(前夜水上泊#1) |
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その先、やはり危険な沢と平坦な雑木林の道の繰り返しが続いた。しかし、地図通りに山肌の湾曲自体が少なく、沢を一つ越える度に次第に峠が近づくのが実感できた。
峠まで最後の数100mは雑木林が切れ、見通しがいい旧国道の路盤にほぼ平坦な道が続いた。これ幸いと、峠のほんの少し手前、送電監視小屋の下まで自転車に乗って進む。
最後は小屋下までよじ登り、13:30、清水峠着。土合から7時間半掛かったことになる。空には再び薄日が射すぐらいに雲が掛かりだしていた。
笹原の両側は広々と、今まで山肌を辿ってきた七ッ小屋山、そしてその反対は清水峠を挟み、湯檜曽川の谷の向かいにそびえていた朝日岳へと登りが続いている。両側は目がくらむようにすとんと落ち込んだ谷である。群馬県側でも落差700m、新潟県側は落差1000m。そのすべてを覆う上空が、直接続いた空間であることが実感できる。
思えばかなり危ない思いをしてここまで来たわけで、ここも天気が変わるとかなりとんでもない事態に陥る場所なのだ。しかし、今日の目の前の風景は果てしなく雄大で、果てしなくのほほんとのどかである。しばらくここで感動したり全く関係ないことを考えたりぼんやりして、この空間を贅沢に楽しむことにしよう。
小屋脇に建っている風力発電のプロペラは止まってはいたが、以前話に聞いていた通り、とても風が強い場所だ。まあ気象条件の厳しいこの辺り、当然と言えば当然ではある。
子連れさんは早速「子連れ3点セット」ことカップヌードル、おにぎり、魚肉ソーセージを取り出し、カップヌードルのお湯を沸かし始めた。
おにぎり2つを食べながら、写真を撮ろうとうろうろしていると、もう一人サイクリストが登場した。20代前半か10代ぐらい、学生っぽいその青年はこの危険ルートを単独でここまで登ってきたようだった。
14:10、清水峠発。途中のヒノキクラ沢で道間違いをしやすいとのことで、その青年も一緒に下って行くことになった。
青年、子連れさん、私の順番で下り始めるが、およそ乗車テクニックの無い私はまあ当然のように遅れまくる。しかし怪我をすると更に迷惑なので、ここは写真を撮り撮りゆっくりのんびり普段のランドナー山サイペースで下ることにする。
しばらくさっきまでと同じような、旧国道路盤上のジャングルが続く。石が多く、ぬかるみや倒木も多いが、さっきほど質の悪い道ではなく、乗車:押し2:1以上ぐらいでしばらく順調に進んだ。
季節のせいか、むせ返るように笹や下草が生い茂る細道を夢中で下るうち、いつの間にか道はつづら折れの急下りに変わっていた。旧国道から井坪坂に突入したのである。700m落差の一気下りである。
広葉樹林の中、石ころだらけの下りが続く。倒木も多く、なかなか乗車できない。押し主体の下りだったが、周囲の森は深く果てしなく、ところどころでブナの木々は見事なほど高い。下るに連れ気温は次第に上がってきていたが、緑色の木漏れ陽はこよなく美しい。
だいぶ下って森の下から沢音が始まり、更にしばらく下る。少しずつ乗って下れる区間が長くなり、森の中から低木帯の足下のじゅくじゅくした茂みのつづら折れを抜け、急に周囲が開けて現れた本谷沢で子連れさんが待っていてくれた。さっきの青年は先に行ってしまったようだった。
井坪坂のつづら折れが終わったことになる。ここから先は本谷、更に下ると登川と名前を変える魚野川の支流の谷間、六日町までの最後の下りが始まるのだ。
記 2004.9/20