押上→(国道8他)梶屋敷→(県道270)坪野 |
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目覚めて時計を見ると、まだ5時半前。次に気が付くと、6時を過ぎていた。そろそろ潮時である。
おもむろに身体を起こすと、τ.κさんも待ちかねたように起き上がった。昨日と同じである。そろそろ外が何となく明るくなり始めていて、τ.κさんに教えられて外を見ると、すぐ目の前の国道8の長距離の大型トラックや、その向こうのまだ薄暗い闇の中に日本海近海の漁り火が見えた。何でも私より窓の近くに寝ていたτ.κさん、夜中のトラックがうるさくてなかなか寝付けなかったらしい。悪いことをした。
朝食前に荷物を積むと、昨日と同じく寒くて風が強い。気が急かされるような、冷たい晩秋の風である。でももう少し時間が経てば、やはり昨日と同じくだいぶ改善されるだろう。何しろ空には雲一つ見あたらないのだ。
朝食は鮭の切り身と、昨日と同じくコシヒカリ新米。地のものばかりである。こんなに素材のいい朝食も滅多に無い。
朝食の間、今日の身の振り方について協議。昨日まで久比岐自転車歩行車道でまず直江津へ出て、その後徒然なるままに松代方面へ向かおうという予定のはずだった。しかし、昨日この西頸城で宿題がいろいろできてしまっていた。何も松代まで戻らなくても、直江津終着ならコースの自由度は増すし、最後はいつもの直江津「富寿司」で地魚握りお任せセットを食べることもできるのだ。それに、昨夜直江津に泊まったぐー夫妻が、今日は久比岐自転車歩行車道で糸魚川へ向かってくる。タイミング次第では、久比岐自転車歩行車道のどこかで出会いが期待できる。
というわけで、まず梶屋敷から少し谷を遡り、昨日諦めた林道外山吹原線で能生川の谷へ、時間次第で寄り道しつつ久比岐自転車歩行車道で直江津終着、ということにした。
8:10、民宿「ひょうざ」発。
まだ風が強くやや肌寒いが、辺りは秋独特の白っぽい日差しがまぶしい。大和川の国道8の旧道市街、その後の海岸沿いの道も、日なたは明るく日陰は空気がきりっと冷たい。
梶屋敷で内陸方面へ向かう県道270へ。昨日の名立や能生の谷間と同じく、途中で山に阻まれる谷間を遡る道だ。状況が似ているだけあり、平らに見える谷間の実態は、昨日と同じくだらだらの登りである。
新町辺りでは道の両側に旧市街が続き始め、その町並みは日光寺までしばらく続いた。それが海岸から少し遡った辺りにしては意外なほどの町並みである。ちょっと古めの商人宿風の木造宿もあり、あるいはこっちに泊まっても楽しいかもしれない。
だらだらの登り斜度が何となく増し、谷を挟んでいる山が次第に両側に迫り、朝日のまぶしかった道に山の影が掛かってくるようになった。
谷の中央、早川を渡ったところで、対岸の坪野からいよいよ東側の山裾へ。
少ない平地を田圃に使うためか、集落は山裾に張り付いている。その山裾の集落にぐいっと乗り上げた道は、登り基調のアップダウンを続けながら、民家、畑、小ぢんまりと程良い拡がりの生活空間をすり抜けて行く。
途中で「そこ危ないよー」と先行したτ.κさんが行く手から教えてくれた。別に崖地でもないし単なる納屋の前、まあ何か危ないのならそろっと通過するに越したことはない、と思う前に通過してしまったぐらいの場所である。ところが、τ.κさんの指さす方向、道ばたの納屋の軒には、大きな瓶のようなスズメバチの巣がぶら下がっていたのだ。ぽかぽかの眩しい陽差しのためか辺りは暖かく、その巣から大きなハチが次々勢い良く出動中で、通りすがりであっても機嫌を損ねると危険な目に遭いそうである。
スズメバチに気を取られていたが、気が付くと谷間の景色が素晴らしい。ほんとに雲一つ無い空の下、白っぽく眩しい陽差しの中で、上流方面へ続く明るい朝の谷間、民家に田圃、逆光の中で半分青いシルエットになった山々が、視界一杯に拡がっていた。
土塩からは本格的な登りとなった。集落のまっただ中なのにぐいぐいつづら折れが続き、その後林道外山吹原線が始まってもまだ集落が続く。▼動画2分11秒
棚田、民家、畑、杉が程良く続く集落から抜け出しても、辺りには棚田はしばらく続き、道は黒尾の峰に相対する斜面に進み、棚田や森の中で道はつづら折れを繰り返した。
正面に立ちはだかる黒尾の峰の山肌、裾では廃田らしい段々にススキが一杯白い穂を付け、その上から急斜面の森が鞍部へ駆け上がる。途中のところどころで山肌は岩肌になってですかっと切り立ち、この山の険しさを見せてくれる。
上の方の鞍部では急になだらかに広葉樹林が拡がっていて、ぽこっと丸い山の形を実感した。
一方、道が早川の谷間に向かうと、谷間の展望はますます拡がっていた。登って高度が上がるに連れ、建物や棚田はどんどん小さく、朝のクリアな空気の中で精密になっていた。
クリアな空気の中、高度と角度を変え、次々登場する絶景。τ.κさんも私もしょっちゅう足が停まってしまう。
こうなると、今日はもう急いでも仕方無いなという気持ちになってきた。
空は真っ青、雲一つ見られない。その空中の正面に、白い半逆光の中で青いシルエットになっている、ごつごつ異様な形の対岸の山々が立ちはだかっていた。
途中からその奥に、真っ白い大きな山々が遠く見え始めた。北アルプスである。
辺りが棚田から雑木林に完全に切り替わると、もうだいぶ高度も上がっていて、見上げる稜線部や谷を挟んで立ちはだかる黒尾の峰山の鞍部が、昨日どこにも無かったぐらいかなり鮮やかに紅葉しているのがよくわかるようになってきた。海岸からすぐに山地が立ち上がるこの辺りの地形をまた思い出す。
上流方面には、遠くの山裾で終わっている棚田の谷間が、逆光でまぶしい中で、輝く部分と霞で淡くなった影が彫りの深い景色を作っていた。
その谷間の一番上に、何だか民家のような建物が見える。地形図では笹倉温泉と書かれているが、あんな所に泊まったら、さぞかし楽しいだろう。
路面に落石や大きな落ち枝が目立ち始め、林道は山肌を回り込むように紅葉まっただ中の峠部分へ。
頭上が開けた道は日当たりが良く、紅葉も更に彩り鮮やかである。
10:00、峠部分着。糸魚川から姫川を白馬方面へ遡る谷間を除けば、標高590mとこの辺りでは比較的ボリュームのある峠ではある。しかし、いかんせん名前が付いていないので、峠部分としか言えない。
道ばたには「ふるさと林道 外山吹原線」という看板が立っている。なるほど、ふるさと林道ならできたのは比較的最近だから、峠に名前なんか無いのが当たり前だ。でも、近くには尾根道となる山道が交差していて、便宜上峠に名前が無いと不便なこともあるかもしれない。
記 2006/12/18