2015/5/6 紀伊半島Tour15#5
小口→紀伊勝浦-1

小口→(県道44)滝本 (以上#-1)
(以下#-2) →(県道44)小麦→(県道45)口色川 (以上#-2)
(以下#-3) →(県道43)紀伊勝浦
46km  ルートラボ

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8
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 明るくなり始めた小口の谷間は、霧にとっぷり包まれていた。朝の空気を味わいに外へ出てみると、昨日の九鬼港よりだいぶ肌寒い。やはり山間なのだ。今は霧でも、今日の天気予報は晴れ。8時ぐらいまでにはすっと空気中の霞が消えるのだろう。今日はもう最終日。紀伊勝浦にお昼前に着き、特急南紀で4時間弱掛けて名古屋へ向かう。
 今日のコースは紀伊勝浦までと短いが、細道県道44への再訪と、口色川から紀伊勝浦までの県道45未済区間通行と、やはり見所ノルマの密度が濃い。2つとも長年の懸案事項である。実現できる日が来たことが大変に有り難く嬉しい。

 「小口自然の家」の朝食は6時から。熊野古道へ向かうお客さんが多いため、早くから朝食を準備して下さるのだ。私の撮っても大変有り難く、お昼前までなら途中商店が無くても補給食の心配は少ない。しかもお弁当まで作っていただける。
 6:40、小口「小口自然の家」発。もう霧は晴れ始めていた。

 RICOH GRU GR18.3mm1:2.8

 昨日の朝は海岸の国道311だったが、今朝の県道44は山間の渓谷に入り込んでゆく。そういうコースを組んでいるのは自分なのだが、そんなところに、自分は今旅をしているのだという実感が感じられる。

 すぐに両側の山が切り立ち、谷間が狭くなった。

 深い谷底の、朝陽が届かない陰の空気がまだかなりひんやり、しっとりとしている。

 細道からのぞき込む、小口川の淵の透明度がもの凄い。とはいえガードレールすらない4m程度の細道は、転倒したら勢いで転落してしまいそうだ。そして路面は所々でやや尖り気味の落石崩れが溜まっている。

 しかしまあ、静かな道には山鳥の声が響き渡り、瀬音もカジカの声も軽やかで、用心してそろそろ進むのがとても楽しい。

 音と言えば、初めてこの道を訪れた10年以上前、時刻邸にはもう少し遅かったが、川原を大勢の猿がきーきーわめいて山に走って行ったのに面食らったのを思い出す。またあの豪快な場面に出会えるかと思っていたが、今日は猿はいないようだ。

 谷間を進むにつれ、岸壁側の道端に元林業運搬用の鉄道らしい痕跡も現れ始める。沢を渡る小さな木橋が、なんだか明らかに道のものではなさそうな雰囲気なのだ。

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 等高線が詰まった地図にしちゃあ、谷間を遡る道の斜度はずっと穏やかだったが、満を持して道は唐突に登り始める。取付部は10%超ぐらいのかなりの斜度だ。ここまでひんやりした空気に助けられて快適だったのが、急に汗が噴き出し始める。

 幸い取付の激坂はそう長く続かない。廃校の可愛らしい草むらと建物を過ぎた辺りで斜度はやや緩くなる。

 2009年にチェーン切れで撤退となった鎌塚を通過、杉林の木漏れ日の中を県道44は更に登ってゆく。

 森の中には炭焼き小屋が登場。

 鎌塚の上手には、一度集落が終わってから山間に小さな梅畑が再び現れた。山間ながら、手入れの行き届いた小綺麗な佇まいに、鎌塚の人々の暮らしが山とともにあるのだと思わされる。

 道は引き続き杉林の中をもう100m、標高400m弱のピークへ登ってゆく。

 鞍部、と呼べるぐらいの稜線部の逡巡があるのが面白い。この辺り、地図で見ると尾根をぐるっと回り込んで、さっき通った箇所のすぐ裏側を通っている。

 二つの道が一番近づく辺りの道端から、下が見えないぐらいの茂みへ、山道未満獣道以上ぐらいの山道っぽい道が下っていくのが見えた。或いはこの県道44の旧道かもしれない。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 ほんの少し辺りの風景が眺められるぐらいに森が開けた後(まあそれも大伐採のせいではある)、再び道は谷間へ下り始める。

 この先、谷間に「滝本」という集落がある。谷間があまりに狭く深く険しいためか、同じ小口川沿いの集落なのに道が小口川の谷沿いに通っていなくて、わざわざけっこう険しい山の中を通っているのだ。

 こういう隠し里のような集落は、紀伊半島や四国では結構時々見かける。

 下り途中で急に展望が開ける意外性も、何だかいかにも隠里であるような先入観を盛り上げる。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 8:00、滝本着。標高380m。朝の小口が標高50m台だったので、それなりに高度が上がっている。しかし前述のように道は川沿いには続いていないのみならず、明らかに必要以上の山登りを経る道しかない。そういう先入観のためか、ちょっと不思議な雰囲気が漂うようにすら思える谷底の集落だ。

 始めて訪問したときは、初の紀伊半島だったこともあり、県道なのに信じがたいほどの細道の先にほんとにこんな集落が現れた驚きで、風景を眺めるのが一杯一杯だった。2度目は逆方向からの訪問で、それからもう10年以上の滝本は、記憶よりより民家が減っているようにも思う程こぢんまりした集落だった。商店っぽいような店があったような気もしたが、実態は自販機すら無い。ここにバイク農耕機具兼用で自転車も扱うような店を見かけたような印象があったものの、それは今100%希望的観測だったと思えた。確かに、ここで何か買った記憶も無い。おにぎりは食べた記憶があるのに。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 こちらの勝手な先入観の修正とは全く別に、今朝も農家の仕事がそろそろ始まっていて、おばあさん達が畑へ出動中だった。休耕田などもみられるものの、人々の暮らしは続いているのだ。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8
 RICOH GR GR18.3mm1:2.8
 

 谷底まで降りて小口川を渡り、ほんの短い平坦区間に少しだけ農家と畑が続いた後、道はまたすぐ登り始める。次は標高500m以上まで登り返しだ。最後の民家を過ぎ、道が本格的に登り始めた辺りで、脇道の入口に立て札を見つけた。手書き文字で「この奥に平維盛が隠れ住んだ藤綱の要害があります」とある。やはり隠し里だったのだ、ここ滝本は。滝本小学校跡奥700mと書いてあるので、この道からかなり入り込んだ場所だと思われる。恐らく山もそれなり以上に登るのだろう。
 そして、何だかこの里を守り続けてきた人々が、挨拶してくれたような気分になれた。

 がつんと登りが始まった。確かかなり急な登りだと思っていた滝本からの登り返しは、やはりかなり急だった。

 これだけ登りが急だとどうかな、と思って時々振り返ると、やはりついさっきまでいた場所がもう結構下に見えていた。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 周囲の風景が開け始めると、そう高くない周囲の山々が、その向こうの同じぐらいの高さの山並みに連なっていくのが見渡せた。

 峠部分手前で斜度もやや緩くなってきた。いつものパターンだ。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8  パノラマ合成

 9:05、小麦着。峠部分で標高553m。斜度の厳しい登りだったが、とりあえず一番厳しい登りが終わったことになる。しかし、地形図の等高線によれば、まだ緩い登りが続くことになっている。ここが峠という訳ではないのだ。

 尾根をくるっと折り返すと、その向こう、いや、裏側では、辺りが急に杉の森に変わった。この道の展開を知っていて来ているのだが、改めてこれ程急に雰囲気が変わる峠も珍しいと思う。

 何故このように細い道があるのか不思議なぐらいの細い道が、中腹の山肌に張り付いてくねくね続いてゆく。目立って下り始めるということもなく、というより更に緩い登りが続いている。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 密ではあるが明るい杉木立の中、時々民家が登場。或いは林業を生業とされる方の住まいかもしれない。時々展望も開ける。

 深く、しかし梢が高くて明るい杉木立の中、かなり細い道がくねくね続くのがちょっと不思議な印象がある。更に朝の深い谷間の奥、そして隠里の先、峠部分からこちら側の風景の急変など、尚更その不思議な印象は強い。

 深い森から時々風景が開けると、眼下に紀伊半島南部の低山が、霞んだ遠景へと連なってゆく。突然空の中に放り出されたような風景が、今自分がどういう場所にいるのかを教えてくれていた。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 小麦の先、樫原辺りから少しずつ山中の農家が現れ始めた。家の周りには畑もみられる。それら民家の中には廃屋もみられるものの、人々の営みは10年以上前とそれほど変わっていないように思う。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 標高550mぐらいまで登ってから、やっと下りが始まった。

 坂足辺りからは民家と畑が断続し、森が切れ始めた。

 この辺りからようやく拡幅されたというか、ごく普通の幅の道が登場。ようやく人里に戻って来た。

 9:25、篭着。滝本から初めての纏まった集落だ。自販機はあったものの、やはり自転車屋さんなど皆無である。2009年にチェーン切れで滝本手前で撤退したとき、この先に自転車屋さんがあったかもしれない、などと一瞬でも思ってしまっていたが、やはり単なる希望的観測もいいとこであった。
 ここから県道45は谷底へ降りて古座川流域へと南下する。引き続き中腹の道は県道44という名前に変わり、まだしばらく山間にくねくね続いてゆく。県道45の方は一度2002年に通っているて、なかなか見所たっぷりの楽しい道である。今日はこのまま、県道44でまだしばらく中腹を進み、口色川から先の未済部分を通って紀伊勝浦へお昼前に辿り着かねばならない。
 しかし実はこの時点で、地図を見間違っていたことにまだ気が付いていなかった。目の前の風景とGPS画面、地図を照合したにも拘わらず、何となく道の線形と方角、分岐の角度が、当たらずとも遠からず程度の違いで、まだまだ遙か彼方の南平野に到着したと思っていたのだ。あまりのくねくね道でペースが全く出ていないために、感覚が狂っていたのである。

 篭から先、相変わらず杉林の中に細道が続くものの、路面はかなり良くなっていた。

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 森が切れて、田垣内、大野と集落が連続。篭よりも規模が大きく、急斜面にびっしり展開する棚田や畑には、何だか賑やかさすら感じられる。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8  パノラマ合成
 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 もうすっかり里の道である。そしてこの先もう纏まった登りは無い。多少地形なりの起伏はあるだろうが、あまり気にせずてれてれ進めば、紀伊勝浦には確実に昼前に着けるだろう。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 9:55、大野着。
 大野着というか、ここでようやく以前眺めた風景に気が付いた。さっき南平野だったとしたら、もうここは間違い無く未済区間のはずなのに、何だこれは。
 以前夢か何かで眺めたのかもしれない。などという都合のいい話である訳は無く、間違い無くここには以前訪れている。地図を眺めると、確かにさっき感じたGPS画面や「大野」と描かれている地図と、実際の道の角度や地形についてのちょっとした違和感が全く無い。更に道路標識の分岐が向かっている地名が駄目押しとなった。
 南平野はまだまだ先なのだった。とはいえ、それほど先でもない。まあ粛々と進むだけだ。


 

 上下に展望が拡がって、農家や畑、田んぼや農協施設、小中学校、そして遠景の山々を見渡し、背景の山を見上げる道が、集落の中に続く。いつの間にか標高も260mまで降りてきていた。隠里の滝本から山里を縫って到着したここ口色川、道の風景が明らかに次の場面に移っていた。

 斜面に農家や畑、小学校が賑やかに張り付いた集落の途中で、太地方面から山間を登ってきた県道43に合流。ここまでは、2003年以来ではあったものの、一応過去に訪れている道だった。今日終着の紀伊勝浦までの県道43は、今回始めて訪れる道である。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 周囲の山々が見渡せる開けた集落を過ぎると、再び100m程登りへ移行。

 山間とは言え拡幅区間が増え、手持ちの古い地形図に比べて新道に移行している区間もあり、次第に海岸の勝浦に近づいていることが実感できた。

 嬉しいことにこの期に及んで山中のくねくね細道も再登場。しかし全体的に小綺麗で、さっきの小麦、樫原辺りのワイルドさとはやや肌合いが異なる道である。

 10:30、小坂着。道端に神社を見つけたので、境内の木陰で少しおにぎり休憩とする。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 集落の中ではもう道幅は広く、軽トラや乗用車が時々通り過ぎて行く。道の外に拡がる景色は相変わらずだが、もう極端な山深さは感じられない。さっきの100m登りで今日の纏まった登りは完了している。行程は、すっかりいい感じの田舎県道ツーリングに移行していた。

 RICOH GR GR18.3mm1:2.8

 小坂の先でも時々道の外側は開けた。振り返ると遠くの山の中腹に集落が展開しているのが見えた。地形図を開いて、あれは大野、じゃああれが篭、と照合。くねくね道をのんびり進んできたが、やはりもう遠くまで進んでいるのだ。

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 南平野の集落を過ぎると、もうあとは麓への下りとなる。

 ゴルフ場などという裁けた物が地形図に載ってはいたものの、その通りに登場するのを他人事のように眺め、どんどん下り続ける。

 金山で道が折り返し、谷間へまっしぐら。

 10:50、岩本着。道の名前は同じ県道43だが、谷間の道は交通量の多いごく普通の幹線県道だ。

 間もなく山が切れるて海岸部に到着。紀伊勝浦の町外れで少し迷走して時間を掛けてしまった。

 11:05、紀伊勝浦着。駅前で鮪頬肉のステーキを食べてから、12:24、特急ワイドビュー南紀6で名古屋へ。

 

 JR東海自慢の強力気動車キハ85系のパワーをもってしても、名古屋まで乗車時間4時間弱。その先、名古屋から東京までは新幹線のぞみで2時間掛からないというのもまた驚きだ。このワイドビュー南紀も大阪方面への特急くろしおにしても、名古屋・大阪から紀伊半島最南部へは遠い。
 しかし4時間の特急南紀乗車の間には、昨日たっぷり楽しんだ熊野灘の(紀勢本線からはトンネル狭間の)風景、紀伊長島からの三瀬谷越え、第3セクター伊勢鉄道での高速運転、そして松坂駅での駅弁予約など、見所とノルマが山盛りだ。旅の最後を目一杯楽しめた。

記 2016/6/26

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Last Update 2016/6/26
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