紀伊半島Tour03 #2-2
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川湯温泉→(町道)松葉 |
対岸に渡って県道36通りに日置川から離れ、一転して今度は浅い谷間をくねくねと遡る道になる。道は大体木々の中を進むが、時々小さな集落に田圃が現れる。狭い集落ではあるが、傾斜地に設けられた石垣の棚田が、人の手を感じさせる。
面谷から出谷の峠は、きりきりっと急に登る峠だ。標高はそう無いはずで、地図でも何ということは無いように見えるが、なかなかつらい斜度の坂である。
延々続いた県道36〜225から今度は県道38に移ってすぐ、14:00、獅子目トンネル着。本当は分岐する旧道に足を踏み入れたかったのだが、分岐箇所を見過ごしていたようで、いつの間にかトンネルをくぐる羽目になってしまった。
トンネルから下って、しばらく佐本川に沿って下り基調の県道38を進む。県道38は、拡幅が進んだ新しく広い道だが、広めの谷の農村風景は何とものどかである。石垣の農家や木造の小学校、午後の光線もそろそろ赤みが混じり、新緑がまぶしい。
佐本深谷では、佐本川に沿って新しく広い道ができているのを見逃さなかった。地図では道がつながっていないここ、洞谷トンネルへの県道38は閉鎖的な谷を遡るだけになりそうなので、事前に目を付けていたのだ。行くしかない。
迷わず進むが、道は集落の外れで曲がったところで、いきなり土の壁に阻まれて無造作に終わってしまっていた。
ちょっと戻って地元の方に道を尋ねると、1/5万で破線で描かれている山道らしい道は、一度登って降りて、再び佐本川沿いに下れるとのこと。登りも5分ぐらいらしい。行ってみよう。
山道らしい狭く急坂の道が少し続くと、お話の通りに見渡しのいい場所に出た。念のための行って戻ってがあり、ここだろうとねらいを定めた場所から下り始める。以外に長い急下りが続き、しかも道が次第に形をなさなくなって心配になった頃、1/5万に載っているとおりに住宅の陰が見え始めた。こんなところに、と思ったが、どうやら廃屋のようだった。
ようやく降りたと思ったが、そこから先は幅50cm弱ぐらいのコンクリート堤の上だったり、砕けた岩が散乱するガレまくり細道だったり、心細い道が川沿いにしばらく続いた。おまけに何か木の実のような物が混じった獣の糞が時々落ちている。
しかしまあそのうち、細く荒れた道が次第に走りやすくなり、幅が広がって荒れた舗装に変わった。唐突に放り出されるように、予定通りの古座川との合流点、宮の平に到着。
対岸の松の前に渡って、国道371に合流する。
国道371はツーリングマップルでは「1車線区間がほとんど。ほんとに国道?」という記述があるが、まさにその通りの狭い道が古座川沿いに続く。拡幅されたり、蛇行する谷間をトンネルで突っ切るような区間もあるのだが、まだまだ狭い区間が主体で、国道としてはかなり交通量が少ない。こういう国道は、この辺ではむしろ普通である。
さっきの県道38・36と同じように、川沿いの岩山に張り付いた道は、杉・広葉樹林、断続する集落や、切り立った山の間の谷間一杯の古座川、赤みの混じった光の中でころころ変わる風景がとても楽しい。
15:40、道が拡がって、正面に茶色い巨大な岩山が見えてきた。「一枚岩」というのか、そう書かれている看板がある。川から立ち上がる小さな丘一つが、まるまる巨大な岩なのだ。が、それに見とれるより早く、道路際に何か建物が見えた。明らかに観光施設である。
期待通りにそれは古座川村の観光施設で、期待通りに飲食店が併設されていた。何と朝に6時に宿を出て以来、ようやくまともな飲食店に出会うことができたことになる。ここで遅い昼食にしよう。何しろ6時前に昨日買ったさんま寿司2パックを食べて以来、今日はロールケーキしか食べていないのだ。
そろそろご飯物、それもこってり系のカレーが食いたい、という気持ちがあったのだが、その希望通りにビーフカレーがあった。一瞬大盛りにしようか、と迷ったが、間もなく来た普通盛りカレーを見ると、その必要はなかった。
15:55、一枚岩発。
それから先、国道371は拡幅された道になった。1度だけ旧道を経由し、あとはぐねぐね湾曲した谷を、ばしばしショートカットする立派なトンネルを抜ける。途中からは去年通った県道38で、更に古座川沿いに下り続け、海岸にほど近い高池を目指す。
夕方の赤っぽい光に包まれて、川岸の山々がもう青いシルエットになり始めていた。広く静かな古座川の川面がまぶしい。昼間のちょっと暑すぎるぐらいの気温も、この時間になると、だいぶ優しく過ごしやすくなっていた。
もうあとちょっと上り下りがあるだけだ。と、その時は思っていた。
河口の古座の海が見えてきたところで、16:20、高池発。
海岸沿いの幹線、国道42を避けるため、ここから再び内陸部の池野山へ向かい、そこから樫山林道で野平へ、小匠ダムを経由してそのまま小匠川・太田川沿いに下って、太地町に出ようと考えていた。1/5万には野平から小匠ダムまで道は描かれていないが、ツーリングマップルには舗装の道が描かれている。ここをショートカットすると、本日最後としてはなかなか手頃な渓谷・農村巡りコースになるのだ。もし道が無くても、1/5万だと樫山の小匠川の向こう岸とこっち岸でつながっていない道は、ツーリングマップルではちゃんとつながっている。万が一橋が無くても、これぐらいだったら担けば渡れるだろう。ツーリングマップルの「廃道化するダート7km」の記述も、そう深刻には考えていなかった。
ところが、池野山で始まった激坂を登り詰め、下りきって廃屋が何軒かある場所を過ぎ、何と再び激登りが始まった。登りはけっこう続き、行けども行けども分岐するはずの道が現れない。もっと言うと、明らかに1/5万の通りなのである。野平からの道が無い。
そう言う疑問が確信に変わったころ、都合良く行く手から軽自動車が降りてきたので、聞いてみた。
「すいません、この野平から小匠ダムへの道ってこの先にあるんですか」
「いやー、こんな道は無いね。でも樫山では橋があるけどね」
「え、渡れるんですか。じゃ問題ないですね」
「…うーん、でもかなり大変だよ。単車の人はよく来てるみたいだけど」
行くしかない。
だいぶ長い登りがあり、17:40、樫山着。
住宅の屋根が軒を接してはいるが、みんな廃屋で、畑の手入れをする地元の方だけが来る場所のようだ。その畑の中を下りきった川岸に、さっきのお話の通りに橋ができている。川はと言えば、確かに地図通りに細いのだが、道から深く落ち込んだ場所で川が流れており、橋が無かったら絶対に渡れないだろう。何はともあれ、ここからいよいよ廃道ダート区間だ。
ダート区間に入ってすぐに、岩が崩れてできたようなエッジの鋭い石や、厚い落ち葉が溜まる道になった。所々では山の斜面から湧き出てきた水が水たまりを作っていて、道がずぶずぶになっている。中に大きな水たまりができている素堀トンネル、顔面まで垂れている木々、時々落ちてくる毛虫…。川に沿ってはいるが、薄暗い森の中埋もれかけた道は、「廃道」という言葉にふさわしい。なぜか道側の岸には、コンクリートで堤が作ってある区間があって、岩の溜まった場所ではそこから滑り落ちないように注意して進む。
もういい加減に暗くなりはじめていた。メカトラさえ無ければ、完全に暗くなる前には太地には着けるだろうと思ってはいたが、延々と長い間続く廃道ダートにかなり心細い。
それでも唐突に道が太くなり、18:10、小匠ダム着。もうあとは一目散に下るだけだ。
18:50、太地着。太地YHも夕朝食が無かったので、あらかじめ聞いておいた食堂で今日の夕食を取り、結局太地YHは19:40着。こっちは自転車がだめなんじゃなくて、YHの都合とのこと。太地にはコンビニがあると聞いていたので、あまり翌朝の心配は無かった。
記 2003.5/8
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Last Update 2003.5/16