15:30、滝到着。いよいよ国道425である。
芦廼瀬川に沿った静かな谷間に、1車線どころかほとんど車1台がぎりぎりの細道が続く。
33km先の奈良県吉野郡下北山村寺垣内まで、最高地点は標高900m弱の白谷トンネル、途中には芦廼瀬川から名前を変えた白谷を標高差200〜300mで見下ろす空中の道が延々続く。途中集落は芦廼瀬川再奥部の小川に1ヶ所だけ、施設も村営しゃくなげ園だけなので、単純に危険な道に車がほとんどやってこないのだ。
新緑のトンネルと小鳥のさえずりに包まれるような道を進み、登り斜度が目に見えて増してきた辺りで最後の集落小川に到着。
この時点で16:00、このまま順調なら、白谷トンネルを越えて今日の宿がある寺垣内には日暮れまでにはまず着けるだろう。
対岸の山には、小川の奥で折り返して、山肌に張り付いてぐいぐい登っていく道と、更に遙か上に一度折り返して更に登って行く道が見える。前回は逆方向からの下り、「こんな道登りたくないよ」と思いながらの訪問だった。その前は今回と同じくこっちからの登りだったのだが。
下から眺めたとおり、取付ではしばらく体感上10%を軽く越えそうな激坂が続く。さっきの小川の集落を眼下に見下ろすようになっても、9〜12%ぐらいの斜度だ。
そろそろ傾いて赤みの増した日差しを浴びて、新緑はこよなく鮮やかに辺りや周囲の山肌を彩っていて、時々足を止める良い口実になる。山ツツジも多く、途中からは山桜も登場。
折り返して葛川への分岐を過ぎるとその斜度は次第に緩くなり、しゃくなげ園の前から緩登り基調程度の平坦と言っていい区間が始まる。眼下の白谷とは標高差最大300m、コンスタントに200m台を保ちつつ、すかっと切り立った山肌に張り付いた、まるで空中の道である。
平坦とは言え、白谷に向かって開けた展望、カーブの多い細道、そして落石が多く、登り基調のためもあり、かなりゆっくりゆっくりと足を進める必要はある。
まあ正面には白谷を挟んで反対側の山が立ちはだかっていて、その山肌を眺めたりしていても楽しい。
相対する山々の最高峰は、少し奥にある標高1395mの中八人山という山のようだ。その山々の稜線の少し上の夕日が、なかなか稜線に沈まない。こちらが少しずつ高度を上げているのだ。
おもむろに道が100mぐらい下って、白谷池郷林道との分岐から再び最後の登りが開始。この登りがまたきりきりと厳しい。まあこのように、国道425はもともと林道だけあって、その辺の林道より余程林道らしさに溢れた道なのである。
18:00、白谷トンネル着。標高760m、さっきの野迫川村がそうだったように、ここまで登ると辺りの木々はまだ新春の芽吹き状態だ。そらはまだ明るいものの、夕日も稜線に隠れてしまい、景色は少し寒々しい。
ウインドブレーカーを着込んで、ここまでの道幅と同じように狭く、真っ暗なトンネルを抜けると、もうどんどん薄暗くなり始めている空の中に、東へ重なってもやの中に消えて行く紀伊山地があった。
見下ろすと、またもやくらくらしそうな程真下へすとんと落ち込んだ谷間に、ものすごい下りがとぐろを巻いて続いているのが見える。時間も時間だ。こんな恐ろしいところ、早めに下ってしまえ。
見えたとおりの豪快な下りで岩場に張り付く道を一気に下り、谷底の杉林を抜け、下りが一段落すると辺りに集落が開けた。標高300m弱まで下ってきたことになる。
集落の中をちょっと捜したが、尋ねてみると目指す宿は隣の家だった。18:30、寺垣内「松葉館」着。
2年前にこの道を訪れたときの印象が良かったこの寺垣内の宿。まあ飾り気の無い普通の田舎の旅館で、宿泊は私だけ、静かなのが良い。部屋へ案内されると2部屋を使わせてくれている。その一部屋には、真ん中に炬燵が置かれていた。「朝晩まだ寒いですねえ」とのことで、床の間らしきポジションにそういう季節らしくカイドウが活けられていた。
記 2006/5/2