(以上#2-1) |
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北山村役場のある大沼を過ぎると、急に両側の山が迫って川幅が拡がってきた。地図を見ると少し先に小森ダムという文字がある。また貯水池が始まったようだ。
空は真っ青で雲一つ見られない。山々は新緑で瑞々しく盛り上がるように勢い良く、強い日差しが緑の鮮やかさを増している。
曲がりくねって奥へ進み、どんどん山奥らしい雰囲気を増す谷間。貯水池の静かな水面は、空の色と新緑の色ともともとの水の色で、濃い緑のような明るい青緑のような、ちょっと不思議に鮮やかな色を見せていた。
トンネルを抜けている間に小森ダムが過ぎると、北山川は表情をがらっと変えていた。
川原にごろごろ転がる巨大な岩、恐ろしく透明なその流れ。何だか周囲の山も更に迫ってきたようだ。谷間自体の迫力と、山の緑、岩の茶色、空の青。鮮やかな色で、景色の雰囲気がとんでもないことになっている。凄い!これが奥瀞峡か。
音乗、黒淵と、その景色はますます山深くなり、迫力を増した。谷底からの道の高度は上がってはいるものの、さっきコンビニがあった桃崎から、谷間を遡ったわけではないのである。
谷底を見下ろすと、奥瀞峡下りの筏場が見えた。きっと筏の渓流下りは凄い迫力なのだろう。
大きく曲がりくねって谷間は山間に続き、10:10小松着。手持ちの1/5万「十津川」では、ここで突如国道169は未通区間となっている。未通区間はほんの少し先の東野辺りで終わっているように描かれているが、実はこの区間は山間をトンネルでぶち抜く幅広新道で開通済だ。
谷間が急にくるっと方向を変え、その谷間のあっちとこっちを隔てる屏風のように薄い山。稜線を回り込むと、その向こうは嘘みたいに突如幅広道路が登場、一直線に大きなトンネルへ向かっていた。皆無の交通量を除いて、これまた極端に表情の全てが変わる道である。
新道の反対方向には、対岸へ渡る橋があるはずである。なるほど、国道が急に広くなっている場所の隅に細道があり、谷底方面へ向かっている。もし橋が無くなっていると登り返しになるが、ここは興味本位も含めて降りてみるしかない。
谷底へ向かって細道はどんどん降りていった。しばらく道が続くので少し不安になり始めると、目の前に吊り橋が登場。ほ、細い。おまけに1.8mの高さ制限がある。事実上の自動車通行不可だろう。
細い吊り橋ではあるが、橋の路面自体は縞鋼板とグレーチングで、ワイヤーにも不安なところはない。でもさすがに自転車を降りてそろそろと橋を渡る。橋から間近に眺める北山川の川原は、やはりどこか神々しいまでに山深いのだった。
橋の向こうは谷間を遡るジャングルの細道だ。当然のごとく登り坂ではあるものの、この手の道にしては斜度は意外にも厳しくない。
緩急もあり、辺りの密林は時々開けたりもし、途中から時々軽トラともすれ違うようになり、10:45、地図通り突如森の向こうに開けた農村が現れた。以前一度通った赤木の集落である。なるほど、この雰囲気は確かに一度見たことがある。
この赤木の上手の道は、やはり以前訪れたことがある丸山千枚田方面へ向かっている。素晴らしい丸山千枚田を再訪し、その中を一目散に下ってみたいとも考えたが、もう11時前。この後の旧和田川松根スーパー林道へ早めに向かわないといけない。目の前で分岐する県道765で、下手の板屋へ直接向かおう。
小さな峠は登りも下りもけっこうな斜度で、11:15板屋着。
町外れから県道780へ向かい、再びけっこうな登り斜度で杉の森の中へ、熊野川の谷へショートカットを計る。
細かく入り組んだ山の斜面に沿って、細く薄暗い坂道がしばらく続いた。
その後おもむろに始まった下りは、開けた山腹・杉林の谷間・開けた谷間とやはりしばらく続き、「こんなに下りなのか」と思い始めた頃、ようやく見覚えのある三和大橋が見えてきたのだった。やっと熊野川の谷を横切るのだ。
国道168を少し経由し、11:25、日足から幅広の県道44へ。
新緑の山々に囲まれて田植え真っ盛りの田んぼが拡がった開けた谷間は、少し遡ると狭くなってほぼ小口川の幅だけになったり、再び広くなってやはり田んぼと農村が現れたりした。
小口は山間の雰囲気が漂う小さな集落だ。小口川沿いの狭い谷間に釣り客の宿、キャンプ場に有料老人ホームがある。今まで通ってきた県道44は、ここ小口から細道那智勝浦へ向かう。ここで他に2方向に道が分かれるが、今日はここから県道229、古座川町方面へと足を向ける。
この県道229、元は和田川松根スーパー林道だ。紀伊半島では珍しくない元林道の細県道である。前回2002年の訪問では、刻一刻と迫る夕暮れに泡を食って景色を楽しめなかった。しかも逆方向からだったので、今回また新たな表情を楽しめると期待していたのである。
記 2007/5/5