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寂れた黒岩の集落には、手持ちの5万図には出ていない「黒岩貯水池」とキャンプ場があった。ここから県道524で旭平を経由、尾神岳林道から桜坂峠下に出て、今日の宿がある田麦へ向かうとする。
森、棚田、集落の中に坂道が続く。田圃は掘り起こしが始まったり、水が張られていたりという段階。森も集落も道ばたも新緑が溢れていた。
その新緑は、赤くなり始めた横からの太陽光線で、輝くような透けるような独特の明るい色に照らされている。この季節に訪れてほんとに良かったと思った。
旭平から先、手持ちの5万図では坪野方面への道が、大出口という場所で何百mか切れている。ツーリングマップルにはこんな細い道自体出ていない。両側を隔てるのはわずか何百mかの田圃のようで、もうだいぶ前からここが抜けられない訳は無いと考えていた。が、実際にはどうだか。
今回はそこを抜けないとコースがつながらない。まああまり心配はしていなかったが、案の定ちょっと新しめの舗装道路でいつの間にか通り抜けることができた。あまつさえ、その大出口にはキャンプ場までできている。
その大出口先から、尾神岳林道への登りが始まった。
キャンプ場の脇を通過して、細かいピッチのつづら折れでぐいぐい登ってゆく道からは、東頸城丘陵、その向こうのまだ雪に覆われた信越国境の山々が一望できる。
西に目を向けると、丘陵の棚田の水が夕日を反射してまぶしい。その向こうには上越平野の田圃が、さらにその向こうのの日本海も、やはり夕日を反射していた。
その見晴らしは思わず足が停まる程だ。が、再び進んで細かいつづら折れを登ると、さっきより高いアングルからの風景が拡がるのだ。その都度思わず立ち止まって写真を撮ってしまう。
今までの登りでは時々車が通ったので、行く手の通行は心配していなかった。しかし、それらの車は峠の手前にはレストハウスへの道から出たり入ったりしているようである。その分岐から急に雪が増えだし、すぐに16:40、尾神峠(?)着。
峠で回り込んだ道の向こう、北側斜面には、さっきの小広峠を遙かに越えそうな雪が、こってりと積もっていた。しかし、ちょっと徒歩で偵察すると、その向こうに舗装がちらっと見えた。ここも突破だ、と思った。
急斜面を巻いて下る道に積もった雪の表面は、滑落しそうな急斜面になっている。用心しながらゆっくり危険個所を通過し終え、安心して舗装路を走り出す。
しかし、回り込んだカーブの陰には、やはり高さ2m以上の残雪が溜まっていたのである。その地点からは下の方の道が見えていたが、今までと違ってこちら側は全く除雪されていない。かなり下まで雪が溜まっている。
今撤退するしかない。
もう一度自転車を担いで、さっきの怖い箇所をもう一度おっかなびっくりで通過。無事無雪地帯に辿り着き、今まで登ってきたつづら折れを再び下る。さっき見下ろした素晴らしい展望は、短い間に更に真っ赤な光に照らされ、青いシルエットに変わりつつあった。下りだけだからではなく、初夏を思わせるようだった太陽光線が弱くなり、気温も急に下がっていた。辺りにたっぷり溜まった残雪が納得できるぐらいに。
17:00尾神着。農家の方に道を尋ねるが、この先桜坂峠下の川谷へショートカットする単線の道は、去年崩落復旧工事を行っていたようだ。今も自動車だと間違いなく通行止めらしい。
「歩きだと…、うーん、わかんないねえ。でも行けたような気がする」
とのこと。ここが行けないとなると、一度以前訪れた山直海まで降りて、再び丘陵に登り返す必要がある。でもまあ、まだここをまっすぐ行って川谷方面を試すぐらいの時間はあるだろう。
集落の奥、田圃の中で道は幅2m程になり、田圃が切れてしばらく斜面に張り付いてくねくねした後、真新しい舗装区間を通過。多分ここがその崩落箇所かもしれない。
そのままその先で道はダートになり、地図には出ていない素堀風トンネル、その入口がぎりぎり埋まりそうなぐらいの雪塊を通過。森の中から再び田圃には出て、もはや全然地図通りじゃない道の形と、しばらく続いたコンクリート舗装に不安になり始めた辺りで、再び舗装が復活。
ここで地図を確認。周囲の地形はどうやら希望通りである。道、集落、しかるべき場所にしかるべき物がある。途中の経路が変わってはいたが、地図通りに進めていたようだ。
川谷から先は去年の「頸城の初夏04」で通った道だが、季節と時間が違う。弱くなり始めた太陽光線ではあるが、それでも赤みを含んだ日差しに新緑の色がよく映える。
もう先が知れた道に、集落・棚田・激坂・棚田と頸城の風景が次から次へと現れる。山間の日陰には、今までにも増して雪がこってり残っていた。
だいぶ下った板山への分岐、登って行く道は完全に雪に埋まってしまっていた。あの集落ももう完全に廃村化してしまったのか。
盛り沢山な一日ではあったが、とりあえず目標ぎりぎりの18:05、「庄屋の家」着。山のお宿は、ツーリング気分まっただ中でいきなり荷物を下ろせるのがとても楽しい気分だ。
空気はますます冷えてしまっていた。大きな杉が見事な中庭の先の元校庭部分も、裏手の谷間に落ち込む窪地にも、こってりと雪が溜まっている。「積雪1m」をもはや何の問題もなく受け入れられた。
規定の料金にプラスしてもらった夕食は、旬の山菜主体。今日は地元のお年寄りの団体が泊まっていたためか、真っ赤な古代米入りのもご飯も食べることができた。
記 2005.5/16