小口→(県道44)滝本
(以下#5-2)
→(県道44)小麦→(県道45)口色川
(以下#5-3)
→(県道43)紀伊勝浦
46km
RIDE WITH GPS
明るくなり始めても。小口の谷間はまだ霧にとっぷり包まれていた。朝っぽい空気だけでもと思って外へ出てみると、昨日の九鬼港よりだいぶ肌寒い。やはり山間なのだ。
今日のコースは紀伊勝浦までと短いが、細道県道44への再訪と、未済区間の口色川から紀伊勝浦までの県道43と、やはり見所ノルマの密度が濃い。2つとも長年の懸案事項である。実現できる日が来たことが大変に有り難く嬉しい。今は霧でも、今日の天気予報は晴れ。8時ぐらいまでにはすっと空気中の霞が消えるのだろう。今日はもう最終日。紀伊勝浦にはお昼前に着き、特急南紀で4時間弱掛けて名古屋へ向かわねば。
「小口自然の家」の朝食は6時から。熊野古道へ向かうお客さんが多いため、早くから朝食を準備して下さるのだ。私にとっても大変有り難く、しっかり朝食を食べておけば、10時過ぎぐらいまでなら途中商店が無くても補給食の心配は少ない。しかもお弁当まで作っていただける。
6:40、小口「小口自然の家」発。もう霧は晴れ始めていた。
昨日の朝は海岸の国道311だったが、今朝の県道44は山間の渓谷に入り込んでゆく。あれはもう昨日のことだったのだ。自分は今旅をしているのだという実感が感じられる。そういうコースを組んでいるのは自分なので、ちょっとやらせっぽい感想ではあるが、旅の風景が変化に富んでいるのは有り難いことだ。
記憶通りにすぐに両側の山が切り立ち、谷間が狭くなった。
深い谷底の、朝陽が届かない陰の空気がまだかなりひんやり、しっとりとしている。
細道から淵をのぞき込むと、小口川の透明度がもの凄い。とはいえガードレールすらない4m程度の細道は、転倒したら勢いで転落してしまいそうだ。そして路面には、やや尖り気味の崩れた落石が所々溜まっている。
用心してそろそろ進んでさえいれば、静かな谷に山鳥の声が響き渡り、瀬音もカジカの声も軽やかで、とても楽しい。
音と言えば、初めてこの道を訪れた10年以上前、川原を大勢の猿がきーきーわめいて山に走って行ったのに面食らったのを思い出す。あの時時刻はもう少し遅かったので、またあの豪快な場面に出会えるかと思っていたが、今朝は猿はいないようだ。
谷間を進むにつれ、岸壁側の道端に元木材運搬用鉄道らしい痕跡が現れ始めた。沢を渡る小さな木橋の跡一つにしても、なんだか明らかに道のものではなさそうな雰囲気なのだ。
小口からここまで、地形図の等高線の詰まり方にしちゃあ、谷間を遡る道の斜度はほとんど無いと言ってもいいぐらいの穏やかさだった。しかし、満を持して道は唐突に登り始める。
取付部は10%超ぐらい、かなりの斜度だ。ここまでひんやりした空気に助けられて快適だったのが、急に汗が噴き出し始める。
幸い取付の激坂はそう長く続かない。廃校らしき建物と可愛らしい草原を過ぎた辺りで、斜度はやや緩くなる。
2009年にチェーン切れで撤退となった鎌塚を通過、杉林の木漏れ日の中を県道44は更に登ってゆく。
森の中には炭焼き小屋が登場。
鎌塚の上手には、一度集落が終わってから山間に小さな梅畑が再び現れた。山間ながら、手入れの行き届いた小綺麗な佇まいに、鎌塚の人々の暮らしが山とともにあるのだと思わされる。
道は引き続き杉林の中をもう100m、標高400m弱のピークへ登ってゆく。
鞍部、と呼べるぐらいの稜線部の逡巡があるのが面白い。この辺り、地図で見ると尾根をぐるっと回り込んで、さっき通った箇所のすぐ裏側を通っている。
二つの道が一番近づく辺りの道端から、下が見えないぐらいの茂みへ、山道未満獣道以上ぐらいの山道っぽい道が下っていくのが見えた。或いはこの県道44の旧道かもしれない。
ほんの少し辺りの風景が眺められるぐらいに森が開けた後(まあそれも大伐採のせいではある)、再び道は谷間へ下り始める。
この先、谷間に「滝本」という集落がある。谷間があまりに狭く深く険しいためか、同じ小口川沿いの集落なのに道が小口川の谷沿いに通っていなくて、わざわざけっこう険しい山の中を通っているのだ。
こういう隠し里のような集落は、紀伊半島や四国では結構時々見かける。
下り途中で急に展望が開ける意外性も、何だかいかにも隠里であるような先入観を盛り上げる。
記 2016/6/27