下りを開始すると、広葉樹林の山肌トラバースがしばらく続くのも、しばらく斜度は緩めなのも記憶通りだ。
しかし、山が丸裸な初冬と違い、なんだか広葉樹が道に覆い被さるような道だ。登ってくるロード乗りがけっこう多いのも、無人の道だった初冬の朝とは全く違う印象だ。
日なたはぽかぽか暖かいが、日陰は震えるほど冷え込んでいる。1ヶ月前は確かまだ真夏日が続いてうんざりしていたはずだが、あっと言う間にこんなに寒くなってしまったのである。
谷底に降りてもしばらく下りが続いたが、やがて神の戸岩が行く手を塞ぐように登場。大きな岩に穿たれたトンネルはそう長くないものの完全に真っ暗で、何だか地底を通過してまた下界に帰ってくるような印象があり、明るい下界に帰ってきて軽いため息が出てしまう程だ。
狭い谷間の途中、どういうエネルギーが働くとこんなに巨大な岩が立ちはだかるのかは想像するしかないが、「神の戸岩」とはよく言ったものだと思う。
狭い谷間に張り付く神戸の集落を抜け、12:05、都道206分岐着。大ダワからここまで下ってきたが、ここから北秋川の谷間を倉掛へ向けて再び遡上開始である。
狭い谷間に狭い道が道が宮ヶ谷戸、小岩の集落の中を辿り、次第に斜度が増し、もともと狭い谷間は更にどんどん狭くなっていった。
ここも以前Fサイで訪れた。2001年、できさんの「冬のヒルクライムオフ」だ。この道は、走り屋の皆さんは多分いきなり始まるだろう激坂を警戒しながら少し抑え目ペースでそろそろ登り、その後ろでいきなり始まる激坂にびびる一同を想像するできさんが笑いを必死にこらえるという、やや緊張した雰囲気とともに記憶に残っている。もちろん今日はひたすら静かでのどかな一人旅である。
日向平の五差路は、ここまでカーブが続いて方向感覚が無くなるのと、狭い谷間の分岐に各方面への道が密集しているので、進行方向を間違いやすい。それを知っていたのに、地図をよく見たつもりだったのに、今回も間違って行き止まりで引き返しになってしまった。
更に狭くなった谷間をどんどん遡る。斜度が目立って増えると、いよいよ折り返し地点だ。
谷底から山肌へ、厳しい登りが続く。というより一気に高度が上がる。高度が上がっても斜度は緩むことが無い。
こんな山奥にも人は住んでいて、時々民家が現れる。今日はお昼時のためか、その激坂途中の集落では移動スーパーのトラックが登場した。見ていると、20%はありそうな集落取り付きの激坂へ、何とバックで登って行く。そんな集落も、少し登ると一気に眼下の展望の点景となってしまう。
ぐいぐい登って倉掛の集落へ入るが、集落だろうが何だろうが相変わらず激坂は和らぐことがない。視覚はもう完全に麻痺していて、水平に見えるのに、そのつもりで踏み込むと全然重かったりする。
その先は再び森の中へ。辺りが開けると、いつの間にか周囲の山々を睥睨するようになっていたが、相変わらず稜線の登りはしばらく続いた。人間の視覚というものはどんどん麻痺してしまうのか、坂は完全に一段落しているように見える。しかし、斜度がどう見えようとも、登坂速度とペダルの重さが真実である。
開けた山間にバイクのエンジン音が聞こえるようになると、もう奥多摩周遊道路近く、この風張林道も終わりに違いなかった。だが、そうなっても相変わらずあきれるほどペダルは重く、自転車は一向に進んでくれないのだった。
13:50、風張峠着。
標高1140m、坂が厳しかっただけあってあっと言う間に随分登っている。まあ当然のように風は肌寒い。
記 2007/11/23