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おにぎりを食べてから、14:10、三国峠発。
切り立った岩山に張り付いて、急カーブとブラインドコーナーが延々と続く。時々木々の向こうに拡がる谷間の先に、これから下る道が頼り無く張り付いているのが見える。とはいえ、道自体は幅広で、路面も良好、走りやすいダートだ。余程無茶をしない限り転落の心配は無い。
こっちでも岩山に張り付く木々は力強く生い茂っている。以前見渡せたはずの近くの山々が、今回はなかなか見渡せない。
峠道の木々も、過去の晩春から初夏の淡い新緑ではなく、濃い色の夏の装いである。
つづら折れで一気に高度を下げて谷底まで降りる辺りでは、勢いよく生い茂る緑に包まれた道が続いた。
谷間の1本道をだいぶ下ってきた辺りの広葉樹林でも、道や頭上を覆い尽くす緑のトンネルができて、薄暗い道には所々木漏れ陽が緑色に輝いていた。
人気のダートだけあって、しょっちゅう車やバイクが通って砂煙を巻き上げるが、意外に木々の間にざわっとした風が吹いていて、砂煙がすぐにどこかへ消えてしまうのが有り難い。
だいぶ下って、王冠のキャンプ場を過ぎた辺りからどんどん暑くなり、やがて延々18km続いたダートがようやく舗装道路になった。
中津川の集落を抜け、いよいよ八丁峠への分岐、岩山に穿たれた短いトンネルのコンクリート入口が見えてきた。15:30中津峡発。
神流川の谷間では、道と谷間だけが垂直に高く立ち上がった両側の岩壁に挟まれて蛇行する。その川原には大水の後のように大きな石や流木が無惨に乱雑にごろごろ転がっていた。谷間一杯に迸る濁流の風景を想像してしまう。
垂直に切り立った岩は時々道の上までオーバーハングする。岩に張られた落石防止の金網が、何とも物々しい。前回通ったときには、この辺りでGPS電波が全く受信できなかったものだ。
トンネルを抜けると渓谷が拡がり、カーブの陰から鉱山施設が現れた。この寂れた鉱山施設は八丁峠を訪れた人にはお馴染みのもので、工場、住宅などが、長い区間に渡って渓谷に代わる代わる登場する。
半分以上登った辺りの集会場には、以前飲料自販機があったはずだが、今回はもはや完全に撤去されていた。
その集会場を過ぎる辺りで正面に壁のように緑の山がそびえ立つ。八丁峠の山だ。
つづら折れを描きながら、谷底から離陸するように高度が上がってゆく道からは、今まで遡ってきた谷の山が、夕方の赤みを帯び始めた光に包まれているのが見えた。気が付くともう16時を過ぎている。
16:50、八丁トンネル着。
八丁トンネルを抜けた小鹿野町側は、トンネル出口の外で道がほぼ直角に曲り、ガードレールの外が一気に谷底まで落ち込んでいる。このため、山肌を巻いたりつづら折れを描いたりして急激に下ってゆくこの先の道や、更にその先合流する国道299の谷、その向こう、二子山をはじめとする空に浮かぶような山々を、広々と見渡せる。
もうすっかり夕方なので、昼のように強烈ではない、オレンジ色のほんわりとした光が、風景全体を明るく包んでいる。今日は大弛峠でも三国峠でもそうだったように、暑さの割には空気が澄んでいる。遠景も、このほんわりした、しかし夏の力強い明るさを含んだ色に染まっていた。
峠の茶屋の裏、前回枯れていた泉は、今回も枯れていた。風景を少し眺めて一気に下り始めることにする。
ぐいぐい急下りで標高を下げてゆくと、せっかく一度登って涼しくなった空気が、再び驚くほどの勢いで暑くなってきた。途中でついさっきまでいたはずの八丁トンネル付近の遙かに高く見上げ、志賀坂峠着は17:15。
あとはもう一気に小鹿野へ下り、今日の静かな道を思い出しながら交通量の増えた国道299を黙々と進み、18:40、西武秩父着。
記 2004.7/25