4:30、駅の扉が開く音で起床。
意外に寒くなかった昨夜だったが、夜明けともなるとさすがに身体が冷える。フリースとポロシャツを着込み、おにぎりとパンをペットボトル茶で強引に押し込む。
5:20、車で到着した子連れさんに拾ってもらい、水上発。やはり登山客が起き出している湯檜曽駅脇を過ぎ、同じく登山客の自動車が一杯に置かれている土合駅の駐車場に車を滑り込ませ、そそくさと荷造りを開始。
6:05、土合発。この時間のこの谷間にしては、少し蒸し暑さを感じる。天気予報では降水確率20%、晴れ後曇りだったが、まだ早朝なこともあり、山の間の空の色ははっきりしない。
すぐに湯檜曽川の谷へ延びるダートへ分岐する。
一般に清水峠越えのコースは、一度一ノ倉沢まで国道291の舗装路で登ることになっている。しかし、そこから先、旧国道が崩落で危険なため、一度湯檜曽川の川原へ約200m下り、「新道」と呼ばれる川原沿いの道に合流するのだ。
どうやら目の前のこのダートを進むと、最初からその新道に合流できそうなのである。分岐には「新道」の標識と解説文もあった。確か以前、一ノ倉沢駐車場まで舗装路で進む方が時間が掛からない旨を読んだようにも思ったが、そちらだと前述のように200mの山道担ぎ下りがある。自転車滑り落としもあるとのこと。
私なんかは一ノ倉沢に谷川岳という名前を聞いただけでびびってしまう。何しろ遭難率では全国有数の「魔の山」、とても一人では来ることができなかったのだ。
そのダートへ足を進めると、広葉樹林の中に緩登りが続く。そろそろ山の間から陽が差し始めていて、緑の木漏れ陽で道が明るい。
ここ数日続いた雨のせいか、路面は多少湿ってはいたが、何とも気分がいい道だ。ずっとこんな道なら、とも思うが、まあそれならこのコースは難コースとしてこんなに有名にはならないだろう。
マチガ沢で道は湯檜曽川の川原に出た。切り立った山に挟まれた広い川原、大きな石の上を、赤いペンキで描かれた矢印通りに進む。途中一ノ倉沢で道間違いの行って戻ってがあり、再び森の中のダートに戻る。
その先から道は狭く落ち葉でグリップが悪くなり、石も増えてきた。森の中に乗れたり押したりがしばらく続き、やがて森の向こうに芝倉沢の巡視小屋が現れた。
空には次第に雲が多くなってきていた。湯檜曽川対岸の山は、上の方がすっぽりと厚い雲に覆われている。しかし、巡視小屋は鍵が掛けられていて、今ここで雨が降ってきてもどうしようも無い。雲は動きが速く、見た目ほど心配するような事態ではなさそうだ。小屋の前、少しの拡がりはなかなか居心地が良かったが、少し休憩して出発。
もはや完全に山道と化した道で一度川原へ降りて、武能沢を渡り、再び谷底から離陸するようにぐいぐい高度を上げる。
「あの送電線鉄塔辺りまで一気に登るんです。そこから先はあまり登らなくて、でも滝の上を渡るみたいな、危険な場所があるんですよ」
と子連れさんが教えてくれた。今の私には、後の危険個所など、とりあえず鉄塔に着いてから考えればいい。目先の担ぎ登りで手一杯だ。
それに、目指す方向の上空にも、雲が次から次へと押し寄せていた。ただ、あまり黒っぽい雲ではない。日差しこそ遮られているが、振り返ると青空も見える。小振りの雲が高速で動いているようで、天候急変の心配は無さそうではある。
細かいつづら折れに押したり担いだりの急坂がしばらく続いた。登りに入ってから、山サイエキスパートの子連れさんはずっと私の後ろについてくれていた。このため、800mを一気に登るこの登りで、遅い私が焦って疲れることが無い。
途中の鉄塔では周囲が開け、湯檜曽川を挟んで反対側の山々、笠ヶ岳と朝日岳の塊が真っ正面に姿を現した。山の上の方にはちょっと嫌な雰囲気の雲が溜まっているが、こちら側の低い雲は消えている。子連れさんも私も、もはや雨を全く心配していない。それどころか雲の隙間から現れた日差しはとても厳しく、じりじりととても暑い。しかし、さっき汲んだ沢の水がとても美味しい。なんだか甘い味すらするようで、しかもとてもクリアな味わいである。
2つ目の送電線を過ぎると、地図通りの線形で道が曲がった後に、地図通りに山の中で山道に合流した。
「これが国道291です」
と子連れさん。ええ?!単なる山道じゃない!?まあ荒れているだろうとは思っていたが、もはや路盤すら完全に埋まってしまっているようなのだ。他にも山道国道というのは知ってはいるが、あまりに国道というイメージからかけ離れた目の前の山道に、3度子連れさんに聞き直してしまった。
記 2004.9/20