ASAHI PENTAX MX

40年以上掛かって PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA★ 1:1.4 50mm SDM AW

MOTORDRIVE・DIAL DATA付
NiCdパックは残念ながら不動品
ホットシューカバーはPENTAX100


 2006年11月。独立行政法人某機構で強制労働に従事していた私は、横浜市金沢区での確定検査後、つい立ち寄ってしまった横浜駅西口の中古屋で、MX後期形に遭遇しました。オーバーホール済というそのMXは、念願の黒。おでこに塗装剥がれがあり、衝動買いするには多少、そして相場より高くはありましたが、かなり衝動的にさくっと購入してしまいました。
 少し前の2003年、PENTAX初のデジ一istDが登場していました。中古の安いKマウントレンズがそのまま使えるPENTAXデジ一、きっと楽しいだろうな羨ましいなーとか、今後PENTAXを買い始める自分を想像したことぐらいはありました。そして、この頃既に、中古屋で美品級のMXを見かけることは少なくなっていました。
 つまり、買うなら今がチャンスだ、と思っちゃったというわけです。
 すぐさまMX用のレンズとして、A50mm1.2中古良品を仕入れました。立て続けにM28mm2・M35mm2・XR RIKENON50mm1:2L・ワインダーMXを中古店で、そしてLX用ナチュラルブライトマットの全面マットとLXストラップを新品で、かき集めるように買いました。仕上は盛岡の確定検査前泊時、道端の中古屋でのK24mm3.5衝動買い。もともとあまり見かけたことが無かったレンズでしたし、istD登場から僅か3年で、KマウントのMF中古レンズは市場から劇的に消え、価格は以前に比べ高騰していました。みんな考えることは同じだったようです。
 ちなみにその店の、通りに面したショーケースには、K24mm3.5と並んで長期在庫の新品っぽいNewFD24-35mm3.5Lがありました。今頃、あのレンズはどうしているだろうなどと時々思います。でもそのレンズを買わなくてよかったとも思います。

ASAHI PENTAX MX smc PENTAX-M 1:2.0 28mm CTS200

 1979年1月、ヨドバシカメラでCanon A-1を買ったときの対抗馬PENTAX MX。触り比べるまでどっちにするか決まらない最終候補だっただけあり、その後私は度々MXを気にしていました。
 家庭内ではA-1とCanon大好きの私をおちょくり、PENTAX S2持ちの父と父の影響色濃い弟はひたすらPENTAXを連呼(ちなみに母は初代Canonet)。高校の写真部ではMXにワインダーを付けた部員がいました。
 いろいろあった中で印象的なのは、80年代後半だか90年代だったか、敬愛する故赤瀬川源平さんの、アサヒカメラに掲載されたLXとMXが並んで描かれた絵です。クラシックカメラが登場することが多いその連載に、私がリアルタイムで知っている70年代後半〜80年代のカメラが載ることはややイレギュラーであり、「赤瀬川先生はPENTAX、それもMXに一目置いているのか」と思ったものでした。またその絵で、MXはLXに合わせたのか黒。一般的には、MXは銀のイメージが強いように思います。発売も黒は銀から3ヶ月遅れだったようですし。
 この時、「MXは黒だよ、黒!」と思い込んだのでした。
 でもその頃私は、バイト代や薄給をCanonFDレンズに投入してゆく真っ最中。使い勝手が良く画質に不満の無いシステムができ上がり、他社機導入の必然性を感じていませんでした。
 自分でできないことは人にやってもらうのが世の習わしです。己にMXを買う理由が無い私は、弟に相談を受けたときにMX銀を勧めて買わせたりしていました。しかしその後彼は、スキーにそのMXを裸で持っていき、転倒したか何かで雪中で押しつぶして、見事に真鍮のペンタ部を陥没させて(しかも縦方向)しまいました。

ASAHI PENTAX MX smc PENTAX 1:3.5 24mm CTS200
画面サイズ 24mm×36mm
マウント PENTAX バヨネットKマウント
ファインダー 固定式 ペンタプリズムアイレベルファインダー
ファインダー視野率 上下95% 左右95%
ファインダー倍率 0.97倍(50mm使用時距離∞)
フォーカシング
スクリーン
交換式
測光方式 TTL中央部重点平均測光
測光素子 GPD(後期形はSPC)
測光範囲 EV1〜EV19
露出方式 5段階3色デジタル定点式マニュアル
シャッター形式 横走りメカニカル4軸式ゴム引布幕フォーカルプレーンシャッター
シャッター速度 1/1000〜1秒 B T可能 倍数系列ダイヤルセット
X接点同調速度 1/60
フィルム感度 ASA25〜1600
露出補正
セルフタイマー 4〜12秒 始動はセルフタイマーボタン
フィルム装填 マジックニードル式クイックシュアローディング
フィルム巻き上げ 手動レバー126°予備20°分割巻上可 巻上完了表示窓
自動巻上はMOTORDRIVE MX装着時秒間最高5コマ、
WINDER MX装着時秒間2コマ
フィルム巻き戻し 上部クランク 巻き戻し完了表示付
多重露出 無し
電源 LR44アルカリマンガン電池又はSR44(G13)酸化銀電池2個
大きさ ボディのみw135.5mm h82.5mm d49.5mm
重量(電源込) ボディのみ495g
発売日 1976年11月
定価 ボディのみ\48,000 50/1.4付\77,400
参考リンク ARCHIVESPENTAX HISTORYRICOH IMAGING
今さら飛び込むフィルム写真 第2回PENTAX official
カメラアーカイブ ペンタックスMXCAMERA fan

 確定検査の合間、「10年後一体おれは何をしているのだろう」などとつぶやきつつ自主的に町から町へとさまよい、私はMXを使い始めました。
 まずびっくりたのは、smc PENTAXレンズの性能の高いこと。4本だけの印象ではありますが、暖色コントラスト系のCanonNewFDに比べ、ニュートラルな落ちついた発色ですごく抜けが良く繊細な、何だかすごく現代的リアリティ溢れる描写なのでした。昔から羨ましかったSMCも、噂と期待の通りにFDよりかなりゴーストが出にくい。特に優しく落ちついて繊細なキレのA50/1.2は、NewFD50/1.2Lのものすごいキレや高い色濃度のドラマチックな生々しさとは傾向こそ違うものの、描写力としては全く遜色無いように思います。
 そしてレンズとボディの小ささ軽さ。特にMレンズは圧倒的で、出張バッグの中にボディとレンズ2〜3本が楽に入ってしまいます。これがNewF-1、いや、A-1の頃からの感覚だと、普通のバッグに居候させるには真面目にボディとレンズ1本だけが現実的なところ。レンズ2本だともうPENTAXの3本より場所を占めてしまいます。それはPENTAXのカタログに昔書いてあった通りの話です。これこそカメラに必要な性能なんじゃないか、とやっと私は気が付きました。バッグの隅に無理矢理A-1やFDレンズを押し込み、注意したつもりでもいつの間にかボディとレンズが圧迫され、その度に新宿SSで調整してもらっていたことも思い出しました。正に目からウロコなのでした。
 マジックニードルスプールも、カタログ通り確かに食いつきが良く、これならフィルム装填はしやすい。
 痛感したのは、カメラがマニュアル専用なら、人間はマニュアルで不便無く使ってしまうものだということ。NewF-1で感じたことが、MXでまた上書きされたのでした。NewF-1の素晴らしい追針式露出計(全MF機中最高だと思う)とファインダー内表示ほどではないにしろ、MXの定点式露出計も直感的な信号カラーだし、シャッター・直読絞り表示があって大変使いやすいです。それに、A-1と同じ中央部重点測光が、何故かA-1に比べてよく当たります。私のA-1での撮影は、多くの場合、空が入らない様にして測光→ファインダーの絞り値を読んでセット、という方法でのマニュアルでした。たまにAEを使う時も、ほとんど常に露出補正していました。その後T90では常時マルチスポット、NewF-1では部分測光だったので、中央部重点測光を使うのは本当に久しぶり。しかしあまりそういうブランクを意識することがありませんでした。「実はA-1の測光系は弱かったのかもしれない」などと思ってしまうほどです。或いはMXの中央部重点は、A-1より中央部重点度が高く、私に向いているということなのかもしれません。
 とにかくこれなら、あの時MXにしといた方が使いやすかったかもしれない。

ASAHI PENTAX MX smc PENTAX-M 1:2.0 35mm CTS200
ASAHI PENTAX MX XR RIKENON 1:2.0 50mm L CTS200

 その段階では、Kマウントレンズは50mm〜24mmまでの5本。サイクリングで使いたい20mm〜200mmまでを3本だけでこなせるCanonFD系を置き換えるには至りません。MXは確定検査前泊・帰路の自主迂回用にちょくちょく持ち出してみたものの、2008年10月に某機構での強制労働と確定検査の旅は無事終了。某建設会社に戻った私の出張はほぼ無くなりました。
 一方で2009年、大好きだったネガカラーのKonicaminoltaCenturia100が製造中止に。2012年には頼みの綱のリバーサルKodakE100Gも販売中止となりました。入れ替わるように良いタイミングで2011年、APS-Cデジ一のPENTAX K-5を導入。K-5用のレンズをAPS-C用で揃えてしまい、MXはもはやいじる以外に用途が無くなって、MX関係の増備も一旦休止となりました。

  赤瀬川ペアが実現 PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA★ 1:1.4 50mm SDM AW

 時は流れて2016年。フルサイズデジ一PENTAX K-1購入後3ヶ月も経たないうちに、まさかFA Limitedレンズを3本(しかも1週間で)揃えることになろうとは。描写性能はデジタルフルサイズで再評価を高めるほどの折り紙付きなのに、現行レンズ中では群を抜いて小型軽量。絞りリングが使え、MXにもぴったりです。その年にPENTAX FILM DUPLICATORsmc PENTAX-D FA MACRO 1:2.8 100mm WRを揃え、フィルムデジタル化に関わる画質・手間の問題が解消しました。2018年にはKodakE100(ほぼE100Gらしい)も再登場。
 広角・標準・中望遠のFA Limited3本と、フィルム2〜3本ぐらいとMXを持って行けば、軽めの鉄が成立してしまうことを、私は知っています。というより高校生の頃はもっとしょぼいレンズで撮ってたじゃないか。駅間で列車を狙わなければ、これで十分でしょう。もう一度あの頃のように、鉄っぽい旅に出かけてみたいな、という気になり始めました。
 というわけでK-1によって、再びMXに存在感が出てきました。2018年暮れには、とある経緯でオーバーホール。この頃に私はようやく中古アクセサリーが時々ヤフオクで出ていることに気が付き、1980年代以降一度しか(それもモルトベタベタのジャンク品)見たことが無かったDIAL DATA MXや、同じく高校生の時以来見たことが無かったMOTOR DRIVE MX、予備機(予備機として買ったわけじゃないが、やや可哀想な個体で、ヤフオクの良い勉強になった)も入手できました。
 そして最終的にKマウントのフィルム機としてLXまで増え(別項で述べます)、赤瀬川源平さんの絵の通りになってしまったのでした。まあ、そういうのを眺めて格好いいとか思った段階で、これは既定路線なのかもしれない、とも思います。

ASAHI PENTAX MX smc PENTAX-A 1:1.2 50mm CTS200
ASAHI PENTAX MX XR RIKENON 1:2.0 50mm L CTS200

 2021年。2018年にオーバーホールした筈のMX後期形は、いよいよシャッター不調に見舞われました。確かに、モータードライブなど使わない様注意を受けてはいたのに、ちょっとだけですが使っちゃいました。ごめんね、ごめんねMX。
 ところがそのタイミングで、入れ替わりにまさかの前期型MXが、完動モードラMXとともにヤフオク経由で我が家にやって来ました。ヤフオク品ではあったものの、使用10回ぐらいというその元箱付MXは、モードラ装着による底面の僅かな擦れ以外確かにピカピカ。切れの良い確かな手応えの操作感に、クリアでピントバッチリのファインダー、絶好調機でした。
 それに前期型は、細部の仕上が鏡面だったり溝が切ってあったりして、後期形より全体的に多少繊細に作り込まれていた印象を受けます。受光素子も当時最先端のGPDですし。つまり、これが本来のMXの姿であり、1979年に私がMXを選んでいたら、箱を開封して出会ったであろうMXなのでした。

  PENTAX 100 ホットシューカバー PENTAX K-1 HD PENTAX-D FA★ 1:1.4 50mm SDM AW

 気が付いたら、まるで1980年代からMXとLXを使っていたかのような状態になってしまっています。1979年1月、ヨドバシカメラでA-1と比べ、ファインダーの赤いデジタル表示にやられてA-1を買ってしまった時には考えもしなかった42年後の事態です。
 あの時MXを買ったらどういうことになっていたのかとは思うものの、多分Canon NewFD20-35/3.5LNewFD50/1.2Lに出会うことは無かったのでしょう。それならそれで、私はPENTAXの20・28・35mmと50mmを持ち歩いていたかもしれません。
 登場後45年。同期他機種の先進電子技術や膨大アクセサリーシステムの可能性などというものは、全て過去に消え去りました。しかしその中で、MX(とME)の小型軽量さだけは、ますますその意味を高めているように思います。特にMXというカメラの印象が、70年代後半から全く変わっていないことには驚かされます。PENTAXの歴史を語る上では必ずMXが登場して引き合いに出されていますし、2019年に出たPENTAX100周年記念のロゴは、何とMシリーズ以来のものだったことも象徴的です。
 Mシリーズと言えば、MEが縦走りシャッターの絞り優先AE専用なのに、MXは横走りシャッターのマニュアル機であるということは大変不思議です。Canon A-1ユーザーだった当時は「これがKマウントの限界だよ」とか思っていました。しかし、かつて旭光学が、SPベースのシャッター速度優先AEと絞り優先AEの試作機を、別々に作り分けていたことを最近(笑)知りました。そういう経緯を踏まえるなら、あるいはMXが、シャッター速度優先需要に対する回答なのかもしれないと思えないこともありません。AEでも結局絞り値は気になるから、これでいいじゃん、という。そしてPENTAXの露出自動化は、シャッター速度優先AEと絞り優先AEを統合したハイパープログラム・ハイパーマニュアルへと進んでゆくのでしょう。いやいやいや、新参ペンタキシアンの私がどうのこうのいう話じゃありませんね。
 何はともあれ今、フルサイズデジタル機のK-1とHD FA Limitedレンズを共用して、KodakE100か何かを入れて使うフィルム機としては、LXよりもむしろ小型軽量のMXが便利かもしれません。全機能凝縮・マイクロ一眼というキャッチフレーズが付けられていたMXが、デニム生地の上に置かれた一人旅っぽい雰囲気の写真とともに宣伝されていたことも思いだします(MEだったかも)。
 或いは、私は無駄遣いのしすぎかもしれません。

記 2021/6/28

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Last Update 2021/7/4
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