北海道Tour06 #8-3
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稚内市街から、宗谷湾海岸線の1本道は道道254と名前が変わり、北海道のもうひとつの北端、野寒布岬を回り込むまでに、道の雰囲気もそれなりに穏やかに変わる。稚内の街に圧倒的に近いだけあり、宗谷岬より知名度の低い野寒布岬の方がよほど栄えているのがおもしろい。
野寒布岬からは再び南下を開始。
市街裏手の丘の反対側、日本海沿岸に、富士見、潤内、ルエベンルモ、又留内としばらく漁村が続く。
坂の下で稚内からの道道106に合流する辺りでようやく漁村が切れて開けた日本海に、利尻島の淡い色のしかし大きなシルエットが見えた。
まぶしい午後の逆光の中で海からすっと浮かび上がる堂々とした姿に、「利尻富士」という名前を思い出した。
日本海と台地の縁に挟まれた狭い平地、砂浜と緑の原野の境に、道道106がどこまでも続く。▼動画1分40秒
14:40、まるで大洋の島か砂漠のオアシスのように現れた抜海を通過。
その後、海岸線はほぼ完全に無人になった。「利尻礼文サロベツ国立公園」という看板もあり、建物が無いのはそれ故かなと思う。▼動画2分18秒
正面に向かってどこまでも続く緑の原野、延々と続く緩やかなアップダウン、薄曇りの空と何となくまぶしい光、きらきら日本海の中の利尻富士。
穏やかな空模様ではあっても、坂の下から延々30数km似たような景色には、一貫して無人故の厳しい表情が見え隠れする。
しかし、無人原野の1本道はけっこう幅が広くて状態も良い。視界の彼方から現れて消えてゆく車は程度に絶えること無く、観光客らしい車のみならず漁業関係の大型トラック等もやって来た。遠く離れた人の営みとの繋がりが、何だかシュールにすら感じられる。
最初は右斜め前に見えた利尻富士はいつの間にか後ろ側になり、浜勇知の休憩施設を過ぎ、遙か前方に風力発電の巨大風車塔群が見え始めた辺りで、稚咲内の信号と抜海港以来久しく見ていなかった漁業関係の倉庫が見えてきた。
延々続いた道道108とはここでお別れだ。道道444で、西側のちょっとした茂みと豊徳の牧場集落を抜けると、今度は内陸、サロベツ原野である。
周囲の低山にすり鉢状に囲まれた、だだっ広い一面の牧草地。起伏の続く根釧台地や、防風林が遠景を遮る十勝平野とも違い、道北の空と大地を一杯に感じさせてくれる風景だ。▼動画1分10秒
薄曇りの空のせいもあり、陽差しは弱々しく、次第に赤っぽくなり始めている。草地の中に突如登場したサロベツ原生花園の休憩所に、何か補給目当てで立ち寄ってみるが、生憎腹に入れられそうなものは何も無かった。手持ち無沙汰でちょっと振り返ると、さっき抜けてきた森の向こうに、多分今日最後であろう利尻富士が見えた。
何か最北部の締めくくりのように思えた。今年も晴れ主体のいい道北だったと思う。明日はもうどんどん南下してしまうのだ。
豊富まではそこからすぐだった。ちょうどサロベツ原野を横断したことになる。稚内以来まともに補給していなかったので、ここでちょっとだけ腹を充たしてから道道84他で豊富温泉へ。
豊富の街中から豊富温泉まで、地図にはサイクリング道路が載っていた。谷間とはいえもともと平坦な地形だし、サイクリング道路はほぼ道道に沿っているので、ドラスティックなショートカットや坂の迂回は期待できないが、少なくとも車はやって来ないだろう。あとは獣だけが問題だ。
熊登場に向けてテンションを上げてサイクリング道路に入ると、あっけなく数100mで道路は終わってしまった。何か公共施設の工事中で、道が途切れてしまっているようだ。再び入り込むタイミングを探しているうち、サロベツ原野から入り込んだ豊富の谷が次第に狭くなり、17:45、豊富温泉「百葉園」着。
山間の鄙びた温泉街を地図の印象からいろいろ想像していたが、目の前に現れた豊富温泉は、ごく普通のそう広くない谷間の普通の温泉街だった。
宿に着くと、例によって部屋がむっと暑い。風呂と食事の間、部屋を真っ暗にして換気に努めることにした。
他に客はうじゃうじゃいたが、どうやら中高年グループの北海道徒歩縦断らしく、みんな一つの団体だ。毎日朝から晩まで充実した行程のためか、なりはおっさんおばさんでも表情はまるっきりガキンチョなのが、FCYCLEと似ていて微笑ましい。そのおっさんおばさんたちが、広間やら部屋の中やらいろんな場所でもうすっかり出来上がって賑やかである。
夕食に向かうと、何と今夜もジンギスカンだ。まあ肉と野菜がオイシク食べられるし、ご飯もめいっぱい食べられるので好都合なのだが。そのジンギスカン、ジンギスカン鍋の凹み部分に水を張って野菜と肉を投入する、今までお目にかかったことが無い焼き方である。そういえばこんな焼き方があるような話を聞いたこともあったような気もしないでもない。
館内の自販機が壊れているとのことで酒屋へ向かうと、もうお店の営業は終わった後だった。自販機は運転免許を突っ込んで年齢を確認するタイプだが、何故か私の免許を認識してくれない。仕方ないのでCCレモンで我慢する。
自販機の周りには明かりをめがけて蛾やら何やらが飛び回っていた。自販機の中にまで蛾が入り込んでいて、結露した缶にも蛾の羽や死骸のかけらが付着していた。
しかし、もうこんな旅も明日までなのである。
その明日の天気予報は大雨。もともと今日の予報でも道北は大雨で、オホーツク高気圧の影響を受けた北端の海岸部だけが晴れたようだった。
もしその通りだと、いよいよ進退窮まるということになる。
記 2006/10/1