北海道Tour02 #8 2002.8/16 名寄→びふか温泉

日進→(道道939)なよろ温泉
→(ピヤシリ林道・奥幌内本流林道)幌内越峠
→(道道49)美深
→(国道40)びふか温泉
91km

びふか温泉

美深

仁宇布

幌内越峠

神門の滝

ピヤシリ山

日進


 今日の宿はびふか温泉。去年はサロマ湖発で20:50着だった宿だ。自治体の宿にしては飯が良くて温泉もあり、印象が良かったので、今回はいくら何でももう少し早く着きたい。しかも、明日はいよいよ道北スーパー林道の日だ。
 今日はピヤシリ林道・奥幌内本流林道全31kmの後は、仁宇布・歌登・咲来峠と大回りして、びふか温泉へ行く予定だ。でも、手持ちの本に、林道区間の雄武側の道が悪いとの情報がある。単純に距離だけでは当たりが付かない。
 そこで、大まかにびふか温泉18:00から逆算して、咲来峠17:00、歌登15:00、仁宇布12:00というスケジュールを立てた。とりあえず仁宇布で12:00を過ぎていたら、その場で下方修正検討ということにした。

 起きると、とろんとした灰色の大きくヤバげな雲が頭上低く漂っている。でも空の端は晴れで、青空が見えている。まあ何とかなるかもしれない、と思った。
 6:15、なよろサンピラーYH発。道に迷って昨日も通った、ピヤシリスキー場までの道を遡る。スキー場の脇、「なよろ温泉」の建物の脇から、早くもダートが始まっている。そのすぐ先、キャンプ場の入口に、「ピヤシリ山入山ノート」があった。錆びかけた箱と「入山者の皆さんへ」という文字にちょっと緊張しつつ、ノートに記帳。
 ここで今日も熊除けの鈴を装着、6:45、ピヤシリスキー場発。

 森の中、短いアップダウンを繰り返す絞まった走りやすいダートが、沢に沿って谷の奥へ入ってゆく。こんな道で標高を稼げると楽なのだが、とか甘いことを考えていると、やはりすぐに乗車で登るのがしんどいぐらいの坂になった。つづら折れで谷底から山腹をぐいぐい高度を上げる道だ。斜度がキツい上に多少砂利も増えてきたところで、早くも乗車をあきらめる。
 所々で斜度は緩くなり、なるべく乗るように心がけるが、すぐにぐわーっという感じの激坂が現れる。押して押して乗って、という感覚で、しばらくつづら折れが山腹の森の中を進む。道の砂利はますます深くなり、斜度との相乗作用で押して歩くのにも靴が滑るぐらいになった。昨日のYHの情報では、比較的絞まったダート、とのことだったのに、こんなの聞いていない。

 沢の音はもうすっかり消え、「ちりちり」という熊除けの鈴の他、小鳥の声が響く道になった。時々、中型ぐらいの鳥が茂みの中で飛び立つ音には、どきっとさせられた。
 頭上を木々に塞がれたつづら折れ区間が終わると、なぜか道は再び舗装になった。が、急勾配は相変わらずで、長い押しで押し癖が付いてしまっていて、「まあいいや」とか思いながら押しを続けてゆく。斜度が少し緩くなると、今度はまた深砂利、てな具合で、結局かなりの区間を押してしまった。

 登るに連れ頭上の樹木は多少開けてきた。道の線形も、峠道でよく見かける山肌を這うような道ではなく、長い直線・カーブ・長い直線・カーブという、ある意味独特な大味さがある。昨日だと湯の山峠の丸瀬布側がそんな感じだった。丸立峠は内地の林道のように連続急カーブのきりきりっとした道だったので、北海道だからというわけではなく、山の形にもよるのだろう。
 下草の茂みが高い周囲の森は、今回のダート林道の例に漏れず、どんな野生動物が出てきても不思議ではない雰囲気が漂っている。が、熊の出そうな沢も終わっていたし、何より時々通る自動車が妙に心強い。気分的に少しは安心できるようにも思えた。

 途中からは展望が開け、名寄市街や美深の町、周囲のなだらかな山々に拡がる大樹海の風景が楽しめた。頭上に灰色の雲はどんどん近づいて来ていたが、まあとにかく来て良かったという気分だ。
 8:50、林道分岐到着。ここからは雄武へのピヤシリ林道から分岐し、山頂までのピストンとなる。
 熊笹の中、道は今までより狭く砂利が深い。自転車を押すと言うよりも、もつれあって一緒によじ登るというか、かなり情けない状況が続いた。背丈ぐらいある笹原の中は、相変わらず何かが潜んでいそうで、不気味な一本道の苦しい斗いが続いた。
 それでもやがて頂上のほんの少し手前の避難小屋に到着。小屋の脇に自転車を置き、ハイマツの茂みの中を徒歩で2・3分程登り、9:35、ピヤシリ山山頂着。

 山頂付近はすっかり雲の中。周囲にかなりの速さでガスが流れていた。当然太陽も下界も全く見えず、一面真っ白な世界だ。寒いし濡れるしで、「ピヤシリ山山頂 九八六・六m」という標識を写真に撮って、5分もいなかったがとっとと下ることにした。

 下り始めると、今まで登った道の砂利が深い。すぐにブレーキロックしてそのまま車輪を取られて転倒しそうになる程深い。まあ登りの感じでわかってはいたが、下りで全然時間が稼げないことが心配になった。

 ようやく下りきって、再びピヤシリ林道に出た。今度は雄武側に進まないといけない。再び砂利の深そうなダートが行く手の坂の上まで続いているのが見えた。
 順当に考えるとピヤシリ山頂に向かう分岐付近が峠のように思ってしまうが、そこから先もしばらく緩い登り基調のアップダウンが断続した。斜度自体はかなり緩くなったが、いかんせん砂利はますます深くなり、再び押しの行程を余儀無くされた。
 しかし、笹原の中の緩斜面を、尾根方向に向かう道からの展望は抜群だ。周囲の山々、下界の名寄盆地、朱鞠内湖らしい水面まで全て見渡せる。高速で移動する雲の切れ間からは、さっきとは打って変わって陽が差し始めていた。太陽を受けて笹原は明るい緑に、点在する樹木は濃い緑になり、なだらかに続く眼下の山々の笹原、樹海も感動ものだ。

 展望を楽しみながら尾根を越えると、雄武側は打って変わって再び霧と笹原の世界だった。
 道自体の見通しも悪く、遠くの景色も全く見えない。砂利の深さは相変わらずで、どうかするとブレーキロックでバランスを失って転倒しそうになる。転倒して怪我でもしたら、この山の中、かなりやばい。
 ほんの少し砂利が浅くなると、今度はアップダウンになった。かなり手強い林道ではある。霧で薄暗い上に森も深くなり、もういつ熊が出ても不思議ではない雰囲気だ。濡れる・怖い・つらいのトリプル攻撃で、本当に心細い。

 山肌を何度かの大きな折り返しで高度を下げると、日差しがまぶしく暑さを感じるくらいにまで天気は回復した。やがてアップダウンの道が落ち着いて、向かって左側の谷は深く落ち込んでいった。途中で「神門の滝」等という看板もあった。実はこの滝、YHのペアレントさんに勧められていた。林道からのアプローチがさっきもあったのだが、看板方向に下って行く激坂の脇道を見て、面倒臭くなって通過していたのだ。
 道が低くなってきた尾根に近づき、周囲の木々が切れると、再び太陽が出た。切れた木々の向こうには、谷を挟んだ山々が間近に見えていた。奥幌内原生保護林という看板があったので見てみると、幌内川の原生林が大伐採で丸坊主状態になったので、この周辺の森が保護林として残されたとのこと。やはり一昨年道道120で原生林だと思っていた森は、一度かなり伐採が進んでしまっていたのだと思った。

 最後に急下りが少し続き、おもむろに放り投げ出されるようにして道道49号の幌内越峠に合流する。道道から合流地点を改めて振り返ると、「熊注意」の看板にいかにもこっちの世界に戻ってきた気分になる。
 12:20になっていた。仁宇布→歌登→咲来峠→びふか温泉をこなすための仁宇布タイムリミット12:00に、この時点ですでに遅れてしまっていた。31kmのダート区間を通過するのに、約6時間もかかってしまったわけだ。山頂までの往復よりも、むしろ明らかに登りの押しと下りのタイムロスが原因だろう。

 多分、仁宇布着は13時頃だろう。ちょっと休憩して13:30発として、当初の目標より1時間半遅れている。夕食予定は19:30。どうしよう、と思った。ピヤシリ林道へ行けたことで、気持ちはもう何か十分満足していた。これから歌登を経由しないとびふか温泉に行けない訳じゃないのだ。しかも、そっちの方がゆっくりできて、尚かつ早く温泉に浸かることができる。
 考え込んでいても一向に事態は変わらない。とりあえず仁宇布に向かうことにしたが、何か妙に疲れているのに気が付いた。熊の危険への気疲れか、下りでも押さなければいけなかった激ダートのせいか。

 山自体はそう高くないが、山深い森の続く谷間を遡り、美深松山峠を越える。しばらく森の中を下ると、やがて道の両側の木々がシラカバになり、一直線の向こうに牧草地の盆地が見えてきた。13:10、仁宇布着。
 周囲を山に囲まれ、何軒かの農家が盆地中央部の交差点を中心に固まっている仁宇布は、今日も牧草地の緑・木々の緑・背景の山々がとても静かな印象だ。

 トロッコ乗り場の道路側には、喫茶店併設の土産物屋がある。今日はここで何か食べるかな、とも考えていたが、夏休み中のためか、小さな店内は異常に混んでいた。しょうがないので食事はあきらめ、手持ちのおにぎりを全部食べてしまうことにした。
 それでもやはり早く出て来そうなソフトクリームを頼んで、店の前で食べる。食べながら今日の身の振り方、もっと言うと歌登→咲来峠の可能性を考える。
 仁宇布12:00発というタイムリミットはもう大幅に遅れてしまったが、びふか温泉着が19:00になるだけかもしれない。一度通ったことがある道が多いので、大体道の想像は付く。到着時刻の予想精度はけっこう高いだろう。しかし、さっきのダートで予想外に疲れてしまっている。この状態だと、この後の100kmぐらいの行程はなかなかしんどい。そもそも30kmぐらいで宿に着けるんだったら、そっちの方が有り難い。
 理屈で考えるとそうなるのだが、やはり歌登経由のコースが魅力的であることに変わりは無かった。

 思考は堂々巡りを繰り返していた。
 しかし、悩んでいても始まらない。明日も道道スーパー林道アタックが控えていることだし、大事をとって今日は宿に早く行くことにした。それでも、仁宇布をちょっとうろうろするくらいはいいだろう、と思い、道道120号をちょっと北まで行ってみた。
 集落の外れ、山側へ拡がる牧草地が美しい。一直線に走って行くのは美幸線未成線区間の築堤だろう。草が生い茂っていたり木が生え始めているが、今にも気動車が走り出しそうな雰囲気がある。明るい緑の風景、涼しいそよ風が何とも心地よい。
 その時、ふと築堤の奥の方に自動車の廃車が積まれていた。数十台ぐらい積まれた廃車群は、処理されることもなく単純に放置されているみたいだ。きっとここで朽ち果てて行くのだろうと思う。いままでけっこう満足して眺めていた風景だったが、何か自分が見ている上っ面以外のリアルな部分を見せられたようだった。
 今日は早く宿に行こう、と思った。

 14:25 仁宇布発。
 何か疲れているのと気持ちがだらけてしまったので、下り基調なのに全然速度が出ない。かなり強めの向かい風でもあり、だらだら進み続けた。こんな感じだと、歌登経由だったら何時間かかるかわからない。
 美深でもう一度休憩。空は朝の雲がもうすっかり無くなっており、見事に晴れていた。照りつける直射日光が暑い。だれた気持ちではもう負けそうである。

 16:10、びふか温泉着。国道沿いの道の駅はラムの串焼き、ソーセージやコロッケなどを売っていて、なかなか賑やかだ。見ていると立ち寄る自動車やバイクはかなり多く、人気があるようだ。
 今日の宿のびふか温泉、その他キャンプ場などが、その道の駅の裏手、天塩川の中州にある。木立の中のキャンプ場には、草の上の色とりどりのテントが見えた。こっちもなかなか賑わっている。

 美深町の名物は養殖チョウザメだそうで、「びふか温泉」のロビーの水槽に大小さまざまなチョウザメが泳いでいる。一番原始的な種類の魚なのだそうだが、サメに似た顔、ナマズみたいな髭、不思議な生き物だと思った。
 ゆっくり温泉に入って夕食後、再び温泉に入ろうと思った。が、キャンプ場や地元客が温泉に押し寄せているようで、湯船はまるで芋を洗うようだ。そこで、温泉はあきらめてちょっと宿の外をぶらついてみる。夜の空気はすっきり涼しく、空には何か異様に明るい星が輝きだしていた。
 明日のコースを考えないといけない。今日みたいにまた向こう側がこっち側よりも悪路らしい道東スーパー林道の後、道道120経由、美深から幌加内経由で旭川へ、という当初の計画は無謀すぎるように思える。とすると、美深・函岳ピストン→国道275で旭川か、悪路覚悟で歌登側へ抜け、仁宇布から美深で行程終了、最後は美深16:11の特急で札幌へ、という2つのプランが考えられるが、さて…

記 2002.8/24

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Last Update 2003.12/31
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