四国Tour23#8
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そら案内では7時から終日雨となっている。降水量が1mmだろうと何だろうと、霧のように急にやって来て一気に雨が強くなる宇和海沿岸の雨を考えると、十分運休に値する。
旅程の最終日1日前の朝。この段階で「今日は雨、明日も雨、しかも多分かなり強そう」という天気予報だ。明日も自転車パートは全運休、今日の宿には交通機関で行って帰ってくるだけになる。「果たして明日も旅を続ける意味があるのか」が問われるような局面ではあるものの、「ある」と言えるだけの風景が、宇和海沿いにはあることを、過去の訪問で確信できている。しかも今日、宇和島から宿がある矢ヶ浜へは船での移動だ。自分にとっては十二分に目新しい旅になるだろう。たとえ輪行するだけでも。
そしてもしそうなるなら、昼過ぎから宿で籠城になる予定でもある。私に取ってこういう雨籠城は、もう辛くも何ともない。最近はむしろ贅沢な時間とすら思っている。現に普段、会社では時々「どっか島に行ってしばらくぼうっとしてーなー」とか思っている。そういう場所でつい自転車に乗っちゃうのは、貧乏性のせいだろう。
7時前には高畑バス停に到着し、昨日確認しておいたペンギンの化身みたいな造形の屋根付きバス停で自転車を解体、輪行体制を完了する。昨日宇和島自動車に電話して、高畑から城辺営業所までバスに自転車を乗せられることを確認してはいた。しかし、これから乗る城辺行きの便は愛南町営バスだということを、バス停に来て初めて意識した。確かに検索アプリにはそんな文字があったのを見覚えが無いでもない。
やってきたバスの運転手さんは、某村の某バス会社のように自転車を拒むようなことは無く、ひと安心。しかし、比較的小さいバスなので、自主的に座席で小さくなっている必要はある。おとなしくせねば。
7:24、高畑発。昨日通ってきた道は、薄暗い雲の下だ。
7:42、御荘着。御荘と言えばかつての町の名前なのに、バス停は町中の空き区画にパックハウスが置いてあるだけだ。こんなことでは城辺に負けるぞ。そういえば、昨日宇和島自動車城辺営業所に電話して読み方を知らずに「しろべ」と言っていたら、びしっと「じょうへんです」と訂正された。
目の前の道は2001年以来の国道56旧道だ。前回は国道56をずっと南下してきて時間も過ぎつつあり、泡を食って通った道ではあったものの、町のやや古びた昭和っぽい雰囲気が印象的だった。今も町並みはそのままで、時間が経過してレトロな雰囲気に輪を掛けている。しかし20年前は国道56のメインルートだった道だというのに、城辺バイパスができたためかややひっそりとしている。
バスの乗り換え時間は5分間。その間に1本、別の系統がやって来て去っていた。何となく本当に私の乗るバスがやって来るのか心配になったものの、向こうの曲がり角からバスはおもむろに姿を現してくれた。
自転車をえいやっと持ち上げてバスに乗り込むと、お客さんは私の他に3人だけ。だから大きな顔をしていいという訳ではなく、やはり自転車を抱えて邪魔にならない席で小さくなっている必要がある。
7:47、御庄発。宇和島まで1時間余り。御荘の町外れを過ぎると間もなく雨が降り始めた。その雨は、宇和島市街に入ってぱったり止むまで降り続いたのであった。つくづく輪行にして良かったと思う。
国道56は意外と眺めが良い場所を通ってゆく。そして何度か100m以内ぐらい、斜度5〜7%ぐらいのアップダウンが続く。そういえば、2001年際限無いアップダウンに辟易し、そっちの方に印象は残ってはいたものの、その日通った宇和海沿いの印象に完全に消されてしまっていて、ところどころの記憶しか残らなかった。今バスに乗って眺めると、2001年36歳の自分はこんなめんどくさい所よく通ったな、と思う。
8:53、宇和島自動車バスセンター着。
次に乗る予定のの路線バスはきさいや広場行き9:19。私が向かうのは宇和島新内港盛運汽船の乗船待合所だ。乗船待合所は2017年に立ち寄った「道の駅きさいや広場」の海側にあるとのこと。矢ヶ浜への「ゆきかぜ」は11:35発。乗船まで時間はあるし、きさいや広場でやっと朝食を摂ることができる。
きさいや広場のバス停と乗船所の位置関係はわからない。きさいや広場のバス停から歩いてすぐらしい乗船待合所へ自転車を乗船所へ運んでおき、その後「道の駅きさいや広場」に戻って何か物色することになる。急ぐ旅じゃないしそれをやればいいだけのことではあるものの、バスセンター前の停留所でバスを少し待つ間に、それが面倒に感じられてならなくなってきた。この際路線バスを待たずにタクシーで乗船待合所へ。
到着した宇和島新内港盛運汽船乗船待合所もきさいや広場バス停もきさいや広場自体も、半径150m程度の範囲にあり、輪行袋を持ち歩くには苦労は無さそうだ。まあ、明日の朝再び宇和島新内港に船で到着したら、宇和島駅まではやっぱりタク輪になるんだろうなとは思う。
乗船所の窓口は、11時にならないと取扱が始まらないようだ。自転車を建物の中に置き、サドルバッグをコインロッカーに入れ、きさいや広場へ朝食に向かう。
とりあえず揚げたてじゃこ天を3枚。次にレストランへ。しかし、レストランの営業時間は、GW中11時から開始とのこと。9時過ぎなのであと2時間弱待つ必要があるし、それじゃもう昼食だ。レストランのメニューには鯛の卵かけご飯「宇和島めし」がある。2017年に宿でいただき大変感動した美味しい地元料理だ。食べられないのは残念だが仕方無いので、じゃこ天をあと4枚もいただくことにした。胸焼けしないだろうか少し心配ではあるものの、こちらは何しろ朝食を食べてないのだ(少しだけ胸焼けした w)。
曇って薄暗くも比較的乾いた印象の屋外広場で、ベンチに座って食べる揚げたてのじゃこ天は大変に美味しい。しかし、食べ終わるともうきさいや広場に用が無くなってしまった。
盛運汽船「ゆきかぜ」は出発10分前に乗船が始った。気を揉んだタラップは聞いていたとおりしっかりとしたもので、これなら輪行袋を持って乗降しても不安は無い。
11:35、宇和島新内港発。船が動き始めた途端、速いと思った。狭い湾内を加速し始めると、更に速い速い。というのは以前五島列島での船(の記憶と印象)との比較だ。でも、宇和海に細長く突き出た蒋渕港まで30分で行っちゃう。矢が浜より遠くの蒋渕へ湾をぐるっと回り込み2ヶ所に立寄り、離島の戸島で更に2ヶ所停まってその後矢ヶ浜へ。それでも1時間しかかからないのだ。早いとしか言いようがない。
宇和島港ではどんよりではあるものの比較的雨っぽくはない曇りだったのが、蒋渕では風雲急を告げそうなかなり暗い曇り。風も強い。そして霧に霞んでいるように見えた戸島では、大雨の到着となった。
12:36、矢ヶ浜港着。雨は一旦止んでから、再びしとしと降り始めていた。桟橋と船のレベル差は少しだけあり、置いてくださったステップを踏んで一気にえいやっと上陸。やはりこういう一抹の大変さは渡し船にはあるなと思わせられる程度には、輪行袋を持った身には緊張する。海に何も落とさずに済んで良かった。
桟橋では、委託係員みたいなおじさんが「食事処なにわ」の旦那さんとのこと。昨日「岬の民宿 なにわ」に電話したときに、昼食を「食事処なにわ」で食べたいと伝えていただいている。「岬の民宿 なにわ」のご主人は13時頃までボランティアに出かけているとのことで、ちょうど昼食を摂ってから向かうと時間ぴったりとなるのだ。
輪行袋を桟橋根元の待合小屋に置き向かった「食事処なにわ」で、民家風の玄関から靴を脱いで、居間風のカウンターに座り、勧められるままにカレーをいただく。昭和大阪風(とはいえ本町辺りでこういうカレーは普通に食べることができる)の洋食カレーが美味しい。
「岬の民宿 なにわ」と「食事処なにわ」。屋号は同じだが全く別の人の営みで、でも大阪出身ということで更に釣船の「大内渡船」と、この「矢が浜」でトロイカ体制で頑張っているとのこと。
13:30、「岬の民宿 なにわ」着。一棟借りの宿なので、お客さんは私一人だ。母屋の客室、いや宿泊棟に普段はご主人がお住まいのようだ。生活感溢れる空間から住人を追い出すようで何だか申し訳ないが、心づくしのおもてなしをキャンセルなどするような事態に陥らずに済んでよかったと思う。
午後はずっと大雨の中寝ていた。夕食に「食事処なにわ」に向かう前、ちょうど雨が弱まって大変助かった。その夕食、海の物主体で例によって大変美味しい。毎日食事が美味しく、幸せな旅である。
記 2023/6/17