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大厳寺原牧場の向こうはもう信越国境の山々の裾野。辺りには雑木林と茂みが続く。
「大厳寺のブナ」なんていう看板も立っていて、なるほど雑木林はブナ主体だ。その雑木林には、紅葉を通り過ぎて落葉してしまった木が多い。そうでない木は落ちかけの真っ赤な葉っぱで、全体的に周囲は灰色から茶褐色の世界。なんだか一気に初冬になってしまった。7月まで雪が残る、この山の北斜面の寒さを実感した。
雨の気遣いは無さそうだが、高度が上がったためか頭上近くに雲がかなり速く拡がり始め、気が付くと陽差しは完全に隠れてしまった。せっかくの晴天、久々の青空の深坂峠を期待していたのだが。
山肌をぐいっと高度を上げ、道が尾根に取りつくと、東頚城丘陵の大展望が拡がった。日差しはまだ現れていなかったが、空の中雲があるのは湖の辺りの頭上近くだけだ。
さっき海老から眺めが良かったあの稜線辺りにいるのだから、こっちからあっちの見え方も素晴らしい。
まあ暖かい晴れの日の常で、多少遠景が靄っぽくはあるが、こうして眺めると、眼下の山々もなかなか悪くない色付きっぷりだ。
それにしても山肌に張り付く道からの眺めはあまりに良好だ。少し進むとさっき見入ったはずの景色がまた角度を変えて再登場する。▼動画16秒
いつも美味しい水場も峠手前にあり、峠を前にしてなかなか前に進めない。
14:10、深坂峠着。
さっき拡がった頭上の雲は、ここまで来て再び小さくなりはじめ、日差しが現れ始めるまでになっていた。14時を過ぎるとその日差しももはや斜めで真っ赤っか、眼下の丘陵の紅葉が更に真っ赤に見える。
しかし、それにしてもいつもながら見事な眺めだ。凹形に湾曲して左右に回り込む稜線と、すとんと300mぐらい落ち込んだ足下。その落ち込んだ辺りから遠くへ拡がって続く彫りの深い丘陵。ちょっと迫ってくるようにぐるっと見回すパノラマ効果がある。眼下の丘陵には様々な木々が赤や黄色に色付き、所々に常緑の杉がにょきにょき生えている。谷間には空や山々を映した棚田や、所々に寄り集まった集落、そしてこっちにもにょきにょきと立つ杉の木が見える。
霞の奥まで、鮮やかで繊細な秋の山里が延々と続いていた。その霞でぼんやり判然としない遠方は、上へ上がるに連れていつの間にか真っ青な空に変わってゆく。
ふと気が付くと、以前あった峠から見える山々の手描き看板が、どういうわけか見あたらない。大風で飛ばされてしまったのか、等と思う。
峠には私の他に、長岡ナンバーの車が時々現れた。多分準地元ぐらいの方が、ひとしきり展望を静かに眺めて去って行くだけ。やかましくて鬱陶しいバイクが現れないのはとてもいい。
しかしこの季節、午後になると嘘のように日差しは弱々しく真っ赤な色を帯びてくる。到着の時点でもう既に夕方ムードではあったが、もう居ても立っても居られないほど日差しが赤くなってきた。よく考えると、この先牧までまだまだ長い。先を急ごう。
14:35、深坂峠発。
標高1070mの深坂峠から1000mちょいの野々海峠まで、一度長野県境を越えて鞍部のブナ林を100mぐらい下ってから、ブナ林の中の野々海池の脇を過ぎ、やはりブナ林のダートをくねくね登り返す。
山頂部の池というのは珍しい。そういえばブナ林のダートも何だか毎回路面はじゅくじゅくしている箇所があるし、深坂峠の手前にもあんな高い場所に水場がある。一体どこから水がやってくるのか。
ジャングルのような晩秋の茂みの中を辿り着いた野々海峠は、しかしながら開けた森の中にたまたま最高地点があるという感じで、眺めは良くない。あの深坂峠の後ならなおさらその感が強い。ここは峠から再び始まる舗装道の下りへとっとと足を進めよう。
峠から一直線の下りは、途中ですとんと落ちるように斜度が増し、鞍部から開けた斜面に出る。さっきの深坂峠で落ち込んだ急斜面から下界を眺めたように、この場所で拡がる空中の大展望が毎回楽しみな場所だ。
ところが今回、この場所に近づくと、何とうずたかく土石流が溜まっていたのである。ついに進退窮まったか。この時間もうリカバリは効かないぞ。落ち着け。自転車を置いて泥の山へ偵察に向かうと、実は泥面が意外にしっかりしていて、ずぶずぶ来る気遣いは無い。これならいける。
結局土砂の高さはまあ向こうの路面が見通せない程度、直接土砂が崩落した区間も長くなく、担ぎで十分クリアできた。しかしその後、何とか自転車でそろそろ走れるようになってから、路面に流出した土砂がしばらく続いたのにはびっくり。地元車がさっきの深坂峠でみんな引き返していたのにようやく納得。看板も出ていないのに、みんなよく心得ているものだ。思えばこの辺り、この程度の地滑りなど珍しくも何ともないのだろうとまた思う。
開けた斜面の外側には、紅葉の里山の大展望が拡がっている、しかし、いかんせん路面がこんなだと、そう景色にかまけているわけにはいかない。
そうこうする間に道は鞍部から落ち込んだ急斜面部を下りきり、周囲のブナ林には初冬から晩秋ぐらいの雰囲気が戻ってきていた。
落ち込んだ山裾から丘陵上端へ、その丘陵上端をあっちに向かったりこっちに戻ったりしながら、道はどんどん下り、広葉樹の雑木林から杉の植林帯へ。
そして菖蒲高原牧場のキャンプ場が現れ、15:15、菖蒲高原牧場を通過。
15時過ぎにして、牧場とレストハウスは、いや、東頸城の丘陵全体が真っ赤な光に包まれ始めていた。日沈までもうあともうあと2時間程度。
記 2006/11/19