がいるのを見たことがある人は多いと思うが、なかなか生命力が強くてたちの悪い毛虫ではある。今年はそれが大発生している。大変なことである。マイマイガだってみんなみんな生きているんだが、やはりおぞましいものはおぞましいのだ。
店の前ではお兄ちゃんが水でガの死骸を流している。普通このような灯りにやってきて路上に落ちている虫は、夜明けに鳥が根こそぎ食べてしまうものだが、マイマイガは鳥も食べないのか、あるいは食べてもまだこれだけ残っているかだろう。
そう思いながら先へ向かうと、道ばたの茂みにガが絶えることが無い。どうかすると路上一杯に飛び回り、大変おぞましい。
東士幌では道をやや内陸側へスライド。これだけ下りが続くと、もう辺りの景色はすっかり平野まっただ中である。
こうなると平野部の縁ぎりぎりで展望を狙うより、真ん中寄りの通りのいい道を選ぶ方が、広々した十勝らしさが味わえるように思われた。
というわけで道をスライドするごとに、辺りは更に平野のまっただ中へ。
稲穂からは十勝平原広域農道、この道、2002年に士幌で国道241で転倒し、少しずつ暗くなる曇り空の下、擦過傷の血を絆創膏で強引に止めて(あまり止まらないが)急いだ道である。けっこう深い怪我の痛みと不安と、迫り来る夕方のタイムリミットで、気持ち的に一杯一杯だった。
景色もあまりよく覚えていないが、道東自動車道のアンダークロスが見えてきて、とりとめの無い平地の景色だったのを思いだした。
十勝平原広域農道は最後に富岡で道道73に合流。あれだけ続いた一直線道路が、最後はいきなりかくっと曲がって、やや埃っぽい準幹線道道に突き当たるのもあっさりしすぎだが、こういうあっけらかんと身も蓋も無いのが北海道の道の特徴でもあるように思う。
ここから道道73で十勝川温泉に出て、十勝川と根室本線を渡り、十勝平野南側をお昼過ぎまで南下すれば、折り返して夕方新得到着がちょうど良いぐらい、というのが今日の目論見なのだが、今のところとりあえず順調だ。
道道73に合流する交差点では道の反対側の歩道が少し広めになっていて、車道との間に分離帯が設けられていた。そうか、これがツーリングマップルに細い破線で書いてあった十勝大平原自転車道なのだ。道道の脇を自転車道に整備するパターンの自転車道なのだろう。
そこで遠慮無く十勝大平原自転車道に突入してみたが、これがぱっとしない道だった。まず車道との分離が今一つで、間に細い歩道は入っているものの、車の脇を走っている気分で一杯になる。自転車道というよりほんとに単に道道の歩道が広いだけの道だ。おまけに細い道の路面は細かい凸凹や割れで最悪。朝の糠南林道の方が余程走りやすい。道ばたの茂みからもマイマイガがひらひら飛んできている。
大層な名前の割に、実態は居候そのものの十勝大平原自転車道は、最後に道道73と別れ、何かの公園外れに到着した。「音更サイクリングターミナル」なんてのもあるようだが、その実態は自転車ツーリングにはあまり関係無さそうだし、公園にも特に用事は無い。そのまま道道73に戻り、10:20、十勝川温泉着。
平地なのでけっこう車の多い道道73。その道沿いのセイコーマートにも、マイマイガは押し寄せてきていて、店の前やら壁やら窓の中やら、ちょっとした防虫灯も全然無駄みたいである。まあ気味悪くても何でも、ここで何か食べておかないと、この先まだしばらく何も無いのだ。
休憩しているうちに雲の中は明るくなり、例によって今日も急に気温が上がり始めていた。
10:40、十勝川温泉発。
十勝川中央橋を渡り、稲志別までの河岸の平地を経て、今日2つ目の目玉の十勝南東部の台地へ向かう。
この台地、ここ何年か十勝を訪れると必ず経由するようにしているが、丘の上の展望と程良い広がりの静かな畑がとても美しく、いつも外すことが無い。と同時に、畑地帯にはほとんど日陰が無く、集落はあるが商店や自販機や学校は無いので、水や食料に注意が必要な場所だ。
このまま進むと入り込む、台地の具合のいい辺りを経由して具合良く南下する十勝中央広域農道が、例によって手持ちの1/5万と、ツーリングマップルで道の形が全然違う。1/5万で細道乗り換えで描かれているコースを、道を何本かくっつけて1本にして拡幅、広域農道に仕立て上げているようだ。稲志別の農道分岐で現れたこの農道の行き先は「とかち帯広空港」。そうか、丘陵を無駄に登って降りて、それでもこの道へ行く方が近いのだ、車だと。
少し谷間に入り込んで、来るか来るかと思っていると、やはり登りが開始。広域農道だけあって、拡幅に際してあまり勾配緩和は行われないようで、7〜8%ぐらいの直登である。標高差80mぐらいの丘だが、ほぼ全部直登なのとじりじり照りつける日差しで、かなり堪える登りだ。今日ももう11時前。暑く苦しい時間帯である。
しかし、何とか丘の上まで登り切ると、そこには期待通りに丘の田園風景が待っていてくれた。 ▼★★にて 展望270°(Quicktime VR) 画像上でマウスをドラッグしてください
波打つ丘に畑のパッチワークが広がり、落ち込む谷間を見渡し、遠景には大雪の山々。
近めの距離感、空間感覚で360°展開するパノラマは素晴らしい。雲はやや多めで低いが、この真っ昼間の暑さに耐えて登り切ったご褒美だ。 ▼★★にて 展望270°(Quicktime VR) 画像上でマウスをドラッグしてください
豊岡、日新、古舞と丘の上には緩く小さなアップダウンが続く。
トウキビ、ジャガイモ、麦と様々な畑の中、牧場の中、森の脇などを、ちょい坂や木陰、涼しい風に一喜一憂しつつ通過。
最後に森を下って小さく登り返してから、ややイレギュラー気味なカーブを描いて再び十勝平野へ下ってしまう。
こうして北から南へ縁を通っていると、十勝平野の実態は平野というより盆地に近いことが実感できる。だって一番低いのが真ん中の十勝川で、十勝川に向かって縁から平滑な地形が下ってきて、山に囲まれたお皿を形成しているのである。南西部で一番海に近づく豊似や広尾だって盆地の縁にあるのだ。
等と思いながら、再び広々とした平野の桜木町に降りてきた段階で12時前。
今のところ南下を続けているが、今日の宿は十勝北西部の新得である。いずれは、というよりそろそろ方向を変えて北に向かう必要がある。また、北に向かう前に十勝平野をどこかで東から西へ横断する必要もある。真ん中の平地より山裾の方が景色がいいからだ。
東から西へ向かうタイムリミットは、芽登温泉を出発した段階では12時、希望到達地としては、去年道の駅でチキンカレーがとても美味しかった中札内まで行けるといいなと考えていた。
中札内はまだ20kmぐらい先だが、折り返しのタイムリミットはイメージ誤差の範囲として、まだもう少し南下してもいいような気もする。中札内を早めにこなせば、清川の「ジンギスカン白樺」にも行けるかもしれない。
いや、でもこれから十勝帯広空港の脇を通って中札内へ出るのに、多分1時間以上かかってしまうようにも思える。その後折り返しの新得行きは、余裕無く時間遅延気味の行程になってしまう可能性が高い。となると、「ジンギスカン白樺」で昼飯を食べるのは難しいだろう。一方、早めの安全側チョイスでこれから西へ向かって大正の町に出れば、2年前立ち寄ったCEVAで炭火焼き豚丼が食べられる。というより、地図で見ると現在地点は大正のほぼ東だ。
とにかく何か食べたい。地点のチョイスというより、豚丼にカレーにジンギスカンのイメージ攻撃で、頭の中は真っ白になってしまっていた。
結局豚丼目当てで大正へ向かうことにした。
道道62でお皿の縁から真ん中の平地まっただ中へ。桜木町に降りてから吹き始めていた東向きの風が向かい風となるが、まあ順当に畑と防風林が次々過ぎ、帯広広尾自動車道を越え、12:40、大正着。
とりあえず豚丼、まっしぐらに国道236沿いのCEVAへ。
何故か地元団体客が宴会中で、豚丼大盛りが出てくるまで少し時間がかかった。思えば前も物が出てくるまで少し時間がかかったような気がする。時間が掛かっても、炭火焼きの豚肉の味は豊かだし、濃いめのたれも美味しい。というより、一昨日弟子屈で食べ損ねて以来、何か豚丼が食べたくて仕方がなかった気持ちが満たされたのである。これで\600、高コストパフォーマンスがウレシイ。中札内に行けたんじゃないか、チキンカレーを多べたかったな、という残念な気持ちはまだ少しあるが、豚丼で十分満足はできた。それにゆっくりと時間の余裕も持てている。
13:15、大正発。道道62で戸蔦別川を渡り、再び畑と防風林の景色の中へ。
これからはお皿の中から西の縁方面へ、緩々ではあるが登り基調となる。さっき吹いていた東向き向かい風も更に厳しくなってしまっていた。
空も陸も広々と伸びやかだが、お昼過ぎの高い日差しの中、変化の無い景色は単調だ。ややつらい行程ではある。
既知の道ばかりだと面白くないので、基松町で方向を変えたときに1本西の帯広川沿いの町道へ。
川沿いと言ってもそれほど川には近づかず、道の脇が畑じゃなくて茂みになるだけだが、次第にお皿の縁に近づいて景色に変化が出てきたのはウレシイ。ただ、相変わらず茂みにはマイマイガどもが喜々としてひらついてやがる。
この辺りは毎年お馴染みの道なので、少しずつ経路をずらして未済区間が多くなるようにする。いつもの道道より、町道や農道は交通量が少なくのんびり静かだし、道自体も簡素で、多少こぢんまりした空間感覚で落ち着ける。
まあそれでも結果的にあまり変わらない景色の中を淡々と淡々と進み、広野町で方向転換。
やはり牧草地と畑と防風林がひたすら続いた後、地図通りに道が屈曲し始めて唐突に14:35、嵐山橋着。
嵐山橋では、去年早朝八千代YHを出発して通った道道55とクランク交差となる。ところが、クランク交差の反対の方向に何か公営の施設があるようで、そっち方面には道にはためく幟が見えた。ああいう幟はまず100%蕎麦とかうどんとかラーメンとかカレーとか、とにかく食べ物が書いてあるのだ。この場所でこんな物に出会うとは。去年通ったばかりの道だが、全くノーチェックだった。
近づいてみると、道の脇から拡がる大型の駐車場には、確かに去年記憶がある。その中にソフトの幟を発見。もう行くしかない。
食堂はその先の森の中、国民宿舎新嵐山荘に併設されているようだった。泊まったら気持ちよさそうな場所だ。でも、私がここに泊まることは当分無いだろう。なぜなら帯広八千代YHが近くにあるからだ。またステーキが食べたい。
等と、寄り道の理由も寄り道して考えることも食べ物のことばかりなのが我ながら可笑しい。きっと疲れ始めているのだ。暑さにも、旅程にも。
涼しい森でソフトを食べ終わり、再び道道55に出ると、厚くやや低めの雲が空の中に拡がり始めていて、青空は完全に見えなくなっていた。全道で大雨の明日の天気予報を思い出す。天気が変わり始めている。
新嵐山を回り込む町道から谷間の大陽へ、そして河岸段丘上へ登り返して上渋山へ。
ここでようやく十勝平野最西端の道に到達、しばらく十勝清水まで既知の道を北上することになる。
既知の道だが、道が山裾に近づくこの旭山から剣山、そして円山牧場の辺り、地形の変化は、道のアップダウンや細かいカーブ、そして周囲の景色の変化となる。
円山牧場をハイライトとして山側にも、そして所々で開ける十勝平野の展望も、楽しい道だ。 ▼★★にて 展望270°(Quicktime VR) 画像上でマウスをドラッグしてください
また、山裾の道と十勝平野のグリッドの道とがイレギュラーな斜め交差となり、これもまたお皿の中のグリッドに乗った道とは趣が異なる。
それにやはりここも道幅が狭い、落ち着ける田舎道だ。
道のバリエーションが増える上羽帯、豊里辺りでは、例によって所々脇道を経由、次第に北上。
何年か前から車が増え始めていたこの辺の幹線町道へ出ると、どういうわけか、というより遂にここも自動車が極端に多い。交通量皆無でも高速道路みたいな幅広道道もあるというのに、対向で2車線ぎりぎりのこの狭い道に、ひっきりなしに自動車がやって来るのだ。大型車も多い。トマムへ区間延伸して使い出が出てきた道東自動車道へ向かう車なのだろう。今後はこの辺り、経路を変更しないといけない。
時間的に余裕があるので、清水から新得へは道道973先のダート林道へ向かえそうだ。道なりに清水を経由すると下って登ってになってしまうので、そのまま山裾経由で道道973方面へ。狭かった町道が、途中清水への道が分岐する辺りでようやく拡幅されていた。いつも清水経由なので、こちらは通ったことが無かった。
国道274を渡った後はダートまで登場したが、その後はまあ順当に北清水で道道973へ合流。
道道973は前述のように途中からダート林道となり、新得西側の北海道立新得畜産試験場に至る道だ。私にとって2回目の道だが、前回は1996年、もう強めの雨と霧と、地図で見る印象からは意外に長くてダートの坂道を泣きそうになって押し続けたという記憶しか無い。
今日の天気はさっきからどんよりの曇り。夕方なのもあって辺りは薄暗くなり始めていたが、峠部分まで標高差は200m、まだ17時過ぎ。このまま問題無く行ってしまえ。
緩い登りが続く道の景色は、十勝の山沿いだけあってなかなか展望が良い。前回は新得側も清水側も霧が濃かった記憶しか無く、広々とした眺めは嬉しい誤算だ。 ▼★★にて 展望270°(Quicktime VR) 画像上でマウスをドラッグしてください
景色はさっぱり記憶に無いものの、下りきる直前までダートが続いたような気がした。しかし、今回はなんだか舗装区間が長い。まあ15年振りなのだ、道道なら舗装ぐらいされるているだろう。
登りの斜度が次第に増え、もうそろそろ稜線部分も近づいてきたところで、牧場の突き当たりでようやく道がダートに変わった。
さっきから右側に高速道路が見え始めている。言わずと知れた道東自動車道だ。こちらの道の行く先、峠部分の稜線の凹みをあちらも越え、こちらは再び十勝へ下り、あちらはそのまま山肌につっこんで行くのだ。自転車ツーリングな限りあっしには関わりのねえ道でやんすと思っていたので、どこを通ってトマムに出ているのかあまり考えたことは無かったが、そう考えるとかつて林道だけだったこちらのルートに、俄然陽が当たってきたことになる。さっきの幹線道道の変化など、やはり自転車ツーリングにも高速道路の開通状況が影響するのだ。
等と考えていると、牧草地の先はすぐに森に代わり、道は乗車しづらいぐらい砂利が深くなってしまった。地図で見ると峠部分は近いことだし、もう押したり乗ったりでごまかして進んでしまえ。こちらは森の中だったり茂みだったりだが、その向こうには牧草地、更にその先にちらちら道東自動車道が見えていた。
間もなく茂みの中、道はゆるっと峠部分を超えた。清水側からだとちょろいね。
新得側は清水側と違い、森の下りがしばらく続く。もう17時半過ぎ、薄暗い森が何だかブキミで、早くここから出てしまいたい。何となく心細く、前方に飛び出すキツネにすら、どきっとしてしまう。こういうときに限って林道は大変長く感じる。
早く終わってくれ、と思いながら下り続けるが、下りはだらだらと、森は閉鎖的だったり開けたりしながらしばらく続いた。1996年の訪問時はお昼前だったが、霧と雨の中の登りが随分長い間続き、やはりとても心細かったのを思い出した。
しかし、山肌から山裾に降りて斜度が落ち着くにいたり、ようやく牧草地外れのダートへ放り出され、すぐ舗装が復活。無事、新得畜産試験場に到着したのだった。
私の初渡道は1983年。その時は自転車ツーリングではなく、撮り鉄旅行で、主な目的地はこの新得畜産試験場を横長にS字を描いて標高差200mを登る新狩勝峠と、開通間も無い石勝線だった。新得畜産試験場にはこの時だけではなく、その後もう一度訪れている。その度に新得駅に泊まり、この新得畜産試験場を10数km歩いて写真を撮っていた。そのため、この畜産試験場の景色のすべてが大変懐かしく感じられる。
久しぶりにこの懐かしい景色を、列車からではなくて下から眺められているのはとてもうれしいことだ。コンクリート橋で頭上を横切り、カーブを描いてトンネルに突っ込んで行く根室本線は、もう随分前から防風板が設けられ、かつてのように列車の姿を眺めることはできなくなってしまっている。しかし、この牧草地と森、程良い傾斜地に拡がるこの景色に、初渡道時の気持ちを鮮明に思い出す。
もう少し懐かしい景色を眺めたくて、新得へ降りる道の途中、畜舎や木造事務所が建っていた辺りを伺うと、それらの建物は見事に鉄筋コンクリートの5階建てぐらいの建物に替わっているようだった。まあ無理も無い。あれから25年も経ってしまったのだ。
最後は道道136から新得へ。市街地手前、絶対に踏切だったはずの根室本線との交差が、「オダッシュ通り」という畜産試験場を見下ろす山の名前が付けられてアンダークロスに変わっているのも時間の経過を感じさせる。
18:05、新得サホロYH着。
十勝平野の入口、交通の要所の新得にだいぶ前から建つこのYHも、26年前には無かったものの一つだ。国道38沿いでセイコーマートに近く、なかなか使い勝手はいい。惜しいのは屋根付き自転車置場が無いことだ。勢い50cmぐらいの軒下壁沿いに寄せて自転車を停めておくことになるが、そういうこのYHに、今日は他に大学生の自転車部グループが同泊している。軒下が狭い上に、今晩から明日は大雨の予報だ。同じ町中ではあるが、新得駅まで徒歩で20分ぐらいかかるので、明日最低限新得に向かうには、多少濡れるぐらいならこれで仕方が無い。せめてコンビニ袋を総動員してサドルやハンドルに掛けておこう。
夕食は、今どきのYHらしいバランス良く美味しくボリュームたっぷり。腹一杯食べることができた。
その夕食中、雨が降ってきた。あっという間に大雨になり、窓の外にぼとぼと軒先からの雨だれが見える。自転車が心配になって見に行くと、辛うじて直撃は避けられているようだが、そんなもん風次第でどうなるかわかったものではない。
頼むぞサホロYH!次回は屋根付きガレージを作っといてくれ!
記 2009/9/26
#5-2へ進む #5-1へ戻る 北海道Tour09 indexへ 北海道Tour indexへ 自転車ツーリングの記録へ Topへ