|
|
朝に買ったおにぎりを食べつつ、しばし今後の予定を検討する。
毎度谷底へまっしぐらに下ってゆく棚田が素晴らしい大山千枚田だが、保田見での足止めが効いて、予定より1時間弱延着だ。今日は割愛して、北方面に足を進めることにしよう。今ならまだ、山間の細道を辿って何とか上総亀山まで到達できるかもしれない。久留里線の本数が心配だが、まあ最悪外房線まで下ってしまえば、何とかなるだろう、と思った。
13:10、入上発。20分しか経っていないのに、空には再び厚い雲がびっしり垂れ込めていた。
だらだら少し登ってだらだらと下りが続く県道88は、車も多くはないが少ないわけでもなく、途中の戸面原ダムでもあまり展望は開けず、しかし何か小汚い景色というわけでもない。沿道の方には悪いが、あまり有り難みの無い道だ。
そんなことをぼうっと考えていたら、朝分岐した関尻まで行かずに途中の分岐から黒線の道を通りたかったのに、その分岐を見逃してしまった。結局朝志駒川の渓谷へ曲がった箇所のすぐ近くで、14:00、再び国道465に合流。
少し東に進み、ねらいを定めて山間に別れて行く細道に入る。この先高溝、宇藤原の集落を過ぎて小さな峠を越え、黒線の道で西日笠に出られるはずである。
>
高溝では「高宕林道 昭和19年開通」の看板を確認。すぐ先から何だか始まったイレギュラーな激坂で低山の斜面に取り付き、登り切ったところで宇藤原の集落に到着。
地図通りに急斜面に張り付く集落には、今日通ってきた集落の例に漏れず、静かで魅力的な農村風景があった。
宇藤原を過ぎると、道は少し下って谷底を件の峠まで登り返すことになっている。ところが、その時道を確認した畑仕事のおばさん曰く、
「この先はかなり大変な山道だよ。ちょっと戻って山道の遊歩道を石射太郎へ回った方がいい。石射太郎というのは山の名前だ。どっちも山道だが、そりゃあ石射太郎の方が通りやすいよ。そうだねえ、石射太郎まで30分ぐらいかねえ」
とのこと。
廃道か、と思った。別に珍しいことではない。この時点で14:30。
わかりにくい分岐と、山道への分岐にあった猿除けの感電フェンスのせいで、宇藤原の中で何度か行って戻ってがあった。おまけに本命の感電フェンスの扉の向こうの山道が、夕べの雨でぐじゅぐじゅである。
この時点で引き返せば良かった。が、「遊歩道」という言葉には、尾根道に出さえすれば意外と走りやすいタイプの道なのではないか、という根拠の無い期待があった。
尾根道へはすぐに出ることができた。が、その後しばらく、路面の濡れてつるつるした堅い粘土で難儀したり、足場の心許ない急斜面や担ぎ登りなどで、あまり順調な行程ではなかった。ただ、部分的な難所を除けば、安定している場所では比較的長い間乗ることもでき、ツーリングで迷い込むのではなくて山サイだという事前の気持ちの準備さえあれば、楽しい道ではないかとも思う。
手持ちの5万図には、宇藤原の廃道が残っているくせに、この山道が載っていない。先の見えない不安な行程に、先日房総の里山で大量遭難した中高年グループをふと思い出した。比較的近くに見える鹿野山の賑わいが、何だか恨めしいようにも思えた。延々続く山道に、あのおばさんは絶対狐だったと思った。
結局石射太郎着は15:30。
ようやく到着した石射太郎は、低くはあるが、ごりっとげんこつのように空中に飛び出している逞しい岩である。名前も珍しければ、その姿も珍しい。でもまあ当たり前だが、あのおばさんは狐などではなかったのである。
一息つく前に、すぐ傍の看板に、「植畑上郷バス停 3.1km」とあった。3.1km、全部山道ではないに違いない。できれば山道区間が少しでも短いと有り難い。何にしても、とりあえず先が見えたのは嬉しい。
その後の山道下りでは、切り立った階段山道での担ぎが続いた。かなり下の方に見える里の拡がりの距離感にはずいぶん心細くなったが、意外にあっけなく15:40、林道の登山口に到着。
登山口の看板には、「石射太郎 200m」とあった。危なっかしい下りが怖かったが、何だ、そんなもんなのか。安心して目の前の通行止めになっているトンネルを見上げると、「第一高宕トンネル」とあった。ここもきっと高宕林道の続きなんだろう。
間髪入れずに下り始める。この先、予定していた上総亀山はあきらめる方がいいだろう。久留里線の本数も心配だ。何より、今日はぐじゃぐじゃ行ったり戻ったりばかりで、実は朝出発した上総湊から全然離れていないのだ。
というわけで、なんだかビデオを再生巻き戻ししてているような気分で、朝来た道やさっき通ったばかりの道をひたすら逆走。
16:40、上総湊着。列車の時刻表を見ると、48分に特急がある。全速力で解体&袋詰めを完了したところで、泡を食って駅員さんに特急券をお願いするが、48分は1時間間違いの17時台で次の列車は54分の普通列車なのだった。
記 2005.2/23