RICOH GR GR18.3mm1:2.8

2014/5/31 徳本峠#1-1

新島々→(国道158)島々→二俣 (以上 1.htm">#1-1)
(以下#1-2) →岩魚留小屋 (以上#1-2)
(以下#1-3) →徳本峠小屋 (以上#1-3)
(以下#1-4) 徳本峠小屋  19.6km  ルートラボ



 昨年秋、としさんが計画して下さった徳本峠ツアーは、台風襲来のために中止になりました。
 この計画には私も参加させていただく予定でしたが、もともと私も秋より新緑の緑色が好きなのと、この時期の方が日が長くて何かと計画上の余裕が取れ、しかも梅雨前の6月第一土日は私的晴天特異日。その頃徳合峠に6月初旬に行く旨ある方にお話ししたところ、「北アルプスはやっぱり残雪だよ」とのアドバイス。過去にもこの時期には思い出のOFFが一杯ある、年間サイクリングとっておきのこの日に、徳本峠の計画を持ってくることにしました。
 そこで事前に徳合峠小屋に相談すると、ご対応して下さった宿主さんから、

とのお話しをいただきました。全体的には、自転車での上高地訪問は決してお勧めはできないのだが、一方でルールを守った上で是非とも景色を楽しんで欲しいという、とてもご親切なニュアンスのお話しだったと記憶しています。
 徳合峠小屋とサイクリストのいい関係を築いてきて下さった先輩方に感謝すると同時に、この宿主さんのご厚意は、絶対に守らなければいけないと思いました。

 前日は思い切って有休を取って、早めに松本に到着。乗り換え時間18分の間に松本駅1番線の駅蕎麦を食べ、元井の頭線3000系にイメージキャラクター「渕東なぎさ」がでかでか描かれた松本電鉄(じゃなくて★松本交通上高地線)で30分。
 天気予報は3日間降水確率10%の上々な内容でしたが、列車の行く手の山にはやや濃いめの雲が拡がり、到着と同時にほぼ雹混じりの夕立が降り出して、ちょっと気を揉みました。まあここまで来たら通り雨と信じて明日を迎えるしかありません。今の自分にできることは、部屋でビール&昼寝だけ。
 夕食完了後、としさんと19:30頃合流。20時半頃には早くも就寝となりました。

 さあ当日。まずは予定通り3:30起床。…と言いたいところですが、まだ辺りは真っ暗で静まりかえっています。懸念していた天気ですが、夜空は見える範囲は晴れ渡っています。荷造りは殆ど完了しているし、朝食のおにぎりも10分もあれば食べられます。出発予定1時間前に起きても手持ちぶさたなだけで気持ちは空回り。
 というわけでとりあえず15分2度寝、その後も緩めの時は過ぎ、空が白んできたのを見計らって、4:30、乗鞍旅館出発。すぐに隣のセブンイレブンで補給食を仕入れ、新島々発は4:45。

 気温は12~3℃(多分)。とりあえずフリースを着込むぐらいには涼しいですが、やや埃っぽく慌ただしく、その割に脚に登り抵抗も感じられる国道158を進む間に身体が温まります。
 5:05、島々で国道158から分岐、徳合峠下まで続く島々谷川の谷間が始まります。細道に入り込んだ途端、廻りには登山者グループが一杯。あるいはみんな5時出発で行動開始なのかもしれません。

 すぐに鹿侵入防止ゲートが登場。

 島々から二俣までは6km強。ゲートの少し先で路面は林道然とした砂利ダートに変わりますが、基本的には二俣までは自転車走行区間が続きます。

 谷は切り立った山に囲まれてやや鬱蒼と深くはありますが、辺りの新緑は瑞々しく、谷間にうっすら漂う朝霧も涼しく、緑の光に染まってしまいそう。早くもとても良い道です。

 見上げると空は真っ青。昨日雨が降ったせいか、今日は期待以上の晴天のようです。この山深い雰囲気と、裏腹の緩い登り斜度。林道区間だけでも十分素晴らしい癒やし系コースです。ただ結論を言ってしまえば、この二俣までの林道?区間の先、結局この日は自転車に乗ることはありませんでした。

 しばらく進んだところで自動車通行止めゲート、そして程なく砂防ダムが登場。地図上での位置関係を確認しつつ粛々と脚を進めます。しかし時間なりに奧へ進んではいますが、この谷間、奥の方でおもむろに登り始めるため、まだ登り斜度は厳しくありません。

 そろそろかなと思っていると、唐突に行く手に分岐が登場。事前情報で見覚えのある写真どおりの光景です。6:05、二俣到着。

 少し先に電力施設とちょっとした広場が登場。トイレもありました。広場の向こうから始まるシングルトラック、山道を少しのぞき込んでから、ちょっと小休止。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 6:15、出発。まだまだ本格的な登りは始まらないはずですが、まずはかつての崩落復旧?の痕跡らしいちょっとした登り下りを乗り越えます。

 さっきの二俣から、谷底の主役は島々谷川から南沢にチェンジ。その南沢に寄り添って、山道は奧へ進みます。登り斜度はこの山深さからはアンバランスなほど緩く、シングルトラックながらかなり良好な道の状態に「乗ったり押したり」の事前情報を納得。ただ、急に狭くなった谷と濃厚な森の新緑と谷底の川に包まれる空間はあまりに瑞々しく、自転車を押してゆきたい気持ちが勝ち、今日はここから先遂に自転車に乗ることはありませんでした。

 一方、山道は終始一定の幅が保たれ、木道や丸太橋などが完備。

 ほんの時々沢渡りや急坂で歩幅を選んだり、やや足下が滑るような場所も無いことは無いのですが、基本的には安心して辿れる道です。明日のウェストン祭に向けて山道の人出が増えるため、直前に整備されたというだけでなく、さすが上高地への名ルート。その整備ぶりは感動的ですらあります。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 7時前になると、深い谷間にも朝日が差し込み始め、森全体が明るくなってきました。赤みがかった鋭い陽差しが青みの濃い新緑に当たり、木漏れ日は鮮やかで眩しく、辺りはますます緑色に。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 谷間はますます深く狭く、もう森と沢と山肌と時々我々を追い越す登山者グループ以外に何も見えませんが、柔らかく明るい緑の光に包まれる楽しさが、あまり登らない楽ちんさとともに続いてくれます。

 岩が切り立つ場所では沢の上を木道が渡り、急斜面で道が怪しくなる山肌には赤いリボンの道標が続き、更に広場と小さなベンチ、そして時々様々な案内、解説の立て札まで登場。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8
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 さすがの伝統ルートであることに感動していると、道のちょっとした広がりに休憩用のベンチまで登場。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 至れり尽くせりの道を守って下さる人々の気持ちが嬉しく、ひたすら楽しいいい山道です。

 しかも時間はまだ8時前。まだまだ余裕たっぷりです。やはり夜明けとともに出発して良かった。つくづく早起き早出がツーリングの基本であることを思い知ります(2度寝はしましたが)。

 やがて深い谷間が少しだけ開け、辺りが明るくなると、登り斜度が目立って上がり始めます。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 まだ朝8時過ぎではありますが、一方で出発から3時間以上。事前にルートラボで描いてみた段階的尻上がりに斜度を上げる断面を思い出しつつ、地図を見直し、次第に岩魚留小屋まで近づきつつあることを理解します。そしてもうけっこう前から、朝に島々近くで追い抜いた登山者の皆さんが、どんどん我々を追い抜いています(笑)。 このコース、我々にとっては自転車が荷物にしかなっていない(人によっては自転車を持っていても速いのでしょう)のを実感しますが、一方であまり自転車で来たことを後悔する気にもなりません。
 あまりに緑の道が楽しすぎるのです。

 8:40、岩魚留小屋着。かつてはここで1泊して徳本峠を目指していたとも聞きますが、現在の小屋はやや荒れて軒先は弛んで傾き、くすんだガラス戸に残された手描きの飲み物と値段の張り紙も現実感は無く、中に入って何かをしのげそうな雰囲気もありません。
 しかしそんな岩魚留小屋は、相変わらずこの道のわかりやすいランドマークではあるようで、小屋の前には多くの登山客が休憩中でした。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 小屋には水場は無いものの、「そこの沢も飲めたけど、もう少し先、最後のつづら折れのすぐ手前に力水という水場があるよ」とそばにいた方に教えていただきました。しかし最後のつづら折れのすぐ手前なら、もう少し先というよりまだまだ先でもあるようにも思います。まあ水の残りもまだ十分ありますが。


 9:00、岩魚留小屋発。徳本峠まであと僅か4kmですが、いやいやこれからあと4時間かかるとのこと。きっとそれぐらいに厳しい坂が待ち構えているのでしょう。

 その皮算用通りに岩魚留小屋到着前から坂が厳しくなっています。地形もさっきまでの狭い渓谷から、谷底がやや広がり、沢はより細くなってその谷底の幅で惰行気味。道はその間をやや不明瞭に辿るようになっていました。

 谷底や斜面には雪渓が目立ちはじめ、連続し、斜度もどんどん厳しくなってきています。明らかにさっきまでとはフェイズが変わっているのでした。

 道が谷底の沢だか岩場だか判然としなくなってくるこの辺り、ついうっかり赤リボンの道標を見誤り、山中へ入り込みかけてしまいました。あまりの急斜面と質の悪い藪に後ろを振り返ると、後続の登山客が続々と別の方角に。早く気が付いて良かったですが、ちょっと間違っただけで復帰も滑落込みで一苦労でした。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 道ばたの沢の脇で、2グループほどが休憩していました。見上げると空が真っ青、登りが厳しいだけじゃなく、けっこう暑くなっていることに気が付きました。今日は朝想像した以上のかなり絶好調の天気だと改めて思いました。絶好調すぎて、下界の暑さは記録的だったようでもあります。  沢の水をボトルにいただくと、案の定これがとても美味しい。湧き水だけでなく、沢の水が美味しいのはウレシイ。あの夏沢峠でさえ、途中の沢の水は飲めないのですから。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 この辺りから登り斜度は、がつんと更に急になります。最後のつづら折れに突入する少し前から、斜度が厳しく描かれていたことを思い出します。もうすぐ最後のつづら折れかもしれません。何となくひたすら楽しんでここまで来てしまえましたが、確かにそれなりの時間が経過しています。

 雪渓を渡って沢を渡って、森の中に続く道をのろのろと進んでゆくと、おもむろに前方の道が折り返しているのに気が付きました。

 11:25、最後のつづら折れ区間に到着。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 さっき岩魚留小屋で聞いた力水、いや、「ちから水」もすぐ上にありました。ボトルの水を全交換すると、これがまた甘くてクリアで品があるというか、何とも美味しい水なのでした。ちなみにこの水、1.5lボトルに一杯入れたお陰で、翌日の新島々駅までその味を楽しませてくれたのでした。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 さあ、いよいよ最後の登りです。しかしここへ来て当然のように斜度はますます厳しく、脚がなかなか前に出ません。のろのろ前進しつつ、もう地図を出すのも面倒くさいので、GPS画面のつづら折れ回数と既済つづら折れ回数を比べたり、時々振り返って谷の向こうの山姿を眺めたり、立ち止まって息を整えつつ、のろのろ登ります。

 事前に宿主さんに聞いていた、残雪もしょっちゅう登場。さすがにお昼前ですし、今日のこの陽気で雪の表面は程良く緩み、滑りやすいという程ではありません。

 上の森の中に稜線っぽい空が見え始めてから、更に何度かつづら折れを経て、ようやくおもむろに徳本峠小屋の姿が間近に登場。間近み見えて最後の一登りはそう間近でもありませんでしたが、あの壁のすぐ向こう側が今夜の部屋だったとは。

A地点からC経由でB地点へ 赤は本日の経路

 12:55、徳本峠到着。まずは登山者で大賑わいの峠を乗り越え、有名ないきなり眼前に拡がる北アルプスを眺めます。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 期待通り、青空の中に残雪の山々が聳え立っていました。澄んだ空気の向こう、その姿は間近にすら感じられますが、一方で今日ずっと辿ってきた島々からの森、沢の実体感と、目の前の空、景色が明瞭であればあるほど感じられる空気の透明感は対照的で、そのコントラストが幻惑的ですらあります。これが標高2134mなのかもしれません。
 再び我に返ると、辺りは人で一杯。峠の広場で休む人、私と同じように山々の景色に見入る人。「すっげー」「手前が明神岳、前穂高岳。その奧が奥穂高岳、天狗岩、西穂高岳。ちらっと見えるのが笠ヶ岳だよ」「へー、こんな位置で見えるんだ」などという解説、があちこちから聞こえてくるのも大変に有り難い。
 今朝二俣の先でお会いした地元のお二方をはじめ、途中随所でお会いした皆さんとも再会。写真も撮っていただきました。

 まもなくとしさんも到着、徳本峠小屋で到着手続きをしてから待望のビール祝杯に。と、さすが標高2000m以上、たった500mlでもうへろへろに酔っ払ってしまいました。自分はよっぱーでも辺りは相変わらず明るい真っ昼間、峠は聳える山々に囲まれて天上の楽園。次から次へと登ってくる登山者の皆さんを眺め、時々また北アルプスを眺める幸福な時間。改めて、今日の余裕ある行程だからこその楽しさと、かなりの晴れであることの有り難さを噛みしめます。

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 青空の中で酔っ払って、北アルプスやこっちの山を眺めたり、次々登ってきて上高地へ下ってゆく登山者達を眺めたり。見ていると、想像以上に登山客が多いのを理解します。これだけの人々が、バスに乗らずに伝統のルートで徳本峠を越えて目指すウェストン祭というのは、やはりかなり重みのある催しだとも感じました。そういえば、としさんが登り途中で環境省の方に「上高地では自転車に乗らないで楽しんで欲しい」旨話しかけられたとのことでしたが、環境省の方もわざわざ徳合峠小屋でウェストン祭に出席されるということなのでしょう。

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 上機嫌で15:30過ぎまで外にいると、いつの間にかやや風が吹いていて、思いの外冷え込んできました。さっきまであんなに暖かだったのですが、「少なくとも15時までには到着して下さい」という特区号峠小屋の張り紙を思い出しました。
 というわけで小屋に戻り、17時の夕食まで少し昼寝することに。次に高地タイマーで目覚めたのは16:45。経過時間なりに雲が去り、陽差しの向きと色が変わって、靄が晴れた夕暮れ前の北アルプスを、もう1回眺めることができました。

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 時間通りに夕食は17時から。今日の徳合峠小屋は定員一杯の30人宿泊、夕食の人出も壮観でした。美味しくバランスの取れた食事に、スタッフの皆さんがご飯、味噌汁のお代わりに廻って下さって、あっという間に満腹に。

 食後はフリースを着て、夕暮れの北アルプス鑑賞です。

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 晴れ渡った空の下、やはりさっきとは光線が変わって、山々の姿はまた表情を変えて登場してくれました。完全に一つの面だと思っていた明神、前穂が、奧穂を始めとする山々の前にあることが一目でわかります(ちなみに山の名は受け売り)。また、稜線の向こうに霞んでいた笠ヶ岳も、くっきり濃いシルエットに変わって、裾まで見えています。
 夕陽はこちらからは既に山影の中。直接見えませんが、この時間夕陽は刻一刻と急速に沈み、空と景色の色、空気の感触を刻一刻と変えてゆきます。ほわんと明るい空の下側が次第にオレンジ色に変わって、モノトーンに沈んだ山影のディティールが浮き上がって岩の縞模様が現れ、空の中の斜光線(通称天使の階段)が現れては消える度、次第に角度が水平に近くなっていきます。

 辺りの風はどんどん冷たくなってきています。峠の広場にはテントが何帳か。こちらもお昼過ぎから広場には顔を出しているので、テントの主の皆さんは大体知っているのですが、こんな素敵な場所で夕陽を眺め、景色の中で夜を迎えられるのが大変羨ましい。まあ山小屋の食事も大変美味しく楽しく、屋根の下安心して眠れることはこの上無く有り難いことなのですが。
 何にしても、そもそも安心、満足して今日を振り返りつつ、この天上に身を置けている有り難さよ。先人の皆さんの開発されたノウハウ上に、余裕ある計画・行動がなり立っています。そして、行動に余裕さえあれば、それこそが安全、楽しさに直結することをまたもや痛感します。

 今日自転車に乗れたのは、新島々から二俣までの10km、1時間余りだけ。残りの7時間、自転車は10kgまるまる単に荷物だっただけでした。そしてここにはお昼過ぎにもう到着、あまつさえ昼寝付き。しかしこの緩さ、余裕こそが、今日楽しかった理由なのではないかと思います。
 時間の余裕を持って計画すれば、途中で必要以上に急いだり焦ったりする必要も無い。そして何も詰め込み計画をする必要は無く、山小屋で泊まるのが多分一番楽しい。このコースは、島々を早朝に出発し、小屋で(または上高地で)泊まるのが一番なのだと思いました。それ以外は意味が無いのかもしれません。何故なら絶景を目の前にして、残り時間を気にしつつ次へ急がないといけないからです。

 北アルプス夕暮れショーを眺め、午後のビールでまだ重い頭でそんなことを思っていると、身体も冷え始めているのに気が付きました。

 夕焼けが完全に赤くなり、再び北アルプスの山影がモノトーンに沈み始めたところで、小屋に撤収。向こう側の山はもう完全に影の中、下界方面は霞みに隠れていました。
 一度寝たところでもう一度夜空をチェックしに外に出てみましたが、生憎空に薄もやがかかったのか、満天の星には出会えませんでした。

記 2014/6/8

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Last Update 2014/6/8
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