起きると、天気予報通り外は雨だった。風も強い。昨夜のうちにバスも列車も、全部時刻は調査済みだ。美深へ行ってしまえば仁宇布までは最悪タクシーでも何とかなる(タクシー代が最悪ではあるが)。何も迷うことは無い。
朝食もいつものように頼んでいない。どうせ早く出ないといけなくて、セイコーマートでいつものようにパンとおにぎりを買ってある。乾いたパンと冷えたおにぎりを、相部屋の他のお客さんに邪魔にならないようにホールでむしゃむしゃ食べるのは寂しいような気もするが、これは北海道ツーリング期間中の特権でもある。
バッグに荷物を入れたら、次は強風に煽られつつ外で荷積み作業だ。なぜこんなに早くから準備しないといけないのかというと、今日も一昨々日の津別→滝上と同じく、これぐらいの時間に出発しないと仁宇布に順当な時間に着けないのだ。まあ今日の場合は一昨日よりはましで、遅れても18時台には何とか到着できる。それに順当な時間とは言え14時台後半とかなり早めなのだが、しかし山中の仁宇布にはなるべく早く着いておくに越したことは無い。
6:00、トシカの宿発。数分間だが大雨に打たれて、浜頓別バスターミナルで身震いするほどの寒さに凍えて輪行作業を完了。バスに乗るだけとなってからでもまだ1時間あるが、それでも時間に余裕がある安心感が有り難い。
7:27、浜頓別バスターミナル発。このバスに乗り遅れると、その後宗谷本線の接続が恐ろしく悪いのだ。特に札幌方面へ向かうには、このバスで音威子府に8:50に着き、9:06発のスーパー宗谷に乗車するのが圧倒的に便利だ。つまり、札幌、又は午前中旭川方面に向かうにはほぼ1拓のバスなのだ。しかし、バス乗車時間自体は浜頓別から音威子府まで1時間半足らず。自転車の感覚では、というか私のペースだと、まず3時間半ぐらいかかるこの区間が1時間。バスは偉い。
雨の中、中頓別、敏音知と、見覚えのある景色の中を、バスは淡々と少しづつ進み、高度を上げてゆく。一昨日夕日の中で通過した小頓別〜天北峠越えも、今日は雨の中。既視感がなんだか不思議な気分だ。バスは偉い。
8:50、音威子府着。
音威子府駅では、その名も全国に轟く有名な駅そばを食べるというミッションがある。そば屋さんの営業開始は9時30分。前述の札幌へのスーパー宗谷は9:06発。つまり、スーパー宗谷に乗るなら、音威子府蕎麦を食べられない。スーパー宗谷じゃなくても、駅に着いたら列車がすぐ出てしまったり、いつも通過せざるを得なかったり、とにかく今まで音威子府蕎麦を食べたくても食べられなかったことが多かったのだ。
今回は全く問題無く、開店30分前から駅そば店の前にスタンバイした。スーパー宗谷に乗らないので、どうせ時間はあるのだ。
間もなく、上下の普通列車が2本到着。札幌へ特急スーパー宗谷が発車してゆくのを見送り、その後順番に出発していった。乗り換え客で一時ホーム上、そして駅の中も賑わった。中でも鉄娘というのか、30代ぐらいの女性の方がセーラー服のコスプレでスタンプ押しに登場、ほんとに一瞬だけ注目を浴びていた。
その間、鉄周辺マニアっぽい人々が、新手のスタンド使いのような鋭い目つきをして、駅そば店の前に次第に集まってきた。しかし一番手はワタクシである。
▼動画2分35秒 音威子府蕎麦開店 鋭い目をしたお客さんが行列で次々注文
結局、長年念願の音威子府蕎麦を2杯頂くことができた。
グルメの次は温泉だ。2008年に天塩川温泉からスーパー宗谷に乗るために乗ってきたコミュニティバスの折り返しで、天塩川温泉の再訪へ。
このコミュニティバスの運転手さん、実は個人タクシーの運転手さんとのことで、時間をお知らせしておけば、その時間に希望の場所に来てくれるとのこと。音威子府にタクシーは一台しかいないので、予約しておかないとタクシーを使えないことがあるという。
一方、ファームイン・トントへも電話しておく。美深から仁宇布への足を確認するためだ。すると、美深から仁宇布までデマンドバスがあることがわかった。デマンドバスがどのようなものであるかは後で調べればいいが、美深から仁宇布までたった\550。最悪タクシー20kmを覚悟していた身には、破格の超大バーゲンだ。しかもデマンド区間とのことで、ファームイン・トントの玄関口まで送ってくれるらしく、更に大変有り難い。しかしデマンドバスは事前予約が必要とのこと、すぐさま電話して予約しておく。
これで今日の予定が全部決まった。
9:52、音威子府発。バスの運転手さんと帰路の相談や天塩川温泉への道の話などしながら、天塩川温泉へ。
天塩川温泉ではゆっくり心置きなく温泉で居眠りして1時間。その後食堂で念願の豚丼を食べて、12:00、天塩川温泉発。
誰もいない咲来駅で約1時間を過ごす。
雲はまだ厚かったが、既に雨は完全に上がり、その雲の中も明るくなっていた。薄ら寒いほど涼しいこの辺りだが、待合室の中はさすがにちょっとだけ蒸し暑い。いや、それはオホーツク沿岸の浜頓別から、道北も内陸の音威子府まで南下して来たからかもしれない。まあその蒸し暑さも、じっとしていればそう気にならない。とにかく居眠りするにはこの待合室の中じゃないと、いつものゴマフアブにやられてしまうのだ。
居眠りして目が覚めて、ホームを歩いたり、ホーム上でぐったりしているクワガタ(多分ノコの極小形)を観察していると、駅舎の裏手に人がいるのに気が付いた。老人だった。見慣れない格好の中年男を警戒しているのか、知らない余所者と同じ空間に身を置きたくないのかもしれない。
13:09、咲来発。13:40に美深に着くと、何と空には青空すら出ていた。
デマンドバスが来るのはこの辺りか、と思って駅前広場で輪行袋を出しておく。と、広場の片隅に西尾六七氏像というものを発見した。
美深町で西尾と来たら、もちろん西尾峠である。何かその名前の由来なのかもしれない、多分。どういう関係があるのかは、またいずれわかる日が来るだろう。
14:10、美深発。デマンドバスの実態は、マイクロバスというよりワゴン車だ。すっかり明るくなった曇り空の下、濁流が溢れそうな天塩川を渡り、辺渓からの狭い谷間をどんどん遡ってゆく。去年仁宇布から下ってきた道の雰囲気がまだ記憶に新しく、その中を車に乗って遡ってゆくのは、なかなか感慨深い。
仁宇布の盆地は日差しすら現れる好天だった。昨日の予報が嘘のようだが、まあこういう日もある。何日か前に大雨走行は懲りていた。のみならず、そもそも今朝の浜頓別を思い出せば、今日は全輪行で正解だ。まあ美深からここまで走るという手もあったかもしれないが、やはり一度した予約をキャンセルしてはいけない。
14:40、仁宇布「ファームイン・トント」着。宿の前の白樺が、日差しに明るく照らされていた。
宿のデッキから、青空も現れて日差しすら眩しい草原を見渡してみる。
今まで何回かこの宿に泊まる度、一度この景色を眺めてみたかった。しかし天気がイマイチとか、到着時刻が遅くて風呂に入っている間に辺りは薄暗くなったりとか、まあことごとくそんな感じだったのだ。
安心して眺められる、大好きな仁宇布の牧草地。午後の明るい風景に、14時台に着けたシアワセをしみじみ感じる。こういうゆとりが、旅を豊かにしてくれるのだ。
▼動画37秒 ファームイン・トントのテラスから眺める仁宇布の牧草地 ちょっと曇ってきた 1
▼動画44秒 ファームイン・トントのテラス 2 また日差しが出てきた
夕食時にも牧草地の景色は眺めることができたが、視界の空には雲がやや増えてしまっていた。
その夕食はいつものように羊尽くし。羊乳チーズグラタンやラムジンギスカンなどが美味しく素晴らしい。更にサッポロクラシックで幸福感はパワーアップ。
完全に真っ暗になってから外に出てみると、何と空には一面星が現れていた。大小きんきらきんの星空の真ん中に、天の川が白くくっきり渡り、流れ星に人工衛星がびゅんびゅん飛び交う。親子連れのお父さんが、小さなお子さんに北斗七星を教えていて大変微笑ましい。ついでに北斗の漢達についてお話ししたくなったが、間違い無く余計なお世話である。まあこれはサッポロクラシックのせいだろう。
明日は宿のご都合が問題無いとのことで、出発時刻の6時前に合わせて朝食を早く作って下さることになった。ということは、朝の牧草地を見ながらお腹をいっぱいにできるということだ。大変に有り難い。雨続きだった今回の旅程も、終盤で運が巡ってきたような気がした。
記 2013/1/14
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