須賀利→(県道202他)相賀→(国道42)尾鷲 |
曇り後雨の天気予報は嬉しい外れのようで、早朝から青空が見えている。今日前半の行程、尾鷲から熊野市まで、美しい海岸の風景に期待できる。
5:55、須賀利の民宿笹丸発。島勝浦半島と言えばいいのか、この須賀利は熊野灘に突き出た半島の先端、湾の内側に面している。漁港の風景が見たくて、昨日来た道を島勝浦・矢口浦へ戻る前に港へ行ってみた。
まだ6時前、陽は半島の島陰に隠れている。漁船がいっぱい泊まった湾内に、湾が深いのかそういう時間帯なのか、波一つ無い平滑な海面がその淡い色の空と島の影を映して、鏡のように拡がっていた。
昨日最後に登ったトンネル越えで島勝浦の港を見下ろし、島勝浦の先の第2島勝浦トンネル越えで紀伊長島・南伊勢方面の熊野灘を見渡し、下りきった海岸で砂浜と熊野灘がまた拡がる。
更に島勝浦トンネルを抜けると、半島反対側の矢口浦でまた鏡のように穏やかな海が。その度に足が停まるので、なかなか前に進まない。
矢口浦から県道202は海岸線に沿って、断続する小さな漁村や岸辺の船の間をするする進む。
静かな海面が間近に、その向こうには新緑の対岸、辺りは朝日らしい陽射しにまぶしく照らされはじめていた。
行く手に引本の賑わいが見えてきた。この港町で、県道202は切り立った山を回り込んで海岸に張り付いた市街地を避け、トンネルで山を抜ける。まだ朝で昨日のように巻きが入っていないので、ここはのんびり市街地へ足を向けてみよう。
引本は意外な規模の漁港で、加工場の鰹節の香りやぼろくて無愛想な漁協の建物、漁港の魚市場やこぢんまりした商店街、奥まって建つ寺など、朝の陽差しの中で今日も動き始めた元気な漁村というような景色を見ることができた。
引本の町外れの相賀から、今までの静かな道とは大違いの国道42へ。
喧噪の国道42は、熊野古道来訪者対策か昨日同様途中までは歩道完備で、まあその点だけは安心して通行できる。しかし、道が登りになって、その歩道もいつの間にか消えて無くなった。
去年通ったはずのこの道だが、山の形や見下ろす谷間、この辺りの景色はほとんど記憶に残っていない。しかし、忘れたというにはなかなか纏まったボリュームの登りではある。まあそれでも地図なりの場所辺りでトンネルが登場するのは、さすがに2桁国道というところか。
7:20、尾鷲着。ここで今夜の宿、龍神村の「とおせんぼ」に電話を入れておく。天気予報がはっきりしなかったので、宿の方が気を回して「雨で来れなかったら早めに連絡下さい」と言って下さっていたのである。
これから熊野灘の海岸沿いに県道778・国道311で熊野市へ、その先は山へ、できれば楽しそうな県道52で奥瀞の国道168を目指したい。そのために熊野市へは希望時刻で10時、遅くても11時には着く必要がある。
尾鷲の美しい海岸の眺めからは唐突すぎる、巨大な火力発電所を眺めながら、ぐっと静かな県道778へ。
海沿いの農村を過ぎ、岩が切り立ってきて行野浦の小さな美しい漁港から、激坂が始まった。
昨日から海岸沿いの静かな細道では基本的にアップダウンが際限無く続いているが、その中でも最大級の斜度だ。10%は越えているだろう。岩場の森の道は木陰が涼しいが、ぐいぐいと厳しい坂で汗が吹き出てくる。
その辺りで森が開けた。
南国の海岸の密林が開けるだけあり、なかなかの断崖絶壁上だ。その開けた向こうに、紺碧の熊野灘、白く弾ける波飛沫、荒々しく切り立った赤茶色の岩、そして明るいのに濃緑色の新緑の密林が見渡せる。凄い迫力だ。かつて見たどの海岸より鮮やかな風景だ。
激坂級の斜度が一段落した後も、県道778は山の中をしばらく登り続けた。
辺りは包まれるような森の中だったり、時々その森が開けてちらっと海岸が見下ろせたりした。
そのうち、さらに斜度は落ち着き、山肌をなめるように細道はくねくね森の中に続いた。
地図を見ると、意外なほど距離が進めていない。くねくねした道なので速度が出せないのと、そうでなくても楽しい道なのでささっと通過する気にならないのが大きいと思われる。
山の中の唐突な分岐からぐいぐい下り始めた道は、やまり唐突に山の中で国道311に突き当たった。
迷うことなく下り方向に進むと、行く手の谷底に九鬼の海岸と漁村、そしてJR紀勢本線が見えてきた。紀勢本線に乗っていると、駅間は長大トンネル、トンネルを抜けると美しい海岸の漁村に駅があり、ぜひ自転車で訪れてみたいと思っていたこの区間。やはり列車から眺めるより、はるかに美しい漁村と海岸である。
交通量のほとんど無い国道は、その九鬼の海岸沿いまで急降下で下りきる。集落裏手をぐるっと回り込み、小さな湾の一番奥を渡ると、間髪入れずに次の登りが始まった。
記 2006.5/13