2004.5/15
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私も自転車を持ち上げてゲートを通過。ちょっと長めのKトンネルを抜け、向こう側の自動車が来ない静かな緑の世界へ足を進める。
切り立った岩山に張り付いて、森の中に緩い坂道が続く。増水して勢いのある川の音、時々道の脇に現れる滝の音、山鳥の声以外は全く音が無い。いや、むしろ他の音を吸収してしまっている聞こえない森のノイズというか、とにかく果てしない森のボリュームを感じさせる静けさがそこにあった。
時々視界が開けると、湾曲した緑の谷間とかなり落差があるN川の川原が一望できる。そして正面に立ちはだかる山の上に、Y峠の道が見え始めていた。去年は下から眺めてわかるほどずたずたで、結局シーズンが終わるまで通行禁止のままだったが、今年は通行可能になるのだろうか。
去年枝や砂利でけっこう散らかっていた路面は、今年は見違えるようにきれいである。清掃車でも入ったのだろうか。
道が下りだして飛び出した山裾を巻き、長くて真っ暗なのに中で曲がっている恐怖のトンネルを抜けると、谷間が拡がってA川の発電所が現れた。いつの間にかN川も近くまで上がってきていた。
急斜面から迸るA川も濁流で、いつにも増してM山脈の力強さ、荒々しさを感じさせる。N川とA川の合流点、小さな広がりに建てられた発電所が非常に小さく、そして同時にたくましく見える。
11:00、A川発。さっきまで真っ青だった空に、うっすらと雲が拡がっていた。
断続するダート、斜面崩落っぽい工事現場、次第に近づくY峠からの道。過去3回の記憶と地図と目の前の風景を照合しつつ、緑の谷間を進み続ける。さっきのA川までの舗装区間もそうだったが、今年は去年ほど道が荒れていない。崩落の補修区間も、通行に冷や冷やするような箇所は無かった。
見上げるY峠の道から工事の音が谷に時々響く。最初は遙かに見上げる位置だったその道は次第に降りてきて、やがて水平に並んだ。その頃には、N川の前方にH河原の白いトラス橋と、更にその奥にそびえるM山脈の山々が見えてきた。
いつの間にか薄ら寒くなっていた。標高が上がっただけではなく、朝の雲一つ無い青天は、陽射しが差したり隠れたりという程度の曇りに変わっていた。
12:05、H河原着。
KS舎の前、バス停のベンチでおにぎりを食べる。高い木に囲まれたバス停は、そこだけ上空に何も無い。居心地が良い日溜まりの場所だという記憶があるが、薄曇りだと日溜まりもあまり有難味は無い。
時間的にも区切りが良く、ここで昼食とする。誰も居ない、誰も来ないはずのバス停に一人お行儀良く座り、おにぎりを食べていると、下から2tトラックがやってきた。M市の林道パトロールだと、強制送還されて一巻の終わりだ。しかし、トラックに乗っていた作業服の人々は、私に一瞥をくれただけで前を通過し、広場の反対側に降りておもむろに座って飯を食いだした。どうやら林道補修の工事の方らしい。安心してY峠方面の進捗状況を聞いてみると、やはりほとんど通行可能なまで復旧が進んでいるようだ。
森の中を少し進み、自転車を担いでいつもの吊り橋を渡る。前3回とも、見つからないようにとびくびくの通行だったが、今回は白く泡立つO沢の上流方面を見上げる余裕があった。曇り空の中には、あまり余所では見られない異様な明瞭さを纏い、残雪のK岳が黒と白のコントラストも生々しく聳えていた。
迫力の風景ではあるが、あまり見入ってもいられない。吊り橋を渡りきってM林道にいよいよ突入。本日の主目的、そしてこのコース最要注意区間の始まりだ。
記 2004.6/26