(以上#2-1) |
|
平山から県道199へ入ると早速登りが始まった。そう広くない道は何故か工事用のダンプで忙しなく、ちょっと期待外れだ。崩落復旧にしても何らかの道路工事にしても、早めに工事区間を通過してしまいたいと、τ.κさんとぶつぶつつぶやきながら進む。
そう高くない台地上しばらく収まっていた登りは、半分干上がった小さい貯水池を過ぎると、再びぐいぐい登り始めた。やや小刻みなつづら折れが何度もあり、すぐ周囲の山を見下ろす高さへ登ると、この時点でもう辺りはすっかり山の中。振り返っても上越市の賑わいなども見えない。しかし向こうに見上げる山々は、地図だとせいぜい標高300m台。そんなに高く登っている訳ではないのだ。
それだけに意外にすぐに峠部分に到達。
山間を下りはじめると、辺りも向こうの山も昨日と同じく所々の紅葉が鮮やかだ。拡がり始めた薄い雲で陽射しはやや弱まり、景色自体は穏やかな雰囲気である。ただ、相変わらずダンプカーは多く、いい気分で細道を下っていると、ブラインドコーナーからいきなり現れたりした。
トラックは、一旦下りが終わった谷底の儀明で、更に谷底へ向かう工事専用道路へと消えてゆくようだった。道に立っている看板を見ると、何と北陸新幹線の工事らしい。道路工事ではなかったのだった。
1/5万地形図では、この儀明には何軒か民家が描かれてはいる。しかしその実態は、県道沿いに納屋が一軒建っているだけで、集落の気配は感じられない。畑は手入れされているので、あるいは通いで利用されているのかもしれない。
とにかく谷を渡ると登返しが開始、丘を越えて道は再び下り始めた。
途中からコンクリート舗装となった急な下りで、山肌をくねくね一気に下り切ると、正善寺川を渡る。
この正善寺川、すぐ下手でダム湖になっていて、そのダム湖には黒線の周回道路が描かれているのに、1/5万地形図ではその道がすぐ上手のこちらの道の手前で折り返してしまうことになっている。ツーリングマップルでは道がつながっているが、そう言う場合信用できないのがツーリングマップルであるのはいつものパターンだ。道と道の間には等高線も1本描かれているので、高低差がけっこうあって意外に険しいようにも読める。
正善寺川の橋の上で、興味本位でもう一度地図と現地を照合するが、そっち方面の谷は、森と茂みで埋まっている。道が残っていたとしても、ジャングル廃道になっているのかもしれない。
川を渡るとまたもや登り返しなのはもう珍しくもない。空には動く雲がその位置によって日差しを隠すようになった。
峠付近の牛舎らしき建物を眺めながら、そのまま山肌を回り込み、軟着陸するように下りきると谷底の上綱子だ。地図では家屋がぱらぱら読めたが、ここでもさっきの儀明と同じく廃屋が目立ち、集落は風前の灯火という気配だった。
その上綱子でも、次の登り返しは谷底の橋の向こうから早くも始まっていた。
そう長くない4回目の丘越えの向こう側、次の集落の中ノ俣は、この山間の道では比較的まとまった集落のように地形図からは読めるが、この雰囲気だとちょっと廃村化が心配ではある。誰もいなくなった集落、荒れた廃屋や棚田を眺めるのは、何と無く寂しくもの悲しい。やはり活気のある農村に出会いたい。▼動画1分27秒
そんなことをちょっと心配しながら、谷の杉林をぐるっと回り込みながら道が下って行くと、「地球学校」などという看板がある。多分体験学習施設みたいなものではないかと想像していると、急に辺りが開け、斜面を登って行く棚田がいきなり登場。
その後も森と棚田や畑が断続、なかなか雰囲気満点だ。「地球学校は伊達じゃないですね」などと話しながら木々の中を下りきり、11:00、中ノ俣着。
狭い山間の谷間に民家が集まったこの集落、高田へは東へ3つも丘を越えないといけないし、西側の谷間へは太夫峠を越えないといけない。谷自体は有間川からの谷間へ下るようだが、その谷がまた狭そうで、あの楽天的なツーリングマップルでも通行止めの×マークが付いている。ちなみに地形図では黒線だ。
そんなこの谷底の中ノ俣、意外にも小綺麗な、木々が黄色く色付いた静かな集落だ。農協の商店もある。所々に納屋みたいな廃屋は目立つものの、住民は先祖代々のこの集落を守り続けているのだろう。
次はようやく太夫峠、高田から4つ目の峠だ。どういうわけかここだけ名前が付いている峠だが、あるいはかつては高田から直接向かってくる道など無かったのかもしれない。峠自体のボリューム、交通量とも、それまでの3つの丘越えとそう変わらない。
しかし、道ばたには中ノ俣から田んぼや畑が断続し、開けた道からは周囲の山々や道が谷底にあるのでよくわからなかった中ノ俣の集落が見下ろせた。こうして眺めると、中之俣もけっこう開けた谷である。
道幅が狭くなって切り通し峠を通過すると、道は有間川からの谷間へ下り、西矢内で県道269に合流。
今までの山間に較べれば、海岸沿いから遡ってくるこのそう広くない谷の里を、何だか広々と感じてしまう。
思えば山間ばかり通ってきたが、直江津から海岸沿いで来れば、有間川なんてほんとにすぐ着いてしまうのだ。
ここで次の丘越えに向かうために、しばらく県道269を下る。さっき太夫峠から降りてきたばかりだが、まだまだ意外に下りが続き、改めて海沿いからすぐに登り始める地形を思い出す。
紅葉、柿と、日差しも明るい秋の谷間が続き、いい気分だ。途中農家の庭先で水をもらうと、これがなかなか美味しい。農家のお婆さんも「美味しいよ」と笑っていた。
いくつか集落を過ぎたところで、ようやく地図通りの西横山の地名と地図通りの角度で分岐する道を発見。今度は農道・林道で杉野瀬経由、名立の谷へ向かう。
この道、ある意味今日最大の難所なのだ。というのは、ツーリングマップルでつながっている道が、1/5万では「杉野瀬」の文字に隠れていて、つながっているかどうか確認できないのだ。まともな平地なら安心なのだが、ちょうどその辺で等高線が60m分詰まっている。つながっていたとして、文字を横切るぐらいの短い距離に、果たして60mを稼ぐつづら折れが隠れているのだろうか。
まあしかし、この杉野瀬の場合比較的海岸まで近い。もしダメなら最悪海岸へ抜けて、久比岐自転車道で大回りしてしまう手があった。
集落の外れから意外に開けた田んぼの中へ、しばらく登ると辺りが森に変わったり、行く手の景色が開けたり、今までと較べて人の手が感じられる里山に道が続く。
一番上の一直線の尾根道で、再び辺りは田んぼになった。ここまで山間の細道が続いたので、開けた道には開放感が感じられてなかなか楽しい。
やがて行く手には、地図通りの辺りで向こう側へ下り始める分岐と、名立方面の看板が現れた。看板があれば一安心。下りきれる。杉林の中を下り始めると、時々向かい側の展望も開けた。名立の谷間である。山々の姿はやや赤みを帯びていて、明らかにさっき高田辺りで眺めた色合いとは少し様子が違う。
下る途中で薄々感づいてはいたが、どうやら地図に載っていた道よりほんの少し下手の車路に下りきったようだ。まあ構わない。次は標高差約200m強、黒線林道の山越えだ。とすると、目の前の川向こうの集落が、登り口の谷口と思われる。
ここで地元っぽい職人さんから、ちょっとあやしい黒線道路について情報収集しておく。話によると地図通りに通行は問題無さそうだが、
「海沿い行った方が早いよ」
とも言われた。まあ地図を見れば明らかでもあり、誰が考えてもその通りだ。
「静かな道を通りたいんです。趣味ですから」
と答えておく。
ところが、その入口が地図では2通りあるのだが、実際にそれらしい場所に来てみると、いかにもあやしそうなコンクリート舗装細激坂と、更にあやしそうな農家の家の間を山へ消えて行く未舗装道だった。
登る前の補給も兼ね、休憩後に出直すつもりで立ち寄った万屋では、おばさんとその息子さんらしき若旦那が、
「ああ、その道完全に山道ですよ。歩きだと行けるけど、自転車じゃダメです」
とのこと。
ここでτ.κさんとちょっと協議、安全策で一度大人しく海岸へ向かうことにした。だってさっき眺めた登り口らしい2つの入口が、あまりにあやしそうだったのである。万屋のおばさんには、逆にこの名立の谷間を遡った東飛山の景色を強力に薦められた。去年に久比岐自転車道から眺めた谷間の雰囲気、地図で見た感じでもなかなか雰囲気は良さそうで、そう延々遡るわけでもなく、とりあえずバリエーションコースの一つには考えてはいた道だった。
しかしもう12時過ぎ、日没まで4時間余り。残念ながら糸魚川までこの先まだボリュームがある。先へ進まなくては。
記 2006/12/9