厚岸→(道道123)火散布
(以上#2-1)
(以下#2-2)
→(道道599)茶内→(農道他)浜中→(町道・農道)円朱別西→(道道123)上風連
(以上#2-2)
(以下#2-3)
→(新酪農道他)計根別→(道道13・505)養老牛
(以上#2-3)
(以下#2-4)
→(道道150)開陽
152km
ルートラボ
夜中にかなりの音量と密度の雨音で目が覚めた。しかし天気予報によると、明日の8時頃には雨が上がって曇りとなるはずである。出発予定の6時頃は小雨ぐらいは降っているかもしれないし、或いは大雨が7時半頃急にさっと上がるパターンかもしれない。天気予報と実態の間には、かなり幅を見込んでおく必要があるし、寝床でいろいろ悩んでも、結局はなるようにしかならない。
再び4時に目覚めると、既に路面は大方乾いていた。あれほど降っても、湿度と風の力でこんなに乾いてしまうのだ。空には雲が厚めに拡がっているものの、昨日みたいな圧迫感は感じられない。或いは太平洋沿岸部から根釧台地に入ってしまえば、晴れ基調に変わってしまうパターンかもしれない。何にしても、最初から全く問題無く走れるだろう。
厚岸愛冠YHの朝食は6:00から、のはずだった。実際には5:30にはほとんどできあがっていたのは、過去2回と同じ。このYHは旅館と併設なためか、昨日も工事の職人さんが泊まっていた。彼らの要求に合わせると、こういうことになってしまうのかもしれない。そもそもYHの朝食が8時とか7時半なのはちょっと遅すぎると毎回思っているが、実際にはそういうのを込みでYHもとほ宿も宿としての生業が成立している。何はともあれこのYHは、出発前に腹一杯食べることができる、数少ないYHのひとつであることには間違い無い。
会計時には宿の女将さんであるお婆さんが「また来てね」と言ってくれた。多分1970年代から幾多の旅行者を優しく見送ってくれていると思われる。いつまでもお元気で。また次回。
6:10、厚岸愛冠YH発。昨日クロワッサンを仕入れておいたセイコーマートで缶コーヒーだけ飲んでおくが、更に町外れの厚岸湾沿いで何とセイコーマートを発見。というか、前回2011年に既に見つけていたような気もするが、とにかくあまり事前に期待していなかった場所のセイコーマート、つい嬉しく立ち寄っているうちにすぐ6:30に。
道道123は厚岸湾を離れ、太平洋の岸壁上の森へ少しづつ高度を上げてゆく。
人気というものが全く無く無く、何となく底の知れない深さが漂う森に続く道は、紛れもなく北太平洋シーサイドラインの表情そのものだ。昨日の道道142から苫多の町道区間と厚岸市街地を経て、道の番号は変わっていても、同じ太平洋岸の一続きの道なのである。それなら尚更昨苫多区間を、北太平洋シーサイドラインに加えて捉えるべきなのではないかとも思う。まああちらは完全な生活道だし、北太平洋シーサイドラインになって道が拡幅されると漁村として困ることは多いかもしれない。
そんなことより、台地上には相変わらずの霧が漂っている方が、とりあえず今は重要だ。もともと道東太平洋海岸は霧が濃く、その霧は大まかに言って、海岸場の冷たい空気と陸地の暖かい空気がぶつかって発生するらしい。その通りに霧の中はけっこう寒い。登り途中だが、フリースを着込む。
標高130mぐらいで登りは一段落。身体が適度に温まったので、ようやくフリースを脱ぐものの、今度は霧が濃くなって相変わらず寒く、レインジャケットを着込む。
この感じだと、気温は10℃台前半ぐらいかもしれない。道東太平洋側では、ごく普通の気温だ。むしろ近年この道で遭遇する20℃ぐらいの気温は、暑すぎる状態だった。
霧は深い森の中を進むと共にますます濃くなっていった。
涙岩先では森が切れて、草原と岸壁、そして海が眼前に拡がる。これもまた北太平洋シーサイドラインっぽい風景だ。過去の訪問での晴天がつくづく思い出されるものの、この深い霧もまた間違い無く道東太平洋岸のの夏らしい天気である。そして拡がった景色の前方、行く手の岸壁が霧に覆われているのがよく見える。
今日このまま先へ進み、琵琶瀬から霧多布へ降りて再び恵茶人まで何回かのアップダウンを繰り返しても、深い霧か重い灰色の空と海かどっちかが続くのだろう。昨夜曇りの予報を見て、この先火散布でどちらへ向かうか悩んでいたが、昨日造った未済経路含みの内陸コースで茶内へ向かうことに決めた。
台地から70mを一気に下り、藻散布でいつもの通り1986年に泊まった元「白鳥の宿」の番屋を眺め、トンネルを抜けて火散布の漁港へ。
藻散布と火散布の間には標高80mの台地が立ちはだかっていて、ここのトンネルは非常にその効果が大きい。
恵茶人手前の幌戸や奔幌戸辺りにもいくつかトンネルを作っていただきたいものだと思いながら、再び台地へ登り返す。
森の中に現れた分岐を、未済経路の道道599へ。いろいろ悩んだものの、ここで道道123とはあっけなくお別れだ。
琵琶瀬湿原の北側台地上を通るこの道道599では、湿原の展望が見えそうでなかなか見えない。森の向こうを伺いながら進むうち、空が時々、そして次第に明るくなり始め、日差しや雲の切れ間まで現れ始めた。
まさかこんなに早く青空を眺めることができると思わなかった。或いは霧が出やすい海岸部から内陸へ向かっているせいかもしれない。やはり海岸からこちらに来て良かったと思った。
森を抜けると牧草地が拡がった。遂に今回も根釧台地の最南部に到着だ。
茶内からは根室本線沿い(というには線路からかなり離れているが)の農道へ。
来たことがあるような無いような、いやそれは浜中から姉別の区間だったか、いかにも根釧台地風に同じような牧草地に屈曲して続くこの農道。
交通量はもちろん極少で、根室本線はあっちの防風林の中でその雰囲気すら伺えず、牧草地が広々と、走りにくくないぐらいに適度に起伏して景色に厭きない。なかなかいい道である。
そしてその風景は、過去に眺めた記憶が全く無い。やはり訪問したことが無いのだと思う。
浜中の手前では、あまり見かけないカラーリングの路線バスに追い抜かれた。基本的に真っ黒な車体にルパン一味が描かれている、ルパンバスなのだった。
浜中駅に立ち寄ると、そのルパンバスが駅前に停まっていた。駅前にはこれも確か2年前には無かったルパンの浜中紹介看板が建てられていた。根釧台地で見かける集落紹介の看板に描かれた原作漫画っぽいルパンとは違い、近年のアニメっぽい顔つきのルパンが描かれていて、浜中町全体が紹介されているのが大きな特徴である。
浜中は徹底的に酪農と漁業の里であり、余程の乗り鉄だって途中下車する人は少なさそうなこの浜中駅で、ルパン濃度がかなり上がっていることが何だかとても楽しい。実はルパンの出身地は、北海道厚岸郡浜中町であるらしい。初期エンディングのイメージが琵琶瀬湿原だとか、実はその兆しは古くからあったとも思われる。個人的にはルパン一味が最終回に海に飛び込んで平泳ぎして、最後に辿り着いたのが浜中だといいなあと思っていたし、都市じゃないと成り立たないような生業のルパンながら、一方でなんだかほのぼのと浜中町で地元に溶け込んで暮らせているような気がする。
浜中から姉別への熊牛原野の農道も、その景色には全く記憶が無い。しかし、こちらは確かに通ったことあるはずだ。さっき青空まで見えたのに、その後浜中から空はかなり暗くなっている。風景があまり記憶に無いのは、霧が濃くて200mぐらい先が見えないせいかもしれない。
牧草地を時々曲がって進んでゆく道の途中、気温はどんどん下がり、霧は次第に濃くなって突然雨に替わった。やはり今日はこうなるのかと思って雨具を着込むと、10分ぐらいして突如雨が完全に止み、路面はすっかり乾いてしまった。しかし相変わらず霧は濃い。今日はこんなのばっかりだ。
牧草地では丹頂鶴を見かけた。丹頂鶴、もう釧路湿原以外でもすっかり普通に見かけるようになった。
GPSのトラックに従い、姉別で農道を北へ。国道44を越えて更に内陸へ、未済経路を経由しながら円朱別西で再び折り返して上風連へ向かうのだ。
厚岸から基本的にずっと東向きに進んできたが、この辺りで一旦折り返し、西へ向かってゆく。
昨日造った代替コースは、根釧台地の未済経路を右往左往しながら、元の恵茶人廻りコースより少し短いぐらいに仕上げてある。こういう微妙な距離調整に、ルートラボは持ってこいだ。
そしてこういう方法を使うために旅用PCが自分に必要になってきたことには、近年北海道の天気が明らかに変わってきたことが如実に影響している。
千代ヶ岡から後静、拓北から円朱別へ。牧草地の中、屈曲しながら進む道に現れる集落やアップダウンには、ところどころで見覚えがあった。
根釧台地の南北アクセスに便利なこの辺り、もう未済経路は細切れになっていて、コースを描きながら「この辺通ったよなあ」と思っていたのだ。
最後は道道123。牧草地の真ん中、道道813との合流点からは明日通る根釧台地202kmコースをしばし経由。民家も信号も無い合流点の看板には「上風連」とあるが、上風連の交差点まであと3km。
11:15、上風連着。1年振りの上風連の交差点で少々休憩、万屋の自販機でコーヒーを飲んでおくことにする。もう11時過ぎ。完全に曇り予報の時間帯まっただ中、雲は切れないものの天気はすっかり安定している。太平洋沿岸、根釧台地南部と走ってきて、今日の行程の第3段階ぐらいに入りつつあるこの場所で11時過ぎ。まあ順調な進捗だろう。この先はボリューム感たっぷりの根釧台地西部、粛々と着実に脚を進めよう。
11:20、上風連発、西へ向かう新酪農道へ。上風連の交差点はかなり正確に東西南北方向に道が交差している。その東と南北方面は何度も通っているが、上風連にこれだけ毎年のように来ていながら、西方面の農道は意外にも初めての道だ。
因みに今回のコース、何とこの後計根別までずっと農道だった。未走行経路ばっかり選ぶとこういうことになるのだが、一方で最近は道道もやけに仰々しい道が多く、道道から町村道・農道などに入ると実際の急に開放感を感じることが増えた。この開放感は道幅とは無関係、いや、大体道幅に比例するように道路の規格と交通量は上がるので、通る道が自然と農道になるのは仕方無いことなのかもしれない。
天気はもはや濃い曇りで、こちらもこの後遂に開陽まで晴れることは無かった。
新酪農道は矢臼別演習場の森の脇を北上し、直線基調で大きな谷間のアップダウンを越えてゆく。周囲は森と牧草地が入れ替わりに断続し、その中に牧場が点在する。
景色の傾向はこの辺りの他の道そのもの。それだけに、行けども行けども景色はあまり変わり映えせず、行程が進まないという印象がある。
丘の上の森に車が通る道が見えた。そろそろ国道243のはずだと思っていると、その通りにそれが国道243だった。12:10、国道243を横断。変わらない風景の中で、こういう幹線道路との交差は、数少ない進捗の目印である。
次の丘で東西方向の道へ乗り換えると、その先はしばらく国道272の上春別まで台地上に道が続く。この辺りで道の格子の角度が少し変わって谷の向きと並行になり、台地上の道はずっと台地上に続くのだ。その結果、道の周囲の風景は国道243以南までとは明らかに変わり、坂の無い安心感と地形の単調さで、いつも印象は淡々としている。今日も防風林と農道のグリッドに形作られた牧草地を、農道が通り過ぎてゆくのとともに、距離も時間が過ぎてゆく。しかも天気は厚い曇り。風景の鮮やかさは望むべくも無く、道が農道で交通量が少なくのんびりしている分、何も起こらない平和な行程は気分の単調さに輪を掛けていた。
それに地形と道は北に向かって緩い登り基調。理屈ではわかっていても、この広々とした景色の中を何故思うように動けないのか、意識しないうちにストレスが次第に溜まってくる。幸いこの辺りは何度か通っていて、逆方向からだとやっぱり勘違いするぐらい快調ペースなのを思い出し、「あー、やっぱ効くねえ」などと思ってみたりする。
13:00、上春別で国道272をクランク通過。もう計根別が近く、確か計根別にはセイコーマートがあったはず。上春別の市街地までは目と鼻の先で、上春別にもセイコーマートはあったかもしれない気はする。そうでなくても、牧場は数あれど自販機一つ現れない根釧台地。普段ならこういう時は間違い無く市街地の上春別に寄るところだ。しかし、上春別の市街地から計根別へ向かう、1本西の道道は、確か以前2〜3回通っている気がする。せっかく未済経路を通れるチャンスなので、ここは計根別まで休憩を我慢する予定になっている。
計根別近くの道道13まで、地図ではそう遠くに見えなくても、辿り着くまではやはり確実に30分弱。
途中では農道〜農道乗り換えのクランクと、当幌川を横断。ここまで進んで根釧台地も中西部から北西部に移行しつつあり、それまでひたすら単調だった地形と風景が、次第に変化が現れていた。
最後に計根別へ続く道道13に合流。上風連から山裾の養老牛へ行程の目印である3本の幹線道路の最後の1本に、ようやく到達したことになる。幹線道路らしく、道道13にはそこそこの交通量と共に、かつて並行していた国鉄標津線の痕跡が未だに見受けられた。
13:30、計根別着。
市街地中程を過ぎた辺りに、記憶通りにセイコーマートを発見。Hotchefもあり、昼食場所として申し分無い。豚丼は売り切れていたので、昨日から所々で見かけた回鍋肉丼にチャレンジしてみる。
店先で休んでいると、自転車学生集団が登場した。海岸沿いや屈斜路湖、摩周湖方面ではなく、この場所で出会うのは意外である。最近は根釧台地を走るサイクリストが増えてきたのかもしれない。より北海道らしい風景が楽しめて、大変いい傾向だと思う。
相変わらず曇りが続いていた。休んでいると寒いぐらいの気温なので、フリースを着て昼食を続ける。確か出発前日ぐらいまで、中標津辺りはしばらく最高32℃とかそれ以上の気温が続いていて、「おれはこんな高温の中を走れるのか」と心配していた。今日通ってきた根釧台地に、そういう気配は全く無い。晴れの高温も霧の低温も、根釧台地では珍しくない天気ではある。しかし、天気の大きなサイクルが、次の段階、つまり霧の時期に移ってしまったのかもしれない。そうなると、今回足かけ3日間の根釧台地では、景色は余り期待できず、一方で気温そのものは大変過ごしやすいということになる。
14:05、計根別発。
計根別からは道道13を少し西に進み、既知の道道505から養老牛へ向かう。養老牛まではやはりそう距離は無いように見えるものの、確か登り込みで1時間ぐらい掛かったような気がした。地図ではもう少し近いようにも見え、1時間も掛かからないだろうと思っていたが、やはり100m近く登るだけあって、養老牛に近づくにつれペースは次第に落ち、結局養老牛まで1時間掛かってしまった。
正面に次第に見えてきた山裾は雲が濃く、山裾から上が完全に雲に覆われている。今日の開陽台は雲の中かもしれない。時間の余裕はあるものの、何も今日焦って開陽台に向かうことは無いような気がしてきた。チャンスはあと2日ある。それに根釧台地202kmコース上の要素として、明日の方がはるかに開陽台訪問の必然性は高い。
道道505はやけに道幅が広くてゴージャスで、何だか初めて通る道のように見えた。しかし養老牛到着直前のブロックで現れた防風林と牧草地の風景に、前回の逆方向からの下りだった訪問を思い出した。あの時は確か30km/hで根釧台地中部まで一気に下ったはずだ。いつだったかは忘れたが。
15:00、養老牛着。
いつものながかわ商店で自販機休憩とする。コーヒーを飲みながら、改めて拡がる牧草地を眺めてみると、養老牛の交差点が高台の縁にあることを実感する。そして今日は根釧台地の山裾に辿り着いて、濃かった雲の高度が相対的に下がってきていた。何だかあまり感慨に浸って景色を眺め回す気はしない。
そそくさと出発すると、旭新養老牛、北進と、相変わらず山裾方面は雲の中だった。この道の大きな魅力の一つが、北側に続く山々の姿なのに。
そして北進から先、雲は霧に変わった。地上に寒気がどかっと座っていて、ぶわっと身体を包む。霧粒が当たり、衣服と自転車を濡らし始めていた。たまらず雨具を着込む。
俣落で見上げる展望台方面は、やはり雲の中。こちらから展望台が見えない以上、展望台からも景色は全く見えないだろう。
さっきから何となく今日の開陽台はやめとこうと思っていたものの、現実を目の当たりにし、ようやく諦めが付いた気がした。
15:50、民宿地平線着。まさかの15時台到着だ。まあそりゃそうだ、朝6時発で峠無しというと、本来200km行程で余裕で18時前に着けるはずだ。
同じ部屋のバイクの方ももう到着していたので、夕食前に早々に町営温泉へ。食前なので中札内地鶏は自粛、これだけがやや残念だ。ゆっくり入って戻って来ると、宿の廻りはもうすっかり霧が濃くなってきていた。
宿主の石川さんによると、一昨日までの中標津は最高気温34℃。人も牛もぐったりしていたそうだ。天気はあいにくの曇りのように思えるが、いや、34℃では日中走ることができない。
明日はいよいよ根釧台地202kmの再訪だ。去年間違ってしまってトータルで200kmに達しなかった後半泉川の正規ルートを、今回こそ正しく辿るのである。天気は終日曇りの予報、去年のように雨に悩まされることはないだろう。食後はそそくさと就寝、まだ19時台。これなら9時間寝ることができる。
記2015/10/25
記 2015/1/