2004.5/15
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(以上#1) |
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峠は晴れていたが、長野県側に進むと明らかに曇っている。前回強烈な太陽光線に照らされて光り輝くようだった原生林の風景は、少し寒々しく見える。
晴れだった前回とは明らかに印象が違う。いや、天気以上に峠下の風景の詳細を完全に忘れてしまっているようだ。前回は、見たことの無い静かな原生林の雰囲気にあっけに取られ、記憶容量をオーバーしてしまったのか。
峠下の大きなつづら折れが終わると、戸台川の谷間の大空間に面した区間、いよいよこのコース最大のハイライトだ。標高差500m以上の谷を見下ろし、同時に標高2700m弱の鋸岳と、続く稜線がその全貌を見せて間近に、上下にも左右にも眼前一杯に立ちはだかる。
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崩落の止まらない荒々しい岩肌、その岩に張り付く新緑の木々。谷間の大空間、山の猛々しいテクスチャ、色彩とボリュームの両方がちょっと他ではお目にかかれない迫力だ。
一方、道は切り立った岩山に張り付いて、上も下も開けた空間に直接面している。まさに空中の道だ。しかし、急下りの連続急カーブで岩山に張り付いた道がかなり下の方まで見通せるのが、何とも危なっかしく恐ろしい。いつまでもこの風景を見ていたいと思うが、できれば早く降りてしまいたいという気もする。
前回見つかってしまった村営バスの時刻を気にしながら、少し急いで下り続けると、林道を徒歩で登ってくる登山者達とすれ違ったり、猿の群れ、シカ、そして道路脇にちらっとカモシカなど、様々な山の獣を見ることができた。
突如、軽ワゴン車が現れた。長谷村のパトロール車だと絶体絶命である。
しかし自動車は峠の長衛荘のもののようで、運転していたおばさんが声を掛けてきた。｢みつかると怒られる。長谷村は管理が厳しく、只事では済まない｣という内容のことを言われたが、結論としては｢袋に入れて折り畳んだものを持って歩いてきた、と言えば何とか不問に付してくれるだろう。いまはバスの運転手は歌台で昼寝していると思うし、とにかく自転車に乗っているのを見つからないようにしなさい。｣と言う話になった。
おばさんに感謝しつつその場を去ったが、どう考えても輪行状態で歩いて山を下るのは非現実的だ。ここはどうしたものか迷いつつ、そのまま下り続ける。
バス折り返しの歌台は、そこからすぐだった。バスはあったがどう見ても人影は無い。休憩所らしいパックハウスの窓にも人影は見あたらなく、おそらくおばさんの言っていたとおり、運ちゃんは熟睡しているのだろう。
となれば通過させていただくしかない。14:00、歌台通過。
これで本日最大の難関、村営バスをやり過ごせたことになる。このまま進んで、以前偵察した川沿いの崖地から自転車滑り落としでも何でもやって強引に降りてしまえば、戸台ゲートで怒られずに通行禁止区間を抜けることができるのではないか。
歌台までは多少急いで下ってきたが、もうここまで来れば、折り返しまで1時間以上ある歌台のバスに追いつかれることは無いだろう。
中央本線から見えるのと逆のシルエットを描く南アルプス最北の稜線は、こちらが進んだなりに少しずつ位置が変わっていた。道のすぐ外側の大空間は本当に見応えがある。のんびりニューサイ写真など撮りながら、落ち着いて下る。
ところがいきなり、目の前のカーブの向こうに村営バスが現れた！
そんなばかな、と思うと同時に、
｢多客時にはバスの続行運転を行います。予約の必要はありません｣
という村営バスの案内文を思い出した。
今日は2台運行だったのだ！
完全にしてやられた。またもや見つかってしまった。
バスの運ちゃんがこっちをにらんで通り過ぎてゆく。この後は、バスの運ちゃんの連絡で林道パトロール車が出動し、1本道の向こうから自転車を捕縛しにやってくるはずだ。それをクリアできても、林道終点の電動ゲートでは番人が待ちかまえている。
逃れる可能性としては、前述の戸台手前のつづら折れ最下段に、パトロール車が登って来るより早くたどり着き、滑落でも自転車落しでも何でもやって何とか川原へ降りるしかない。そんなことが可能かどうかはわからない。以前の偵察では、少なくとも下から見えた範囲は、自転車を担いで登るとかなり危険そうだった。
しかし、事態は急を要している。もはややるしかない。
下る途中では、普段中央本線から見上げる稜線を正反対に、しかも間近の真横から眺められる。ど迫力の風景は、たとえ2度目だろうと、立ち止まって見入ってしまうほど素晴らしい。
思えば前回はバス折り返し地点で見つかり、かなりのんびり下ってつづら折れの最上段ぐらいでパトロール車とすれ違ったのだ。今回はここまでかなり早いペースで下ってきている。多少急いで下れば、時間的には全然大丈夫だろう。
急ぎつつもけっこういろいろ楽しんで、戸台川が行く手に開けた谷を下ってゆくのが見え始めた。前回から考えると、ここまでかなり素早く下ってきている。とりあえず一安心、あとは降り口を探すだけだ。
と思いつつ15:00、つづら折れに差し掛かると、行く手に早くもパトロール車が登ってきた。かなりお早いお出ましではある。
こうなったらもう腹を括るしかない。ここで逃げても、もう脱出ポイントは戸台川の川原しかないのだ。でも、再び見つかってしまったので、件の斜面を無事脱出できても、彼らは戸台川の外で待ち構えているだろう。
前回と同様、管理事務所に無線連絡したうえで私の処置は決まったようだった。前回より今回の方が多少扱いが厳しいような気もする。
｢去年も入った人がいたけどね。風景がきれいなのはわかるけど、次はバスで来てね｣
次回はもっと厳しくなっているかもしれない。
15:15、戸台発。下界に降りてみると、空には雲が広がっていた。
とりあえず所期の目的を達成して、もうあとはちゃちゃっと下るだけだ。しかし、途中で立ち寄らなければならない場所がある。道の駅だ。ここにはインストアベーカリーが設けられていて、焼きたてのパンが食べられる。特にミニクロワッサンはオーブンから出てある程度冷まし、店に出たそばから売れてゆくという人気ぶりなのだ。もちろんお菓子系、総菜系等、他の調理パンも焼きたてでとても美味しい。
15:30、道の駅南アルプス邑長谷到着。早速プチクロワッサンを買いに行くと、この中弛みのはずの時間帯に、店内にお客さんが一杯だ。今回は21個を完食。
16:00、道の駅を出発。美和ダムから西側に渡り、のえっちルートで伊那サイクリング道路へ向かう。伊那市の手前で道を間違い、多少回り道してしまったが、伊那市駅には16:40着。
列車の時間を見ると、何と16:45。その次は1時間以上後だった。まともに考えると4分半しか無い。輪行して切符を買うところで列車は出発してしまうが、実はワンマン運転のためか、今までこの駅で列車が定時に来た試しが無い。多分切符を買う余裕はあるだろうと思った。
しかし極端に時間が無いのは確かだ。泡を食って輪行開始。
記 2004.6/26